■「奇妙さん、今年25周年なんですよね?」(菅田将暉)「はい。猫やったら亡くなってますね」(奇妙礼太郎)
奇妙礼太郎が、音楽活動25周年というアニバーサリーイヤーを記念したスタジオアルバム『奇妙礼太郎』を6月21日にリリース。同日に東京キネマ倶楽部で行った「奇妙礼太郎 25th Anniversary Album『奇妙礼太郎』Release Special Live」のライブレポートが到着した。
アルバム『奇妙礼太郎』は、音楽活動25年で初となる奇妙自身がアルバム全曲の作詞・作曲に携わり、プロデュースは、黎明期より活動を共にする盟友、Sundayカミデ。「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」「春の修羅 feat. 塩塚モエカ (羊文学)」「HOPE feat. ヒコロヒー」のコラボレーションを含む全10曲を収録。奇妙の真骨頂とも言える、無駄な音を削ぎ落としたアコースティックな楽曲やブルージーな曲、軽快なスカ調の曲までバラエティに富んだ内容となっている。
本公演は、菅田将暉、Sundayカミデをゲストアーティストとして迎えた、一夜限りのスペシャルライブ。奇跡のコラボレーションが実現した「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」もライブ初披露となった。
【ライブレポート】
2023年、音楽活動25周年を迎えた奇妙礼太郎が、アルバム『奇妙礼太郎』を完成させた。本作は、初めて奇妙がアルバム全曲の作詞作曲に携わり、ゲストボーカルには以前から交流のあった菅田将暉、塩塚モエカ(羊文学)、ヒコロヒーが参加し、長年の盟友であるSundayカミデがプロデュースを務めた。6月21日、アルバムのリリースを記念して、東京キネマ倶楽部で「奇妙礼太郎 25th Anniversary Album『奇妙礼太郎』Release Special Live」を開催。ゲストには菅田、Sundayが出演するということで、大きな話題となった。
開演時間になり、まずは主役の奇妙がステージに現れた。大きな拍手に包まれるなか、中央の椅子に腰掛け、アコースティックギターを手にして「⻯の落とし子」の演奏を始めた。<潮風に流されて イタイケな少女の役><くだらないと 吐き捨てた 夕焼けには 雲ひとつ ない>。奇妙の歌には、言葉を紡ぐごとに聴く者の心のスクリーンに情景を浮かび上がらせる不思議な力がある。ここではない、どこか別の世界へ連れて行ってくれる。それは僕だけが体感したものではないのだと、観客みんなの恍惚とした表情を見て確信した。
3曲目「春の修羅」で空気は一変、ギターを力強くかき鳴らして激情的な雰囲気を創出。そして、次曲「HOPE」を演奏している最中に、ギターの弦が切れるというハプニングが発生。そのまま最後まで演奏をすると、奇妙はギターをスタッフに託し、横に設置されたピアノの前に座った。観客の視線が先ほどよりも集中するなかで、奇妙は目線を落とすと同時に鍵盤に指を置いた。<みんなが見てるその前で 二人にしかわからない 言葉で話をしよう>。「エロい関係」だった。これ以上ないその場にピッタリな選曲。立て続けに「十円の裏」を歌うと、観客も一緒になって合唱し、この日初めての沸点を迎えた。
ここで弦を張り替えたギターを受け取ると「touch my soul」を歌唱して、奇妙は静かに口を開いた。「ディズニーランド好きの友達と、“一緒に(ディズニーランドに)行こう”ということで朝10時から夜10時まで遊んだんです。行ったのがちょうど自分の誕生月で、友達がキャストの人にそれを伝えたら、メダルと胸元に貼るシールを渡されて。そしたら園内でキャストの人と会うたびに、すごい笑顔で“誕生日おめでとう”って声をかけられて。最初は照れ笑いしてたんですけど、生まれてきたことをただただ祝福してくれる言葉を何度もかけられるうちに、途中からだんだん重みを感じるようになって。なんか思わず泣きそうになって。どうにか最後まで泣くのを堪えたんですけど、出口のゲートに近づいたら、キャストの人が8人くらい並んでいて。そこを通ったら自分の精神というか、そういうものが崩壊するんじゃないかと思いました(照笑)。頑張って心を閉じていても、ハートに触れられることがあるよなって。そういうことを歌にした『touch my soul』を聴いてもらいました」と話すと、会場から温かい笑い声が聞こえた。続く「フレンズ」で観客が一緒になってサビを歌うと、「泣きそう! ディズニーランドみたい!」と再び会場全体に笑顔が溢れた。
