クラシック楽器の生演奏と、ゲストアーティストの生歌で、その日限りのコラボレーションを届けるYouTubeチャンネル『With ensemble』。演奏する楽曲も、この日のためだけにリアレンジされ、巧みな演奏と歌声のスペシャルな出会いを収めるこだわりようだ。今回はそんな『With ensemble』を解説していく。
■『With ensemble』とは?
◎ヒストリー
2021年6月、優里がピアノとストリングスで構成する「ドライフラワー」を披露したのを皮切りに、様々なアーティストとアンサンブルの共演を届けてきた。
2023年3月現在、その数は60本を超える。また動画での配信だけでなく、有観客イベント『LIVE With ensemble』も2度にわたり実施。卓越したアンサンブルとボーカルによる刹那的な共演は、本来のオリジナルにはない表情を引き出す恰好の機会となった。
◎メンバーとこだわり
『With ensemble』の魅力は、楽曲を本来の姿からあらたな世界へ誘う、“スペシャル感”にある。楽曲の世界観を第一に考え、演奏メンバーはつねに流動的。ピアノや弦楽器、管楽器など、様々な楽器のプロフェッショナルが集っている。
例えば、ひと通りの楽器を揃えた室内オーケストラのようなオーソドックススタイルの時もあれば、フルート2本・ギター2本というベース不在の稀有な組み合わせや、弦楽器と管楽器からかいつまんで今までにないアンサンブルの編成になったり、時にはコーラスを交えて華やかに仕立てることも。
そしてアレンジャーも毎回異なり、ゲストボーカルの歌声、そして楽曲のあらたな一面を引き出すべく、一曲一曲挑戦を続けているのだ。
アーティストごとに共演する演奏者や編成、アレンジャーが違うのは、それぞれの声色や楽曲をより魅力的に引き立てるためのベストコンディションはまったく異なるからだ。
その場限りならではの緊張感と繊細さを伴ったステージ、毎度異なるアレンジャーによる特別なアレンジ。その貴重な一回のために用意されたサウンドとロケーションこそが、『With ensemble』のこだわりなのだと言える。
■スタッフも一流揃い
プロデューサー:常田俊太郎
1990年生まれ。millenium paradeのメンバーであり、ヴァイオリニストとして活動している常田俊太郎。自ら表に立ち演奏者や編曲者として活動するだけでなく、“アートの価値を、テクノロジーで解き放つ”をミッションに掲げている株式会社ユートニックの役員も務めるなど、多彩なアプローチでアートやエンタメ領域に携わっている稀有な存在だ。
クリエイティブディレクター:林響太朗
1989年生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコースを卒業後、アートやデザインなどあらゆるクリエイティブを生み出す『DRAWING AND MANUAL』に参加。星野源や緑黄色社会、アイナ・ジ・エンドなどのミュージックビデオを手がけるなど、エンターテインメント業界などで幅広く独自のクリエイティブを発揮している逸材だ。
音楽監督:徳澤青弦
1976年生まれのチェリスト、作曲家、編曲家。チェリストとして様々なアーティストのサポートを行なっているほか、舞台における音楽制作や番組への音楽提供、Eテレ『ムジカ・ピッコリーノ』への出演、また映画『君の名は。』『天気の子』(いずれも新海誠監督)の音楽のオーケストレーションを担当している。
■YouTubeからリアルへの展開も
YouTubeでの動画公開のみならず、東京・南青山にあるジャズクラブ・ブルーノート東京で有観客イベント『LIVE With ensemble』を2度にわたり開催。クラシック楽器とアーティストの歌声が重なり合うグルーヴ感や美しさを、身をもって堪能できる場となった。
1回目はモノンクルとOmoinotake、そして2回目はyamaと崎山蒼志が登場。弦楽四重奏とピアノのアンサンブルと共に、それぞれの楽曲をその日限りのアレンジで歌い上げた。作品のカラーや声色はそれぞれまったく違うのに、アーティストごとのバトンタッチは非常にシームレスだったのも興味深い。巧みなアンサンブルによって、会場の空気感とサウンドが溶け合った結果だろう。
動画コンテンツでも『With ensemble』は十分楽しめるものの、やはりリアルの会場に観客が入れば空気の流れは変わり、それが演奏にも伝播する。そんなデリケートな変化こそが生演奏の面白さであるわけだが、どんなライブよりもそれがダイレクトに楽しめるイベントになった。
■歌声、音色に引き込まれる、厳選5曲
「ドライフラワー」優里
