■「孤独な人だけに効く毒、悪い冗談のような曲を作っていきたい。俺の今の全部を歌いますから。どう聴いてくれても構わない。何かになりますように、と願うばかりです」
秋山黄色の全国ツアー『NON-REM WALK TOUR』が、12月1日、東京・豊洲PITでファイナルを迎えた。9月25日に4thアルバム『Good Night Mare』をリリースした秋山。今回のツアーではバンド編成で全国10ヵ所をまわり、アルバム収録曲を中心に披露した。
『Good Night Mare』はタイトルどおり悪夢をモチーフにした作品で、楽曲には秋山の死生観が刻まれている。ライブの冒頭では、希望に満ちた物語を朗読する音声がノイズまみれになり、断末魔の叫びが会場に響くなど、悪夢を思わせる演出があった。
しかし、秋山がリスナーに届けたいのは絶望ではない。限られた命、すべての物事はやがて無に帰するという真理への抵抗として、音楽という娯楽に尽くし、爆音を鳴らしては心から笑える時間を創造している。
ツアーで1曲目に演奏されたのは「SCRAP BOOOO」。不穏な空気を断ち切るギターカッティングをきっかけにライブはスタートし、まずはアッパーチューンが矢継ぎ早に演奏された。バンドがリアルタイムで鳴らす肉体的な音像に、デスクトップ上の遊びと実験の産物である同期の音を掛け合わせることで立ち上がる刺激的なサウンド。フロアは興奮の坩堝と化す。
今使っているイヤモニは今日届いたばかりのもので、耳を完全に塞がなくて済むのだと語る秋山は「人生のなかでいちばん面白いのは観客の歓声を聴くこと」と断言。
豊洲PITでのイベントに出演したことはあるがワンマンは初めてということで、MCでは、観客でいっぱいのフロアを視界に収めながら、「想像以上に感無量でございます。ありがとね」と伝えた。全身全霊で歌い、ギターを弾きまくる秋山は、観客に対して、自由に楽しんでほしい、もっともっと楽しんでほしいと訴え続ける。
一方、ライブ中に出る「やろうぜ」「歌おうぜ」「笑おうぜ」といった言葉は、自分に向かって言っている節もあるという。必要以上に明るく振る舞ってみたり、周りの人と比べて「なんで自分はうまくできないんだろう」と思うこともあったりする――。そんな等身大の告白に共感を覚えた人も多かったはずだ。
「そういう気持ちを必要以上に塗りつぶさず、持ち合わせられたら強いんじゃないかと思います」
過去作からの「夢の礫」「日々よ」はそんな言葉とともに届けられ、『Good Night Mare』収録のバラード「SKETCH」にも同様の想いが込められた。魂の歌だ。自分の弱さを嫌になるほど見つめ、挫けそうになる心を思いやりに変え、他者に手を差し伸べられる人は強い。
2年半に及んだ『Good Night Mare』の制作、そしてこのツアーを境に秋山の歌の質、説得力は明らかに変わった。
「ナイトダンサー」で“涙の数を世界がずっと見ないフリしている”と歌ったあとの「俺の音楽だけは絶対に見てるから!」という言葉、「負け負けの負け」で特大のシンガロングを受け取ったあとの「世界一のファンだ!」という言葉も、聴く人の元もとへすごいスピードで飛んでいく。フロアには拳を上げて受け取ったぞと伝える人や、グッと立ち尽くし言葉を噛み締めている人がいる。
本編ラストのMCでは、秋山の死生観が改めて語られた。いわく、14歳の頃に、人生は“約80年で集めたすべてを手放して死んでゆけ”という設計だと気づいて以来、「全部消えるなら意味ないじゃないか」という諦観とともに生きていると。
その考えでいくと「じゃあ俺は何のためにギターうまくなった?」「何のために曲を書いている?」「どうして日々やさしくできる?」という話になるが、最近は「意味を集めることが俺にとっての抵抗なんだ」と思っていると。今ここにいる人も、ライブが自分にとって意味があるから来ているはずだと。意味を集めた先でどうなるかはまだわからないが、逆転の余地が残されているということが自分にとっては希望なのだと。
「孤独な人だけに効く毒、悪い冗談のような曲を作っていきたい。手を抜かず笑っていきたいよ。俺の今の全部を歌いますから。どう聴いてくれても構わない。何かになりますように、と願うばかりです」
ラストナンバー「生まれてよかったと思うこと」には、そんな想いが託された。秋山は歌のない箇所で鍵盤を無規律に鳴らし、不協和音が生まれていく。清廉なサウンドのなかに生じる歪み。神のシナリオに抗おうという人間的な営み。生命力の充満するライブハウス。ここで燃え尽きても構わないという刹那的な生き方ではない。自分や目の前の人の命を未来へ繋ごうという意思を持って全てを注ぎ込み、今この瞬間を輝かせるようなボーカルだ。
この曲を歌い終えたあと、秋山は観客に「俺がいる限り大丈夫。安心してまたライブ来いよ」と伝えていた。『Good Night Mare』と『NON-REM WALK TOUR』を経て、秋山黄色は真のギターヒーローになった。そう実感させられたツアーファイナルだった。
TEXT BY 蜂須賀ちなみ
PHOTO BY Ayumu Kosugi
■『秋山黄色 NON-REM WALK TOUR』
2024年12月1日(日)東京・豊洲PIT
<セットリスト>
01. SCRAP BOOOO
02. ソーイングボックス
03. ソニックムーブ
04. FLICK STREET
05. AYATORI
06. シャッターチャンス
07. PUPA
08. Lonely cocoa
09. 夢の礫
10. 日々よ
11. Caffeine
12. やさぐれカイドー
13. ナイトダンサー
14. SKETCH
15. 負け負けの負け
16. 生まれてよかったと思うこと
[ENCORE]
17. Highway Cabriolet(赤い公園カバー)
18. 吾輩はクソ猫である
秋山黄色 OFFICIAL SITE
https://www.akiyamakiro.com/