19歳のシンガーソングライター、崎山蒼志のニューアルバム『Face To Time Case』に収録された「告白」は、崎山と石崎ひゅーいのコライトによる楽曲。淡く、柔らかいメロディ、“告白しよう 未だ拙いけれど”というフレーズ、独創的なふたりの歌声が混ざり合うこの曲の制作について、崎山と石崎に語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 関 信行
■“うわ、めっちゃ好きだ!”って衝撃を受けました
──まずは崎山蒼志さん、石崎ひゅーいさんの交流について聞かせてください。崎山さんはもともと、ひゅーいさんのファンだったんですよね。
崎山蒼志(以下、崎山):はい。小学校6年のとき、『Mステ』(ミュージックステーション)にひゅーいさんが出ているのを見たのが最初です。
石崎ひゅーい(以下、石崎):小6?ヤバい(笑)。
崎山:「夜間飛行」を歌われてたんですけど、紹介VTRの時点で“うわ、めっちゃ好きだ!”って衝撃を受けました。「夜間飛行」のメロディや歌詞もすごかったし、歌声もめちゃくちゃ良くて。そこからずっとファンで、CDを聴いてました。
石崎:初めて『Mステ』に出たときですね。2013年かな。あのときはとにかくブッ壊す!みたいな感じだったんですよ。心がパンクだったんですよね、あの頃は特に。なんでもいいから、どう受け取られてもいいから、とにかく自分以上のものを出すことにフォーカスしていたというか。破壊的衝動もありました。
崎山:それはめっちゃ感じましたね。
石崎:その前はバンドをやってたんですけど、その頃のパフォーマンスは身体的な表現を重視していて。その名残もあったと思いますね。
崎山:なるほど。パフォーマンスもすごかったですけど、メロディの瑞々しさだとか、切なげなところにも食らってしまって。
石崎:『Mステ』、すごいな(笑)。
──浜松の小学生にこれだけのインパクトを与えてるわけですからね。ひゅーいさんが崎山さんのことを知ったのは?
石崎:最初は(バラエティ番組)『日村がゆく』かな。
──『日村がゆく』に出演して「五月雨」を弾き語りしたのが、崎山さんのデビューのきっかけですからね。
石崎:映像を観て度肝を抜かれました。学生服を着て歌ってたんだけど…あのときって中学生?
崎山:中3の終わり頃ですね。
石崎:そうか。どうしても自分がその年齢だったときと比べてしまうんですけど、“これは比べ物にならないな”と。
崎山:いえいえ、そんな。
石崎:いや、ホントにすごかった。あと、使ってるギターも印象的で。オベーションのギターを弾いてたんですけど、崎山くんくらいの世代はそんなに使ってないと思うんですよ。
崎山:たしかに。よくイメージがあるのが尾崎豊さんとか。
崎山:小学校、中学校の頃はエレキギターをずっと弾いてたんですけど、ひとりでやれるほうがいいなと思って、アコギをお年玉で買ったんです。オベーションのギターを選んだのは、浅井健一さんの影響もありますね。ブランキージェットシティのときなんですけど、ライブで浅井さんがバキバキに弾いていて、それがすごくカッコよくて。母親の影響で尾崎さんや岡村さんの曲も聴いてたし、“これ、知ってるギターや!”って。同世代で使ってる人はいなかったし、シブいかなと。
石崎:シブいよ(笑)。
■「尾崎さんとひゅーいさんに会えるって、どういうこと?」って
──おふたりが初めて会ったのは?
石崎:最初は『尾崎世界観の日』(2019年に行われた大阪・服部緑地野外音楽堂で行われたクリープハイプ・尾崎世界観の弾き語りイベント)だよね?
崎山:はい。尾崎さんにゲストして呼んでいただいて、そのときにひゅーいさんもいらしゃって。クリープハイプもずっと聴いてて大好きだったから、「尾崎さんとひゅーいさんに会えるって、どういうこと?」って思ってました(笑)。
石崎:尾崎、崎山、石崎で“崎”率が高い日だったね(笑)。そういえばあのとき、崎山くんのお母さんにうなぎパイをいただいて。
崎山:地元の名産です(笑)。
石崎:崎山くんのライブもすごかったです。高校生なのに場数を踏んでる印象があったんですよ。ちょっと老成しているというか、ベテランみたいな雰囲気もあったし、もちろん瑞々しさもあって。不思議な人だなと。
崎山:ちょうどいろんなところでライブをやり始めた頃だったんです。中学の頃も、地元のミュージシャンたちが集まるフリーイベントだったり、浜松市や静岡市のライブハウスにも出てたんですけど、そこまでライブの数は多くなくて。『尾崎世界観の日』のときは、めちゃくちゃ緊張してました。ひゅーいさんにもご挨拶はしたんですけど、あまり話せなくて。
石崎:ガッツリ話したのは、去年の夏のキャンプ動画のときじゃない?
