先日、声帯ポリープの除去のため、約1カ月の休養を発表したフレデリック・三原健司(Vo、Gu)へインタビュー。
いたずらっ子のような笑顔を見せながら「過度な心配はせず、ちょっとだけ気にしていてほしい」と語る、三原健司の心境とは? ボーカリストとして、フレデリックのフロントマンとしての頼もしい言葉を多く聞くことができた。
また、8月25日に配信リリースされたばかりの「オドループ」「スパークルダンサー」の『THE FIRST TAKE』音源2曲をもとに、選曲理由や出演時の様子についても紐解いていく。
■声帯ポリープと付き合ってきた5年~休養へいたるまで
──いつ声帯ポリープがあるとわかったのですか?
三原健司:2018年頃ですね。“声帯にできた小さなこぶが、声帯を締める邪魔をしてしまう”という話なんですけど。自分の場合、声帯周りの筋肉を使って声帯を締めることができていたので、お医者さんとずっと相談しながら付き合ってきたんです。「日々(ボーカル)トレーニングで声帯を鍛えているだろうから、それを増やしていきましょう」とか、「(ポリープの切除)手術は、もう少しタイミングを見ながら決めましょう」と。
──そんなに前からポリープがあったのですね。『ラヴィット!』生出演&生演奏もありましたが、これまでの他のライブでもまったく気づきませんでした。なんだったらここ数年のボーカル力には目を見張るものがあるなと感じていたので。
@frederic_tok @ラヴィット! 生出演ありがとうございました! #オドループ 生演奏はTVerで見逃し配信中! #ラヴィット #フレデリック #男性ブランコ
健司:しっかりと事前準備をすれば、100%の状態で歌うことができたし、ライブの前日は声帯を休めるよう、スタッフが予定を調整してくれたり、症状を見守ってくれたお医者さんなど、まわりの協力のおかげでもありますね。2~3年前から手術する時期を探っていて、当初の予定では、今年11月~来年1月のツアー『FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “WELL 噛 ONE”』が終わったあとに手術する予定だったんですよ。だけど、スタジオでのリハーサルで、事前準備をしっかりしていたにもかかわらず声が出なかった日があって。本番でこういうことが起きてしまったらライブに来てくれた人に失礼だし、“今の歌い方で体大丈夫かな…”“無理してないかな…”と、心配をかけてしまうことで僕たちの音楽を心の底から十分に楽しんでもらえなくなってしまうのは嫌だなと。なので、予定を早めて8月末に手術することにしました。
──メンバーにはどのように報告しましたか?
健司:「ポリープできちゃった♪」みたいな(笑)。メンバーは僕の性格をわかってくれているので、あえて深刻な感じではなくフランクに接してくれました。スタッフには「ライブはガンガン入れてください」「その日に向けてしっかり調整するので」とお願いしました。これはお客さんに対しても言えることですけど、自分としては“過度に心配してほしくない”という気持ちが強いんですよ。心配してもらえること自体はもちろんうれしいんですけど、「フレデリックは音楽でこういう表現をしたい」というところに、「本当に大丈夫なのかな?」という気持ちとか、別の感情が乗ってしまうことで伝わりづらくなる表現があるんじゃないかと思うと、それが嫌で。お客さんにギリギリまで伝えなかったのはそういう理由からです。ちょっとの期間、待っていてくれたらうれしいなと思います。
■歌を始めて10年という経験から得た精神的な安定
──ご自身のメンタルはいかがですか?
健司:精神を病むことはなかったです。ポリープがあることがわかった2018~2019年は、歌を始めてちょうど10年のタイミングだったから、「そりゃあ、そういうこともあるやんな」「むしろ10年歌っていてポリープ1個って上出来じゃない?」と思えて。だけど、2015~2016年の自分だったら、もっと落ち込んでいた気がします。
──というと?
