青春の時期の切なさや憂い、そして、どこかにあるはずの光──。“小説×音楽”というスタイルを追求し、思春期の繊細にして切実な感情を描いてきた音楽ユニット“三月のパンタシア”から、ニューアルバム『邂逅少女』が届けられた。
ボーカリスト・みあが手がけた小説「再会」をもとにした本作には、の子(神聖かまってちゃん)、北川勝利、山内総一郎(フジファブリック)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、さらに気鋭のボカロPである水野あつ、遼遼などが参加。大切な人との別れと出会いを軸に、重層的なストーリーと優れたポップセンスに裏打ちされたサウンド、そして、表現力を増したボーカルを堪能できる多面的な作品に仕上がっている。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
■私が書いた物語が楽曲になっていく過程がすごく面白い
──三月のパンタシアは、みあさんが手がける小説をもとに、楽曲やMV、ライブへと展開するプロジェクト。このスタイルがはじまったきっかけはなんだったんでしょう?
最初のきっかけは、曲を作ろうということになったときに、スタッフの方から「軸になるモチーフやテーマを考えてきてください」と宿題をもらったことですね。スタッフの方は“片思いの切ない歌”とか“夏の終わりのロックな曲”のように箇条書きにしてくると思ってたみたいなんですが、私は小説めいたものを書いたんです。「こういう主人公の女の子がこういう男の子と出会って、片思いをして、すれ違って」という物語を書いて、「このエモーションを楽曲にしたいです」とお伝えしたら、「だったら小説を書いてみない?」と言ってくださって。そこからですね、三月のパンタシアのスタイルが確立しはじめたのは。まさか自分が小説を書くとは思ってなかったんですが、そう言ってもらえてうれしかったし、私が書いた物語が楽曲になっていく過程がすごく面白くて。それはずっと同じ気持ちで続いているし、私がいちばん楽しんでいるかもしれないです(笑)。
──文章を書くのは、その前から好きだったんですか?
物語を書いたのはそのときが初めてだったんですが、小説を読むのは小さい頃から好きで。それに想像力、妄想力が豊かな子どもだったというか、たとえばマンガや小説を読み終わったときも、“この後、このふたりはこうなっていくんだろうな”と勝手に想像するのが好きだったんです。もしかしたら、それが活かされてるのかもしれないですね。
──なるほど。ちなみにどんな小説が好みなんですか?
読書にハマったきっかけは、島本理生さんの「ナラタージュ」です。大学生の女の子と高校時代の先生の恋愛ストーリーなんですが、そのなかで描かれている感情がすごく複雑で。言葉にできない感情を文章として紡ぎ出しているところに、強く心を惹かれました。こんなにも読み手の心を乱す読書体験が衝撃で、学生時代は主に恋愛小説を読んでいましたね。江國香織さんの作品もそうですが、自分が子どもだったからこそ、大人の恋愛の世界に惹かれたところもあったと思います。その後はいろんなジャンルを読むようになりましたけど、読書のルーツはそこですね。
──今回のアルバム『邂逅少女』は、小説「再会」のストーリーが軸になっています。その他にもアニメ『魔法科高校の優等生』オープニングテーマ「101」、ドラマ『あのときキスしておけば』オープニングテーマ「幸福なわがまま」なども収録されていますが、アルバムの全体像はどのように形作ったんですか?
