■「これが“僕らが聴きたかった歌”です、どうもありがとう!」(flumpool山村隆太)
flumpoolがデビュー15周年を記念して、日本武道館公演を開催した。
flumpoolが武道館でワンマンライブをするのは約6年半ぶり。『SINGALONG2.0』というタイトルを掲げ、“ライブができる喜びと声を出せる感動”(開催にあたり、山村隆太(Vo)が発表したコメントより)をファンと共有。2017年末からは山村の歌唱時機能性発声障害による活動休止に突入、2019年に復活を果たすものの、2020年からはコロナ禍に見舞われた。そんななかでも果敢にライブを行い、2021年には新会社を立ち上げて独立。幾つもの壁を乗り越え激動の時間を過ごしてきた彼らは、より結束が強まったバンドの姿を武道館で示した。
大山田源次郎という架空の音楽評論家に阪井一生(Gu)が扮し、リモート参加している設定のコミカルなオープニング映像のあと、いよいよ本編がスタート。横長の巨大スクリーンに「聴きたい歌はありますか?」と問い掛ける文字が映し出され、楽曲タイトルの数々が浮かび上がっていく。すると、白い胴着に身を包んだ16人の「SINGALONG Special DANCERS」が出現。拳を高く突き上げて「Blue Apple&Red Banana」の“Wow wow”というコーラスを歌い出し、ファンは手拍子を重ねていく。照明が赤になった瞬間、山村、阪井、尼川元気(Ba)、小倉誠司(Dr)が一列に並んで後方の壇上に登場、大歓声が沸き起こった。4人は立ち位置へと移動し、背後にはサポートメンバーの磯貝サイモン(Key&Gu)、吉田翔平(Vn)がスタンバイ。
いよいよ曲が本格スタートし、ファンの“Wow wow”というコーラスに、山村は「もっと!」と煽っていく。“3度目の正直さえも 絶望に終わっても4度目をまだ 信じて叫べ”という歌詞が、あらたな意味を帯びて心に響いてきた。2017年5月、“3度目”の武道館公演を成し遂げた彼らは、上述の通り同年末には活動休止。再始動の出鼻を挫くようなコロナ禍の3年半を耐え、“4度目”を信じ、この場所に辿り着いた。選曲、演出共に驚かされたが、拳を突き上げて壁に立ち向かう不屈の精神を歌ったこの曲は、まさしく今日この日の幕開けにふさわしかったのだ。
「武道館、会いたかったぜ! 最高の1日にしようぜ!」(山村)とイントロに乗せて叫ぶと、煌めくエレクトロポップ「two of us」で一気に明るく軽やかなムードへと会場を塗り替えていく。続いて「皆声聴かせてくれる?」と山村がギターを掻き鳴らしながら呼び掛け「Calling」のサビを歌うと、すぐに「calling,calling」と阿吽の呼吸で返すオーディエンス。「15年の絆」と言いながら山村は笑顔を見せて、曲が本格スタート。1stフルアルバム『What’s flumpool!?』収録曲だが、歌唱や演奏には2023年の現在ならではの成熟、深化を感じさせる。山村はステージの右へ左へと動き回り、大きく両腕を広げ、ファンの想いを全身で受け止めていた。
「今日はたった一日、一夜限りの武道館。気合いが入り過ぎて…」と語り始めた山村。コロナ禍で発声が禁止されていたり、ライブが不要不急とされて開催がままならない状況があったりしたことに触れながら、「そういう時間を乗り越えて、僕たちは今日ライブをやってるんです。気合い入りますよ。生きていて、こんなにライブを我慢させられることは、こんなにライブを奪われることは、もうない」と言葉を噛み締める。「15周年を迎えることができました。10周年(のタイミングで)は活動休止していました。気合い入るでしょ!?」ともコメント。この日、そしてこの15周年という節目に懸ける想いの強さを滲ませた。
デビュー曲「花になれ」のイントロが鳴ると、会場にはどよめきが起きた。デビュー当時はこの曲の繊細さ、儚さが彼らに似合うように感じていたが、15年経った今のパフォーマンスからは、同じ曲であるにも関わらず、揺るぎない強さが伝わってくる。客席を眩しそうに見つめながら歌う山村の声は慈しみ深く、阪井、尼川、小倉の演奏は互いに絡み合い、心地良いグルーヴを生んでいた。磯貝のピアノソロから「どんな未来にも愛はある」へと繋ぎ、まずは山村の独唱に耳を澄ます観客。印象的だったのは、阪井のギターソロがエモーショナルだったこと。この曲に限らないことだが、スクリーンに大写しになるメンバーの表情は誰しも清々しく、晴れやかに見えた。