健司:2015~2016年はメンバーが替わるタイミングだったのもあって、自分の個性をどう活かしていったら良いだろう…と、自分の声や歌い方に向き合っていた時期だったんですよ。バンドにとっては、東京に拠点を移したものの、良い状況がずっと続くかはわからないという不安定な時期で。フレデリックでは(三原)康司が曲を作っているので、曲を書いていないボーカリストとして、どういう存在でいたらいいのだろうかと悩んでいましたね。「フロントマンとして、バンドを引っ張れたらいいけど、それにしては自分の声はちょっと個性的すぎないか?」みたいな。今でこそ相談をできる人は周りにできましたが、当時はいなくて。「俺には歌しかないから、これが崩れるようなことがあったらダメだ」という気持ちが変に強かったから、一度でも風邪を引いたらめちゃくちゃ落ち込んでしまうくらいメンタルは繊細でした。そんな頃にポリープになっていたら、今のようにはいかなかったと思います。
■自分たちが今までやってきたことが安心材料になったらうれしい
──その悩みはどこから解決の糸口を見出したのですか?
健司:「俺らはバンドやから」というところですね。新しいドラマーのタケちゃん(高橋武)が入ってバンドのバランスがどんどん整っていくなかで、メンバー一人ひとりと会話していくうちに自分の中で答えが見つかって。結局、曲を作るのは康司やし、ギターを弾くのは(赤頭)隆児やし、ドラムを叩くのは武やし、4人でひとつのバンドを作っているんだから、その上で自分にできることを伸ばしていけばいいんや、と。そうすると自分の得意なことが伸びていくし、メンバーが「それは健司にしかできないことやな」と言ってくれることでもっと伸びていくし。あとはライブを重ねていくうちに「こういう時はこうすれば大丈夫」という、このメンバーでのフォーマットみたいなものができて、少しずつ自分の形が作られていったのもあります。
──そういう土台があったからこそ、前向きな考えでいられたと。
健司:もちろんこれがきっかけで精神を病んでしまう人もいるから軽い病気だなんて思いませんが、三原健司の場合は大丈夫でした。それにひとりで悩んでいるわけではないので。お医者さんにはつねに相談をしているし、実際にポリープ切除手術を経験したボーカリストの先輩や友達にもたくさん話を聞いてもらったし、ボイストレーナーの先生も紹介してもらいました。メンバーやスタッフも含め、自分の周りには味方がめちゃくちゃいるから、本当の本当に! マジで大丈夫なんですよ。
▼各々の言葉で三原健司を囲む、バンドメンバーたち
ラッシュボール楽屋裏 結構な数の人に「手術頑張ってね!」やら「復活待ってます!」とか嬉しいお言葉をいただきました ありがとうございます
義勝さんには「痔の手術するんだっけ?」鮪くんには「手術で取ったポリープ良かったら俺にちょうだい」という不思議なお言葉をいただきました
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— 三原 健司(フレデリック) (@kenditter) August 26, 2023
──(笑)。先程もお伝えしましたが、この5年でのフレデリックのライブ、健司さんのボーカルはとても素晴らしくて。この実績があれば、お客さんも「きっと大丈夫だろう」と思えるんじゃないかと。
健司:そうですね。自分たちが今までやってきたことが安心材料になったらうれしいです。だから、過度な心配はせずにいてほしいです。だけど忘れられるのは嫌やから、ちょっとだけ気にしていてほしい(笑)。ライブ活動は10月15日の『LIVE AZUMA 2023』から再開する予定で、11月25日からはフレデリックのツアーが始まります。未来では進化したフレデリックを絶対に見せたいと思っているし、自分たちはきっとそうするので!
▼ツアーに向けて意気込む、三原健司
チケット先行これでラストです
今回はいつものワンマンより音楽の浸透させることを考えてる
多分今までの流れとだいぶ変わってきます
休養しながらインプットしてレパートリー増やしておきます。
遊びに来てね https://t.co/gX7j0MmcSd
— 三原 健司(フレデリック) (@kenditter) August 24, 2023
▼三原健司「お前ホンマにポリープあるんか」
「三原健司今日のラッシュボール無理してないかな……?」という皆の不安を一気に解消したフレデリックのリハーサル映像 自分でもビビってるお前ホンマにポリープあるんか pic.twitter.com/eURygoCPBp
— 三原 健司(フレデリック) (@kenditter) August 26, 2023
▼『RUSH BALL 2023』で熱演!ファンの不安をパフォーマンスで一掃する
@frederic_tok
──ずっと忙しかったでしょうから、この機会にしっかり休んでくださいね。
健司:もちろんです!(笑)この間、コーネリアスのライブDVDを買ったんですよ。療養期間中にそれを観ようと思っているのと、メンバーからはマーベルシリーズを勧められていて。皆さんも、おすすめがあったらぜひ教えてください。
■細かいこだわりをしっかり伝えてくれるコンテンツ
──ここからは8月25日に音源の配信リリースをした『THE FIRST TAKE』についても聞かせてください。元々『THE FIRST TAKE』に対してどのようなイメージを持っていましたか?