アルバムの制作が始まったときに既存曲が4〜5曲あって、その時点で“再会”“邂逅”をテーマにしようと思って。去年(2021年)の11月に行った、1年10ヵ月ぶりの有観客ライブ(2021/11/27開催ライブ「物語はまだまだ続いてく」)が大きなきっかけになっています。ファンのみんなと久々に会える機会だったし、再会の喜びや幸福を共有できて。その気持ちを次のアルバムに繋げたいなと思ったんですよね。このテーマ性だったら、ライブで披露した既存曲とも繋げられるかなと。あとは制作を進めながら形にしていきました。なので、「再会」という小説に関しては、純粋に男女の“再会”の物語を描きつつ、その裏側にはそういったライブの情景も秘めています。
──コロナ禍以降、“大事な人と久々に再会する”という経験をした人も多いでしょうし。みあさんにとってライブは、すごく大きな意味を持っているんですね。
よく言ってるんですけど、ライブがいちばん好きなんです。ファンのみんなのリアクションを生で感じることで、自分の中に沸き起こるものがあって。まだ歓声は遠慮してもらってますけど、拍手、身振り手振りで伝わる熱気って、すごくあるんですよ。三パシのライブは物語性とリアルな熱狂が融合していて。不思議な空間だなって、私も思います。
■アルバム全体をひとつの物語にしたいと最初から決めていた
──では、アルバムの楽曲について聞かせてください。小説「再会」のメインテーマとして「花冷列車」(作詞:みあ 作曲:の子)「幸せのありか」(作詞:みあ 作曲:北川勝利)がありますが、2曲作ったのはどうしてですか?
前回のアルバム(『ブルーポップは鳴りやまない』)は短編集というか、曲ごとに主人公がいて、別々の物語があったんです。今回はアルバム全体をひとつの物語にしたいと最初から決めていたんですが、“同じテーマ、同じ物語を違うところから見て、それぞれ楽曲にしたらどうなるだろう?”という興味が出てきて。ひとつは感動的で明るいというか、切なさに裏打ちされた多幸感に溢れた曲。もうひとつは再会する前の痛みや切なさを描いた、ロックとポップが両方突き抜けるような曲がいいなと思って、それぞれ北川勝利さん、神聖かまってちゃんのの子さんにお声がけさせていただきました。どちらも本当に素敵な曲になったし、自分が思い描いたイメージが具体的な楽曲になっていく過程は、何度経験しても楽しいです。
──「花冷列車」は、まさにポップとロックがせめぎ合うような楽曲。の子さんにはどんな話をしたんですか?
「花冷列車」の歌詞は“あのとき電車に乗っていたら、何かが変わっていたかもしれないのに”という後悔を書いていて。心の中で何度も繰り返す痛みだったり、そこから抜け出せず、ずっと同じ場所にいる状態を描いた曲にしたかったんですよね。私はもともと神聖かまってちゃんのファンで、たくさん曲を聴いてきたんですが、メロディや楽曲の構成の特徴として、“印象に残るフレーズを何度も繰り返す”というものがあって。それが「花冷列車」の“ずっと同じ場所にいる”“前に進めない”というイメージに繋がるんじゃないかなって。そこまではっきりとはお伝えしてなかったんですけど、先日、の子さんと対談させていただいたときに、「みあさんはかまってちゃんの音楽を理解してくれてるから、たくさんやり取りしなくても、音楽を通じて対話しやすかった」と仰ってくれて。すごくうれしかったですね。
──理想的なコラボレーションですね、それは。みあさんは神聖かまってちゃんのどんなところに惹かれていたんですか?
青春の痛みや孤独もそうですが、暗部だけではない、きらめきみたいなものも同時に表現されているところですね。三パシも青春時代の女の子の憂鬱を歌っているし、表現するスタイルは異なっていても、ご一緒させてくただくことで“どんな化学反応が起きるだろう?”という期待もありました。
──なるほど。北川勝利さんが作曲した「幸せのありか」については?
もともと私は、“切ないことを明るく伝えることで、さらに切なさが増す”という考えがあって。たとえば「バイバイ」って寂しそうに言うより、満面の笑みで言ったほうがもっと寂しいと思うんです。「幸せのありか」も、そういう楽曲にしたいと意図している部分がありました。北川さんのユニット“ROUND TABLE”もずっと聴かせてもらってたんですよ。渋谷系っぽいオシャレな楽曲が大好きで、“いつかご一緒させていただけたらな”と思っていて。
■尊敬するクリエイターとのコラボも三パシの魅力のひとつ
──念願が叶ったと。アルバムにホリエアツシさん(ストレイテナー)、山内総一郎さん、金澤ダイスケさん(フジファブリック)なども参加していますが、作曲や編曲を依頼するのは基本、みあさんが好きなアーティストなんですか?
