KANA-BOONがニューシングル「Re:Pray」をリリースする。表題曲「Re:Pray」は、メンバーとオーディエンスにとって、大きな意義を持った楽曲だ。
2020年10月に自身の心のコントロールが難しくなったことを理由に休養期間に入った谷口鮪(Vo、Gu)。その間も待ち続け、支えてくれたファンへの思い、そして、命を繋いでいくことの大切さを高らかに響かせる「Re:Pray」は、バンドの再出発を告げる楽曲であると同時に、リスナーにとっては新たなアンセムとして浸透することになるだろう。
メンバーの谷口、古賀隼斗(Gu)、小泉貴裕(Dr)にシングル「Re:Pray」の制作プロセス、バンドの現状について語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
■第一歩を支える曲になるために、ずっと待っててくれた
──「Re:Pray」はKANA-BOONにとってもファンにとっても、本当に大きな意味を持った楽曲だと思います。個人的にはこの曲を聴いて、ちょっと安心したというか。
谷口鮪(以下、谷口) うれしいです。ありがとうございます。
──この曲の制作が始まったのはいつ頃なんですか?
谷口:制作モードに入ったのは年明けなんですけど、「Re:Pray」はちょっと特殊で、曲自体は何年か前からあったんですよ。ことあるたびに聴き返して、すごく気に入ってたんですけど、“どういう歌詞を乗せたらいいだろう?”という答えが出せないでいて。今年に入ってからもう一回向き合ったときに自然に言葉が出てきて、ようやく完成しました。KANA-BOONの第一歩を支える曲になるために、ずっと待っててくれた感じもありますね。
──再始動第一弾シングルですからね。
谷口:はい。8月に配信リリースした「HOPE」は、自分にとっての“0地点”みたいな曲で。痛みや苦しみを伴って、休養することになって。今年に入って曲作りを再開したとき、最初にポッと出てきた曲なんですよね。今回のシングルのカップリング曲も、その時期に溢れ出てきたんですけど、その時期の作業の一つが「Re:Pray」に歌詞を乗せることだったんです。
──なるほど。「Re:Pray」の歌詞について、古賀さん、小泉さんはどう感じてますか?
古賀隼斗(以下、古賀):歌詞が付いたデモを送ってもらったときに、鮪の意志というか、メッセージ性をすごく感じましたね。“昨日まで生きていた命だって連れていくよ”もそうですけど、“繋いでいく”というメッセージをしっかり伝えたいと思って。そのうえで制作に取り組めたのはよかったですね。アレンジ自体は変わってないんですけど、音色や音像、弾き方は、歌詞が入ったことで、大きく変わったので。
小泉貴裕(以下、小泉):いろんな思いがありますけど、まず、シンプルに“すごくいい曲だな”と思いました。サビは4つ打ちなんですけど、ちゃんと思いを乗せたビートを叩きたくて。
■誰かの今日を明日に繋ぐ、それを音楽でやること
──歌詞によって、演奏のニュアンスや込める思いが違ってきたと。
谷口:そうですね。ふたりのプレイやサウンドに感動しつつも、僕個人としては、改めて自分が担うべきことを実感させられました。去年、メンタルを崩して休養させてもらいましたけど、そのなかでいろいろと見つけたものもあって。古賀が言ってくれたみたいに、“繋いでいくこと”が大事だなと。誰かの今日を明日に繋ぐ、それを音楽でやることが自分のやるべきことだなと思ったんです。手の届く範囲の友達や仲間を守るのは当然だし、自分たちの音楽が届く場所にいる人たちの人生も繋いでいけたらなって。そのことがより明確になったのは、「Re:Pray」がきっかけだったので。
──鮪さんが担っている“役割”は、それ以前から感じていたことだったんですか?