「大人になって気付いた、家族の絆をテーマにつくった曲です」(山村)との紹介から、新曲「泣いていいんだ」も披露。TVアニメ『柚木さんちの四兄弟。』オープニング主題歌として書き下ろされた軽やかなナンバーで、躍動感のある華やかなサウンドに似合うネオンカラーの照明のもと、ファンのハンドクラップに乗せてパフォーマンスした。何度も出てくる“ありがとう”という歌詞を歌いながら、山村は感極まった表情を見せていた。
MCで口を開いた阪井が、オープニング映像を「スベッてました…」と反省すると、「おもろかったで?」と尼川がかばうひと幕も。序盤ではそういったメンバー間のユーモラスなやり取りで和ませながら、阪井は「四度目の武道館。15年経ってもここに立てているのがすごい」と感慨深そうに語った。続くメンバー紹介では、小倉が「ここに集まってくれた皆さんも、中継で観てくれている皆さんも、15年、25年、30年とこれからもこの4人でflumpoolを続けていけるよう、まずは今日頑張ります」と力強くコメント。山村は「今日、ここ武道館に来てくださった皆さんがいちばん大事なメンバーです」とファンを讃えた。
温かなムードで包み込んだかと思えば、「夜は眠れるかい?」からはダークさ、激しさを前面に打ち出した楽曲を連打。自分が自分であることを堂々と示すように、山村が親指で自らを幾度も指さした「Because…Iam」では、尼川のベースフレーズが色気を帯びてうねる。小倉のドラムソロから突入した「MW ~Dear Mr.&Ms.ピカレスク~」までの3曲は圧巻。スクリーンに投影される火花などのイメージ映像以上に、バンドのパフォーマンスそのものが燃え盛る炎のような熱量を体感させた。
15周年という岐路に立ち、「振り返るタイミングが多い」と語った山村は、活動休止やコロナ禍の他、「自分たちだけじゃ乗り越えられない壁がありました」とコメント。「それでもやって来られたのは、僕たちの音楽を好きでいてくれるあなたがいたからです。僕らから次の歌を贈ります」との言葉から、「Over the rain~ひかりの橋~」のこの上なく美しいメロディを丁寧に歌い届けた。スクリーンには無数の星のように見える雨粒がひしめき、照明は感情の昂りとシンクロするように強まったり弱まったりしながら曲に寄り添った。
雨上がりを思わせるまばらな水音が響いて、ピンスポットを浴びた山村が歌い始めたのは、活動休止からの復活第一弾シングル「HELP」だった。どの曲もスクリーンに歌詞が表示されていたが、この曲では手書きの文字で、より心に直に語り掛けてくるような印象を与えた。夜明けの海と大空が広がる幻想的で夢のように美しいイメージ映像を背に、阪井も尼川も、会場のファンも一体となって熱くシンガロングした。“心つないで 境界線超えて”という歌詞のメッセージそのものを体現する光景が、いつしか武道館に広がっていた。
タイピングする音が鳴り響き「届けたい歌がある」という文字が映し出されたあと、小倉のカウントに続いて放ったのは「Magic」。言葉にならない気持ちをそのまま届けることができる音楽という魔法と、届け先であるファンへの想いが、優しい歌に乗って心に染み込んでくる。観客の力強いクラップに乗せて「ビリーバーズ・ハイ」を披露したあと、「ここで皆さんの声を聴かせてください!」(山村)と呼び掛けて“Wow wow”のコーラスを求めると、「NEW DAY DREAMER」へ。シンガロングで存分に盛り上がったあと、再びダンサーが登場。「World beats」ではタオル回しで一体感を楽しんで、間髪入れず「ヒアソビ」へ雪崩れ込むと銀テープが弾け飛んだ。アリーナ席の観客はキラキラとしたテープを高く掲げながら、“123” “321”という掛け声を高らかに叫んだ。
「武道館、まだ聴いてない曲ある?」(山村)と耳に手を当ててファンに呼び掛け、イントロの阪井のギターリフが鳴ると割れんばかりの大歓声が沸き起こった。インディーズ時代からの人気曲「Hydrangea」である。スクリーンは四分割で四人を大きく映し出し、山村、阪井、尼川がボーカルを順に歌い繋いでいく。小倉はマイクを執らないが、メンバー全員の呼吸の合った演奏はグルーヴィーで、4人で“歌っている”と感じられた。