そこから始まってるところもかなりありますね(笑)。リスペクトしている方、ずっと聴かせてもらっている方に「ぜひご一緒したいです」とお声がけすることが多いので。尊敬するクリエイターとのコラボも三パシの魅力のひとつだし、私自身が楽しみにしているところでもあります。
──「シリアス」「君の幸せ喜べない、ごめんね」も小説「再会」と強くリンクしています。「シリアス」は、小説に登場する“美紀”の心情をテーマにした楽曲。
美紀はまじめで大人しい女の子に見えるんだけど、じつは大胆で、突拍子もないことをしでかすタイプ。テーマとしては、女子高生の全能感ですね。彼女が片思いしてるのは事実なんだけど、“この恋は上手くいく気がする。だって、こんなに本気なんだから”と思ってるんですよね。そういう気持ちを楽曲にしたくて、ボカロPのにっけいさんに作曲をお願いしました。途中でリズムが変わるアレンジで主人公の性質を表わしていただいたり、自分が思い描いていたことを落とし込めました。
──女子高生の全能感、みあさん自身も経験があるんですか?
高校生の頃は、強気なところもある一方で、まったく自信がなかったですね。小説や映画、マンガが好きで、表現することにも興味があって。“都会に飛び出せば、必ず何者かになれる”という根拠のない自信だけはありました。実際打ちひしがれてばかりでしたが(笑)。それこそ“思春期の胸の内”という感じですね(笑)。
──「君の幸せ喜べない、ごめんね」は、気鋭のボカロP・遼遼さんが作曲。小説「再会」の琴絵の気持ちを描いた楽曲ですが、これは本当にリアルだなと。
小説の物語が軸になっているとはいえ、私自身が書いているので、自分が持っている何かしらの性質も少なからず落とし込まれているんですよね。誰かの幸せを自分のことように喜べる人もいるでしょうし、それは素晴らしいことだなと思うんですけど、私にはできないんですよね。喜んだり、共感しているポーズはなんとか取れたとしても、実際はすごくつらくて、悔しい。恋愛に置き換えてみても、自分の欲望には抗えないし、気持ちをコントロールしきれない部分もあると思うんです。“人の幸せを喜んであげるほうが素敵”だと理解しているけど、どうしてもできないという状態を書いた歌詞ですね、これは。
■偶然始まった音楽活動だけど、いちばんの救いに
──そこまで自分の感情を言語化して、物語や歌詞にできるのはすごいことだと思います。多くの人は、本当の気持ちを正視できず、内側で爆発させてどうにもならなくなるような…。
私もどちらかというと、内側で爆発させるタイプなんですよ(笑)。特に学生時代はそうで、将来の夢や野心でギラギラしているのに、恥ずかしくて人に話せなくて。相談もできないから、ひとりでイライラやモヤモヤを抱えて、勝手に壁を作って落ち込むことを繰り返してました。それを昇華する方法がわからなかったんですけど、私の歌を聴いてくれて「音楽に興味があるんだったら、チャレンジしてみたら?」と言ってくれる人がいて、そこから三パシの活動につながって。小説や歌詞を書くことで、ずっと誰にも吐き出せなかった気持ちを落とし込めて、作品を作るたびに自分も救われるような気がして。偶然始まった音楽活動だけど、いちばんの救いになってますね。
──三月のパンタシアの音楽を聴く人が、自分と同じように救われるような気持ちになったらいいな、という思いも?
