元メンバーの不祥事による約半年間の活動休止から復活したALI。活動再開後初の作品『INGLOURIOUS EASTERN COWBOY』は、Creepy NutsのR-指定をフィーチャリングした「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」や、盟友・木村昴を招いた「Whole Lotta Love feat.木村昴」等が収められた4曲入のEP。派手なホーンが轟き、R-指定のスピード感溢れる日本語ラップとボーカル・LEOの熱の滾った歌が交錯し、ひたすら聴き手をアジテートするようなALI流ロックンロール「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」を筆頭に、様々な角度から多国籍バンドALIのエッセンスを凝縮した作品になっている。ヘビーな時期を経て、今作のリリースの実現に至った今、ボーカルのLEOに訊いた。
INTERVIEW & TEXT BY 小松香里
PHOTO BY 増田慶
■ひとつの映画みたいな作品になればいいなって
──再始動してから約3ヵ月が経ちました。取材等を通して、今どんなことを感じていますか?
いろんなことがうまいこと重なったりして、今のところすごく良い感じです。チームの愛情も深まってきて、それに応えていかなきゃいけないなあっていうプレッシャーは感じつつ。ただ辞めたメンバーと金の事で揉めてたり、伯父さんが銃で撃たれて死んだり、日常はなかなかハードです(笑)。十代のときに憧れてたバンドの世界を地でいってるなとも思います。だから、迷惑はかけないように細心の注意を払いながら楽しくやってますね。
──無事に活動再開後初の作品であるEP『INGLOURIOUS EASTERN COWBOY』がリリースされましたね。
収録されてる4曲は全部活動休止前からあった曲なんですけど、“もう出せないのかな”って思ってた中、いろんな人が各所に謝ってくれたり、いろんな人が許してくれたり、いろんな人の愛情のおかげで無事出せることになって本当に感謝してます。
──カムバックの一発目としてどんな作品しようと思ったんですか?
ひとつの映画みたいな作品になればいいなって思って、(クエンティン)タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』をもじったタイトルにしたんです。映画は“ろくでもなき野郎ども”っていう意味なので、俺らは“不名誉な東のカウボーイ”っていう(笑)。バンドに起こった出来事とかも含めて、もう赤裸々に出していこうと。曲を聴いたときに現実離れした景色に連れていってくれたり、つらい日常を少しでも紛らわせてくれるっていうことをやりたくてずっと活動してきたんですが、そういうことが丁寧にできた4曲を揃えたつもりです。
■“R-指定くんしかいない”とラブコール
──「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」はそもそもアニメ『すばらしきこのせかい The Animation』のオープニング曲として作られたわけですが、どういうイメージで作っていったんですか?
この曲は「LOST IN PARADISE feat.AKLO」を作った時期とほぼ同時期に作ったんですけど、ラッパーのメンバーが辞めたタイミングで、俺ひとりで曲をどんどん作ろうと燃えていた時期で。今世界的にもマシンガン・ケリーとかエモパンクが流行ってますけど、それが流行る前に制作がスタートして。結果的に今このタイミングでこういうサウンドを出せて良かったんじゃないかなって思いますね。それで、この感じでラップできるラッパーって限られてるなって思って、“R-指定くんしかいない”とラブコールをしたら受けてくれて。レコーディングが終わったときのRくんの興奮している顔とRくんのラップを聞いたときの俺らのテンションの上がりようは一生忘れられないですね。活休中にもRくんが「あの曲やっぱり出したいですね」って言ってくれていて、だから無事に出せて本当に良かった。
──アニメのストーリーともリンクする歌詞ですが、どんなメッセージを込めましたか?
