■妄想はその域を超えて現実となって起こりうるってことを、Cody・Lee(李)は証明してくれた
次世代を担うアーティストがヘッドライナーとなり、今いちばん共演したいアーティストを迎える音楽イベント『HIGH FIVE』。初年度となった2022年も、2回目の開催となった2023年も、全国各地のZeppで伝説の夜を作り上げてきた。本年度のツアーファイナル公演となる名古屋はZepp Nagoyaにて3月5日に開催され、ヘッドライナーはCody・Lee(李)、そして彼らが指名したのがASIAN KUNG-FU GENERATION。いや、こんな対バンが実現するんだから面白い。
勿論意味のない対バンなんて存在しない。どんなライブにだって意味があるし、そのひとつひとつに物語はある。後から付いてくるストーリーだってある。そんな中、『HIGH FIVE』で起きる数々のドラマに僕はもうずっとドキドキしている。実際に目撃した2022年名古屋のハンブレッダーズと04 Limited Sazabysのツーマンなんて目の前で起きたことに口が開きっぱなしだったし、今年だってSNSを通して各公演の様子をチェックしては部屋でひとり興奮していた。そして3月5日。部屋を飛び出して、ライブハウスに早足で向かって、Zepp Nagoyaに到着すると今から始まる物語を想像し体温が上がっていることに気付く。それくらい心拍数も上がっていたのだと思う。
憧れの存在と対峙するとき、近くなれば近くなるほどその壁の高さに気付いたりする。今日、Cody・Lee(李)はASIAN KUNG-FU GENERATIONを前にどんな気持ちになるのかな。ASIAN KUNG-FU GENERATIONはCody・Lee(李)の前でどんなライブをするのかな。ステージのバックドロップを眺めながら、改めてこんな機会を作り上げた『HIGH FIVE』に手が真っ赤になるほど拍手を送りたい気持ちになる。ステージにASIAN KUNG-FU GENERATIONが登場する。空気が変わる。いや、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが空気を変える。「Re:Re:」「リライト」と立て続けに演奏されるアンセム中のアンセムの中にASIAN KUNG-FU GENERATION からの2023年今この瞬間のメッセージを受け取る。形は変わる。時が経って変わりゆくものだと僕らはこの数年で思い知った。どうかなくさないように。そう願って、祈って、有りもしない幻のイメージと戦ってきた。あの頃に戻るのではなく、塗り替えて、書き換えて、新しく始める。
何したっていいんだぜ。今日の「Easter」はまるでライブハウスの復活を称えるように聴こえる。燃え上っていいんだぜ。悲しいことが続くけれど、続くから、だからこその音楽だ。勿論悲しみが消えることはない。失ったものは戻らない。生きることが苦なのであれば、その苦しみを共有することで半分こに出来るかもしれない。だって音楽があるから。ライブハウスで会えるから。僕は僕の何を成し遂げたのだろう。大人になって随分経つけれど、子どもの頃になりたかった大人になれているかは分からない。だから、だからこそまだ、終わらせるわけにはいかない。「宿縁」を聴きながら、生きること、死ぬこと、ぼんやりとだけど、考えていた。
この日のある意味ハイライトでもあるのだけれど「ブラックアウト」を演奏するASIAN KUNG-FU GENERATIONの姿は何処かいつものASIAN KUNG-FU GENERATIONとは何かが違って見えた。それはCody・Lee(李)からの手紙に「ブラックアウトが好き」と書いてあったこと。Cody・Lee(李)の気持ちに応えることも、今この時代をライブハウスで共有することも、ASIAN KUNG-FU GENERATIONからのメッセージだと受け取る。この数年を、この数か月で起きたことを、僕は絶対忘れない。今日のライブも絶対に忘れない。そうやって日々を何度も駆け抜けていきたい。何度も。明けない夜なんてないというけれど、今まさに夜のど真ん中にいる人を温めてあげることが大切で、今日のASIAN KUNG-FU GENERATIONはCody・Lee(李)を前に、そんなライブを見せてくれた。多くは語らない。でも背中を見たら分かることがある。ここに集まった僕らで、憂鬱も退屈も蹴とばして、ライブハウスでハイタッチだ。