おこがましいんですが、そういう気持ちもあります。私自身、偶然出会った音楽や、何の気なしに観た映画で“この作品に一生救われるんだろうな”という経験があって。三パシの音楽もそうなれたらいいなと思いますね。
──アルバムの最後は、小説「再会」のエンディングテーマとして制作された「春に願いを」。“運命は偶然で/偶然は奇跡で”という歌詞が印象的でした。
たとえば小説の中で書いている“親の転勤でもう一度会えた”みたいなこともそうですけど、偶然だとしても、それが運命的な出会いにつながることもあるんじゃないかなって。三パシとリスナーの皆さんも、いろんな出会い方があると思うんです。たまたまYouTubeから流れてきたとか、プレイリストをなんとなく聴いていて、“いいな”と思ってくれた人もいるだろうし。そこで絆が生まれて、今も聞き続けてくれて、三パシの音楽がその人たちのそばにいられるとしたら、それはもう奇跡的だなって。先のことはわからないけど、だからこそ、今そばにいてくれる人の温かさや手のひらの温度を大切にして生きていきたい。そういう気持ちを描いた曲ですね。
■いちばん大きいのは、リスナーのみなさんの声
──ジャンルを超越したサウンドや音楽性も、このアルバムの聴きどころだと思います。幅広いボーカル表現が求められると思いますが、シンガーとしての自分に対しては、どんなふうに捉えていますか?
最初の頃は歌うことに精いっぱいで、やりたいことができないことも多かったんです。それから少しずつ経験を重ねて。技術的なトレーニングもそうなんですが、自分の中でいちばん大きいのは、リスナーのみなさんの声なのかなって。曲を発表するたびに楽しんでくれて、思いを受け取ってくれて。“次はこういう表現をしたい”という想いの積み重ねが、自分のボーカル表現の枠を広げてくれてる感じがします。
──やはりリスナーの存在が大きいんですね。
はい。以前は何をしたらいいかわからなかったし、必要とされない人間だと思い込んでいた時期もあって。音楽をはじめて、ファンの皆さんが私を見つけてくれて、居場所を作ってくれた。そういう経緯があるから、皆さんの存在にはめちゃくちゃ救われているんです。いろんなテーマで曲を作ってますが、いつも頭の片隅にはリスナーの姿がありますね。だからこそ、新しい作品を発表するときはドキドキします(笑)。今回のアルバムでも、新しいサウンドやビジュアルに挑戦しているし、すごく緊張していて。怖さもあるけど、このドキドキはチャレンジしないと感じられないんですよね。三パシを今、どう見せたいのか、何を作りたいのか。ずっと“変わらないまま、生まれ変わり続けたい”と言ってるんですが、それが永遠のテーマですね。
──アルバムリリース後には、初の東京・大阪ツアー『三月のパンタシアLIVE 2022「邂逅少女」』を開催。ライブでも新しいトライがありそうですね。
そうですね。演出だったり、「こういうライブにしたい」というものは固まってきて。もちろん「再会」の物語がテーマなんですが、より深い部分に触れられるようなものにしたいんですよ。サイドストーリーまではいかないけど、“あのとき、じつはこう思ってたんだよね”みたいな具体的な感情を描きながら、音楽とともにお届けしたいと思ってます。空想とリアルが織り交ざった三パシのライブをぜひ、会場で体感してもらえたらうれしいです。
リリース情報
2022.0309 ON SALE
ALBUM『邂逅少女』
ライブ情報
三月のパンタシア LIVE 2022「邂逅少女」
3/27(日)Zepp Haneda
4/22(金)なんばHatch
プロフィール
三月のパンタシア
サンガツノパンタシア/“終わりと始まりの物語を空想する”ボーカリスト「みあ」による音楽ユニット。2016年6月1日にTVアニメ『キズナイーバー』のエンディングテーマ「はじまりの速度」でメジャーデビュー。2018年からは、みあ自らが書き下ろす小説を軸とし、“音楽×小説×イラスト”を連動させた自主企画『ガールズブルー』をWeb上で展開。2020年1月に開催した豊洲PITでのワンマンライブのチケットは即日SOLD OUTに。今最も注目される音楽ユニットの一つになっている。
三月のパンタシア OFFICIAL SITE
https://www.phantasia.jp/