■「初めてなのに完全ソールドアウトの北米ツアー。本当に信じられないよ」(RADWIMPS・野田洋次郎)
完全ソールドアウトとなった、RADWIMPSの北米ツアーのファイナル、ニューヨーク公演のライブレポートとメンバーのインタビューが公開された。
【『RADWIMPS North American Tour 2023 4.30 / New York City / Palladium Times Square』ライブレポ―ト】
「1年半くらい前かな? このツアーを計画したときはこんなに多くのオーディエンスが来てくれるなんて想像もしていませんでした。たとえ会場に50人、100人くらいの人しかいなくてもベストを尽くそうと信じてこの北米ツアーを決めたんです。それが、結果的にこんなに素晴らしい光景をみんなが実現してくれました。初めてなのに完全ソールドアウトの北米ツアー。本当に信じられないよ」
ステージ上で野田洋次郎は噛みしめるようにそう言った。RADWIMPSが現地時間4月29日と4月30日の2日間にわたり自身初となる北米ツアーのファイナルとしてニューヨーク公演を開催した。この北米ツアーは日本を代表するロックバンドが、掛け値なしに世界規模で自らの音楽を響かせるという夢が現実のものとなった物語の第1章であり、未来を生きる日本人アーティストたちがそれを叶える可能性と間口をも広げる旅だった。
まず、記憶を2020年に巻き戻そう。本来、RADWIMPSはデビュー15周年を迎えたこの年に初のドーム公演を含む国内ツアーや北米を皮切りにワールドツアーを開催するはずだった。しかし、言うに及ばず新型コロナウイルスによるパンデミックが全世界を覆い尽くし、その全公演が中止となった。それでもバンドは折れることなく前進することを選び、間断なく新曲を発表し続け、2021年11月には10枚目のフルアルバムとなる『FOREVER DAZE』をリリースした。そして、2016年8月公開の『君の名は。』、2019年7月公開の『天気の子』に続き、2022年11月に公開された新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』のサウンドトラックも手掛けた。その後、同作は199もの国と地域で公開され、3月下旬に封切られた中国本土での興行収入は日本を上回る8億元(157億円)を突破するなど、世界中を席巻している。映画はメキシコで4月13日、北米では4月14日に公開初日を迎えた。4月16日にカリフォルニア州サンノゼからスタートしたRADWIMPSの北米ツアーは、まさに絶好のタイミングで開催されたことになる。ちなみにこの北米ツアー中に出た全米映画ランキングで『すずめの戸締まり』は7位にランクイン。約1年半前から北米ツアーのスケジュールが組まれたことを思えば、このタイミングの重なりもまた奇跡的と言っていい。
RADWIMPSの北米ツアーは、前出のサンノゼを皮切りに4月18日にロサンゼルス、22日にメキシコ、24日にシカゴ、26日・27日にカナダのトロントと、タイトなスケジュールで進行し、そして29日と30日のニューヨーク公演へ辿り着いた。特筆すべきは初の北米ツアーにして上記の全公演がソールドアウトになったこと。ほとんどが3,000~4,000人収容の会場で、なかでもロサンゼルス公演の会場となったYouTube Theatreは約6,000人キャパを誇るのだから、これは間違いなく快挙だ。さらにニューヨーク公演も当初は29日のみの開催予定だったが、早いタイミングでのソールドアウトを受けて、急遽30日も追加されたのである。
もちろん、この快挙の理由として一連の新海誠監督作品がもたらした影響の大きさは計り知れない。ただ、RADWIMPSが今回の北米ツアーで自らに課したこと、そして達成したことは新海誠作品という巨大な扉から入ってきた現地のオーディエンスたちをその独立した音楽力をもって引き込み、またいつか絶対に彼らのライブを体感したいと思わせた点にある。筆者がニューヨーク公演で目撃した熱狂は、その揺るぎない証左でもあった。両公演を観たうえ、この稿では主に2日目の模様を記していきたい。
会場のPalladium Times Squareはブロードウェイと44番街の角にあり、まさにニューヨークのど真ん中に位置するベニューだ。前方から中央にかけてスタンディングフロア、後方にはスロープ状に設置された椅子席がありライブハウスとホールが融合したような縦長の造りになっている。2,200人収容キャパで、オープン前から長蛇の列を成していたニューヨークらしい多様な人種のオーディエンスたちによって埋め尽くされた会場の光景は壮観だった。
開演時刻の20時を数分過ぎた頃に日本で言うところの前説=間もなくライブが始まるというアナウンスからオーディエンスは歓喜の声を上げ、オープンニングのSEとともにメンバーがステージに現れると、その様相は叫びに近いものとなった。