10曲目「Vintage」は、東京キネマ倶楽部でワンマンライブをした日に、バンドメンバーの車が故障し、修理している様子を見ていたら生まれた曲だという。満月のような綺麗なライトを背負いながら歌うそのバラードは、原曲とは違う感触で胸にくるものがあった。奇妙の歌は、実際に起きた出来事を拡張して、それ以上の感動をもたらしてくれる。これは生まれ持った才能なのだと思う。
「いつも僕に楽しい話を聞かせてくれる人を紹介したいと思います」と言って、ゲストのSundayがステージに姿を見せた。登場するや否や、奇妙が時代劇でよく聞く「お主も悪よのう」のセリフが好きだと話し、ギターに乗せて「お主も悪よのう」と歌い始めたら、すかさずSundayもピアノで合わせて、そのままシームレスに「真夜中のランデブー」へ。ふたりだからこそできる“阿吽の呼吸”に惚れ惚れする。そしてふたりがトークを始めると、フロアから何度も歓声と拍手が起きた。
「ほんまにおいしいお好み焼き」でさらに場内の熱気は上昇し、「お好み焼き」のコール&レスポンスが生まれ、手を挙げる観客を前に「今、みんなが鰹節みたい」と笑みをこぼした。演奏が続くなか、奇妙が「Sundayさん、ヒップホップダンスを教えて」と急にお願いをすると「僕なりのでいいですか?」と言ってオリジナルのステップを踏み、先ほどよりも大きな歓声が上がった。その勢いを加速させるように「いつのまにか猫」で大きな興奮の渦を巻き起こして、ふたり目のゲスト・菅田が登場。
菅田が「今、袖で演奏を観ていたんですけど、最高でした! ついお好み焼きを食べたくなりました」と言うと、話はお好み焼き屋へ行ったらどんな順番で注文するのかの話題に。他にも、Sundayが2月に菅田の武道館公演へ行ったら、帰りに女性から話しかけられて、あとでそれが友人の妻だったことが判明した話など、まるで男子高校生の昼休みのような微笑ましい空気に包まれた。
そんな3人による1曲目は、Sundayが楽曲プロデュースを務めた菅田の楽曲「美しい生き物」。「3人で合わせてみて、どうでしたか?」と聞かれて、奇妙は「帰りたくないなって思いました」と言葉を漏らした。菅田が「奇妙さん、今年25周年なんですよね?」と尋ねると、奇妙が「はい。猫やったら亡くなってますね」と返し、Sundayが「そうかもね。猫なの?」と繋げて、奇妙が「人です(笑)」と答える。こうして映画『セトウツミ』のように、永遠と3人のラリーは続き、その様子を観客は嬉しそうに見ていた。
本編のラストに披露したのは、菅田がフィーチャリングで参加した「散る 散る 満ちる」。ハスキーがかった艶っぽい声の菅田、空を羽ばたく鳥のように優雅に歌う奇妙、ふたりの歌声に合わせて美しい旋律を奏でるSunday。演奏の素晴らしもさることながら、三者三様の個性と人柄が滲み出ているステージだった。
このまま観客が帰るはずもなく、すぐにアンコールが起きた。再び3人が姿を見せて、改めて奇妙と菅田の出会いについて振り返った。「テレビ番組(『行列のできる法律相談所』)の打ち合わせのときに“最近、奇妙礼太郎さんの曲を聴いているんです”と言ったんですよ。そしたらスタジオにご本人が現れて、しかも目の前で歌ってくださって、本当に大興奮でした」と菅田が話すと、照れくさそうな奇妙と、ニコニコしてるSunday。
いよいよ終演が迫り「最後はこの曲で…」と「君が誰かの彼女になりくさっても」を披露。その場にいた全員が、終わってしまう楽しい時間を惜しみながら、1音1音を噛み締めるようにステージを堪能した。楽しくて、温かくて、優しくて、綺麗で……そんな奇跡みたいな夜だった。
TEXT BY 真貝聡
PHOTO BY 村井香
<セットリスト>
1. ⻯の落とし⼦
2. ⼤事な話
3. 春の修羅
4. HOPE
5. エロい関係
6. 十円の裏
7. ONLY FOOL
8. touch my soul
9. フレンズ
10. Vintage
<奇妙礼太郎 & Sundayカミデ>
11. 真夜中のランデブー
12. ほんまにおいしいお好み焼き
13. いつのまにか猫
<奇妙礼太郎、菅⽥将暉 & Sundayカミデ>
14. 美しい⽣き物
15. 散る 散る 満ちる
アンコール
16. 君が誰かの彼⼥になりくさっても
リリース情報
2023.04.12 ON SALE
DIGITAL SINGLE「散る 散る 満ちる feat. 菅田将暉」
2023.05.17 ON SALE
DIGITAL SINGLE「春の修羅 feat. 塩塚モエカ (羊文学)」
2023.06.21 ON SALE
ALBUM『奇妙礼太郎』
奇妙礼太郎 OFFICIAL SITE
https://kimyoreitaro.com/