健司:音楽で表現する人の細かいこだわりをしっかり伝えてくれるコンテンツだというイメージがありました。フレデリックは神戸のバンドなので、『THE FIRST TAKE』に早い段階で出演していた女王蜂とはライブで一緒になることが多かったんですよ。アヴちゃんの歌がめっちゃ上手いのは前から知っていたけど、いっぽうで、ライブでは気づききれないすごさもたくさん持っている人だとも思っていて。
──“神は細部に宿る”と言いますが、ライブは一時停止や巻き戻しができないし、熱気のある空間では観る側もどうしても興奮してしまうから、そういう環境で見逃されてしまう意匠もありますよね。
健司:そうなんですよ。しかも、バンドとなると、そのすごさがメンバーの人数分あるわけだから、かなり情報量が多くなるわけで。『THE FIRST TAKE』はそういう部分をしっかり伝えてくれるコンテンツやなと。だから『THE FIRST TAKE』を観た人が「アヴちゃんすごい!」と盛り上がっていたのもめっちゃわかるなと思っていたし、僕自身も「アヴちゃん、まだこんな魅力を持っていたんや」と改めて気づかされました。
▼女王蜂 – メフィスト / THE FIRST TAKE
■「オドループ」「スパークルダンサー」を選んだ理由
──演奏曲に「オドループ」と「スパークルダンサー」を選んだのは?
健司:さっき「4人でひとつのバンドを作っている」という話をしましたけど、今の自分たちは「4人で鳴らす音、一つひとつの細かいこだわりこそが、フレデリックの本質なんだ」という考えで。その上で「じゃあ、この4人で鳴らす意味の強い曲って何だろう?」と考えながら選んだのが、メジャーデビュー曲の「オドループ」でした。「オドループ」はライブでいちばん輝く曲なので、『THE FIRST TAKE』でもライブの熱量を伝えることを大事にしましたね。同時に、自分たちは「最新の曲が最高である」ということを大事にしているので、フレデリックの生き方を見せるという意味も込めて、2曲目には、今年リリースした「スパークルダンサー」を選びました。ホーン隊に入ってもらったのは「自分たちの音楽の可能性を広げたい」という想いからです。今回参加してくれたホーン隊の方々は、「ふしだらフラミンゴ」のアレンジでも参加してくださっていた方々なので、また一緒にやれてうれしかったですね。
■『THE FIRST TAKE』は“ライブをした”という感覚
──収録当日についても教えてください。
健司:緊張しましたが、最初だけだったかな? 自分たちだけじゃなくて、照明や音響、映像のスタッフさんももちろんいらっしゃったんですけど、「みんなでひとつのものを作るために一致団結しているこの状況、オンラインライブに似ているな」と途中で気づいたんですよ。それ以降は「じゃあ自分らは、伝えたいことを伝えるだけでいいんや」と思えたから気持ちが楽になったし、むしろ「今ここで作るものが世界に発信されるんや」とワクワクしました。メンバーは俺よりも先に答えを見つけてたみたいで、最初から飄々としてましたね。3人ともずっとふざけていたんですけど、康司がふざけていたのは印象的でした。康司って、自分がホームだと思ったところでしかふざけない人なんです。4人でいる時はだいたいふざけているけど、外では絶対にそういう姿を見せない。だからこそ「康司がふざけているということは、今、バンド全体がリラックスできているということか」という感じでバロメーターみたいになっているんですけど、そう考えると『THE FIRST TAKE』では本当にリラックスしてライブできたんだと思います。
──“ライブをした”という感覚なんですね。
健司:つい「ライブ」って言っちゃいましたけど、本当にそういう感覚で。「オドループ」の1番Aメロで自分が煽ったりしてますけど、僕の場合、ホンマに楽しくないと(煽りの)言葉がまったく出てこないんですよ。だから煽りにいけたというのも、自分たちが正直に音楽を鳴らせた証拠だと思います。「こんなことを言ったらメンバーが笑ってくれるかな」と、メンバーとコミュニケーションをとるような感覚で煽っていた記憶がありますね。
■その場の空気が反映される「オドループ」1番Aメロの煽り
──「オドループ」1番Aメロでの健司さんの煽りは、今ではフレデリックのライブで定番のシーンのひとつになっていますね。