自分自身すごく怒っていた時期で。それで、“CITY RIOT”ってタイトルが頭に受かんで。アニメも10代の衝動や生きることへの渇望が描かれてると思ったのでそれをテーマに書きました。まさかその後に歌詞で書いてるような大きな困難が自分に起こって、生きることに対してこんなにも渇望することになるとは思ってなかったですね。曲の通りになってきたから、音楽って不思議ですよね。
──一年前のLEOさんがこの曲を歌うのと、今のLEOさんが歌うのとでは大きく説得力が違うと思います。
そうですよね。昔はかっこつけたり、どうやったら良く思われるだろうって考えて演じたりしていて。それこそ俺がいちばん叩かれたのって結婚したときなんですね。その後に活動休止もあったし、もう失うものはないんです。今は演じたりしなくていいのが楽だし、堂々とむき出しでやっていきたい。その上で、応援してくれる人、気になってくれてる人だけじゃなく、僕に対して批判をする人たちも含めて巻き込みたいです。音楽って死んだ後も残るんですよね。もちろん生きてる内に評価されれば周りの人も幸せにできるからいちばんいい。ただ、曲として残すことができれば俺が死んだ後でも、国境や時代を越えて誰かを救える可能性がある。その無限の可能性を考えるとやっぱり楽しいし、やりがいがありますね。元メンバーが不祥事を起こして、一回サブスクからALIの曲が全部消えたときに、「音楽をやるってどういうことなんだろう」とかいろいろ考えたんです。それまでは再生回数が日に日に増えていくのがすごくうれしかった。でもゼロになって、曲を聴いてくれる人の存在が見えなくなって、“何を信じればいいんだろう”と不安でした。その中でもSNSでコメントをくれる人だけじゃなく、実は遠くで見て応援してくれてる人がいたり、いろんな形で人とは繋がってるんだなって。だからいろんな気持ちになりますね。めちゃくちゃ売れてやろうっていう気持ちもあれば、数字じゃない部分でしっかりと人に届けたいという気持ちもあって。何が正解か答えは出ないですけど、とにかく一生懸命頑張りたいです。
■本当に大切なものに対するフォーカスが定まってくる
──「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」は活動再開後一発目の曲として、すごく攻撃力が高いと思います。
この前PV撮ってきたんです。昔からずっとお世話になっているWACKO MARIAっていうブランドは休止中も仕事をくれたりして面倒をみてくれてたんですけど、去年その関連の仕事で出会ったPERIMETRONのMargtが監督で、シド・ヴィシャスの「MY WAY」のオマージュをやりました。俺がひとりで歌って、メンバーのLUTHFI(Ba)とCÉSAR(Gu)も天使役で出てて、生き様がめちゃくちゃ炸裂してます。計8時間歌ったんですけど筋肉痛になって。やっぱ歳取ると回復力が遅くなるし、ろくなことないですね(笑)。周りの人はどんどん死んでいくし。でもその分、喜びはピュアに研ぎ澄まされていって、本当に大切なものに対するフォーカスが定まってくる。EPのジャケットデザインは河村康輔さんなんですが、康輔さんがまだ『大友克洋GENGA展』とかのビジュアルを手掛ける前にイベントで一緒になったことがあって。それで去年活休中に友人のバーでたまたま再会して、ALIのことを知ってくれてて、「なんか一緒にやろうよ」っていう話になったんです。今年出すシングルは全部康輔さんにやってもらおうと思ってます。“宇宙天国図書館”みたいなところに寄贈されている作品集みたいなイメージでいきたいなって。だから今年はつらいときに手を差し伸べてくれた人たちと一緒に暴れて、永遠に残るものを作っていきたいなと思っているんです。諦めずに続けていれば、昔出会ってた人たちと芯を食って一緒に手を組めるんだなって感じましたね。俺は15歳から本格的に音楽をやり始めたので、もうすぐ20年経つわけなんですけど、30年、40年続けてたらもっと芯が食えるんだろうなって。ALIが盛り上がってるときに活動休止になって“もったいなかったね”って思う人もいると思うんですけど、僕としては失敗だとは受け止めてない。全部意味があると思ってやっていますし、活動再開後に作った曲もすごく良いので、今年その曲たちを丁寧にリリースできることを祈ってるんですけど。
■昴のラップが本当にかっこいい
──EPの2曲目の「Whole Lotta Love feat. 木村昴」も、盟友のような関係性の木村さんとの楽曲がようやくリリースできたわけで。ジャジーなファンク/ヒップホップですが、どんなイメージが?
