■「私が今回のショーでやりたかったのはこれです。みんな飾らなくてもダイヤのようにきれいだと伝えたくて、この方法を取りました」(ちゃんみな)
ちゃんみなが、3月21日、横浜アリーナにて、自身初の単独アリーナ公演『AREA OF DIAMOND』を開催した。
客電が落ちると、会場には教会音楽を思わせるBGMが流れ、ステージからフロアに向けて放たれる照明の影で、ステージ上に巨大なオブジェがあるのがぼんやりと見える。ややあってステージが照らされると、そこにはふたりのバイオリニストが。その奥には3段に組まれた岩場のセットと、中央に設置された高さ3.6メートル幅5.4メートルの巨大なダイヤモンドのオブジェがそびえ立っている。バイオリンがしめやかな演奏を始め、フロア後方からは白い修道服に身を包んだ聖歌隊がそろそろと登場してステージへと向かう。
厳かな演出のなか、ドラムやギター、聖歌隊のコーラスなどがバイオリンに重なり、徐々にフロアのムードがドラマチックに膨れ上がっていく。ステージには34名もの聖歌隊が上がって群衆となった。ダイヤのオブジェは光り輝き、その上に、まるで聖火台に炎が灯るように、銀色に輝くフード付きの衣装に身を包んだちゃんみなが登場し、「PAIN IS BEAUTY」を歌い出す。満員の横浜アリーナには割れんばかりの大歓声が響きわたった。
2曲目の「KING」でちゃんみながステージに降り、フードを外して顔を見せると、フロアの熱はさらに高まる。衣装を脱ぎ、アイシーなドレス姿になって「FXXKER」「I’m a Pop」「Picky」とたたみかけると、早くもフロアの空気は最高潮に。「踊れ!」というちゃんみなの言葉に呼応するように、オーディエンスは身体を揺らしながらピンクとブルーのペンライトを振り、声援を送った。
「ようこそ『AREA OF DIAMOND』へ。やっとこの日を迎えることができました。本当に久しぶりにみんなの声が聴ける。会いたかったよ! 今日のセットリストはみんなと歌う前提で組んできたけど、みんなの歌聴かせてくれますか?」という呼びかけに、満員のオーディエンスは大歓声で応える。
「ハレンチ」や「GREEN LIGHT」では大合唱が起き、ちゃんみなとオーディエンスとのコール&レスポンスが起きる。「Rainy Friday」では恋人役のダンサーとアクロバットでセクシーなダンスを繰り広げ、ドレスを脱いでヌーディーなラインストーンがあしらわれたボディースーツ姿になると、フロアからは悲鳴のような声も上がる。続く新曲「You Just Walked In My Life」では、ダブルリング使ったパフォーマンスでオーディエンスを魅了した。これまでにもライブではエアリアルを取り入れてきたが、今回は、1本のロープに2人のエアリアルダンサーと一緒に吊られる大技を披露。3人の女性が宙に舞うさまを、多くのオーディエンスが息を飲んで見守った。
「Mirror」ではLEDスクリーンにMVのメイキングが流れたあと、ステージも明かりがつくも、そこにちゃんみなの姿がない。一瞬、多くのオーディエンスの頭の中が「?」で埋まるも、「間に合わない〜! どうしよう、ステージってどっちですか?」というちゃんみなの声が聞こえる。一部のオーディエンスが歓声を上げ、やがてその歓声が大きくなっていく。フロア後方から、ポップな衣装に着替えたちゃんみなが自転車に乗って登場したのだった。フロアを自転車で駆け抜けるちゃんみなとのあまりの近さに、近くにいたオーディエンスは大興奮で、その興奮は雪崩のように広がっていった。ステージでは演劇風にMVを再現すると、やがてセットは東京の夜景を再現したセットに変わり、「東京女子」を披露。続く初期からの人気曲「CHOCOLATE」ではイントロから大合唱が起き、フロア全体が一体感で包まれる。これにはちゃんみなも「1ヴァース目をあんなにみんな歌えると思わなかった、すごい! 最高だよ、みんな!」と驚いていた。
最高な演出はまだまだ続く。「Holy Moly Holy Night」では、ちゃんみなの親友のひとりであり、アーティストとして尊敬するSKY-HIがスペシャルゲストとして登場。まさかのゲスト出演に、フロアからは物すごい声援が飛ぶ。プロデューサーとしても大活躍中のSKY-HIとは「みっくん」「みな」と本名で呼び合う仲。付き合いの長い友人だからこその息の合った掛け合いや本格的なペアダンスを披露した上、普段の会話そのままのMCも大いに盛り上がった。
「ボイスメモNo.5」ではイントロからクラップが起き、その後、黒いドレスに着替えて雰囲気を一変させた「MY NAME」から「ダイキライ」へ繋ぐメドレーでは、ステージからどぎついレーザーを飛ばし、絶叫に次ぐ絶叫でフロアをトランス状態にさせる。
オーディエンスを温め切ったところで、韓国でのデビュー曲となった「Don’t go feat. ASH ISLAND」を披露。この日、2人目のゲストとしてASH ISLANDが登場。このライブのためにわざわざ韓国から来日したのだという。ASH ISLANDとちゃんみなは気持ちの乗った熱い掛け合いを披露し、さらにはASH ISLANDの代表曲であり、ちゃんみなのフェイバリットソングだという「MELODY」をふたりで美しく歌い上げ、韓国エモラップの最先端を見せつけた。
これまでちゃんみなのワンマンライブでは、ゲストを呼ぶことはほとんどなかった。今回2人もゲストを呼んだ理由について「大切な人が増えてきて、それが私にとって幸せなことだから、今回は呼びたいと思ったのかな」と語った上で、「でも、この曲はみんなと一緒に歌いたいんです。この曲を作るとき、みんなのことを思い浮かべていました」と、2022年に発表した「TOKYO 4AM」を披露。会場がハッピーなムードに包まれ、そのまま「Angel」へと突入してさらに大合唱が起きる。
