■「35年間、ずっとカッコいいよ! 東京スカパラダイスオーケストラ!」(ムロツヨシ)
東京スカパラダイスオーケストラが、デビュー35周年記念特別公演として『東京スカパラダイスオーケストラ×ビルボードクラシックス』を5月25日に河口湖ステラシアターにて開催した。
本公演はスカパラにとって初のフルオーケストラコンサート。指揮・音楽監修を服部隆之が、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団が務め、客演として盟友であるハナレグミと中納良恵(EGO-WRAPPIN’)が出演するという、まさにスカパラのデビュー35周年のアニバーサリーにふさわしい豪華な布陣でのコンサートとなった。
このライブレポートでは“なぜ、ムロツヨシ?”という点と、ムロツヨシがシークレットゲストとして登場したパートにのみフォーカスを当てる。
【ライブレポート】
『東京スカパラダイスオーケストラ×ビルボードクラシックス』という特別な公演に“なぜ、ムロツヨシ?”かというと、話は1ヵ月半ほど前の4月19日に放送されたNHK『あさイチ』まで遡る。スカパラメンバー全員が出演していた『あさイチ』の中で、スカパラに縁のある人々からのインタビュー映像が流されたのだが、そのなかでムロツヨシは次のようにコメントしていた。
「35周年おめでとうございます。35周年という年、ムロはスタンバイできております。数々聞いております。河口湖、甲子園他いろいろ。情報は入ってきております。すべての日、空けてあります。特に河口湖。前の日から河口湖に泊まっております。宿を取っております」
ムロツヨシの発言に対して終始爆笑していたスカパラメンバーであったが、谷中敦(Bs)が「初めて聞きましたけど、ホントですかね?」と言うと、MCの博多大吉は「おそらくだけど、ホントにいると思うんですよ、ムロさんに関しては」という会話が生放送中に繰り広げられていた。
実際、スカパラメンバーは、ムロによるテレビ的なリップサービスだと思っていたが、その後事態は急変する。ムロが河口湖公演の前日から本当に河口湖に泊まっているという情報をキャッチ。まさに『あさイチ』MCの博多大吉の予言どおりとなったのだ。
■スカパラとムロツヨシの関係
ここで、スカパラとムロツヨシの関係を簡単におさらいしておく。NARGO(Tp)と大森はじめ(Perc)がもともとムロの大ファンで、「ムロさんに会いたい!」という想いだけで、2012年にムロがパーソナリティを務めていたラジオ番組にゲスト出演したことが始まりだ。
2013年11月、スカパラのライブに遊びに来たムロが、メンバー全員の前で「いつか自分の舞台のテーマ曲をスカパラさんに手掛けてもらうのが夢です!」と“夢”を投げかけた。
それから7年後の2020年、報道番組のインタビューでトラック公演を開催することを突如発表したムロの言葉を耳にしたスカパラメンバー。7年前にムロから投げかけられた“夢”に対して「ムロさんがライブに来てくれたとき『いつか舞台のテーマ曲を手掛けてもらうのが夢です!』って言ってくれたけど、スカパラでよかったら作るよ!」と逆提案。こうして7年越しの“夢”が実現することとなり、2021年4月に開催されたムロ演出の舞台『muro式.がくげいかい』のテーマ曲をスカパラが手掛けることとなった。舞台のテーマ曲は歌のないインスト曲として完成し、無事に納品された。
ところが、ムロとの楽曲制作があまりにも楽しかったことから、この曲にムロの歌やセリフ的な要素を入れたいという想いがスカパラメンバーの間で沸々と芽生えてしまい、舞台の初日公演には間に合わないため、舞台で使用されることはないとわかっていながら、ムロにボーカルレコーディングを依頼。7年前に「いつか自分の舞台のテーマ曲をスカパラさんに手掛けてもらうのが夢です!」とは言ったものの、「歌いたい」とはひと言も言っていないムロであったが、ボーカルレコーディングを行うことになり、スカパラのゲストボーカルとして「めでたしソング feat.ムロツヨシ」が完成する運びとなった。
■「シークレット・スペシャルゲスト、ムロツヨシ!!!!」
『東京スカパラダイスオーケストラ×ビルボードクラシックス at 河口湖ステラシアター』は、第1部はスカパラメンバーのみでの公演、第2部は服部隆之の指揮のもと、スカパラと東京フィルハーモニー交響楽団による公演に、ハナレグミと中納良恵(EGO-WRAPPIN’)が出演するというものであったが、「めでたしソング feat.ムロツヨシ」が第1部のラストを飾るナンバーとなった。
