TEXT BY 荒金良介
■溢れるクリエイティヴィティを出し惜しみなく発表
MAN WITH A MISSIONが前作『Chasing the Horizon』以来、約3年半ぶりになるニュー・アルバム『Break and Cross the Walls 1』(*1は正しくはローマ数字の1)を完成させた。頭はオオカミ、身体は人間という究極の生命体5匹からなるロック・バンドは、今年活動11年目を迎えてなお、バイタリティ溢れる行動力で我々を驚かてくれる。名は体を表すように、まさに様々なミッションを潜り抜け、進化を遂げてきた“最強のロック・バンド”という看板に異論を挟む人はいないだろう。
そして、本作は当初2枚組作品を構想していたようだが、長引くコロナ禍の影響を受けたことで、ファンに少しでも早く作品を届けたいという意志のもと、急遽2作品連続リリースという形式に切り替えた。その第一弾作にあたるのが本作で、第二弾の『Break and Cross the Walls 2』(*2は正しくはローマ数字の2)は来春にリリースされるという。どちらにせよ、期間をそれほど設けずに2枚のフル・アルバムをリリースするのはある意味大きな賭けと言っていい。
かつてガンズ&ローゼズが『USE YOUR ILLUSION 1』(*1は正しくはローマ数字の1)、『USE YOUR ILLUSION 2』(*2は正しくはローマ数字の2)と2枚のフル・アルバムを1991年9月16日に同時発売。また、スマッシング・パンプキンズが2枚組仕様の3rdアルバム『Mellon Collie and the Infinite Sadness』(邦題:メランコリーそして終りのない悲しみ)を1995年10月24日に発表し、いずれもモンスター・ヒットを記録した。マンウィズもこうした90’Sロック名盤がやってのけた型破りな発想を参照にしているのは想像に難くない。
ツッコんで言うならば、収録曲はふるいにかけたほうが作品の質自体は上がるだろう。しかし、そんな当たり前の方程式を転覆させ、溢れるクリエイティヴィティを出し惜しみなく発表したほうが面白いし、ファンもきっと喜ぶに違いない。今回の2作品連続リリースという大胆な行動からは、“オオカミが素性を曝け出した”と言っても過言ではないほどの覚悟を感じるのだ。どんなタイプの楽曲を聴かせても、マンウィズ印が押されたサウンドになるし、リスナーを絶対にガッカリさせない。そんな強固な自信さえも透けて見えてくる。
本作を聴いて、その思いは確信に変わった。全14曲中7曲が大型タイアップ付きの既発曲に加え、新曲7曲という内容になっている。様々なタイプの楽曲が用意されているものの、とっ散らかった印象を与えない。既発曲についてもほぼ2020〜2021年に発表されたものばかり、つまりコロナ禍に出た楽曲が多いために歌詞のメッセージ性においても一貫した軸があるのだ。
■照れも恥ずかしさも取っ払った瑞々しい勢いを突きつける
冒頭を飾る「yoake」は本作を象徴するナンバーで、今の時代性とも完全にリンクした歌詞になっている。“我らの夜明けは今”と歌い上げ、さらに“新世界では一つに/今日 我らは一つに/今 我らは一つになる”と祈りにも似た歌詞が随所に散見される。ほかに“さぁここからまた始まる”(「Merry-Go-Round」)、“新たな始まりの鼓動が聞こえる”(「Change the World」)と必要に訴えている。昨年から音楽シーンのみならず、社会や人間同士が分断を余儀なくされ、いろんな意味で従来の思考をリセットせざるを得ない場面に多く出くわした。その経験をバネにさらに光溢れる新世界を創造し、これまで以上に一人ひとりが強く手を結ぶ契機にするべきなのだ。そうしたポジティヴなエネルギーが本作には横溢している。
話は少し戻るが、壮大なオープニング曲「yoake」を経て、AC/DCの「Thunderstruck」のカヴァーを2曲目に配置する流れには仰天した。この曲は1990年9月21に出た『THE RAZORS EDGE』に収録され、ブリティッシュ・ロックの雄・サンダーがライヴの登場SEに使用するなど、多くのハード・ロック/ヘヴィ・メタル・ファンに認知されている楽曲だ。ここでは原曲が持つ力強いリフやロック魂を継承しつつ、ラップやスクラッチを施し、マンウィズ流の現代解釈でアップデートさせている。この攻めた曲順に序盤からアガってしまった。また、「クラクション・マーク」は楽器陣のみで演奏したパンキッシュな楽曲で、これにも新鮮な驚きを覚えた。余分な要素を削ぎ落とした初期衝動全開の一曲となっており、照れも恥ずかしさも取っ払った瑞々しい勢いを突きつける。
■マンウィズの音楽を形成した90’Sロックに対する敬意
さらに、ラスト曲「Anonymous」はジョン・ケン・ジョニーの独白めいた歌詞が胸に迫ってくる。オオカミらしからぬ私的な内容で、ほかの楽曲とも一線を画している。アコギを用いた静謐な曲調により、“あなたが残したその光は/永遠の灯となるのさ”と切実に歌い上げている。“Anonymous”とは匿名、作者不明、名もなきという意がある。“名もなき僕らが 駆け抜けた物語”の歌詞の底流には、マンウィズの音楽を形成した90’Sロックに対する敬意が感じられる。幼い頃に憧れた対象がいつしか夢や希望となり、それらの光なくして、名もなき自分たちもここまで駆け抜けることはできなかった。そのような赤裸々な歌詞で締め括る本作は、間違いなくマンウィズが新たなフェーズに突入したことを知らせる傑作に仕上がっている。早くも『Break and Cross the Walls 2』が楽しみで仕方がない。
リリース情報
2021.11.24 ON SALE
ALBUM『Break and Cross the Walls 1』
ライブ情報
MAN WITH A MISSION Presents「Merry-Go-Round Tour 2021」
https://www.mwamjapan.info/contents/live/mwamtour
MAN WITH A MISSION OFFICIAL SITE
https://www.mwamjapan.info