崎山:そうですね。
石崎:ごはん作って、しゃべって、歌も歌って。
崎山:焚火の前で歌いましたね。あのときもまだ緊張してましたけど…。
石崎:このふたりの会話は弾むというより、フワッとしてるからね(笑)。でも、いろいろ話しましたよ。聴いてる音楽とか、“どうやって曲を作ってんの?”みたいなことも。崎山くんのコード進行、僕とはまったく違うんですよ。たぶん頭のなかに膨大なコードがあって、それが自然に出てくるというか。
■崎山くんのギタープレイで曲を導いてもらった
──コード感もコード進行も独特ですよね。
石崎:そうなんですよ。7thとか9thをいっぱい使ってるということでもなくて、崎山節なんですよね。
崎山:そこまで音楽的な理論はわかってないんですけど、ジャズやボサノヴァの和音も好きなので、その影響があるのかもしれないですね。単純に響きが気持ちいいっていうのもあるし、複雑なコードを抑えられるとうれしいっていうのもあって(笑)。J-POP的なコード進行に、そういう和音を取り入れるやり方は根底にあるのかも。
石崎:なるほど。ふたりで「告白」を作ったときも、崎山くんのコード進行の作り方に助けられたんですよ。崎山くんのギタープレイで曲を導いてもらったというか。僕のコード進行も、崎山くんが弾くと一瞬で自分の色に変えちゃうんです。
──なるほど。「告白」の制作はどんなふうに始まったんですか?
崎山:普段から「一緒に作りたいです」という話をさせてもらってたんですけど、アルバムの制作に入ったときに、僕のほうから正式にオファーさせてもらったんです。お受けいただいてありがたかったですね。
石崎:いえいえ。ホントに最初から一緒に作ったよね。
崎山:だいぶ入り組んでますからね。
石崎:そう、言葉もメロディも直接話をしながら作ったので。いきなりスタジオに行って曲を作るのは初めてだったから、ちょっと心配だったんですよ、じつは。題材も何も決めないで、手ぶらだったし。
崎山:ギターだけ持ってスタジオに行って、「こんにちは」って挨拶して、すぐ曲を作り始めて。
石崎:どんな曲にするかも決めてなかったからね(笑)。さっきも言いましたけど、崎山くんのコード進行にかなり助けてもらいました。自分とは違うコード感によって浮かんでくるメロディもあったし、それを聴いて崎山くんが「こういう歌詞はどうですか?」って提案してくれたり。一からアイデアを出し合って、やり取りしながら作りましたね。
──サビの“告白しよう 未だ拙いけれど”というフレーズもそうですけど、すごく純粋なイメージの楽曲ですよね。
石崎:ふたりの空気感がそういう感じなのかなと思って。子どもの頃のワクワクする気持ちだったり、それこそ初めて告白するときのドキマギとか、そういう時期の雰囲気が残ってるような気がするんですよ。その題材を共有しつつ、ふたりでメロディを作って、歌詞を乗せて。
崎山:ひゅーいさんがそのアイデアを出してくれたとき、すごくシックリ来たんですよね。
石崎:まだ思春期にも入ってないというか(笑)。なんだろうね?
崎山:なんでしょうね?(笑)
■現実なのか夢の中のことなのか、境目が分からなくなる感じが好き
──(笑)確かに崎山さんの楽曲には、子どもが持っている無垢さ、怖さが入ってるような気がします。
石崎:そうですよね。崎山くんの歌詞には、そういうものが根底にあると思う。
崎山:子どもの頃のことをわりと覚えてるんですよね。寝る前に本を読んでもらってたんですけど、現実なのか夢の中のことなのか、境目が分からなくなる感じが好きで。そういうストーリーの文学もよく読むし、自分が書く歌詞にも出てるかもしれないです。
──「告白」の歌い出しの“ありがとう さよなら こんにちは また明日”も、童話みたいな雰囲気ですよね。
石崎:そういう歌にしたいというのは、最初から思ってましたね。
崎山:これまでの僕の歌詞はどちらかというと抽象的だったり、複雑な表現もあったんですけど、ひゅーいさんから「簡単な言葉で書いてみよう」という提案があって。僕もずっと“もっとストレートに書いてみたい”と思っていたので、そのタイミングがここで来た!と。
石崎:僕も同じで、抽象的な書き方をすることが多かったんですよ。そこは僕と崎山くんが似てる部分でもあるんですけど、「告白」の歌詞はちょっと違うベクトルでやってみたくて。
──なるほど。ひゅーいさんのニューアルバム『ダイヤモンド』も、これまでよりもシンプルな表現が多い印象がありました。
石崎:あ、そうですね。“よりシンプルに”というのは心がけていたし、それが「告白」にも出てるのかも。崎山くんを巻き込みました(笑)。
──レコーディングはどうでした?