健司:「なんか今待たれてるな」と感じた時は、あえて普通に歌ったりしますけどね(笑)。いつからそうなっていったのかは覚えていないんですけど、どこかのライブで突然喋り始めたら、ちょっとしたハラハラ感の中でライブできて、それがめちゃくちゃ楽しかったんですよ。だから「みんなをちょっと驚かせたい」「その驚きがバンドの推進力になるかも」みたいなところから始まっているし、「何か起こるんじゃないか」というハラハラ感がフレデリックのライブの面白さのひとつなんじゃないかと思ってます。タケちゃんがフィルをちょっと変えたり、康司や隆児がいつもとは違うフレーズを入れたりするのと同じように、自分の言葉もライブアレンジのひとつという感覚ですね。
▼フレデリック – オドループ / THE FIRST TAKE
──「スパークルダンサー」についてはいかがでしょう。先ほど話に出た、細部のこだわりが伝わりやすい曲ですよね。
健司:そうですね。ホーンアレンジがめちゃくちゃカッコ良いから、それだけで満足できちゃう曲なんですけど、その後ろにいるメンバーの演奏もエグいんですよ。だからホーンアレンジを堪能したあとは、意外とめっちゃ動いているベースや、ギターカッティングのキレ、ライブアレンジだからこそのドラムのグルーヴにも注目して聴いてみてほしいです。フレデリックって学生の方にコピーしていただける機会が少なくて。「なんでやろ?」と思っていたけど、「そっか、多分難しいんやな」とこの曲で初めて気づきました(笑)。
▼フレデリック – スパークルダンサー / THE FIRST TAKE
──『THE FIRST TAKE』出演後の反響も大きいようですが。
健司:実感してます。『THE FIRST TAKE』に今までなかったであろうライブ感を絶対に作りたいと思っていたので、それがたくさんの人に届いたのはうれしかったし、同世代のバンドマンから「めっちゃ良かった」「フレデリック以降『THE FIRST TAKE』の流れが変わっていきそうな気がする」という言葉をもらった時もうれしかったです。「『THE FIRST TAKE』を観た人に“ライブに行きたい”と思ってもらえたらうれしい」という気持ちがあったんですけど、実際に動画が公開されてからツアーのチケットの申込数が伸びたんですよ。自分たちはやりきったし、受け取ってくれた人がたくさんいたし、数字としてちゃんと結果も出たし、手ごたえはすごく大きいです。
INTERVIEW & TEXT BY 蜂須賀ちなみ
■楽曲リンク
2023.08.25 ON SALE
「オドループ – From THE FIRST TAKE」
2023.08.25 ON SALE
「スパークルダンサー – From THE FIRST TAKE」
ライブ情報
『FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “WELL 噛 ONE”』
[2023年]
11/25(土)神奈川・KT Zepp Yokohama
11/26(日)神奈川・KT Zepp Yokohama
12/03(日)福岡・Zepp Fukuoka
12/10(日)宮城・SENDAI GIGS
12/15(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
12/16(土)大阪・Zepp Osaka Bayside
[2024年]
01/12(金)愛知・Zepp Nagoya
01/13(土)愛知・Zepp Nagoya
01/21(日)北海道・Zepp Sapporo
【一般発売受付】
販売期間:9月2日10:00~
イープラス https://eplus.jp/frederic/
ローソン https://l-tike.com/frederhythmtour2023-2024
ぴあ https://w.pia.jp/t/frederic23-24/
『FREDERHYTHM TOUR 2023-2024 “WELL 噛 ONE”』特設サイト
https://frederic-official.com/feature/frederhythmtour2023_2024
プロフィール
三原健司(Vo、Gu)、三原康司(Ba)の双子の兄弟と、赤頭隆児(Gu)、高橋武(Dr)からなる4人組バンド。兵庫県・神戸にて結成。2014年9月24日にEP『oddloop』でメジャーへ進出。独特なユーモア性、そして幅広い音楽的背景から生みだされる繰り返されるリズムと歌詞は中毒性が高く、“忘れさせてくれない楽曲群”と話題に。どのシーンにも属さない“オンリーワン”な楽曲で、変化に挑み進化を重ねる。
フレデリック OFFICIAL SITE
https://frederic-official.com/