バンドの編成は野田洋次郎、桑原彰、武田祐介に森瑞希とエノマサフミのツインドラムを加えた5人編成。ここからヨーロッパ、日本国内のライブハウスツアー、アジアと続いていくためセットリストの詳細な記述は避けるが、新海誠作品の主題歌群を映像演出とともに要所要所に散りばめながら、RADWIMPSというロックバンドの肉体性を5人編成で際立たせるにはうってつけの構成だった。
序盤で披露された「グランドエススケープ」(『天気の子』主題歌)や「前前前世」(『君の名は。』主題歌)、終盤の「カナタハルカ」(『すずめの戸締まり』主題歌)における、イントロの時点で示されたオーディエンスのビビッドな反応に新海誠作品の影響力をまざまざと感じた。それと同時に、海外で目撃するライブだからこそ改めてRADWIMPSの楽曲がいかに繊細なコードや旋律、重層的な生楽器のアンサンブルとシーケンスの組み合わせによって編まれているかを俯瞰的に思い知るという新鮮さもあった。あるいはRADWIMPSがここまで強靭なグルーヴを湛えたバンドであることに驚きを覚えたオーディエンスも少なくなかったかもしれない。自らピアノを弾く楽曲を除き自由なフォームでステージを縦横無尽に躍動する野田と、下手側と上手側でそれぞれダイナミックにギター、ベースをプレイする桑原と武田のアクションに対してダイレクトに呼応するように会場の熱量は右肩上がりに上昇していった。特に「おしゃかしゃま」で野田が指揮者となり各パートのソロバトルが繰り広げられる日本ではおなじみのセクションでは、緩急自在のグルーヴを浴びてステージ横にいたセキュリティーさえも我慢できないとばかりに身体を大きく揺らしていて、非常に痛快だった。
「音楽は言語や国境の壁を越える」という言説は疑いようのない真理だと思うが、バンドがオーディエンスと温度差なく交歓するうえで、野田がネイティブといって遜色のない流暢な英語でメッセージを届けられるのも大きなストロングポイントだったと思う。
「昨日と今日のライブのこと、いや、この北米ツアーすべてのことを絶対に忘れません。こんなにオーディエンスの反応があることを想像していませんでした。僕らの想像をはるかに超えてます。本当に夢のようです。ありがとう。桑原と僕は22年前に出会ったんだけど、22年後にこうやってニューヨークでステージに立っているなんて、まったく想像してなかった。みんなのおかげです。これからも僕たちは音楽を作り続けます。その音楽でこれからもみんなを楽しませ続けたいと思うし、音楽とエンターテイメントで繋がっていけることを願ってます」
この日、RADWIMPSは、“ロックバンドなんてもんを やっていてよかった 間違ってなんかいない そんなふうに今はただ思えるよ”という歌い出しから始まる「トアルハルノヒ」も響かせたが、そこに込められたバンドの想いはどこまでもリアルな温度で迫ってきた。
オーディエンスが一体となった「ワン、モア、ソング!」の連呼に応えて、バンドは3曲のアンコールを演奏。ライブを終えると野田がフロア前方にいたオーディエンスからたくさんのメッセージが書き込まれたフラッグや星条旗を受け取り、メンバーは鳴り止まない歓声を背に名残惜しそうにステージをあとにした。
終演後、ドレッシングルームで10分ほどメンバーに話を聞くことができた。北米ツアーを終えたばかりの彼らの言葉を残し、このニューヨーク公演のライブレポートを閉じたいと思う。
【メンバーインタビュー】
――今日のニューヨーク公演を観ても明らかですが、間違いなく今回の北米ツアーに特別な手応えを覚えていると思います。ライブ直後ですが、その想いから聞かせてください。
野田 最初から最後まで想像を超える体験でしたね。全公演ソールドアウトしたことも最初は信じられなかったし、今日もお客さんの期待にちゃんと応えたいなと思いながらステージに立ってました。
武田 ニューヨーク公演も当初は1DAYの予定だったのが、チケットがすぐにソールドアウトして2DAYSやることができて。これだけ僕らを迎えてくれる人たちがいて、実際のその人たちを目の前にしてあれだけの熱量を浴びると、本当にグッとくるものがありましたね。
桑原 本当に最初に予想していた形とは180度違う反応があって。こんなに温かく迎えてもらえるとは思ってなくて、演奏する側としてもものすごくテンションが上がりましたし、本当にまた来たいなと思います。
――昨日と今日のニューヨーク公演はいろんな人種のオーディエンスが集まっていましたね。やはり各地でお客さんの層や反応に違いはありましたか?
野田 ニューヨークはやっぱり大都市なんだなって。今回の北米ツアーの中で日本人も含めていちばんアジア系の人がいて、ヒスパニック系の人も多かったという印象です。逆にメキシコ公演はほとんどメキシカンのお客さんで。シカゴもアジア系の人もいたけど、8割は地元の人だったと思います。各地でそれぞれ異なる空気感があって、どのライブも印象的でしたね。
――ツアー初日のサンノゼ公演はどうでしたか?
