■「僕たちの原因は貴方です。そして僕らも貴方の、そして、もっと多くの人たちの原因になれるように頑張ります」(原因は自分にある。・長野凌大)
YOASOBIのコンポーザーであるAyaseなど、ネット発の人気クリエイターたちと多数コラボを果たし、従来のダンスボーカルユニットの概念を打ち破る新時代の7人組、原因は自分にある。が、東西ワンマンライブ『げんじぶ空間:case.2』の最終公演を、12月30日に東京Zepp Hanedaで開催した。大阪・東京で2日間3公演にわたり行われた今回のライブは、東京以外でのワンマンは今回が初にもかかわらず、全公演がソールドアウト。12月にリリースした2ndアルバム『虚像と実像』のタイトルどおり、ステージ全面に展開する映像効果やリリックの力も借りながら、二次元と三次元の双方に生きる特異な存在感を発揮して2021年を締めくくり、2022年への飛躍を満員のファンの前で誓った。
場内にアラート音が響き、ステージに張り巡らされたLEDパネルが赤く照らされてノイズが走ると、スモークのなかから7人が二階ステージに登場。アルバムの1曲目を飾る「黄昏よりも早く疾走れ」でライブの幕は切って落とされた。ディストーションの利いたギターロックサウンドを背に、雄大な景色を疾走する映像に溶け込むかのごとくアグレッシブに踊る姿は、ピアノロックのイメージが強い彼らにしては珍しいもの。しかし、映像を駆使してバーチャル空間のようなムードを漂わせつつ、突然“僕はここにいる!”と杢代和人が叫んで現実世界に飛び出してくる流れは、まさに二次元と三次元を行き来する彼らならではだろう。モニターに映し出される、青春の光と影を描いたリリックも相まって、思春期真っただ中にある今の彼らだからこその灼けつくような熱情を伝えてくれる。
ピアノロックに哲学的な歌詞といった“らしさ”からあえて離れ、これまでになかった挑戦を多数盛り込んだ『虚像と実像』の楽曲を中心に、以降もあらたな“げんじぶ”を次々にお披露目。ソリッドなギターイントロが印象的な2ndシングル「嗜好に関する世論調査」では、“2択”がテーマの歌詞に沿ってLED画面は白と黒に分割され、7人に順にスポットが当たってシルエットと名前が映し出されるという、なんともオシャレなメンバー紹介も。ジャジーで艶っぽい「J*O*K*E*R」では、バレエ経験者である吉澤要人が他メンバーを操るようなシアトリカルな動きを見せ、ダークな歌詞ながら華やかなネオンをバックに、ショーダンス風の魅せ方で攻める。さらに度肝を抜かれたのが、“失われた青春”をテーマに、7人がポエトリーリーディングで繋ぐ「灼けゆく青」だ。右、左、中央に立方体型のステージが置かれた舞台上で、バラバラな位置についた7人の呟くリリックの文字がモニター上に落ちるが、コロナ禍で学生時代を過ごし、少なからず青春を失った彼らのリアルがシンクロして、その文言を重く響かせる。加えて、スポットライトを使って歌唱&ダンスメンバーをフィーチャーする演出も上手い。
MCでは1月に『多世界解釈』、12月に『虚像と実像』と、今年は2枚のアルバムをリリースしたことで、「非常に曲数が増えました」と吉澤が報告。そして「出てきたときからペンライトの光が綺麗で、やっとZeppツアーという大きなスタートラインに立てたなって改めて思いました。僕たちと一緒に伝説となるようなライブを作っていきましょう」という長野凌大の呼びかけ、テレビ東京系ドラマ『じゃない方の彼女』のエンディングテーマ「豪雨」が続く。禁断の恋を歌うバラードは、その情景が浮かんできそうなほどストレートで、これまた難解な歌詞を歌うことの多い彼らの曲としては新鮮。それだけに、土砂降りの雨を映したモニターの前で披露される歌もダンスもエモーショナルで、小泉光咲が歌いながら歌詞に合わせて水面を撫でるような動きを見せると、ラストは全員で祈りを捧げるようなポーズも。ストーリー性の高いダンスと世界観は「スノウダンス」にも引き継がれたが、7人がそれぞれの役回りを演じることでかなえるドラマ描写力には目を瞠るものがある。
さらに、続く2曲では対照的なパフォーマンススタイルで魅了。今年7月の結成2周年記念日に発表された「以呂波 feat. fox capture plan」は、楽曲が和の雰囲気を持つこともあり、鮮やかな反物が舞うようなイメージの映像に高難度のラップを交えて、現代と古の絶妙なミクスチャーを実現してみせる。また「幽かな夜の夢」では、歌詞のとおり満天の星がきらめく銀河と繊細な歌詞がモニターに。いずれも映像の美しさとリリック映写で、観る者の想像力を刺激しながら、ダンスにおいては皆で動きをシンクロさせる一体感が印象的だった。そしてモニターにノイズが走り、太いダンスビートがバーチャル感を高めると、ストリートカジュアルに着替えた7人はアルバム曲「0to1の幻想」を投下。アンドロイドとの儚い恋という曲テーマらしく、無機質な四つ打ちビートがガンガン打ち鳴らされる中で“Let’s Go!”と場を煽り、まるでダンスフロアのごとく激しく身体を揺らすさまは、ある意味これまでのどの曲よりも“ダンスグループ感”がある。しかし、それが斬新に感じてしまうところに、げんじぶの唯一無二性を再認識させられてしまうのだ。
