TEXT BY 森朋之
■シンガーとしての豊かな魅力が響く、2021年の中島美嘉の「雪の華」
中島美嘉が『THE FIRST TAKE』に初登場を果たした。披露された楽曲は「雪の華」。自他ともに認める代表曲であり、ウインターバラードの定番として広く知られている名曲だ。
2001年に自らも出演したドラマ『傷だらけのラブソング』の主題歌「STARS」でデビューし、「WILL」「愛してる」などのヒットシングルを次々と送り出した中島美嘉は、瞬く間にトップシンガーとしての座を手に入れた。デビュー当初から、R&B、ロック、ジャズ、エレクトロなど多彩な楽曲を発表してきたが、彼女の美しさと憂いを帯びた声の魅力が最も発揮されるのは、やはりバラード。2003年リリースの「雪の華」は、“バラードシンガー・中島美嘉”のイメージを決定づけた曲だと言っていい。
作詞をSatomi(RUI「月のしずく」、Kinki Kids「Anniversary」など)、作曲を松本良喜(安室奈美恵「ALL FOR YOU」、w-inds.「十六夜の月」など)が手がけたこの曲は、初雪が降る情景を切なくも美しいメロディとともに綴ったナンバー。大切な人と一緒にいられることの幸せ、“いつか失ってしまうかもしれない”という悲しい予感をリリカルに綴り、彼女のコンサートでも欠かすことができない人気曲である。徳永英明、中森明菜、藤井フミヤ、パク・ヒョシン、エリック・マーティンなど国内外のアーティストにカバーされたことも、この楽曲の豊かな魅力を証明している。
今回の『THE FIRST TAKE』では、歌とピアノ、コントラバスによる編成で披露。オーガニックなアレンジは、彼女自身が好むスタイルでもある。
まず聴こえてくるのは、ピアノによるイントロ。祈るように両手を合わせていた中島がスッと目を開け、“のびたかげを舗道にならべ”というラインから、静かに歌を紡ぎ始める。歌詞のひとつひとつを丁寧に手渡すようなボーカルは、曲が進むにつれて感情の濃さを高めていく。サビの“今年、最初の雪の華を”というフレーズにおける、抑えていた気持ちが溢れ出す場面はまさに圧巻。繊細さとダイナミズムを兼ね備えた歌の表現はもちろん、歌詞の情景や心情と重なる表情からも目が離せない。最後のサビに入る直前にミュージシャンと目で合図を送る様子、歌い終わった直後の笑顔からも、『THE FIRST TAKE』ならではの生感が伝わってくる。
映像の中ではひと言も発しなかったが(その潔さもまた、彼女らしい)、このパフォーマンスに対する「緊張しましたけど、今の私の『雪の華』を聴いてもらえたら良いな、と思って歌いました」というコメントも心に残った。そう、今回の『THE FIRST TAKE』は、“2021年の中島美嘉”を音楽ファンに知らしめる機会でもあったのだ。
前述したとおり、華々しいデビューを飾り、シンガーとして着実に羽根を大きく広げてきた彼女だったが、その活動は決して順風満帆ではなく、2010年に耳の不調により活動を休止。半年後に復帰するも、その後も耳の症状は完治せず、不安を抱えながらステージに立つ日々が続いた。当然、その影響はメンタルにも及び、一時は“この先も歌っていけるんだろうか?”と悩むこともあったという。
そんなつらい時期の中でも彼女は歌い続けた。そこで得たのは、“私の役割はメッセンジャー。聴いてくれる人の悲しさ、切なさ、痛みを受け止め、歌として昇華すること”という想いだった。さらに昨年に入り、耳の状態も良くなり、歌うことへの不安や恐怖心も軽減していき、今年行われた全国ツアー『MIKA NAKASHIMA CONCERT TOUR 2021 JOKER』でも、さらに奥深さを増したボーカルを聴かせてくれた。その充実ぶりは、『THE FIRST TAKE』における「雪の華」の歌唱からも感じてもらえるだろう。
10月27日に、「SYMPHONIA」(スマートフォン向けアプリゲーム『takt op. 運命は真紅き旋律の街を』主題歌/TVアニメ『takt op.Destiny』エンディングテーマ)、「知りたいこと、知りたくないこと」(ドラマ『漂着者』挿入歌)をリリース。その後、初のBLUE NOTE TOKYO公演を行うなど、デビュー20周年を迎え、さらに精力的な活動を続けている中島美嘉。今回のパフォーマンスでシンガーとしての豊かな魅力を改めて示した彼女はここから、新たなピークに向かって進むと断言したい。
リリース情報
2021.10.27 ON SALE
SINGLE「SYMPHONIA/知りたいこと、知りたくないこと」
YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』
https://www.youtube.com/channel/UC9zY_E8mcAo_Oq772LEZq8Q
中島美嘉 OFFICIAL SITE
https://www.mikanakashima.com/