ほんの一瞬の休符を挟み、1stシングル「星に願いを」を放ち、ライブ終盤にも関わらず4人はよりパワーを増した歌と演奏を聴かせた。「ラスト!」(山村)と叫んで本編最後に届けたのは「君に届け」。ハンドマイクでステージを動き回り、山村はファンに語り掛けるように歌唱。歌詞の“君”を“武道館”に替えて「武道館が好きだ!」とシャウトするように歌うと、歓喜に沸き立つオーディエンス。観客の笑顔がスクリーンに映し出され、会場が多幸感に満ちていった。
アンコールで再登場すると、山村は「皆さんの聴きたい歌、聴けましたか? 僕らが届けたい歌、届きましたか?」と問い掛け、ファンは大きな拍手で応えた。「僕らの聴きたい歌、聴いてもいいですか?」と言葉を続けると、「この15年間、お互いいろんな出会いとか別れとか…今日集まってくれた一人ひとりそれぞれあったと思います。そんな皆さんの歌声が聴きたいんですけど、最後、一緒に歌いませんか?」と呼び掛ける。それは、2011年、NHK全国音楽コンクール中学の部のために書き下ろされた合唱曲「証」であり、のちに東日本大震災で友との離別を余儀なくされた子どもたちへと広く届いていった、想い出深い1曲である。2023年、コロナ禍を経て声出しライブをついに取り戻した今、ファンの合唱に耳を澄ますメンバーの表情は、その奥にある多くの心情を想像させた。「最高の歌声をありがとう!」(山村)と感謝を述べて、バンド演奏によって楽曲を改めて届けた。
「これが“僕らが聴きたかった歌”です、どうもありがとう!」と感謝を述べた山村は、どんどん大きくなっていく拍手の音に涙ぐんで、「15年間、皆さんのその存在に支えられてきました」とコメント。加えて「いつも誰かを支えてばかりで、自分のことを我慢して…」と、支える側のファンの心情を推し量ると、「僕たちができることはわずかかもしれませんが、僕たちの音楽が礎になれれば」と思いを寄せ、「大切なものは君以外に見当たらなくて」を届けた。「皆にとっても大切な仲間に、大切な家族に向けて、もう会えなくなった大切な人に向けて、大切な自分自身に向けて。一緒に歌いましょう」という言葉には、数々の壁を乗り越えてきたからこその包容力と説得力が宿っていた。
ライブの最後には、15周年を祝した数々の告知でファンを歓喜させた。横浜・東京・大阪を巡るビルボードライブツアー『「ROOF PLAN」〜Sweet Christmas Session〜』の開催、さらには、10月9日にリリースした2枚組ベストアルバム『The Best flumpool 2.0 ~ Blue[2008-2011]& Red[2019-2023]~』を引っ提げ、2024年3月からは約3年ぶりの全国ツアー『15th Anniversary tour 2024「This is flumpool !!!! ~15の夜に逢いましょう~」』を行う。スクリーンに映し出されるツアー日程を観て大歓声に沸くファンに向け、「ツアーで会いましょう!」(山村)と再会を約束。4人は深い礼をしてステージをあとにした。
15年という道程のなかで、flumpoolはいくつも壁に直面しては立ち止まり、その都度、抱えた悩みや葛藤を曲という形で表現し、乗り越えて来たバンドである。そのことがありありと伝わってくるセットリストであり、すべての過去を受け止めながら未来へと進んでいく姿勢が、歌から、演奏から感じ取れた。楽曲の数々はもはやバンドだけのものではなく、flumpoolの音楽を愛し、同じ時代を生きてきたファンの人生の一部になっているからこそ、この日のライブにはとりわけ強い一体感と深い感動があったのだろう。flumpoolの15周年イヤーはまだ始まったばかりである。
TEXT BY 大前多恵
PHOTO BY 山川哲矢
<セットリスト>
Blue Apple&Red Banana
two of us
Calling
花になれ
どんな未来にも愛はある
泣いていいんだ
夜は眠れるかい?
Because… I am
MW ~Dear Mr.&Ms.ピカレスク~
Over the rain ~ひかりの橋~
HELP
Magic
ビリーバーズ・ハイ
NEW DAY DREAMER
World beats
ヒアソビ
Hydrangea
星に願いを
君に届け
ENCORE
証
大切なものは君以外に見当たらなくて
リリース情報
2023.10.09 ON SALE
ALBUM『The Best flumpool 2.0 ~ Blue[2008-2011]& Red[2019-2023]~』
flumpool OFFICIAL SITE
https://www.flumpool.jp/