■「それはまるで、巨大編成のロックバンドのライブを観ているかのような心地だった」(ライブレポートより)
4月1日、大阪発5人組ロックバンドNovelbrightが、パシフィックフィルハーモニア東京と共演し、一夜限りのスペシャルライブ『Novelbright Premium Symphonic Concert 2023』を開催した。
東京芸術劇場 コンサートホールのチケットは完売、荘厳なムードの漂う格調高い空間を、幅広い年代のファンが埋め尽くした。
TVアニメ『青のオーケストラ』(NHK Eテレ)のオープニングテーマとして間もなくオンエアが開始される新曲「Cantabile」を初披露するなど、アンコールを含め全16曲。大嵜慶子がこの日のためだけに手掛けたオリジナルアレンジで届けた。
まずは楽団員が続々とステージに登場。ファーストバイオリン奏者が立ち上がってピアノを一音鳴らすと、その音を基準に全員でチューニングを行った。ライブハウスに慣れた若い世代のファンにとっては、初めて見る新鮮な光景だったかもしれない。3年にわたったコロナ禍の規制はようやく緩和されてきているが、この公演は基本的に着席指定での観覧となる。それでも、ステージを見つめる観客からは、高揚した気配を感じ取ることができた。
客電が消えて大嵜が加わり、立ったままピアノを弾き左手では指揮をして、メジャーデビュー曲「Sunny drop」をアレンジした「OVERTURE」をオーケストラが奏で始める。そこへメンバーが姿を現すとひときわ大きな拍手が起きて、山田海斗(Gu)、ねぎ(Dr)、圭吾(Ba)、沖聡次郎(Gu)が位置に付いたところで竹中雄大(Vo)が登場。スーツやジャケットなど、普段とはひと味違ったシックな装いに目を奪われた。
ストリングスの響きとピアノイントロに導かれて、1曲目の「ライフスコール」をしっとりと歌い始めた雄大の第一声からは、心なしか緊張感が伝わって来る。Bメロに突入し情熱的な赤いライトにステージが照らされると、後列の管楽器奏者らがクラップをし始める。思いもよらない演出に、会場は一気に晴れやかなムードに包まれた。観客もクラップし始め、雄大も自ら肘を叩いてさらに盛り上げていく。歌い終えて背を向け、パワフルなドラミングを笑顔で繰り出していたねぎと至近距離で向き合って、大きく両手を広げた雄大。その姿は、オーケストラらとNovelbright全員の鳴らす音を全身で受け止めているように見えた。
生命力に満ち溢れた1曲目には大拍手が送られ、終わるとすぐ、イントロに乗せて「今日は初めてのフルオーケストラとのライブです、いつもと違う感じだけどよろしく!」(雄大)と煽り、次曲「開幕宣言」がスタート。海斗はアコースティックギターとエレキの2台を駆使してプレイ。オーケストラとバンドの音が心地良く混ざり合っていく。
ピアノから始まりストリングスが忍び寄るように加わった「seeker」は、主題歌を務めたドラマのミステリアスな世界観を一瞬で思い起こさせた。圭吾はプレイもパフォーマンスも激しくダイナミック。聡次郎はギターのネックを天に突き立てるように仰け反る大胆なアクションを見せ、熱く昂っている。雄大のロングトーンは圧巻で、会場からは自然に拍手が沸き起こった。序盤3曲、もともと含まれていたストリングスパートが、重厚なフルオーケストラ生演奏によって立体感を増し、曲の理想像が初めて現実となって目の前に立ち現れてくるような感動を覚えた。
結成10年を今年迎える旨を語りながら、「フルオーケストラとお届けするのは、今日が初めて。記念すべき日に来てくれてありがとう」と感謝を述べた雄大。着席指定で、ライブハウスとは客席のムードも何もかも異なるため、「余所行きな感じ?」と雄大が語り掛けると、圭吾は「緊張する」と笑顔を見せていた。ピアノ演奏に乗せて、「新曲やっちゃいます!」と告げると大きな拍手が起きて、「もうすぐ放送されるアニメ『青のオーケストラ』の主題歌です」(雄大)と語り、「Cantabile」を初披露。切なさを帯びつつも明るくキャッチーなメロディに、管楽器の奏でる旋律が歌うように寄り添っていたのが印象的。強弱のメリハリに富む、華やかで壮大なオーケストレーションに聴き入った。
「優しさの剣」は感情のピークがずっと続いていくような歌と演奏で心を揺さぶり、ハープで締め括ったアウトロのアレンジは特に、鳥肌が立つほど美しかった。その余韻から、雄大の口笛で始まった「また明日」は、艶やかなストリングスサウンドが響くなか、聡次郎の渋いギターフレーズが哀愁を際立たせた。「ハミングバード」では、聡次郎がクラップを誘導。ねぎのドラムとティンパニが大地を踏みしめるように力強く絡み合い、バンドとオーケストラがひとつの塊になったかのように、緩急のメリハリのあるパフォーマンスを繰り広げた。Novelbrightのロックバンドとしての骨太さはそのままに、オーケストラの多彩な楽器の音色が加わることで、感情の起伏がより増幅されて伝わって来るのだった。
