■プライベートでも親交の深いというkrageとAnonymouz
krageとAnonymouzによるツーマンライブ『deep ocean』が11月3日(日)に東京・青山月見ル君想フで開催された。
11月3日は「世界クラゲデー」に登録されており、アーティスト名に合わせてこの日を『krageの日』に定めたkrage。昨年は初の配信ライブを開催したが、今年は『deep ocean』と題し、ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)の50周年を記念したAnoymouzとのツーマンライブを開催。krageとAnonymouzは同事務所に所属する同世代のシンガーソングライターであり、マルチリンガルであるという点でも共通しているが、krage曰く「夜に聴きたくなる曲が多い」という部分でも互いにわかりあうものがあったのだろう。この日は、プライベートでも親交の深いというふたりに加え、それぞれがSMAの先輩であるmiidaのマスダミズキ(ex.ねごと)と岡本啓佑(ex.黒猫チェルシー)をゲストに迎え、デュオ編成による一夜限りの特別な競演が繰り広げられた。
■歌い出した瞬間に、観客は一気に満月が浮かぶ夜の海へと誘われていくAnonymouzの世界観
先陣を切ったAnonymouzは、エレキギター&コーラスのマスダミズキとともにステージに上がり、水の中のような青白いライトに照らされる中で、澤野弘之プロデュースの「Silhouette」でライブをスタートさせた。彼女が“冷たい夜の海/浮かぶ船に1人”と歌い出した瞬間に、観客は一気に満月が浮かぶ夜の海へと誘われていく。パワフルにダイナミックに展開していく楽曲を歌い終えた彼女は、「皆さん、deep oceanへようこそ」と挨拶すると、ギターのカッティングが印象的な「夜行性Remix」では、観客は湖面にたゆたう船上にいるかのように自然と体を揺らし始め、ローファイヒップホップ「シガレット」ではマスダミズキとのガールズトークのような軽快なマイクリレーによってフロアを心地よいグルーヴで包み込んだ。
「今日はテーマもはっきりしているので、海の底から皆さんに届くように歌っていきたい。素敵な夜にしたいなと思って準備してきました」と観客に語りかけたあと、TVアニメ『デリコズ・ナーサリー』のエンディングテーマとして書き下ろした新曲「Prayer」を初披露。光と影が交差するゴシックでスプーキーな音像を作り上げた彼女は、「潜在的最愛」ではクールなエレクトロスイングのビートに乗せて“最愛!”とシャウト。続く、「あらいざらい」はミズキのエレキギターによる伴奏のみでパフォーマンスし、ボーカリストとしてのポテンシャルをしっかりと見せつけ、そのままkrageの新曲で、息継ぎするたびに溺れてくさまを描いた「suisou」をカバー。観客からはサプライズのようなカバーに大きな歓声と拍手が上がった。そして、揺らぐギターに呼応する歌声が幻想的な音像を作る「Oxygen」へ。英語の歌詞がメインの中で浮かび上がる“海の中/奥底で/あなただけ求め手を伸ばす”というフレーズが“deep ocean”というテーマのライブならではの響きを湛えて観客の胸に届いた。
ここで、krageとの出会いについて「krageちゃんがまだショートヘアーだった2年前。『初めてのライブだ』って聞いてたから、私だったら緊張しちゃうなと思ったけど、すごい肝の座り方をしてる方でカッコいいなと思ったのがいちばん最初の記憶です」と振り返った。さらに、この日の楽屋で“でっくしょん”という大きなくしゃみをしていたことを明かし、「滑舌もいいし、声も低いし、自分の軸をしっかり持ってるけど、めちゃくちゃ可愛い人なんです。友達としても大好き」と語り、「ふたりとも海や湖にルーツがあって、すごくホームな気持ちで今日は歌えてます」と思いを述べた。そして、日テレ系ドラマ『3年C組は不倫してます。』の主題歌で禁断の愛をテーマにした「ふたりじめ」では狂おしいほどの愛の奔流を表現すると、ダンスビートのR&Bポップ「Hide & Seek」でステージを歩きながらフロアの熱気を少しずつ上げていき、チャーミングな歌声や早口ラップを盛り込んだ平成レトロポップ「なにする?」では観客とのコール&レスポンスが実現。音楽の楽しさと笑顔が広がる中で、最新の Jersey Clubのビートを導入した「JAM」でクラップを誘発し、“今夜が終わっても/またいつか会えるでしょう?”というフレーズで締めくくった。
■出だしから、言語だけでなく、ジャンルや歌唱法とすべての要素においてkrageのミクスチャー感覚が発揮されたパフォーマンス
続く、krageは冒頭にヴォーカルマイクの音が出ないというトラブルに見舞われたがすぐに立て直し「Vanity」を歌い始めた。本人にとっては災難だったろうが、Anonymouzが直前のMCで話していた“肝が座ってる”ことが早速、証明された場面だった。岡本啓佑の強靭なドラムに負けない歌声のパワーを発揮した彼女は、日本語、中国語、英語の歌詞が交錯するラウドなヘヴィーロック「Xu」で観客一人ひとりと目を合わせるかのように歌唱。ラップのようなフロウもある歌声にはオートチューンがかけられており、言語だけでなく、ジャンルや歌唱法とすべての要素において彼女のミクスチャー感覚が発揮されたパフォーマンスとなっていた。