『With ensemble』の記念すべき初回を飾った「ドライフラワー」。アレンジ版では、ナチュラルなバンドサウンドからピアノとヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのクラシカルな編成に様変わり。オリジナルでは、愛する人のもとを離れた葛藤を滲ませた優里の歌声が、アレンジ版では大らかなストリングスに包まれることでいっそう伸びが良くなり、それと同時に人間の根底にある寂しさや弱みが垣間見える。切なく、やるせない想いを綴った歌詞も相まって心をくすぐる。
「春を告げる」yama
2020年4月にリリースされた、yamaのデビュー曲。カラフルな音の数々によるスタイリッシュな打ち込みサウンドのオリジナルから一変し、『With ensemble』ではウキウキと跳ねるようなピアノと弦楽器で象られた。目まぐるしく展開していく躍動感あるクラシック楽器と、音数も多くテンポの速く歌い回す必要のあるボーカルパート。一瞬でも息を抜けば形が崩れてしまいそうな緊張感を伴いながらも、そのスリリングなドライブこそがグルーヴを作り出していて、聴きながら思わず体で音楽を刻みたくなる。
「ORION」中島美嘉
2008年11月にリリースされ、今なお愛され続ける中島美嘉の代表曲のひとつ「ORION」。『With ensemble』ではヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノの編成でアレンジされた。前半部分ではストリングスのハーモニーの緻密な移り変わりに呼応するように歌声も表情を変え、後半部分では煌めくようなピアノの音色が登場し、それに身を委ねるように自由さを増す。キャリアを重ね、深みを増した歌声も、アンサンブルの動きによって自在な可変性を見せる。まだまだあらたな歌声が聴こえてきそうで、必死に耳をそば立ててしまうパフォーマンスだ。
「Caffeine」秋山黄色
1stアルバム『From DROPOUT』収録曲。オリジナルでは、アコースティックのバンドサウンドが打ち込み的に使用され、独特のビート感を生み出しているが、『With ensemble』ではバイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ピアノの5重奏とのアンサンブルが繰り広げられる。鋭いサウンドメイクはそのままに、打ち込みにはないアコースティックならではのある種の不安定さを秘めながらも、徐々に重厚さを増して音楽を盛り上げていく様に圧倒される。秋山黄色の歌声はオリジナルよりも感情的で、詞の思いの丈を叫ぶような場面も。繊細な息遣いにすら迫力を感じさせ、ライブならではの魅力が詰まっている。
「EVERBLUE」Omoinotake
2021年9月にリリースされ、アニメ『ブルーピリオド』の主題歌にもなった「EVERBLUE」。物語の内容にピッタリと合致するかのように、青い日々の葛藤が鮮やかに疾走感を伴って表現されている。『With ensemble』では生気あるストリングスとピアノ、そしてリズミカルなアレンジを支えるパーカッションも加わり、オリジナルよりも落ち着いたテンポながらも、推進力は失われていない。溢れんばかりの情が込められ、繊細な感情もリアルに表現できる藤井レオの歌声は、実はアコースティックとの共演やライブの時に何倍もその力を発揮するのではないかと再認識させられた。
■待望の音源配信がスタート
『With ensemble』はこれまでYouTubeでしか視聴できなかったが、このたび3月22日に各音楽配信サービスでの配信が決定。
第1弾は、3月22日にyama「春を告げる」、崎山蒼志「嘘じゃない」、Omoinotake「EVERBLUE」、たかはしほのか(リーガルリリー)「リッケンバッカー」など7組18曲をリリース。続く、4月12日(水)には第2弾として中島美嘉「ORION」、加藤ミリヤ「SAYONARAベイベー」、ALI「NEVER SAY GOODBYE feat. Mummy-D」など6組12曲の配信が予定されている。
YouTubeで堪能できた臨場感溢れるアーティストと演奏家たちのコラボレーションを、音楽配信サービスで気軽に楽しめる。多種多様のスペシャルな共演を、聴き逃さずに押さえておきたい。
TEXT BY 桒田 萌
▼『With ensemble』の最新情報をチェック
https://www.thefirsttimes.jp/keywords/1923/
▼YouTubeチャンネル『With ensemble』
https://youtube.com/playlist?list=PL0TNF5X6cfbUwSDYq7GrwDYP53WH_JjA4