着席指定ということで、ジャンプは禁止されているが、雄大は椅子に座ったままでの盛り上がり方をユーモラスに実演、お手本を示すと観客からは笑いが起きた。「オーケストラのコンサート行った、という人います?」(雄大)と質問すると、挙手した人は少なく、Novelbrightにとっても来場者にとっても、このコンサートはメモリアルなものになることが予想された。大嵜は、オーケストラの総勢を雄大に尋ねられると、約60名と答え、今日1日のためだけに全曲をアレンジしたとを明かし「オーケストラの音も楽しんでください」とコメント。贅沢な一夜であることを改めて感じさせた。
ピアノイントロにストリングスのピチカートが軽やかに鳴り、ねぎがスティックを叩き合わせてハンドクラップを誘って「愛とか恋とか」を披露。「夢花火」ではステージが青い光で染められ、チャイムとハープの音色が幻想的な美しさを醸し出した。ロマンチックなムードが会場を包み込んだところで、満を持して「ツキミソウ」を届けると、オーボエ、ファゴットの温もりのある旋律が歌に寄り添っていく。アカペラ独唱でも成立するパーソナルなバラードだが、広大な情景が脳裏に浮かんでくる構築美を誇るオーケストレーションによって、この曲があらたな顔に出会うことができた。
ここで、来場者の年齢層をアンケートするMCが繰り広げられた。メンバーと同年代の20代が中心層だったが、10代から60代までどの年代も挙手があり、最年少は9歳、最年長は80歳という実に幅広い年齢層が足を運んでいた。手を挙げたお客さんに話し掛けてコミュニケーションを取り、笑いを巻き起こして場の空気をほぐしながら、ライブは終盤を迎えていく。ここからはアップナンバーで盛り上げていった。
ストリングスの伸びやかな音色が心地良く響いた「ラストシーン」では、雄大がステップを軽やかに踏んでダンサブルに歌い、ファンはクラップを鳴らして想いを表現した。「ジャンプはできないですけど…」(雄大)とイントロに乗せて語り、「青春旗」に突入。ステージを行き来してファンに語り掛けるように歌い、晴れやかな表情で生き生きとパフォーマンスした。この曲あたりから、楽団員たちはまるでNovelbrightのメンバーとして加入したかのようなエネルギッシュな演奏を聴かせていく。それはまるで、巨大編成のロックバンドのライブを観ているかのような心地だった。雄大の動きを全員が見つめてタイミングを揃え、次曲「Walking with you」へとピッタリな呼吸で鮮やかに突入した。
チカチカと明滅するライトに照らされながら、メンバーはターンするなどダイナミックにパフォーマンスし、最高潮の盛り上がりを迎えた。特大の拍手が送られると、ピアノ、ファゴットの音色が重なり合って「Photo album」が始まり、海斗のギターアルペジオがそっと加わっていく。ピアノとハープに乗せた雄大の独唱が印象的で、アンサンブルはエモーショナル。冒頭へと再び戻っていくような曲の終わり方も美しく、奥行きのある世界観で魅了した。
オーケストラの演奏に乗せて、雄大は熱い想いを力強く語った。フルオーケストラとの初共演にあたって、「やったことのないことばかりだったので、試行錯誤してギリギリまで調整して臨みました」と、このステージが実現するまでの道程を明かし、「総勢60名、ひとりがミスしただけで事故になる。関わってくれたすべての人に感謝します」と、苦労も忍ばせる。コロナ禍の規制が3年にわたり続いてきたことにも触れ、「日々闘って来たけど、『やっとここまで来たんだよ』と噛み締められる今日みたいな瞬間。マジで『生きてきて良かったな』と思いました」と喜びを嚙み締めた。
「皆がいないと成立しないですから。来てくれてありがとうございます」と、日々闘いながらライブに来てくれたファンに語り掛けていく。悩みごとが多く、躓いたり悩んだりすることもある、と率直に打ち明けながら、「その繰り返しが人生」だ、とも。「これから先も、悩んだりくじけそうになったり、つらいときは、しっかり僕たちの音楽で皆の心を少しでも笑顔にして。『Novelbrightのライブを今日観たから、明日から頑張っていきたいな』と思ってもらえるような、そんな温かくてデッカいバンドに、今年はしっかりなろうと思います!」と宣言した。