石崎:ふたりでアコギを弾いたんですけど、最初、ぜんぜん弾けなかったんですよ(笑)。崎山くんのコード感が僕にぜんぜんなかったので、かなり苦労して。結果的にアコギがフィーチャーされた曲になったし、これを完璧に弾けたら、崎山くんにちょっと近づけるかなと。目標ができましたね(笑)。
崎山:いえいえ(笑)。制作のときもそうだったんですけど、レコーディングでもひゅーいさんの歌声やメロディが聴こえてくるたびに「よし!」みたいな気持ちになってました。最初の一節を僕が歌って、次をひゅーいさんが歌ってるんですけど、その時点で「うわ、やばい」って。
──声の混ざり方もすごくいいですよね。おふたりとも個性的な声質だと思いますが、想像以上に溶け合っていて。
石崎:そう言ってもらえるとうれしいですね。歌い方やメロディ、語尾の感じもそうですけど、崎山くんに寄ることを意識していて。お互いに寄り添いつつ、みたいな感じだったのかな。
崎山:はい。メロディに関しても、ひゅーいさんが歌うことをイメージすることで出てきたところもあて。メロディ自体に柔らかさがあるので、それは歌うときも意識してました。ひゅーいさんの歌声は包み込んでくれるような感覚があって、どのテイクも最高でしたね。
石崎:うれしい(笑)。少し恥ずかしいくらい、淡い曲になりましたね。僕も崎山くんもこういう曲はあまりないと思うので、新鮮なのかなと。
崎山:ひゅーいさんも淡くて爽やかな感じですからね。まさかこういう曲になるとは思ってなかったし、当たり前ですけど、自分だけでは絶対にできなかっただろうなって。
■“カラッと晴れた空の下にいるふたりって、どんな感じなんだろう”
──リスナーとしてもかなり意外でした。石崎さん、崎山さんが共作すると、もっと鋭い曲になるのかと…。
石崎:それを裏切りたいところもありました。このふたりは雨のなかで傘を差してるイメージもあるような気がして。今回の曲に関しては、“カラッと晴れた空の下にいるふたりって、どんな感じなんだろう”ところから始まってるところもあるんですよ。爽快な風が吹いてるような。
──なるほど。シンガーソングライターとしても、いい影響があったのでは?
石崎:そうですね。さっきも話に出てましたけど、今はなるべく簡単な言葉で、寄り道しないで届けられる曲を作りたいと思っていて。考える前に心に届く曲っていうのかな。特にここ2〜3年の閉鎖的な状況だったり、人と人の距離がある時代だからこそ、最短距離で届く曲を作りたいんです。それってすごく難しいことなんですけど、今も果敢にトライし続けているところですね。
崎山:僕も同じようなことを考えてます。今までは鋭利な感情、怒りや焦燥感を歌詞にすることが多かったし、今もそういう曲は好きなんですけど、最近は優しい歌詞に励まされることが増えてきたんです。
石崎:そうなんだ?
崎山:はい。自分の中にスッと入ってくる歌詞に感動することもあって。そういう歌を自分でも書いてみたいと思うようになったし、「告白」はすごくいい経験になりました。
■ふたりで頑張って外に出よう(笑)
──音楽的な相性もすごくいいし、今後もふたりの共作曲を聴きたいです。
石崎:これからが楽しみですよね、崎山さんと僕の(笑)。崎山くん、今年二十歳になるんだよね?
崎山:8月で二十歳になります。
石崎:二十歳になれば行動範囲も広がるだろうし、ふたりが共有できるところも増えそうだよね。
崎山:ありがたいです。僕はインドア派で家にいる時間が長いんですけど、曲を作ったり、考え事をしているうちに気持ちがダウンすることもあって。床に穴が開いているような気がしてくるというか。
石崎:俺もあるよ、そういうこと。ふたりで頑張って外に出よう(笑)。そういえば崎山くんに「いちばん好きな食べ物は?」って聞いたら、“せいろ”って答えたんですよ。
崎山:ハハハ(笑)。
石崎:“そば”じゃなくて“せいろ”って、すごくないですか?流石だな、崎山蒼志って思いました(笑)。9月になって、世の中的に大丈夫だったら、うまい“せいろ”食べに行こうよ。日本酒も合うしね。
崎山:うわ!それ、めちゃくちゃ楽しみです(笑)。
リリース情報
2022.0202 ON SALE
ALBUM『Face To Time Case』
プロフィール
崎山蒼志
サキヤマソウシ/2002年生まれ、静岡県浜松市出身。2018年5月に出演したインターネット番組をきっかけに認知を高め、数多くのTVドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手がける。2018年7月に「夏至」と「五月雨」を配信リリース、12月には1stアルバム『いつかみた国』を発表。2021年1月にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。
崎山蒼志 OFFICIAL SITE
https://sakiyamasoushi.com
リリース情報
2021.12.22 ON SALE
ALBUM『ダイヤモンド』
プロフィール
石崎ひゅーい
イシザキヒューイ/2012年7月25日「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。2013年6月にテレビ東京系ドラマ「みんな!エスパーだよ!」のエンディング曲「夜間飛行」を、7月に1stフルアルバム『独立前夜』をリリース。2018年3月に初のベストアルバム「Huwie Best」を発表後、全48公演におよぶ全国弾き語りツアーを実施した。同年12月、菅田将暉への提供曲のセルフカバー「さよならエレジー」を配信リリース。「アズミ・ハルコは行方不明」や「そらのレストラン」といった映画に出演するなど、役者としても活躍している。
石崎ひゅーい OFFICIAL SITE
https://www.ishizakihuwie.com