アグレッシブなオーラの残り香か、大倉空人が常以上にひずんだ声でラップを放つ「嘘から始まる自称系」からは、よりダンサブルなアレンジが施されたメドレーへ。「犬と猫とミルクにシュガー」では舞台上の3つのステージを活かし、様々な組み合わせでパフォーマンス。なかでも、長野、小泉、武藤潤の3人による三角フォーメーションのキレキレなダンスに、大倉&杢代から吉澤&桜木雅哉のラップ、さらに武藤、小泉、長野と歌い繋ぐ流れは実にスリリングで見応えがあった。その後も大倉&杢代ペアから桜木のソロダンスでは犬や猫の鳴き声が入っていたりと、曲を活かした見事なダンストラックアレンジに、彼らの成長を否応なしに実感させられてしまう。基本的にげんじぶの曲はBPMの速いものが多く、必然的にフォーメーションの緻密さや難度もハイレベルだが、結成から3年目を迎え、高速テンポに合わせて動きを揃える精度の高さも飛躍的に上昇している。コロナ禍で満足な活動ができなかったにもかかわらず、ダンスグループとしての着実な進化を見ることができたのは、このライブの大きな成果だろう。
間髪入れずに「柘榴」から、モニター上でミラーボールが回る「In the Nude」を挟み、「半分相逢傘」では“男女の一夜の駆け引き”という、平均年齢17.8歳のグループには過酷なテーマに挑戦。確かに間奏では小泉と女性の会話が流れたり、吉澤が低音イケボで“これでどっちも悪いね”と囁いて“悪い男”を演出するが、楽曲自体は純然たるJポップで、客席のペンライトを軽やかに揺らすというギャップが面白いところ。ストリートファッションブランド「9090」とのコラボ曲ということもあり、一面に映されたグラフィティやカラフルなライトも物語のエグみをカラフルに中和して、今の彼らならではの濃度と切なさで楽しませてくれる。
ここでコズミックなSEにサーチライトが客席を舐めて、今度はブルーの衣装に着替えた7人が「ギミギミラブ」に「ネバーエンドロール」と、曲中でメンバー同士が仲良くじゃれ合うナンバーで客席を色めき立たせることに。「ネバーエンドロール」では吉澤が杢代をおんぶしたり、最後は7人でギュッと固まって肩を組むのを見ると、やはり年齢相応の愛らしさを感じて、なんだかホッと安心してしまう。洒落たサウンドの中に夏の終わりの熱と寂しさを漂わせた「夜夏」に、哲学的リリックがモニターに溢れ出すセルフネーム曲「原因は自分にある。」で自身の存在証明を果たすと、最後の曲を前に長野はこう告げた。
「この2年間進んできて、壁にぶつかったり進めないときもあったけれど、そんなとき支えてくれたのは周りのメンバーだったり、何よりも会場に来て、こうして僕たちを待ってくれている貴方でした。僕たちは今日、このZeppのステージから再スタートに立ったつもりで駆け抜けていきます。時には挫けたり、躓いたりするかもしれないけど、そんなときは、また貴方の剣を貸してください。僕たちと、君の曲です」
そうして贈られた「藍色閃光」は、アルバム『虚像と実像』を締めくくる曲であり、現時点の原因は自分にある。の集大成とも言える1曲。これまでの喜びも葛藤も、すべてを赤裸々に表すかのような振り付けに、荘厳な響きの中でのユニゾンボーカルが、7人一体となってのパワーを全開にする。何より“成層圏を貫いて その君の剣で切り裂いて”という歌詞に合わせ、成層圏を突き抜けて星を渡り、青空を白鳥と共に飛翔する映像との強烈なシンクロニシティときたら! 原因は自分にある。を応援するファンに向けてのメッセージとも取れる曲の最後には、“決して消えない光を見るんだ”と歌い終えた瞬間、後ろを向いてLEDモニターの青空を全員で見上げる姿が。消えない光――それは7人とファンとで目指す未来の輝きに違いない。
ジャジーな「Joy to the world」(1部)にダンサブルな「ラベンダー」(2部)と、昼夜公演でタイプの違う、けれど、どちらも笑顔になれる楽曲で始まったアンコールでは、
「リハーサルで体幹トレーニングをするようになった」(小泉)
「おかげで、もうお腹バキバキ!」(大倉)
という裏話も。また、「ラベンダー」は1stシングルの収録曲とのことで、それぞれ当時からずいぶん変わったという話になり、最年長である20歳の武藤が「俺だけじゃない? 何も変わってないの!」と自虐に走る場面もあった。しかし、長野がこれまでの道のりを振り返り、「僕たちの原因は貴方です。そして僕らも貴方の、そして、もっと多くの人たちの原因になれるように頑張ります」と決意を述べて、最後に「時速3km」を歌うと、武藤の目に光るものが。初期からイベント等でも繰り返し歌い続け、ファンとの思い出をゆっくりと積み重ねてきたナンバーの温もりに、きっと感極まるものがあったのだろう。二次元と三次元の狭間にある存在であっても、彼らには間違いなく熱い血と豊かな喜怒哀楽が通っている。
そんな武藤の号令で、最後は7人で手を繋いで一礼。ライブ中に繰り返された「ここからがスタート」という言葉どおり、来年春には初の東名阪Zeppツアーがすでに決定している。青春を賭してあらたなエンターテイメントに挑む彼らの挑戦を、来るべき年もぜひ見守ってゆきたい。
TEXT BY 清水素子
リリース情報
2021.12.08 0N SALE
ALBUM『虚像と実像』
2021.12.15 0N SALE
DIGITAL ALBUM『虚像と実像』 (Instrumental Edition)
原因は自分にある。OFFICIAL SITE
https://genjibu.jp/