INTERVIEW & TEXT BY 筧 真帆(日韓音楽コミュニケーター)
■韓国チャートを“逆走行”で駆け上がる、D-Hackとは?
世界を席巻中のBTSをはじめ、つねに話題に事欠かさないK-POPにおいて、現地で個性的な活躍を見せている注目株として筆者が期待を寄せているのがD-Hack(ディヘク)だ。
彼は“日本オタク”を自称するラッパーで、当コラムでは日本初のインタビューを交えながら紹介していきたい。
D-Hackと音楽プロデューサーPATEKOの「OHAYO MY NIGHT」が音楽チャートに登場し始めたのが昨年6月頃。
同曲のリリース自体はランクインから遡ること一年前だが、TikTokのBGMとして人気となり、音楽系TikTokerがカバーしたことでさらに火がつき、有名人たちも続々カバー。日本で瑛人の「香水」がヒットした流れを彷彿とさせる。
また、韓国ではチャートの圏外から急浮上することを“逆走行”と呼び、昨年においては軍隊への慰問公演がYouTubeにアップされたことから、4年前にリリースした「Rollin’」が大ヒットしたBrave Girlsがその代表で、D-Hackの「OHAYO MY NIGHT」も典型的な“逆走行”の流れを見せた。
昨年6月下旬、韓国の主要音楽サイトの総合チャート『ガオンチャート』に121位で初登場、その後98位、29位、12位…と毎週ジワジワと順位を“逆走行”し、9月下旬には最高4位に、10月上旬には音楽番組のSBS『人気歌謡』で、ITZYとaespaに並んで1位候補にまで躍り出る。
その後、Weeeklyのイ・スジンとのコラボ曲「Maboroshi Phone Booth」をリリースし、年末には音楽評論サイトのIZMが「2021年K-POP Song of the Year」の一曲にも選曲。
「OHAYO MY NIGHT」の人気は加速、自然な流れでD-Hack自身もフィーチャーされるようになっていった。
「僕の歌をたくさん聴いて、楽しんでいただいて、とてもうれしいです。多彩なジャンルの方々ともたくさん知り合うようになり、韓国と日本の友達にとって、カッコ良い友達になれました。 両親にとっても、頼もしく誇らしい息子になれたようです」
■楽曲に何かしらのエッセンスを加えるほど、筋金入りの日本ツウ
「OHAYO MY NIGHT」は、耳なじみの良いシンプルなメロディと、D-Hackの個性的な声、そして、本人の経験をもとにしたストレートな愛を歌う歌詞が魅力だ。
“家族になってくれ/僕の家になってくれ”“僕を愛していないなら/僕の愛の半分を受け取って”と、猛アプローチするもどこか切なく、“少しだけ人工呼吸をしてよ/なんだかうまく呼吸ができなくて”“部屋の天井に描いてみた僕の宇宙に聞いた”と、リアルが伝わる歌詞も面白い。
この少し不器用で率直な告白ソングは、中高生から大人世代まで男女問わず多くの共感を呼び、カラオケチャートでも上位圏をキープしている。
ところで、「OHAYO MY NIGHT」の曲名からもわかるように、“OHAYO”は日本語の“おはよう”で、“大阪や沖縄の海”という歌詞も登場する。
実は、彼の楽曲のほとんどに日本に関する内容が盛り込まれ、実際に日本で撮影されたMVや、日本のラッパーを迎えた作品もある。
子供の頃から“日本オタク”で、日本留学などの経験が無いにもかかわらず、筋金入りの日本ツウだ。
「幼い頃にテレビでポケモンやデジモンなどをよく観ていたことが、日本カルチャーを好きになるきっかけでした。漫画だと、手塚治虫さんや松本零士さんの作品を集めていて、漫画やアニメーションに出てくる斬新な表現や想像力に、たくさんの共感とインスピレーションを受けています。ファッションも大好きで、日本へ行くと、友達と必ず原宿へ行きますが、個性が際立っている人たちを見るのが楽しいですね。好きなJ-POPは、X JAPAN、YOASOBI、SEKAI NO OWARI、いきものがかり、藤井 風、ツユ、米津玄師、あいみょん、DISH//、まふまふなどです」
■ヒップホップを聴き始めたのはいじめから逃れるためだった
D-Hackは日本カルチャーのオタクだったうえに体型も太っていたため、中学の頃いじめに遭っていたという。
しかし、ヒップホップ好きの友だちの近くにいるといじめの標的になりにくかったので無理やりヒップホップを聴き始めたところ、自然とヒップホップの魅力にとりつかれ、本格的にハマってく。
高校3年生の頃には、教会の縁で知り合ったMad Clownからラップのレッスンを受け、2016年に初EPをリリース。ヒップホッパーたちの人気バトル番組、『SHOW ME THE MONEY』のシーズン4(2015年)と8(2019年)に出場しながら少しずつ腕を上げ、ついに日の目を浴びるに至った。
今年もすでに複数の楽曲オファーや、ニューアルバムの準備などで大忙しだそうだが、そんな自身のことを、彼は“成功したオタク”と言う。
「好きなことに没頭する人や、好きなことに自信を持って表現する人のことを、“オタク”だと考えます。韓国では、日本カルチャーだけでなく、ひとつのテーマを掘り下げる人を“オタク”と言いますが、僕はヒップホップと日本カルチャーに興味が深い“オタク”で、そんな僕の歌を好む人々が増えていることを実感したので、“成功したオタク”だと思いました」
■日本カルチャーへの愛情を表現し続ける、D-Hackの夢
ちなみに、元GFRIENDメンバー、ウナの大ファンを公言しており、「ウナは億千万」や、ウナの生年月日を曲名にした「GALAXY EXPRESS 970530」という曲を発表しているのも、“オタク”らしいエピソードだ。
現在のK-POP界は、アジアを超えて欧米に目が向いているアーティストがほとんどだ。
しかし、D-Hackは日本に歌を届けようとMVに日本語字幕も乗せ、日本カルチャーへの愛情を表現し続けている。今後の目標を訊ねると、こんな夢を語ってくれた。
「『THE FIRST TAKE』 にも出演したいですし、いつかは武道館でライブをしたいです! また、僕が好きな日本のミュージシャンと音楽作業をしたいですね。そして、いつも感謝しかない日本の友達においしいものをいっぱいご馳走したいです!」