谷口:ぼんやりとはあったと思いますけど、はっきりわかったのはやっぱり年が明けてからですね。自分に役割を与えないと消えてしまいそうになるくらい、自分のメンタルがコントロールできない状態だったので。「Re:Pray」に引っ張り上げてもらった感じもあるし、僕たちは0から1を生み出せるので、それを突き詰めて、フルに使うべきだなと。こういう世界になって、人も死ぬし、モノも場所も消えていくじゃないですか。そのなかで生きて、昨日まではなかったものを創り出すことで──欠けたものを埋められるかはわからないけど──新しいものをプラスすることはできる。それを音楽でやることに、もっともっと真剣に向かい合いたいですね。
──なるほど。鮪さんの休養中、古賀さん、小泉さんはどうしてました? お互いに連絡取ったりもしてた?
古賀:連絡はそんなに取ってないですけど、鮪の家に遊びに行ったりしてました。
谷口:シンプルに友達なんで(笑)。
古賀:基本、ボードゲームですね。
小泉:そうやな(笑)。
谷口:そういう楽しい瞬間もありました(笑)。
■“リスナーにとって、自分たちの存在がどれほど重要なんだろう?”
──(笑)バンドでよかった、メンバーがいてよかったと思う瞬間でもあった?
谷口:そうですね。守るべき人間がいてくれて、すごく助けられたというか。共に生きていかないといけないし、そのことで自分も強くなれて。“リスナーにとって、自分たちの存在がどれほど重要なんだろう?”ということも考えましたね。リスナーの中には、僕がいないと生きていけない、僕たちの音楽がないと生きていけないという人もいて。そう思うと、ここで終わらせるわけにはいかないなって。そういう思いも「Re:Pray」には込めてますね。
──ファンにとっては、好きなバンドが活動していること、音楽を作り続けてることが救いになることって、本当にありますからね。
谷口:そうなんですよね。僕も今年に入って、音楽が聴ける状態になってからは、昔聴いてたバンドのCDを聴き直してたんですよ。すごく元気をもらいました。
──BUMP OF CHICKENのCDを聴いて感動した、みたいなツイートしてましたよね。
谷口:「jupiter」(2002年)ですね。学生の頃によく聴いてて。
古賀:中学生のときやな。
谷口:うん。当時のアンセム盤だったんですけど、久々に聴いて、めちゃくちゃ感動して。あと、“CDっていいな”とも思いましたね。CDを名前順に整理したんですけど、ずらっと並んでる様がすごくカッコよくて。CDを届ける意義についても、改めて考えたりしました。
古賀:僕もCD整理しましたね(笑)。もともと本当に好きなCDしか買わないから、(CDを整理することで)自分のルーツが改めてわかったというか、「これで育ってきたな」と思って。
小泉:(コロナ禍で)時間もあったから、高校生のときにコピーしてた曲を聴いて、“今だったらどうやって叩くだろう?”って試してみたり。当時は叩けてたつもりだったんですけど(笑)。
古賀:(笑)高校の頃にコピーしてたフレーズ、僕もいまだに覚えてますね。
■“こういう楽しい世界もあるよ”と教えたい
──2曲目の「右脳左脳」はライブ現場を想起させるアッパーチューン。音楽への愛が溢れた楽曲だなと。
谷口:音楽を愛する身としての言葉も込めてるし、音楽を愛する人たちへの賛歌でもあるのかなと。冒頭“うっせー”から始まるんですけど、音楽は不必要と言ってた人たちにNOを突き付けたいわけではなくて、“こういう楽しい世界もあるよ”と教えたいんですよね。それは僕たちだけでは無理で、リスナーのみんなもオープンになって、音楽の素晴らしさを伝えてくれたらなって。そうすることで分断も避けられるだろうし、お互いの好きなものを尊重したうえで、音楽も守っていけると思うんですよ。
古賀:「右脳左脳」はメロディラインもすごく良くて。今までよりも遥かに自由だなと感じたし、それをしっかり押し出せるようなギターを弾こうと思ってました。Aメロではちょっと引いたところで支えるように弾いて、サビではみんなと一緒に叫ぶような感じで。
谷口:ライブハウス・ソングっていう感じやな。
小泉:うん。この曲も得意な4つ打ちのリズムなんですけど、言葉の一つひとつを押し出すように叩けば、鋭さが出るんじゃないかと思って、プリプロの段階から取り組んでましたね。ビート感は同じなんですけど、タイム感はかなり違うし、今までとは違った感覚で聴いてもらえるんじゃないかなと。
谷口:こいちゃん(小泉)、ドラム上手くなってるんですよ。いい音を鳴らせるようになってるし、成長してるんやなって。なんて言うか、ヘンな硬さがなくなったんですよね。たまに固まるけど(笑)、すぐ自分でほぐして。そのあたりのコントロールもできるようになったのかなと。
──これまでは「なるべく正確に叩こう」という意識も強かった?
