20歳という節目の年にリリースされた前作「I」から1年9ヵ月。足立佳奈の3枚目となるアルバム『あなたがいて』が完成した。ここには自分のそばにいる大切な人たちだけでなく、これまで自分の人生に関わってきたいろんな人たちとのエピソードにスポットが当てられ、楽しかったこともつらかったことも、ありのままの言葉で綴られた楽曲が収められている。シンガーとしての表現力やソングライターとしての個性、そして音を作る人間としての喜び。デビューから5年目に突入し、22歳になった彼女の今を力むことなく落とし込んだ作品だ。
INTERVIEW & TEXT BY 山田邦子
PHOTO BY 大橋祐希
■“あなた”っていう一人ひとりの存在があって今の自分がいる
──3rdアルバム『あなたがいて』が完成しました。制作はどうでしたか?
(時間やスケジュールに)追われてるなというのはあったんですが(笑)、「作らなきゃ」じゃなく、「作りたい!作りたい!」という気持ちで完成させることができました。今回はハマ(・オカモト)さんや(澤村)一平さん、(渡辺)シュンスケさんやMichael(Kaneko)さんなど、私がリスペクトしているアーティストの皆さんと作り上げた楽曲もあるんですが、「俺はこう思うけど、佳奈ちゃんはどう思う?」って尋ねてくれるキャッチボールがうれしくて。これまではスケジュールの都合もあってなかなか楽器のレコーディングに立ち会うことができなかったんですが、今回はサウンド作りの部分から携わることができたので、その分、完成したときの喜びも大きかったですね。
──前作「I」は、20歳を迎える頃に制作されていたんですよね。
はい。大人になるってどういうことなんだろうっていう不安とか、まだこのままでいたいなって思う葛藤とか、まさにタイトルにもある通り「自分、自分」っていう気持ちが前に出ていたなと思います。常に闘っていたんだなっていう歌詞も多く、今思えば頑張ってる感じがすごくあるというか。今回のアルバムが完成する前に改めて聴き返していたんですが、頑張ってるのもいいけど、もうちょっと落ち着いて呼吸するのもいいかなって思ったんですよね。
──今作の1曲目「なんかさ」には、そんな空気が反映されているようにも思えてきますね。
そういうこともあって、“泣いて笑って”、“忙しい日々で”、“忙しい人生で”っていう歌詞になっていったんです。あれはいちばん最後に作った曲なんですが、すごくアルバムの1曲目にふさわしいものになったなと感じたし、実はこの言葉、アルバムのタイトルにしようかなと思っていたくらいなんですよね。
──そこから『あなたがいて』というタイトルに決まったのは、どんな経緯があったんですか?
アルバムを作りましょうっていう頃だったと思うんですが、スタッフさんから、「最近ちょっとものの見方や捉え方が変わってきたよね」って言われたんです。今までは「私が、私が」だったけど、最近は「あの人がね」とか、「この人と出会えて、最近こういうことを思ったんですよ」とか、そういうエピソードをよく口にしていたみたいで。たぶんコロナ禍で自分に時間ができて、例えば“あぁ、あのときあの人と出会えてよかったな”ってところまで考えるようになったり、その人の尊さとか大切さに気付けたりしたからかなって思うんですけど。もっと言うと生まれたときから今日まで、自分と関わってくれた人たち、出会った人たち、つまり“あなた”っていう一人ひとりの存在があって今の自分がいるから、そういういろんな“あなた”とのエピソードを曲にしたら面白いんじゃないかというところからアルバムを作り始めたんです。“あなた”に話しかけるように一曲一曲を伝えていこうと思っていたから「なんかさ」でもいいかなと思ったけど、それだといちばん伝えたい“あなた”という、その曲の先にいる人が見えづらい。だからこの、『あなたがいて』にしたんです。
──『あなたが“いて”』というところもポイントなんでしょうね。
つらいこともうれしいことも全部、相手となる人たちがいてこそだと思うんです。前作『I』からの『YOU』という言葉も考えはしたんですが、もっとあたたかみが欲しかったというか、その関係性を表現するにあたって感謝の気持ちを込めたタイトルにしたいなと思ったんですよね。全部の曲にそれぞれの感情があるんですが、“あなたがいて”幸せよ、“あなたがいて”寂しいの、“あなたがいて”悔しいの、みたいな感じで伝わったらいいなと思って。
──なるほど。では魅力的な主人公が登場する、それぞれの楽曲について伺っていこうと思います。まず「Film」は、実際のルームメイトとのエピソードが描かれているそうですね。
毎日一緒にいるのにこんなにも「ありがとう」と思えたり、離れたら絶対に寂しいって言い切れちゃうほどの人に出会えて、本当に幸せだなっていう素直な気持ちを込めました。この曲が出来たとき、彼女が「本当にありがとう」って言いながら、アンサーソングというか、気持ちを歌で返してくれたんですよ。私も佳奈のことをこう思ってるよって。その夜はふたりで泣いたことをすごく覚えてます(笑)。
■「2歳の記憶」と「ライオンの居場所」は家族の曲
──素敵な関係性ですね。「2歳の記憶」は家族の話ですか?