「来週からツアーが始まりますが、今までたくさん皆にもらってきたから、同じ時代に生きてこられてよかったなっていう喜びをしっかり噛み締められるように、俺らも精一杯頑張っていこうと思う」と決意表明。「またライブでお会いしましょう!」と呼び掛けて、本編ラストは「拝啓、親愛なる君へ」を渾身の歌と演奏で届けた。オーケストラの面々はNovelbrightに拍手を、観客はスタンディングオベーションを送った。
大きな拍手のなか、メンバーは再登場すると、「1曲だけやらせていただきたいんですけど、その前に写真撮っちゃいましょう」と、観客を背に記念撮影。ねぎがマイクを通さず大声で合図の声を叫ぶと、「ネギくん、大声大会出てほしい(笑)」(雄大)と笑わせるひと幕も。
雄大は、バンド結成10年の歴史に想いを馳せて、熱く語り始めた。自分自身が好きなアーティストの曲に対して「この曲は高校生のときに聴いたな」とか「オーディションを受けて落ちたときに聴いたなとか、1曲1曲に想い出があって、『自分の人生が刻み込んでいってるんだな』と感じることが最近すごく多くて。自分たちも歳を重ねていくなかで、そういうものが年々増えていっているんですよね。Novelbrightのファンも、毎年歴史が生まれていって積み重ねていって、『仕事でつらいときに聴いてたな』とか『楽しいときに聴いたな』とか。バンドって、音楽は続けていけばいくほど味が出て、皆といろんな想い出を共有できるから本当にめちゃめちゃいいなと思いました」とコメントした。
その時々の想いをドキュメントして曲が生まれるため、ここ3年の間にリリースした曲はその重みが反映されているかもしれない。しかし、「これから先はきっと、この3年間よりも明るい曲になっていくんじゃないかなと思います。これからもしっかり皆さんと1曲1曲に想い出を刻み込んで、もっともっと笑い合えるように一緒にいい年を刻んでいけたらいいなと思ってます」と前を向いた。
そんな想いを携えながら、最後にファンに届けたのは「流星群」。星空のような光の模様が会場の壁に映し出され、客席にもスマートフォンの光で星空が作り出された。歌い終えたアウトロに乗せて、ほとんどシャウトに近い力強い口調で雄大は感謝を述べ、「最高過ぎる素敵な景色を見せてくれて、今日はありがとうございました、Novelbrightでした!」と叫ぶと、オーケストラとバンドは渾身の力を出し切って最後のアンサンブルを響かせた。再びスタンディングオベーションが起き、拍手喝采の中メンバーはステージを後にした。
フルオーケストラとの初共演コンサートは、MCにあったように“余所行き”のムードになるかと予測したが、Novelbrightの楽曲は、オーケストレーションと想像以上に似合っていた。パシフィックフィルハーモニア東京の奏でる多様な楽器の音色は、歴史と伝統、壮大なスケール感を誇りながらも瑞々しかったのも印象的。Novelbrightのロックバンドとしてのスピリットと溶け合って、全体でひとつの生き物として呼吸をし、熱いエネルギーを放出しているように感じられた。
大嵜のアレンジは、楽曲のコアを尊重した上で、繊細な感情表現をより鮮明に描き出し、オーディエンスに届けることに成功していた。何よりNovelbrightのメンバーは全員、格調高い雰囲気に押されることなく、伸びやかに音楽を楽しんでいたことが忘れられない。この新しい試みで得たことは、彼らの糧となったはずである。
4月7日のZepp Fukuokaを初日に、4ヵ月にわたり19ヵ所を巡る全国ツアー『Novelbright LIVE TOUR 2023 〜ODYSSEY〜』が始まる。さらには、結成10周年記念ライブとして、9⽉24⽇の⼤阪城ホール、10⽉15⽇の横浜アリーナ公演の開催が追加発表されている。2023年の彼らは、いっそうの飛躍をするに違いない。
TEXT BY 大前多恵
PHOTO BY KEIKO TANABE
<セットリスト>
M.0 Overture
M.1 ライフスコール
M.2 開幕宣言
M.3 seeker
M.4 Cantabile
M.5 優しさの剣
M.6 また明日
M.7 ハミングバード
M.8 愛とか恋とか
M.9 夢花火
M.10 ツキミソウ
M.11 ラストシーン
M.12 青春旗
M.13 Walking with you
M.14 Photo album
M.15 拝啓、親愛なる君へ
EC.1 流星群
リリース情報
2023.03.15 ON SALE
DIGITAL SINGLE「嫌嫌」
Novelbright OFFICIAL SITE
https://novelbright.jp/