小泉:その意識は強かったですね。デモ音源の打ち込みを忠実に再現しつつ、そこに自分の色を加えるというか。今回のシングルのレコーディングは、もちろんクリックは鳴らしているんですけど、鮪と目を合わせながらライブみたいな感覚で演奏していて。バンドの勢いを活かして、“行くところは思い切って行く”というイメージですね。特にラスサビは、かなり前に行ってますね。
谷口:そうやな。
小泉:自分を解放できたレコーディングでしたね。
──鮪さん、古賀さんのギターに関してはどうですか?
谷口:さっきも言ってましたけど、歌詞をしっかり読み込んでからギターを演奏してくれるようになって。これまではサウンド作りに力を注いだり、テクニックを極めようとするところがあったけど、それを踏まえて、表現者として一段上がった感じがします。古賀はギタリストとして、ひとつゴールに到達した感じもあるんですよ。一聴して“誰々っぽいギターだな”ということってあるじゃないですか。古賀も“古賀っぽい音”に達したと思うし、ここからまた違う旅が始まるんだと思います。
古賀:自分の中で“いい音”のニュアンスが変わってきたんですよね。“この曲には、この音しかない”“この弾き方しかない”みたいな音だったり、プレイを選ぶようになってきて。俯瞰で見て、“この曲では、どういうギターを弾けばいちばん伝わるか”を考えるようになったんですよね。
■人生をかみしめて、楽しまないともったいない
──3曲目の「LIFE」は解放感に溢れたアッパーチューン。“生きよう 人生を楽しめ”“すべてを楽しもう”というフレーズもありますが、これは鮪さんが自分に向かって歌っているところもあるんでしょうか?
谷口:うん、自分のための歌でもあります。こういう状況になって、“人生、残りどのくらいの時間があるかわからない”と考えたりもしたけど、それを踏まえて、人生をかみしめて、楽しまないともったいないなって。最高な出来事ばかりではないし、最低なこともある。イイこともあればイヤなこともあるけど、全部含めて楽しめたら、もう少しラクな人生になるかなと。それは自分に与えた課題の一つでもあるし、今、苦しいサイドにいるリスナーに対しても“イイこともある”と伝えたいんですよね。何があっても生きていてほしいと思うし、その希望の先に音楽やライブがあれば、自分たちもその人の人生に参加できるかもしれない。それが自分自身の生きる理由になってますね、今は。
古賀:自分もそうですからね。ひとりで悩んだり、考え込むこともあるけど、“よし、もう一回がんばろう”というときは、“楽しもう”という気持ちも同時にあるんですよ。「LIFE」の歌詞にも共感できたし、つらさや不安もあるけど、全力で楽しもうというメッセージはすごくいいなと。その両方を表現するために、軽めの音で、しっかり芯のある、人間味を感じられるプレイを意識しました。
小泉:リズムに関しては、ライブでお客さんと目線を合わせながら演奏している場面をイメージしていて。軽さ、楽しさもあるけど、気持ちをガッツリ入れて演奏しました。
──歌詞を届けるという意識が徹底してるんですね、ホントに。
谷口:そうですね。“この衝動を届けたい”“この思いを伝えたい”ということを形にするのが原点だと思うんですよ。去年から自分もバンドも世界もいろいろあって、ミュージシャンとしてどうしても言葉が溢れてくるし、メロディが浮かんできて。今回のシングルはそれをしっかり形にできたし、誠実なやり方だったのかなと。さらに自分の役割を全うすることで、説得力も込められたのかなと。大好きな3曲になりました。
■ようやく表現者としての感覚を掴みかけている