「2歳の記憶」と「ライオンの居場所」は家族の曲になります。それぞれ、お父さんとお母さんに歌っているんです。まず「2歳の記憶」ですが、今年に入って古舘(佑太郎)さんのライブに行かせていただいたんですね。熱量がすごいというか、こんなにも生き様が歌に出ている人は本当に素敵だなってとても刺激を受けたんですが、そのときに小さい頃の記憶の話をされていて。ライブの帰り道で自分自身の記憶を遡ってみたところ、そういえばお父さんとのあの2歳のときのことをすごく覚えているなと思って書き始めた曲なんです。この曲は、私にとってすごく大切な曲。ネガティブな気持ちというよりもすごくあたたまる歌だなと思っているし、「Film」と同じように、リアルな私の思いが綴られています。この曲でみなさんに何か伝えられるものがあったらうれしいし、共感してくださる方がいたらそれもうれしいなって思っています。
──「ライオンの居場所」はどんなきっかけだったんですか?
家族で動物園に行ったときにライオンを見て、自分と似ているなって思ったんです。私は東京という場所でお仕事をしていますが、家族がいる岐阜に帰ったら、なんでも受け入れてもらって、ご飯も出て来て(笑)、甘えた自分でいられるんです。ライオンも、きっと野生だったらすごく厳しい世界で生きているはずなんだけど、動物園という場所にいたらご飯も絶対に出てくるし、それこそ病気にかかれば支えてくれる人もいる。“弱肉強食の日々から離れてみれば 何もしなくてもココでは私が王様”という歌詞があるんですが、なんだか似てるって思ったんですよね。足立家の家族のあたたかさが、この楽曲を聴いて、歌詞を読んでもらえればわかるかなと思います。
■今回初めて自分の素を出している
──これまで、家族を題材にした曲は?
ラブソングにも捉えられるような感じでお母さんへ“ごめんね”の気持ちを歌ったものはありましたが、これは家族の曲ですって言ったことはなかったと思います。今回初めてここまで自分の素を出しているというか、作品としてもそういう姿を見せられたのは新しい自分の扉になったかなと思いますね。
──もちろんどの曲も自分の素直な気持ちがベースにあると思いますが、家族に向けた思いなどは特に、どこまで書くかというのも迷うところかなと思うのですが。
私は逆に、全部を見せたいなと思っているんです。ラインを引くってすごく難しいと思いますし、それによって、言い方は悪いですが薄っぺらくなってしまうこともあると思うから。それぞれの家族の形があるし、そこにはそれぞれのエピソードがあると思うんですが、例えば映画とかで自分とは違う家族の話を見て何かしら感じるものがあったりしますよね。だから私も恥ずかしがることなく、隠すこともせず、ちゃんと自分とも家族とも向き合って、思い出とも向き合って、聴いてくれるみんなとも向き合いたいなという気持ちでいますね。
──お聴きになった方から、どんな反応が返ってくるかは気になりますか?
ちょっと気になりますね。“佳奈ちゃんって、家族にこんなことしてもらってるんだ”って思われたらちょっと恥ずかしい気もするけど(笑)、クスって笑ってもらっても全然いいです。受け取り方はみんなに任せます(笑)。
■「本当に幸せ!」って心から言えるようなラブソング
──(笑)。では、今作のリード曲になっている「This is a Love Story」はどうですか?