ここまでで、すでに物すごい熱気と情報量のライブが繰り広げられていたが、本公演のクライマックスはこのあと、訪れた。
会場が暗転すると、いくつものカメラのシャッター音が鳴り響き、ステージに女性ダンサーがひとり、またひとりと現れ、中央のランウェイをウォーキングする。まるでニューヨークのボールルームのようだ。総勢19名の女性ダンサーたちと共に迫力ある美しい演出で「美人」をパフォーマンスすると、曲の途中でマイクを置き、その代わりにコットンを手に取り、左目のメイクを落とし始める。フロアからは驚きの声が上がるが、さらに右目、唇、そして顔全体と、ちゃんみなはメイクを落としていく。フロアを埋め尽くす困惑と驚きの声は次第に称賛へと変わり、ちゃんみなが素顔になった頃には、物凄い歓声と拍手で横浜アリーナが埋め尽くされていた。
「私が今回のショーでやりたかったのはこれです。みんな飾らなくてもダイヤのようにきれいだと伝えたくて、この方法を取りました。ここからは、あなたがなりたいものになってください。何にも囚われず、失敗を恐れずに突き進んでください」
そう語るちゃんみなにはこの日いちばんの大歓声が送られ、また、多くのオーディエンスの予想を超える演出に、曲が終わってもフロアのどよめきは収まらなかった。
だが、驚きはそれだけではない。「私は今回、もうひとつの夢を叶えました」と、自らのレーベル「NO LABEL MUSIC」(ノーラベルミュージック)の立ち上げを発表したのだ。ちゃんみなは、自分が韓国人でも日本人でもなく、HIPHOPでもRockでもPopでもなく、またはそのすべてであることにコンプレックスを抱いていたのだという。そしてそんな自分を受け入れてくれたのはいつも音楽だったという。「自分のように、何かに縛られない人を応援したり、縛られない自分を自由に遊ばせたりするために」レーベルを立ち上げたのだという。
さらには、4thアルバムの完成だ。4月26日にリリースされることが発表された『Naked』と題されたアルバムは、彼女がどんな人間だったのか、現在どんな人間であるのかを表現した作品なのだという。そのアルバムに収録されるという新曲「I’m Not OK」で本編を締め括る。
「コロナ禍の2~3年間、私、大丈夫じゃなかったんです。みんなに会えない間、ちょっとおかしかったんです。今思えば辛かったんですね。でも、大丈夫じゃないって言っていいんだと気付いたんです。みんなも無理しないで、大丈夫じゃないって言っていいんだよ。今からやる新曲は、そんな曲です」
そうして歌われた「I’m Not OK」はゼロ年代の海外ロックを思わせる新曲で、全編英語で歌われたが、スクリーンには「私は大丈夫じゃない」「でも心配しないで、やっと言えたから」「大丈夫じゃないと言えたから大丈夫」と日本語の歌詞が表示される。力強いメッセージに、フロアからは大きな拍手が起きた。
アンコールは人気曲の「Never Grow Up」からスタート。感極まって涙をこらえきれないちゃんみなの代わりに、オーディエンスがAメロやBメロを歌う。ごめんね、というジェスチャーを見せるちゃんみなだったが、フロアからの大合唱は、こうした壮大なライブを届けてくれたことへのオーディエンスからの感謝の歌のように聞こえた。
ちゃんみなが最後に仕込んだサプライズは、次に歌われた2回目の「美人 (Remix) feat. Awich」だった。ここで最後のゲストとしてAwichが登場し、まさかの展開に、地鳴りのような大歓声がアリーナに響く。Awichによる、刺すような、それでいて力強く鼓舞するようなヴァースが「美人」に加わり、この曲がもつ本質的なメッセージをさらに増幅させたRemixバージョンで、本ライブに強烈なスパイスが差し込まれた。
そしてラストは「花火」をエモーショナルに歌い上げ、「みんなをもっともっと大きいところに連れて行くと約束します」と宣言し、大歓声に包まれてライブは終わった。
ちゃんみなは、2021年の単独日本武道館公演にて、2018年から続けてきた『THE PRINCESS PROJECT』を終結させた。その後、韓国でのデビューといくつかの新曲をリリースさせるなど、自身の活動をあらたな章へと突入させようとしているわけだが、本公演はその幕開けとしてふさわしいものだった。
SKY-HI、ASH ISLAND、Awichといった、ワンマンというよりはフェスではないかと錯覚するような豪華なゲスト出演は今後の活動の広がりを期待させるし、自主レーベル「NO LABEL MUSIC」の設立に4thアルバム『Naked』リリースの発表など、今後ますます目が離せない展開が続く。
メイクをオフにする「美人」のパフォーマンスに象徴されるように、人は誰もがダイヤの原石であること、その美しさに優劣はないこと、その人だけの独自の形や輝きがあることなど、数々の力強いメッセージを投げかけ、『AREA OF DIAMOND』に関わったあらゆる人々を肯定する力強いライブで、ちゃんみなは自身の第2章の幕開けを高らかに宣言したのだった。
TEXT BY 山田宗太朗
PHOTO BY 田中聖太郎
リリース情報
2023.03.08 ON SALE
DIGITAL SINGLE「You Just Walked In My Life」
2023.04.26 ON SALE
ALBUM『Naked』
ちゃんみな OFFICIAL SITE
https://chanmina.com/