野田 前情報がなかったぶん、サンノゼがいちばん感動したかも。いきなりお客さんの熱量がすごかったから。
武田 サンノゼは野性的というと違うかもしれないけど、ダイレクトに「待ってました!」という反応を感じられて。そのあとのロス公演はまた都会的なお客さんだったという印象で、その違いも面白かったです。
野田 ロス公演はキャパが6,000人というアリーナ級に広い会場だったから、余計に俺らも探りながらライブをしてる感じはありましたね。
――本来であれば2020年7月に開催されるはずだった北米ツアーが、パンデミックを経て3年後の今、さらには『すずめの戸締まり』の北米公開タイミングと並走するように実現したことにも不思議な巡り合わせを感じていると思います。
野田 本当に。狙ってもできないタイミングだし、「そうか、こういうことだったんだな」と感じるところもあります。
武田 サンノゼに到着してからみんなで『すずめの戸締まり』を観に行ってね(笑)。
桑原 英語吹き替え版のほうをね(笑)。
野田 ライブのお客さんのリアクションからもすごいタイミングでツアーができてるなと思いましたね。あとは、バンドとしても映画から派生した以外の部分をしっかり見せたいという思いは今回のセットリストを作るときからあって。
――それはすごく感じました。RADWIMPSというロックバンドのダイナミズムを体現するという気概を持ったセットリストだなと。
野田 アフターで会った関係者やロスだったらポーター・ロビンソンも来てくれたんですけど、いかに俺たちがフィジカルなバンドとして面白かったかということを伝えてくれて。今日も現地でインタビューしてくれた人が言ってくれたけど、アニメファンの人たちが知らなかったRADWIMPSの部分を出せて伝わったという手応えがあったし、それはすごくうれしかったですね。
――今日もセキュリティーの人が音に反応してましたよ。
野田 受付の人も「めっちゃいいバンドだね」って言ってくれてたみたいで。
武田 うれしいなぁ。
――ここから海外はヨーロッパ、アジアツアーと続いていきますが、この北米ツアーで得たものをどうアウトプットしていきたいですか?
野田 ヨーロッパとアジアはさらに映画の熱がものすごいことになっているし、アジアツアーはほぼ全会場、2、3時間で即完しているので。ライブを観られない人のほうが多い状況だから、北米とはまた違う熱量で迎えられると思うんです。そこでもしっかり次に広げる種を植えられるようなライブをやりたいですね。
武田 ライブでヨーロッパに行くのは8年ぶりで。だいぶご無沙汰してますけど、『君の名は。』以降でRADWIMPSの存在を知ってずっと待ってくれていた人たちもいっぱいいると思うので。ようやく来れましたという思いをしっかり届けたいですね。
桑原 ヨーロッパツアーはまだ行ったことのないスペインでのライブもあるし今からすごくワクワクしてます。
――今後は日本と両軸で海外のオーディエンスと向き合う時間が増えていくと思います。そのうえでRADWIMPSとして実現したいことを最後に聞かせてもらえたら。
野田 「日本のバンドがここまでの規模で北米ツアーをやるのは奇跡的なことだよ」と現地の人が口々に言ってくれて。いろんなきっかけが重なって実現したツアーだったけど、こういうきっかけが繋がっていけば日本の音楽があたりまえに伝わっていくと思うし、それはものすごく大きなチャンスだと思うんですね。俺らはもう20代ではないし、40代に近づいていて。だから、RADWIMPSがどうこうというよりは、日本の音楽、日本の文化が持っている面白さをちゃんとした方法で提示すれば伝わるという前例になれたらいいなと思うんです。今はRADWIMPSがその役割の一端を担っているけど、ここから次々、ドバドバと日本のアーティストが世界に開いていくきっかけに確実になりたいし、そういう気持ちでこのツアーに臨んでますね。「日本を知ってくれてありがとう。ちょっと引っ込み思案で口下手だけど(笑)、面白い音楽やその他の文化がいっぱいありますよ」という感覚です。
――バンドやシンガー、ラッパーも含めて海外のオーディエンスに紹介したい日本のアーティストもたくさんいるだろうし。
野田 本当にそうで。「RADWIMPSが好きだったら、このアーティストもどう?」という思いがめちゃめちゃある。そういうことを実現したいですね。
――希望の間口が大きく広がる北米ツアーだった。
野田 うん。きっと「RADWIMPSができるなら、俺らも」って思ってくれる日本のアーティストはいっぱいいるだろうし、それってめちゃめちゃポジティブなことで。もしそのアーティストが20代とか、ましてや18歳くらいだったら俺はたまらなくうれしいです。20年前の自分が今のRADWIMPSの状況を見たら羨ましいと思うだろうし。だからみんなもどんどんチャレンジしてほしいし、俺らが伝えられることは全部伝えたいです。
TEXT BY 三宅正一
PHOTO BY Takeshi Yao
リリース情報
2023.04.18 ON SALE
DIGITAL SINGLE「KANASHIBARI feat.ao」
2023.04.19 ON SALE
Blu-ray&DVD『FOREVER IN THE DAZE TOUR 2021-2022』
『RADWIMPS European Tour 2023』詳細
https://radwimps.jp/live/14169/
『RADWIMPS BACK TO THE LIVE HOUSE TOUR 2023』特設サイト
https://radwimps.jp/backtothelivehouse/
『RADWIMPS Asian Tour 2023』詳細
https://radwimps.jp/live/14289/
RADWIMPS OFFICIAL SITE
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