私が今までリリースしてきた曲は、割と失恋だったり、恋愛でちょっと傷ついた人に寄り添えるようなものをと思って作ったものも多かったから、「本当に幸せ!」って心から言えるようなラブソングを作ってみようと思ったのがきっかけです。大好きなディズニーの作品を見て感じる幸せや、今までの恋愛から感じたことなど、理想と現実がぐるぐる入っているような曲。タイプは違うふたりだけどいつもキャッキャしていて、すごく幸せそうで「私の人生、本当に最高」って言ってる友達の姿なんかも思いながら出来上がった曲です。
──同じ恋愛でも、「まちぼうけ」は胸が苦しくなるようなシチュエーションですね。
作っているときもそうだったし、歌っているときも、すごく苦しくなる曲だなって思う曲です。でも、こういう思いをしている人ってたくさんいるんじゃないかなって思うんですよ。友達とみんなで失恋の話をしていても、ふたりにしかわからない理由があったり、ふたりが良ければそれでいいのかもねってことなんかを耳にしたりして、そうだなあって。みんなの意見を聞きながら、プラス自分の恋愛観も含めながら作っていきました。いろんな人に寄り添うっていう大きな意味で見たときに、こういう曲があってもいいんじゃないかなって思うんですよね。歌詞だけでなく何事に対してもそうなんですが、繕いすぎると無理が出てくるじゃないですか。だから私は、素直に全部を吐き出せる人でありたいなって思っているんです。より人間らしくいたいなって。
──その真っ直ぐな思いは、この曲の歌声にもにじみ出ていますね。ボーカルの熱量がすごいなと感じました。
そこもこだわりました。友達のリアルと自分のリアルをぶつけ合わせて作った曲なので、声もしっかり届けたい、ちゃんと歌を届けたいというのがあってレコーディングに臨んだので。
──「ロードムービー」はアレンジも歌声も軽やかな感じで、また違った魅力が溢れています。
アレンジをしてくださった中村泰輔さんは、デビューシングルの「ココロハレテ」からずっとお世話になっているんですが、いつも私自身のことをわかってくださった上で作曲や編曲をしてくださっていて。今回久々にレコーディングでお会いできてうれしかったです。
──Carlos K.さんを含め、チームとしてもますます環境が整ってきているようですね。ちなみにアレンジの面で言うと、先ほどお話に出た「2歳の記憶」のトイピアノも素敵でした。あれは佳奈さんが曲を作った時点でのイメージだったんですか?
アレンジをしてくださった、(渡辺)シュンスケさんのアイデアでした。もともと私が家でピアノの弾き語りで録ったものを送って、より良くするためのアドバイスをいただいたりしていたんですが、小さい頃の思い出を歌っているからこそ、タイムスリップするような感覚を表現するためにトイピアノが入っていたら面白いんじゃないって。子供から見たお父さんへの気持ち、大人になった今のお父さんに対する気持ちなどが行き来する感じが出せたかなと思います。この曲は、シュンスケさんと“せーの”で録りました。
■今の、22歳の足立が形にできたかなって思います
──「なんかさ」と「雨の日は」の2曲は、佳奈さん自身がプログラミングされたんですね。
はい。今回はいろんな方とタッグを組ませていただくことでよりいい楽曲になるという面も存分に出せたと思ったので、逆にもっと素朴な、自分の呟きのような歌を自分で作って歌ってみるのもアリかなと思って。自分が思い描いている素直な音にしたかったので、初めておうちで自分で作りました。スキルとしてはまだまだな部分もありますが、今の、22歳の足立が形にできたかなって思います。
──改めてになりますが、今作を作り終えた今どんな気持ちや手応えが残っていますか?
新しい発見もあったし、やっぱり音楽している人ってかっこいいな、音楽ができるって幸せだなって感じたりしています。さっき会話のキャッチボールの話をしましたが、ハマ(・オカモト)さんと澤村(一平)さんがアレンジしてくださった「ライオンの居場所」を作るにあたって、夜中12時を回ってもみんなでああでもない、こうでもないってビデオ通話で話したりしながらレコーディングに臨んだりしたんですよ。そういう経験も、本当にうれしかったんです。また、今回いろんな方とのレコーディングに立ち会ってみて思ったのは、その時点ですでにライブみたいでカッコ良かったから、実際のライブで超えるにはどうしたらいいんだろうっていう不安とワクワクで(笑)。
──うれしい課題ですね(笑)。
(笑)。来年はこのアルバムを引っ提げてツアーができたらいいなと思っているので、そのときはぜひ盤とライブの違いなんかも感じてもらえたらうれしいなと思います。私がいろんな“あなた”を思いながらこのアルバムを作ったように、聴いてくださって皆さんにとっての“あなた”や大切な人を思い浮かべながら、泣いてもいいし、笑ってもいいし、ボーッとしながらでもいいので、ぜひいっぱい聴いてほしいんですよね。そしてこのアルバムが、皆さんの日常の中にひとつ咲く花のようなものになればうれしいなと思っています。
プロフィール
足立佳奈
アダチカナ/岐阜県海津市出身のシンガーソングライター。2014年、LINE×SONY MUSICオーディションで12万5094人の中からグランプリを獲得し、2017年8月メジャーデビュー。Twitter・Instagram・TikTokなどのSNSフォロワーが計130万を超えるなど若者から幅広い支持を得ている。2020年2月12日には2ndアルバム『I』をリリース。2021年8月にはデビュー4周年を迎え、10月には足立佳奈22歳のバースデーイベント「ADACHI KANA BIRTHDAY PARTY 2021」を開催した。
リリース情報
2021.11.24 ON SALE
ALBUM『あなたがいて』
足立佳奈 OFFICIAL SITE
https://www.adachikana.com