■オープニング4曲にはポルノグラフィティの存在意義と愛され続ける理由が高濃度で凝縮されていた
今年9月にデビュー25周年を迎えるポルノグラフィティが1月から開催していたアリーナツアー「19thライヴサーキット“PG wasn’t built in a day”」が、3月31日の東京・有明アリーナ公演でファイナルを迎えた。“ポルノグラフィティ(PG)は一日にして成らず”という意味を持つツアータイトルや、PORNOGRAFFITTIの文字が天空へと聳え立つ塔を形作るツアーロゴが示すように、これまで築き上げてきた、そして未来に受け継がれていくレガシーをひとつの大きな節目に刻み付ける意味合いが今ツアーにはある。ステージバックのスクリーンには塔の外壁を思わせる映像が映し出され、その足元、メインステージからは25年分の歩みを示唆する蛇行した長い花道が用意されている。そして会場を埋め尽くすのはポルノの歴史を熱く支えてきた多くのファンたちだ。
高らかに鳴り渡るファンファーレの音色を合図に、ライヴは「Century Lovers」で華々しく幕を開けた。ボーカル・岡野昭仁の「Everybody say! Come on!」の煽りに客席からは「Fu Fu!」の声が上がる。25年を共にし、言わば“次の千年の恋人達”でもあるポルノとファンの絆の強さがライヴ開始早々、鮮やかに提示されていく。「テーマソング」では冒頭から「歌って!」と促し、会場に大合唱が巻き起こる。その光景をうれしそうに眺めながら、ギター・新藤晴一は心震わすサウンドを奏でている。長く苦しいコロナ禍を経て、「サビをみんなでユニゾンしたい」というこの楽曲に込められた意図がようやく実現したことを受け、昭仁が「やっと一緒に歌えるぜー!」と万感の思いを吐き出したシーンは涙腺を刺激するほどに感動的なものだった。共にスポーツがもたらしてくれる感動をきっかけに生まれた「キング&クイーン」「Mugen」では、視界を一気にクリアにしてくれるポジティブなメッセージとともに、息の合ったクラップや“wow wow”コールが鳴り響いていく。一気にプレイされたオープニング4曲。そこにはシーンにおけるポルノの存在意義と愛され続ける理由が高濃度で凝縮されていたように思う。
「いつもよりリミットを外して、ファイナル行きたいと思います」(昭仁)
「どっちが楽しめるか勝負、最後までよろしくお願いします」(晴一)
「25年の最高到達点」を目指すべく、ライヴは加速を続けていく。クールな映像や照明効果とともに披露された「REUNION」で、改めてオーディエンスとのかけがえのない関係を固く繋ぐ。デビュー15周年時にリリースされた「俺たちのセレブレーション」では、過去のライヴ映像をスクリーンに映し出しながら、そこから10年を経た25年目の祝砲とも言うべきサウンドを痛快に鳴らす。
エモーショナルなシーンを描き出したのは「アニマロッサ」。長尺の間奏ではバンドメンバーの盤石な演奏とともに晴一が圧巻のギターソロを紡ぎ出した。「まだまだ行くよ。覚悟できてる?」という昭仁のひと言に導かれ、イントロのベースフレーズが鳴った瞬間に大きな歓声が沸き上がったのは「メリッサ」。随所で超ロングトーンを叩きつけたボーカリゼーションに、25年で積み上げられてきた圧巻のスキルをまざまざと体感させてもらった。
MCでは、激増しているという男性ファンのド太い歓声を浴び、うれしそうな表情を見せる昭仁と晴一。かと思えば、女性ファンによる悲鳴にも似た声を受け、「この黄色い歓声がなくなったら僕らはやめます」(昭仁)と笑いを誘う。そこから四半世紀に及ぶ活動を振り返り、デビュー前のツラく苦しかった時期のことを懐古。そんな時期を経てたどり着いた輝かしい今の立ち位置をしみじみと噛みしめた。
ライヴ中盤では花道の先頭にバンドセットが用意され、懐かしいラブソング「Sheep~Song of teenage love soldier~」とアコーディオンの調べが叙情的な景色へ誘った「ジョバイロ」をアコースティックなアプローチで披露。ポルノのヒューマンな魅力にオーディエンスはクラップを心地よく鳴らしながら酔いしれた。その後、メインステージに戻ったメンバーは、美しい演出が楽曲の世界観をよりふくよかに伝えていたバラード「フラワー」と、タイトル通りに最高のナイトフライトへと誘ってくれた「夜間飛行」を連続で。ポルノの楽曲は、広大なアリーナを活かした情景喚起力の高い演出もよく似合う。
■会場に集まったオーディエンスのみならず、生きとし生ける者すべてへの真摯なメッセージとなっていた新曲「解放区」
ボコーダーを使った晴一のボーカルを交えたバンドによるインタールードを挟み、始まった次のパートは今回のライヴにおいて重要な意味を持っていたように思う。「オレ、天使」の“空が落ちる 赤い空が迫りくる”という不穏なラストラインを受け継ぐように、世界情勢への不安を歌詞に込めた「170828-29」と、昨年開催されたG7広島サミットの応援ソングとして紡がれた「アビが鳴く」が続く。そこには争いが止むことのない世界への憂いと、平和への願いが鮮烈に注がれていた。そして、その流れの最後に配置されていたのが新曲「解放区」。光が見えない時代においても希望を見出し、力強く生きて行かんとする誓いは、会場に集まったオーディエンスのみならず、生きとし生ける者すべてへの真摯なメッセージとなっていた。周年ツアーとして代表曲満載のお祭り感はありつつも、そこに今のリアルをしっかり刻み付けるところが実にポルノらしいところだ。これまでの軌跡を携えまだ見ぬ未来に進むためには、ポルノも、僕らも今生きている現在地を明確にする必要があったということなのだろう。