さあ、Cody・Lee(李)だ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブを受け、どんな攻め方をするのだろうとワクワクしていたけれど、どんな予感よりも超ストレートに、いきなり「愛してますっ!」でラブコール。ASIAN KUNG-FU GENERATIONが好きだって気持ちに逆らう術なんてないよね。尖らず、隠さず、「好き!愛してる!」と叫ぶことがCody・Lee(李)の戦い方なんだろう。最高だ。刺激が足りない日々に『HIGH FIVE』で最高な会合、どうせ頭の中は今日のことで頭がいっぱいだったんだろう。Cody・Lee(李)の鳴らす音のひとつひとつに歓びが溢れているのがめちゃくちゃ伝わるし、それがもう本当にめちゃくちゃ嬉しい。妄想はその域を超えて現実となって起こりうるってことを、今日、Cody・Lee(李)は証明してくれた。夢を叶えるために見た沢山の現実、そいつをとことん見たから夢を掴めたんだと思う。こんな日はのぼせるまで踊りたいよ。ライブハウスでビバノンしたいよ。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONにCody・Lee(李)が送った手紙に「ブラックアウトが好き」と書いた逸話をついさっき後藤正文の口から聞いたばかりだけれど、その瞬間に僕はCody・Lee(李)のことを信用出来ると思った。いや、誰目線なんだよと思うかもしれないけど、「ブラックアウト」を選んだ彼らの青春時代を抱きしめたいと思った。ニシマケイが「つまらなかった学生時代にアジカン、ART-SCHOOL、Syrup16gを聴いていた。泣きそう。」と語っていたけれど、あの言葉は僕らの代表としてそこに立っている彼らの、僕らの言葉だ。Cody・Lee(李)の「ブラックアウト」のカバーに全部出てたでしょ。彼らがどんな青春時代を過ごして、その傍にずっとASIAN KUNG-FU GENERATIONがいたこと。全部伝わったでしょ。それは絶対、ASIAN KUNG-FU GENERATIONにも届いたはずだ。音楽に夢があるんじゃなくて、夢を実現させるために何をしたか。行動こそが真実だって教えてくれたのは、今日のCody・Lee(李)だ。回り道したっていい。未知の先に後悔だってあるかもしれない。だったら道を作ればいい。一歩踏み出せばいい。そう教えてくれたのもCody・Lee(李)だったりする。
アンコールでCody・Lee(李)が轟音で叩きつけた「When I was cityboy」を涙なしで観ることは僕には出来なかった。憧れも羨望も嫉妬もあれもこれも、ごちゃ混ぜの感情でASIAN KUNG-FU GENERATIONに体当たりしたCody・Lee(李)が最後の最後でかました捨て身の攻撃。まさに「攻めろ、音楽」だ。Cody・Lee(李)は「When I was cityboy」で「寂しささえもすべて溶かしてくれる」と歌う。じゃあ何が溶かしてくれるかって、それは音楽だし、ライブハウスだし、そこに集まっている人たちだし、何よりASIAN KUNG-FU GENERATIONだ。雪は溶けて川になって流れて行く。つくしの子ははずかしげに顔を出す。冬を超えて、もうすぐ春がやってくる。ライブハウスにもその季節がやっとやってくる。もしかしたら『HIGH FIVE』が春を連れてきてくれたのかもしれないなんて、割と本気で思ってしまう自分がいる。『HIGH FIVE 2023』、今年も素晴らしいものを見せてもらった。また春に会いましょう。
TEXT BY 柴山順次(2YOU MAGAZINE)
PHOTO BY 新保勇樹
<セットリスト>
■ASIAN KUNG-FU GENERATION
1. Re:Re:
2. リライト
3. Easter
4. 宿縁
5. ソラニン
6. ブラックアウト
7. ブルートレイン
8. 転がる岩、君に朝が降る
9. Be Alright
■Cody・Lee(李)
1. 愛してますっ!
2. W.A.N.
3. 悶々
4. DANCE風呂a!
5. 異星人と熱帯夜
6. ブラックアウト(cover)
7. 我愛你
8.世田谷代田
9. LOVE SONG
10. 初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!
<Encore>
When I was cityboy
イベントサイト
https://high-five.live