──バンドとしてさらに表現力が上がっている、と。
谷口:それはすごく思いますね。今もレコーディングやスタジオワークをやってるんですけど、ようやくスタート地点に立った感じもあって。演奏するだけで必死だったところから始まって、ちょっとずつステップアップしてきて、ようやく表現者としての感覚を掴みかけているというか。いいムードのなかで、いい演奏をいい音で録って。やっと“これがバンドのレコーディングだな”と思えるようになってきました。あと、わざわざやってる感じがすごくいいんですよ。
古賀:そうやな(笑)。
谷口:デモ音源はひとりで作り込むんですけど、それを人間が鳴らすことで、ちょっと歪んだり、歪さが出て。音楽に人間らしさが加わることで、さらに輝きを放つんですよね。重い機材を運んだり(笑)、“わざわざ”やるのって素敵だなと。
■もっともっと人間が見えるバンドになっていきたい
──10月末からは全国ワンマンツアー「KANA-BOON Re:PLAY TOUR 2021-2022」がスタート。「Re:Pray」を全国のファンに届ける、意義深いツアーになりそうですね。
谷口:「Re:Pray」は今回のツアーのテーマでもあって。“お祈り返し”というか、休養していた時期にファンから受けた祈りを、ツアーを通して演奏で返したいと思ってます。この曲は自分たちを引っ張ってくれる存在だし、新しくみんなと繋がるための曲でもあると思ってますね。
古賀:みんなの目の前で演奏する機会は本当に久々だし、まずはみんなの元気な姿を見たいです。
谷口:うん、うん。
古賀:あとはもちろん、僕たちの元気な姿を見てもらって。楽しみです。
小泉:ライブができない期間も、僕たちの音楽を聴いてくれて、また会場で会えることを楽しみに待ってくれてた人がたくさんいて。一曲一曲に気持ちを込めて、しっかり届けたいですね。
谷口:僕にとっては復帰のツアーだし、もう一度、ライブに対する向き合い方を新たにしようと思っていて。ただ目の前で演奏するだけではなくて、“こういう人となりで、こんな側面を持った人たちが、覚悟を持ってやっている”というところを見てほしいんです。ダサいところ、恥ずかしいところもさらけ出して、全部を見てもらうことで関係を深めたいので。もっともっと人間が見えるバンドになっていきたいですね。
──素晴らしい。KANA-BOONの新しい章がついに始まりましたね。
谷口:はい。ツアーと並行して制作も続いていて。充実したバンド人生を送らせてもらってます。
プロフィール
KANA-BOON
カナブーン/谷口鮪(Vo、Gu)、古賀隼斗(Gu)、小泉貴裕(Dr)からなる大阪・堺出身の3人組ロックバンド。 2013年メジャーデビュー。2018年にメジャーデビュー5周年を迎え、リリース&ライブ企画を精力的に展開。 昨年3月には初のベストアルバム『KANA-BOON THE BEST』を、11月にはシングル「Torch of Liberty」をリリース。 国内だけにとどまらず多くの海外ファンも魅了しながら、ロックシーンの最前線で活動を重ねている。
リリース情報
2021.10.27 ON SALE
SINGLE 「Re:Pray」
ライブ情報
KANA-BOON Re:PLAY TOUR 2021-2022
https://sp.kanaboon.jp/feature/re_play_tour_2021-2022
KANA-BOON OFFICIAL SITE
https://www.kanaboon.com
https://sp.kanaboon.jp/