CÉSARたちと曲を作ってて、すぐサビのメロディと歌詞が同時に出てきて、ALIのバンドテーマの“LOVE, MUSIC AND DANCE”に則って作った曲ですね。イメージとしてはノーザンソウルだったんですけど、俺の理想とする天国の光景って、シュプリームスみたいに女の子3人が歌ってるような世界で。それをイメージしたところはあります。昴のラップが本当にかっこいいんだよなあ。昴は俺が20代半ばぐらいのときから、客が100人もいない中、ふたりでイベントをやったりしてたんですよ。みんな帰ったあと、昴が落ち込んで反省してるのを聞いて、「一緒に頑張ろうな」って言ったりしてて。そんな昴が“ヒプノシスマイク”だったりでどんどん売れていくのがうれしくて。俺がちょっと待たせちゃった形になりましたけど、こうやって一緒に曲が作れて無事出せることになって本当にうれしいです。まさに曲名通り、「ありったけの愛」が詰まった曲ですね。
■一生懸命バスケやったら“面白い”って思ってくれて
──3曲目の「FOUND BLUE feat. 黒田卓也」はトランペット奏者の黒田卓也さんがフィーチャリングされています。
俺ずっと黒田さんのことが好きだったんです。ホセ・ジェイムズのバックをやってたりして、日本の金管楽器奏者の中で一番なんじゃないかって。それで3年間ぐらいどうやったら黒田さんと一緒にやれるか探していて。そうしたら、「BETTER DAYS feat. DOS MONOS」でLAにレコーディングをしに行ったときに出会ったカメラマンが黒田さんのアーティスト写真を撮っていて。その人に黒田さんが忘年会兼バスケをやってるってことを聞いて行ったんですよ。あっちは最初ビビッてましたけど、一生懸命バスケやったら“面白い”って思ってくれて、その後のセッション大会に呼んでくれて。そうしたら案の定「歌え」ってことになるんですけど、俺セッション苦手で(笑)。でも、その場にいる人たちと「Get Up, Stand Up」を歌って無事ロックできて、「いいじゃん!」ってことになったんです。それで「どうしても話を聞いてほしい」ってお願いして、この曲に参加してくれないか相談したんですね。「ラップのフィーチャリングなしで、初めて俺がひとりで歌いきる曲でブルースで、マスな曲じゃないかもしれないけど、俺にとってすごく大事な勝負曲なので黒田さんの力を貸してください」って。それで「ええで」って言ってくれて実現したんで、本当力づくでした(笑)。
──(笑)。ジャジーなバラードですが、どんな思いを込めたんでしょう?
今回のEPの4曲は渋谷の景色が感じられる曲にしようと思って。俺、10代のときに表参道のブルーノートがある通りの近くのボロいマンションに住んでたんですよ。それで同年代が大学や専門学校に行って浮かれている時期に週5で歌のレッスンを受けてて。金がないってこともあって渋谷から表参道まで歩いて帰ってたんですけど、「FOUND BLUE feat.黒田卓也」のサウンドはそのときに見ていた渋谷の景色のイメージなんです。
■音楽に出会えて、ありのままで傷つきながら生きていいんだって
──悲しみや憂いの成分が濃く出てますよね。
今気づいたんですけど、俺のどこを取っても悲しみと憂いがあるんだと思います。まあブルースっていう音楽はそういう性質のものでもありますけど。音楽って悲しみを抱えていたり、社会にうまく適合できない人を受け止めてくれるお皿でもあると思う。自分の生まれを恨んだこともあったんですけど、音楽に出会えて、ありのままで傷つきながら生きていいんだって思えた。悩みやイライラがなくなることは一生ないと思うんですけど、そのまんまでやっていいって思えるのが僕の好きなレベルミュージックだったりもする。だから「FOUND BLUE feat.黒田卓也」もそのままですね。
──音楽は悲しみや傷が武器になる表現ですし。
やっぱり悲しみや痛みが他人同士を結ぶ絆になったりすると思うので。僕と曲を聴いてくれる皆さんの人生はそれぞれ違うけど、痛みを経験することでやがて人のことを考えられるようになったり、それぞれのトンネルが繋がったりすると思ってます。
■光が当たらない人たちにフォーカスした僕なりのロックンロール