■ポルノが描き出した情熱的で鮮やかな色彩に満ちた景色は、すべての人に圧倒的な“生”を実感させてくれた
大いなる意志をしっかり提示した後は、「まだまだブチ上がって帰ろうぜ!」(昭仁)という言葉をきっかけに後半戦へと突入。「空想科学少年」からライヴは猛烈な勢いで駆け抜けていく。ステージを所狭しと駆け回りながら歌声を飛ばす昭仁。花道の最前に腰掛け、楽しそうにギターソロを弾く晴一。その一挙手一投足に会場のテンションは目に見えるほどに上昇していく。イントロで会場が歓声に揺れた「ハネウマライダー」では観客一人ひとりがツアータオルを掲げ、サビで一気に振り回すことで爽快な風が巻き起こる。長い歴史の幕開けを飾った大切な1曲「アポロ」ではミラーボールが無数の光の粒を拡散する中、割れんばかりの大合唱が巻き起こる。「サウダージ」の冒頭では、花道中央で昭仁がアカペラで力強いボーカルを響かせる。そこからバンドが加わっていくことで、キャリアに裏打ちされたロックバンドとしてのカタルシスをまざまざと見せつける。そして本編ラストは「オー!リバル」。ポルノが描き出した情熱的で鮮やかな色彩に満ちた景色は、すべての人に圧倒的な“生”を実感させてくれた。そう、“我は今 生きている”と。
声出し可能になったことで、コロナ前の定番だったアンコールを求める“ポルノ”コールが復活。卑猥な3文字に呼びこまれた昭仁と晴一は、ふたりだけで「アゲハ蝶」を丁寧に届ける。いやふたりだけではない。そこにはファンによる一糸乱れぬお決まりのクラップと“ラララ”の歌声が加わり、ライヴならでは、この日だけの「アゲハ蝶」が生まれていく。曲の後半で晴一が転調し忘れるというハプニングもあったが、それもまたこの日だけのレアなバージョンということで。
「25年もステージ立たせてもらえたのは皆さんのおかげです。でもふと思ったことがあって。ここに僕らを立たせてるのがみんなとも言えるからね。みんなが長く応援してくれるからここに立ち続けてしまい、今となってはもう手遅れだから(笑)。僕らは皆さんにがっかりされないような活動をしていきたい。でもお互い様だからね。もうポルノしかできないカラダになってしまってるので、頼むよ!」(晴一)
「25年振り返るといろんなことがあったと思う。あえてひと言で言うならこの25年は順風満帆です。苦しかったこと、先が見えなかった瞬間もありました。でも、そんなときはいつも皆さんの声が届きました。それによって目の前の道がはっきりして、逆風を追い風にして前に進めてくれた。本当に感謝しています。まだまだ高みを目指していきたいと思える時間を皆さんがくれました。これからも皆さんと共に歩いていけたらうれしいです」(昭仁)
25年分の感謝を込めたMCの後は、オーラスの「ジレンマ」へ。この曲のみ、スマホでの撮影が可能になっていたことで、観客たちはスマホを掲げながら、同時にコブシを振り上げ曲を盛り上げていく。ツアーの終了を惜しむように、ステージ上を移動しながら大暴れしまくる昭仁と、燃え滾る感情のすべてをギターにぶつける晴一。会場はこの日一番の興奮に包まれる。そして花道を一気に駆け抜けた昭仁が決めた大きなジャンプでライヴはエンディングを迎え、全16公演に渡るツアーは大団円を迎えたのだった。
■ステージからの去り際に、ガッチリと握手を交わした昭仁と晴一の頭上には果てしないほどに広大な空が広がっている
すべての曲をパフォーマンスした後、今年7月からふたりの故郷である因島にて『島ごとポルノ展』が、8月~9月には因島と横浜にて『因島・横浜ロマンスポルノ’24』がそれぞれ開催されることが発表された。ポルノグラフィティの25周年イヤー、ポルノグラフィティの未来はこれからも続いていく。ステージからの去り際に、ガッチリと握手を交わした昭仁と晴一の頭上には果てしないほどに広大な空が広がっている。この日、ポルノグラフィティと名付けられた塔は最高到達点へと達した。だが、その高さはまだまだ更新され続けていくのだ。
TEXT BY もりひでゆき
PHOTO BY 入日伸介
19thライヴサーキット“PG wasn’t built in a day”
2024年3月31日 東京・有明アリーナ
セットリスト
01.Century Lovers
02.テーマソング
03.キング&クイーン
04.Mugen
05.REUNION
06.俺たちのセレブレーション
07.アニマロッサ
08.メリッサ
09.Sheep ~Song of teenage love soldier~
10.ジョバイロ
11.フラワー
12.夜間飛行
13.オレ、天使
14.170828-29
15.アビが鳴く
16.解放区
17.空想科学少年
18.ハネウマライダー
19.アポロ
20.サウダージ
21.オー!リバル
【ENCORE】
EN1.アゲハ蝶
EN2.ジレンマ
ポルノグラフィティ OFFICIAL SITE
https://www.pornograffitti.jp/