TEXT BY 渡辺彰浩
■「青」や「渋谷」といったワードを一切使っていない
mol-74を聴くと情景が浮かんでくる。それは、季節を主軸として時間、シーンと様々な感情のスイッチが、音像や歌詞に詰め込まれているからだ。
mol-74が11月24日にリリースする3rd EPの表題曲「Replica」は、現在放送中のテレビアニメ『ブルーピリオド』のエンディングテーマである。『ブルーピリオド』と言えば、YOASOBIがインスパイア楽曲として「群青」を制作したことでも知られている作品。そこには「渋谷の街」「眠い空気纏う朝に 訪れた青い世界」といった、アニメ第1話(または原作の第1巻)を彷彿とさせるワードが多く散りばめられている。アニメの主題歌を担当するOmoinotake「EVERBLUE」もまた、「白む空に 吐き出すため息は」「色のない 雨がいつか 虹を描くように」と主人公・八虎が夢を追いかけることの青さと苦悩を、そのサウンドと歌詞に乗せて表現している。
それでは、mol-74は『ブルーピリオド』を「Replica」でどのように表現したのか。まず、驚くのは、YOASOBIやOmoinotakeのように、『ブルーピリオド』の世界観を表す上ではもはや必須とも言える「青」や「渋谷」といったワードを一切使っていないことだ。むしろ、色や場所、さらには季節に関する歌詞は皆無である。例えば、mol-74の代表曲に数えられる「エイプリル」は、冒頭で記したバンドとしてのフレーバーを全て注ぎ込んだ1曲だ。そうやって、mol-74はオフィシャルにも謳っている「北欧ポストロック」というすでに確立された絵画に、自分たちだけの色を描き足してきた。
その色味に少しずつ変化が訪れたのが、2019年のメジャーデビューのタイミングだ。初のフルアルバム『mol-74』は、これまでの楽曲を新しくレコーディングした、いわゆる再録盤のインディーズベスト。そのアルバムラストに収録された「Morning Is Coming」は、ヒップホップを参考にしたビートに金管楽器を取り入れた、これまでのバンドになかったサウンドだった。筆者はこのアルバムリリースのタイミングで4人にインタビューをしているが、その際にバンドのフロントマンである武市和希(Vo, Gu, Key)が話していたのが「自分たちの培ってきたものは大切にしながら、新しいものは取り入れてアップデートしていきたい」というこれからのmol-74の在り方。その新たなサウンドスケープは、後の1st EP「Teenager」や2nd EP「Answers」にも明確に打ち出されている。メロディーやビート、ジャンル、機材に至るまで、それはEP全体としてチャレンジ精神に満ちた1枚の作品。いい意味で期待を裏切りながら、mol-74としての芯の部分は変わっていなかった。
■ファンであればあるほど、きっと戸惑いは隠せないだろう
『ブルーピリオド』のエピソードの中で、テールベルトという緑色の絵の具の上に赤とシルバーホワイトを混ぜた肌色のバーミリオンで描くと補色の関係で肌が綺麗に見える古典技法が紹介される。「Replica」は、メジャーデビュー以降、少しずつ塗り重ねてきた新たな色味をさらに大胆に変色した楽曲だ。武市のエフェクトがかかったボーカルに、譜割の多い歌詞、重厚感のあるドラム。長年mol-74を聴いてきたファンであればあるほど、きっと戸惑いは隠せないだろう。ただ、それらの一つひとつを『ブルーピリオド』と照らし合わせていくと、自ずと答えは見えてくる。溢れ出る心の声、まだ自信はなく誰にもその声は届かない──絵を描く悦びに目覚めた、脈打つ鼓動。暗闇に微かな光が灯るようなサウンドスケープと、「Teenager」にも見られた強い葛藤や苦悩から一歩踏み出していく歌詞は、「Replica」においてmol-74の変わらない部分だ。先述したワードを使わずに『ブルーピリオド』のテーマ曲を制作したことは、さらなる挑戦の証であり、まさにバンドのレプリカが剥がれた瞬間とも言えよう。
聴く人それぞれに渋谷はあって、その色は青ではないかもしれない。「Replica」を聴いて思い描いたのは、ゆっくりと空が白んでいく朝の街並みだった。
リリース情報
2021.11.24 ON SALE
EP 「Replica」
ライブ情報
mol-74×Omoinotake 2Man Live
11/09(火) 心斎橋Music Club JANUS
11/14(日) 渋谷WWWX
mol-74「Replica」release tour
2022/01/16(日)東京・大手町三井ホール
2022/01/23(日)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2022/01/28(金)愛知・名古屋APOLLO BASE
mol-74 OFFICIAL SITE
https://mol-74.jp