ムロツヨシが登場する前に披露されたのは、2024年2月に公開されたムロ主演映画『身代り忠臣蔵』のテーマ曲「The Last Ninja」であったが、今にして思うと、ムロ登場へ向けた大きなフリだったのだろう。ステージセンターでNARGO、北原雅彦(Tb)、GAMO(Ts)、谷中敦、加藤隆志(Gu)、川上つよし(Ba)がフォーメーションを組んで「The Last Ninja」の演奏を締めると、オーディエンスが拍手喝采で称える。スカパラメンバーはステージ上で演奏後の余韻と、このあとに起こることへのワクワク感を楽しみ、オーディエンスはこのあとに起こることを誰も予期できないままに、「The Last Ninja」の演奏終了から30秒後にクラクションの音が場内に鳴り響く。
「シークレット・スペシャルゲスト、ムロツヨシ!!!!」と谷中が呼び込むと、ステージ下手から颯爽と登場したムロツヨシに対して、第1部でいちばんの大歓声が沸き起こる。コミカルな動きも交えながら軽快にステージ上を動き回り、会場中のすべてのオーディエンスを巻き込んで笑顔にし、1曲だけのパフォーマンスでありながら、会場全体がまさにムロツヨシ劇場と化していた。
曲の間奏の口上では「皆さん、ご無沙汰しています! はじめまして! あらためまして! ムロツヨシです! この空のもと、みなさんと一緒にライブができることを非常に光栄に思っています。言わせてください、35年間、ずっとカッコいいよ! 東京スカパラダイスオーケストラ!」と、オーディエンスへの挨拶とともにスカパラへの賛辞を述べ、その後もオーディエンスを煽りながら楽しそうに歌い踊り続ける。
これまで数々の音楽番組、そしてスカパラの単独ライブやフェスで幾度となく共演してきただけあり、ムロツヨシのパフォーマンスは同じステージに立っているスカパラメンバーにもまったく引けを取らないものになっていた。
後奏に乗せた最後の口上で「まずは、第1部、これにて、めでたしめでたし!」と述べたあと、スカパラメンバーに対して演奏のかき回しを煽りながら、ムロがこれまでスカパラのステージで何度も披露してきたお立ち台からのジャンプのなかでもとびきりカッコいいジャンプで「めでたしソング」の演奏を締め括った。空に突き抜けるようなオーディエンスからの大きな拍手が会場中に鳴り響くなか、谷中も「すごい! 最後のジャンプもさらに決まるようになって!」とムロを大絶賛すると、「河口湖で何してんだろ!?」と照れるムロ。
■谷中敦からムロツヨシに「観るほうにしますか? 出るほうにしますか?」のLINEが!
ここで前述のNHK『あさイチ』からの経緯が明らかとなった。ムロが河口湖公演の前日から本当に河口湖に泊まっているという情報をキャッチしたことで、谷中がムロに「観るほうにしますか? 出るほうにしますか?」とLINEを送ると、「う~ん、出るほうで!」とムロが返答したと言い、オーディエンスも大爆笑だ。こうしたエピソードからもスカパラとムロの素敵な関係を感じ取ることができる。
スカパラメンバーとオーディエンスからの大きな拍手を受け、「みなさん最後に言わせてください! ムロツヨシでした!」とこの日いちばんの力を込めたひと言を発し、ムロはステージをあとにした。
スカパラのデビュー35周年を記念した特別公演『東京スカパラダイスオーケストラ×ビルボードクラシックス at 河口湖ステラシアター』は第1部だけでもとんでもない祝祭感と喜びしか満ち溢れていない空間が生み出され、その空間はそのまま第2部へと続いていくこととなった。
最後に重要な点をひとつ記しておきたい。NHK『あさイチ』でムロはこのようなコメントもしていた。
「大きな疑問をスカパラさんにお伝えさせていただきたいんですけれど、僕、一度もイヤモニを付けたことがないんです。スカパラさん、いろんな方とコラボするじゃないですか? みんなイヤモニを付けてるんですけど、なぜムロにはイヤモニがないのか? 何かの諦めなのか、ムロがイヤモニを付けると何か面倒なことが起きるのか? イヤモニ付けてみたいな。歌ったあと、外すのカッコいいじゃないですか!」
この日、河口湖ステラシアターにおいても、ムロにはイヤモニがなかった…。いつの日かスカパラのステージでムロがイヤモニを付けることができるときが来るのかどうか。そのときを楽しみにしていよう。
PHOTO BY 仁礼博
東京スカパラダイスオーケストラ OFFICIAL SITE
https://tokyoska.net/
ムロツヨシ OFFICIAL SITE
https://murotsuyoshi.jp/