──4曲目の「Dance You, Matilda」はLEOさんおひとりで詞曲を担当されています。
友達の松田翔太がCAREERINGっていうピアスブランドのアートディレクションをやってるんですけど、MATILDAっていうアイテムに音楽をつけてみてっていう話があって。それで遊びの延長線で作った曲はインストで、ライブの1曲目にやってる曲なんですけど、それに歌詞をつけました。この曲はもう俺の好きなトム・ウェイツ節ですね。夜の野犬のブルースというか、光が当たらない人たちにフォーカスした僕なりのロックンロールです。
──じゃあ4曲とも、ALIを近くで支えてくれてるような人たちが深く関わっているわけですね。EPのビジュアル周りも含めて。
そうなんです。活休中もずっと入場曲として「LOST IN PARADISE feat.AKLO」を球場でかけ続けてくれたエンゼルスの大谷翔平選手もそうですが、一生頭が上がらない人が増えていくばかりですね。一生懸命頑張って夢を叶えて恩返ししていくしかないと思ってますけど。でもいろんな気持ちになりますよ。インターネットがない時代は、ライブハウスの店長やイベントのオーガナイザーや雑誌の編集部の方に気に入ってもらえないと、イベントやフェスや雑誌に出れなかったりして。それをひとつずつ、何のツテもない中、媚びるようなことをしたり、人を羨んだりした時期もありましたけど、それは違うなって思って、時には人を傷つけたりもしながら音楽に素直に生きてきて。だから俺を恨んでる人もたくさんいるんです。でも嫁にいろんなところを正してもらったおかげもあって、今こうやっていろんな人に支えてもらえている。しっかりと結果を出さなきゃいけない責任がありますよね。
──活休中も音楽をやめることは一切考えなかったと言ってましたけど。
全く考えなかったですね。音楽しかないんですよね。
■自分の作った音楽に救われてる
──その先にこういったたくさんの出会いが結実する作品が生まれたという。
本当ですよ。でもさっきも言いましたけど、このEPがリリースできるってなったら元メンバーと揉め始めて。人って怖いです。「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」の歌詞で“嵐の中生まれ育ってきた”って歌ってますけど、やっぱり曲の通りになるんだよな。「LOST IN PARADISE feat.AKLO」でも“俺は諦めたりしない。なぜなら愛のために生きているから”って歌ってて、こうやってカムバックできて。音楽に救われことなんてないって言う人もいますけど、いや、救われます。俺は作る側ですけど、大谷選手が「LOST IN PARADISE feat.AKLO」を球場でかけ続けてくれたことだけを希望に生きていけたり、こうやって「TEENAGE CITY RIOT feat. R-指定」を出せたり、自分の作った音楽に救われてます。メンバーが減ったこともありますけど、国籍とか年齢関係なくいろんなミュージシャンと手を取り合って“LOVE, MUSIC AND DANCE”を表現していきたいですね。なおかつ、自分一人で赤裸々に歌うような表現も同時にやりながら世界のトップを目指していきたいと思っています。
リリース情報
2022.2.23 ON SALE
EP『INGLOURIOUS EASTERN COWBOY』
ライブ情報
INGLOURIOUS EASTERN COWBOY TOUR2022 大阪
3/5(土)梅田クラブクアトロ
INGLOURIOUS EASTERN COWBOY TOUR2022 東京
3/21(月)Spotify O-EAST
プロフィール
ALI
アリ/VoでリーダーのLEOを中心にした全員ハーフの多国籍バンド。東京/渋谷発。FUNK、SOUL、JAZZ、LATINなどのルーツミュージックをベースにHIPHOP、ROCK、SKAなどをミックスしたクロスオーバーな音楽性で注目を集めている。 TVアニメ「呪術廻戦」第一期EDテーマの『LOST IN PARADISE feat.AKLO』が日本のみならず世界的にバイラルヒットとなった。
ALI OFFICIAL SITE
https://alienlibertyinternational.com/