最初のMCでは、「さっきはAnoちゃんが後ろのスクリーンに映っている月のように音で皆さんを照らしてくれたと思うんですが、私は逆に、海のように音で皆さんの気持ちを包み込むような音楽を届けていきたいと思います」と挨拶。ビートの効いたバラード「drown」では胸に手を置き、目を閉じながら、しなやかな歌声で“流されてゆく波に揺られて”というフレーズを届けると、海の底へと沈んでいくような泡のSEが広がり、「これからもっともっと深い水の中へ」という言葉のあと、新曲のロックバラード「suisou」へ。この世界という冷たい水槽の中で孤独や疎外感、空虚さや生きづらさを感じてる人に向けたメッセージソングをまっすぐに観客に届けた彼女は、「最後まで見逃さないでください」と呼びかけ、ダークなムードの未発表曲からTK(凛として時雨)プロデュースの「request」と劇的な展開を見せるロックナンバーを続けて、弱さや絶望を打ち破る、魂の叫にも似たエモーショナルな歌声で観客の耳と心を鷲掴みにした。
「皆さんを音で包み込みたいと言いましたが、だいぶ激しめの波で包んでしまったんですけど」と苦笑いを見せた彼女は、「ここからは優しく包み込みたいと思います」と語り、冬を思わせるピアノバラード「Answer」から、中華ファンタジーアニメ『天官賜福 貮』のエンディングテーマでスナップや電子ビートも交えたR&Bバラード「春想」、アニメ『後宮の烏』のエンディングテーマで壮大なサウンドスケープを描く「夏の雪」と、季節もジャンルもトーンも異なる3色のバラードを様々な表現方法を用いながら、心を込めてじっくりと歌い上げると、「ありがとうございました」と柔らかな笑顔を見せてステージを降りた。
■最後はSMAの先輩iriの「Wonderland」を歌唱し、ふたりでしかなし得ないグルーヴを紡いでいく
アンコールでは、4人がステージに勢揃いし、「この日しかない見れない特別なコラボ」が展開された。Anonymouz「River」ではkrageが迫力のあるロートーンを響かせると、Anonymouzがファルセットでコーラスを重ね、イントロで歓声が上がったkrage「東京Longing」はAnonymouzが先頭に立って心地よいグルーブを牽引し、二人で美しいハーモニーも響かせた。この日のそれぞれのライブでは、Anonymouzがポップなビートメイカーで、krageがロックバラードという印象だった。「River」が激しいロックバラードで、「東京Longing」が90’s R&Bマナーのローファイヒップホップという選曲は、まるでオリジナルがあべこべになったようで、なんとも不思議な感覚に陥ったが、やはり共通項が多いという証左でもあるだろう。歌い終えたAnonymouzは「krageちゃんのワンマンライブでこの曲を聴いて、私、泣いちゃったんです。東京を表してますね」と告白。ともに上京組であるふたりは、長野県出身のAnonymouzが「東京の冬は、気温と関係なく、地元より冷たい」と話すと、北海道出身のkrageは「ちょっとわかる」と同意。最後に「SMAの50周年をお祝いして、最後に意外な先輩の曲を演奏しようかなと思います」と語り、iri「Wonderland」をカバー。1番ではkrageがメロディを歌い、Anonymouzがラップし、2番では歌割りを交換。このふたりでしかなし得ないグルーヴを紡いでいくと、観客は総立ちでクラップしながら体を揺らしてダンス。ふたりが向き合って“誰だって悩んで僕らはまた”と声を重ねると大きな拍手を歓声が上がり、「ハッピークラゲデイ!」という言葉とともに、夜の海が似合うふたりによるライブイベントはフレンドリーな雰囲気の中で大団円を迎えた。
TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY Sony Music Artists
SMA50th Anniversary presents「deep ocean」
krage×Anonymouz
11月3日 青山月見ル君想フ
セットリスト
Anonymouz
1.Silhouette
2.夜行性 (100回嘔吐Remix) feat. 和ぬか
3.シガレット feat. xea
4.Prayer
5.潜在的最愛
6.あらいざらい feat. 春野(Acoustic ver)
7.suisou(Acoustic ver)※krage曲カバー
8.Oxygen
9.ふたりじめ
10.Hide & Seek
11.なにする? feat. はしメロ
12.JAM
krage
1.Vanity
2.Xu
3.drown
4.suisou
5.未発表曲
6.request
7.Answer
8.春想
9.夏の雪
krage×Anonymouz
EN1.River/Anonymouz
EN2.東京Longing/krage
EN3.Wonderland/iri
Sony Music Artists 50th Anniversary 特設サイト
https://www.sma.co.jp/s/sma/page/50th?ima=0000#top