TEXT BY 森朋之
■シンガーソングライターとしてのポテンシャルを見せつける
『THE FIRST TAKE』第195回に登場したのは、キタニタツヤ。ジャンルやシーンを超越し、アーティスト/クリエイター/プレイヤーとして圧倒的な才能を示し続ける音楽家だ。
まずはキタニのキャリアを紹介しておきたい。
アーティストとしてのスタートは、ボカロP“こんにちは谷田さん”としての活動。その後、“キタニタツヤ”名義でシンガーソングライターとしてソロ活動をスタート。並行して、ロックバンド“sajou no hana”を結成。
2020年の8月に“デマゴーグ(扇動者)”をコンセプトに据えた1stアルバム『DEMAGOG』をリリースしたあとは、奔放かつ自由なクリエイティビティを発揮。ファンとのコラボをテーマにした「白無垢」、エジマハルシ(Gr/ポルカドットスティングレイ)のギタープレイが光る「Cinnamon」、漫画家・カネコアツシとの共作から生まれた「逃走劇」、ALIとタッグを組んだ「Ghost!?」を連続リリース。
さらに、フジテレビ系の人気アニメ枠“ノイタミナ”にて、こちらも世界的に支持を集める“MAPPA”が制作したアニメ『平穏世代の韋駄天達』のオープニングテーマ「聖者の行進」を手がけ大きく知名度と存在感を増し、久保帯人による漫画『BLEACH』の原画展『BLEACH EX.』に「Rapport(ラポール)」「タナトフォビア」を書き下ろす。
また、現在放送中の黒木華主演のドラマ『ゴシップ#彼女が知りたい本当の〇〇』(CX)主題歌に「冷たい渦」「プラネテス」を提供するなど、八面六臂の活動を継続。ジャニーズWESTや私立恵比寿中学、ホロライブ所属の“星街すいせい”への楽曲提供や、ヨルシカのサポートメンバー、Ado(アド)、まふまふの楽曲制作への参加なども行い、携わった楽曲のYouTube上でのMV総再生回数は10億回に及び、ジャンルを超えて今や音楽シーンに欠かせない存在となっている。
2020年7月に、アーティストの自宅やプライベートスタジオから、一発撮りで届ける『THE FIRST TAKE』内のコンテンツ『THE HOME TAKE』に出演し、代表曲「ハイドアンドシーク」を披露したキタニタツヤ。『THE FIRST TAKE』初登場となる今回は、『アサヒスーパードライ』と『THE FIRST TAKE』とのコラボレーション第2弾として制作された新曲「ちはるfeat. n-buna from ヨルシカ」をパフォーマンスした。
曲名の「ちはる」は、「何度でも春を迎えられるように」という意味合いを込めて人の名前に付けられることもある言葉。この楽曲についてキタニは、「春って皆、明るいイメージを持つ事が多いのかなと思うのですが、僕にとって春という季節は、曇りというか、白っぽい、灰色っぽいイメージがあります。その中で、前向きな事を歌いたいなと思って、春の雨の中を、傘もささずに歩いて行くような景色を歌にしました」とコメントしている。
別れと出会い、華やかな陽射しとボンヤリとした曇り空、そこはかとない不安とどこかにあるはずの希望。そんな春という季節を描いた「ちはる feat. n-buna from ヨルシカ」をキタニは、繊細にして濃密なエモーションを伴った歌声によって、生々しく表現してみせた。
マイクの前に立ち、フーッと息を吐くキタニ。「『ちはる』という歌を作りました。聴いてください」というシンプルな言葉、そして、一瞬のブレスのあと、“君の髪に冬の残り香があった/ほろ苦くて、煙みたいなアイスブルーで”というフレーズを丁寧に紡ぎ出す。春の始まりの情景、かつての幼くて儚い恋。もう二度と戻らない“あのとき”を何度も何度も思い返し、切なさを募らせていく“僕”の姿を、彼は豊かな想いを込めながら描いていく。
ピアノと歌で静かに始まり、“さらさらと頬を撫でる/春の雨にまた君を思い出す”というサビでn-buna(ヨルシカ)のギターをはじめドラマチックにバンドサウンドが加わる構成も、楽曲に込められた感情の起伏をしっかりと増幅させている。伝統的な歌謡曲を感じさせるメロディ、ネオソウル以降の流れを汲み取ったアレンジのバランスも見事。彼のソングライター/アレンジャーとしての才能が最も端的に示された楽曲と言えるだろう。
もちろん、軸を担っているのはキタニのボーカルだ。主人公の気持ちの抑揚とリンクするメロディライン、まるで映画のワンシーンのような映像的な歌詞をキタニは、感情の発露をコントロールしながら的確に表現。自分自身のシンガーとしての実力を見せつけるのではなく、あくまでも楽曲の世界を届けようとする姿勢も素晴らしい。少しかすれ気味になる高音の響きもまた、“一発撮り”の『THE FIRST TAKE』でしか味わえない。
楽曲のクオリティ、奥深いボーカル表現を含め、シンガーソングライターとしてのポテンシャルを見せつけたキタニタツヤ。今回の『THE FIRST TAKE』の出演によって、彼の際立った才能、そして、“何度だって/君のいない春を歩いていくよ”というフレーズが響く「ちはる feat. n-buna from ヨルシカ」の魅力は多くの音楽ファンに浸透することになりそうだ。
リリース情報
2022.02.24 ON SALE
DIGITAL SINGLE「プラネテス」
2022.02.10 ON SALE
DIGITAL SINGLE「冷たい渦」
YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
https://www.youtube.com/channel/UC9zY_E8mcAo_Oq772LEZq8Q
キタニタツヤ OFFICIAL SITE
https://tatsuyakitani.com/