TEXT BY 除川哲朗
■大滝詠一が立ち上げたセルフ・レーベルがナイアガラ
今年のナイアガラ・デー、3月21日にリリースされたのは『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40TH Anniversary Edition』。大滝詠一、佐野元春、杉真理による『ナイアガラ・トライアングルvol.2』の発売40周年を記念したスペシャル・パッケージで、限定ボックス(3CD + Bru-ray Audio Disc + 7インチEP3枚組 + 豪華ブックレット)、限定アナログ・レコード(重量盤LP2枚組)、通常盤CD2枚組の3種類が用意されている。いずれも82年のオリジナル・マスターを使用した最新リマスター音源で、未発表レア・トラックや関連楽曲が隈なく網羅されているという希代のレジェンド作品に相応しいお宝アイテム──と、ここまで紹介したところで、ふと浦島太郎的に気づかされるのが40周年というタイム・スケール。もはや若い世代にとっては、そもそもナイアガラ・レーベルって何?なのかも知れない。ならば、改めてここでサクッと。
日本語ロックのパイオニア、はっぴいえんど解散後に、大滝詠一が本意の音楽制作を実現するべく立ち上げたセルフ・レーベルがナイアガラで、そのサウンド・コンセプトは73年に手掛けた三ツ矢サイダーCM曲「サイダー’73」でベーシックな完成を見ている。憧れるフィル・スペクターのウォール・オブ・サウンドに対して、こちらは大きな滝=ナイアガラのフォール・オブ・サウンド。ポケット・シンフォニーと呼ばれる煌びやかな音の壁が降り注ぐイメージを早々に共有していた。当時、CM画面に登場していたのは、信じられないほど愛くるしかった風吹ジュンや秋吉久美子。そして、そのキラキラ感を2020年の同じサイダーのCMで、広瀬すずが大滝の「恋するふたり」に乗せて継いでいたのは御存知の通り。つまりは、CM×大滝のパブリック・イメージをイコール・ナイアガラとするのがいちばんわかりやすいかも知れない。様々なCMで使われ続けている「君は天然色」に象徴されるように。
ナイアガラ・レーベル第一弾は、山下達郎や大貫妙子がいたシュガー・ベイブの『ソングス』で、第2弾が大滝の『ナイアガラ・ムーン』。続く第3弾が大滝、山下、伊藤銀次による『ナイアガラ・トライアングルVol.1』と充実作を重ねるも、運営的には前途多難。配給メーカーの倒産など混迷続きで所属アーティストは大滝を残して全員離脱してしまう。ソロに向けて準備していた山下、りりィ&バイ・バイ・セッションバンドにいた伊藤が持ち寄ったレパートリーは、それまでの活動に対するけじめの楽曲だった。ポップなメロディー・タイプを受け持った山下・伊藤とのバランスで、大滝はコミカルなノベルティー・タイプにシフト。布谷文夫を新民謡歌手に仕立てた衝(笑)撃の「ナイアガラ音頭」でアルバムを締め括っている。以後、波乱万丈の数年間に翻弄されることになる70年代のナイアガラ。その巻き返しは、81年『ロング・バケイション』の大ブレイクまで待たなければならなかった。
■大滝が白羽の矢を立てた、杉真理、佐野元春
『ロンバケ』が空前の大ヒットを記録する中、是非ともこの機にレーベル・アピールを図ろうと、舞い込んだCM楽曲依頼に大滝ソロではなくユニットで画策。6年目のナイアガラ・トライアングル第2弾を思い立った大滝は、ただならぬ縁を感じていた精鋭ふたりに白羽の矢を立てている。竹内まりや、青山純と組んでいたバンドでデビュー後、竹内のサポートや須藤薫への楽曲提供を通じて松任谷正隆&ユーミンと繋がり、ソロで再スタートしていた杉真理。シュガー・ベイブ以前の寺尾次郎とバンド仲間で、佐藤奈々子のソングライティングに携わった後、ソロ・デビューして自身のバンドに伊藤銀次を迎えていた佐野元春。瞬時に意気投合した3人は、バディ・ホリー・ミーツ・フィル・スペクターの先行シングル「A面で恋をして」を高らかに歌い回し、アルバムではリヴァプール・イディオムを共通項として、各自4曲ずつ思いの丈を注ぎ込んだ。
それが最高の青春群像ポップス・オムニバス名盤となる『ナイアガラ・トライアングルVol.2』。未だに色褪せることなく鮮度そのままで、昨今のシティ・ポップ・ブームでも再評価されている旬のアイテムである。懐かしいのに新しい──若い世代にはそんな風に聴こえるのかも知れない。が、それこそがスタンダード・ポップスの条件なのだろう。人懐こくていつまでも新鮮であるということ。過去の遺産を独自に昇華して、さらに磨いて未来へと繋げる御業には、時代を超えるスピリットとパッションが宿してある。そうして放たれた珠玉のメロディーズに捉まったら最後、二度とナイアガラ・マジックから逃れられないはず。
リリース情報
2022.03.21 ON SALE
ALBUM『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』
Sony Music (Japan) OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/niagaratrianglevol2/