■「今まで音楽を続けてこれたのはムッシュのおかげです」(武部聡志)
SONGS & FRIENDSシリーズ第5弾『ムッシュかまやつトリビュート for 七回忌』が3月1日、東京・LINE CUBE SHIBUYAで開催された。
SONGS & FRIENDSシリーズは、武部聡志がプロデュースする”100年後に残したい音楽”をテーマとした公演。2018年にスタートし、これまでに荒井由実「ひこうき雲」、小坂忠「ほうろう」、佐野元春「Cafe Bohemia」と日本の音楽史に残る名盤を取り上げたステージを繰り広げてきた。昨年4月には、鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆によるバンドSKYEをフィーチャーした公演を開催。質の高い音楽を堪能できるコンサートとして、音楽ファンに浸透している。
今回開催された『SONGS & FRIENDS』シリーズ第5弾『ムッシュかまやつトリビュート for 七回忌』は、武部聡志プロデュース、松任谷正隆の演出のもと、“ムッシュかまやつ”こと“かまやつひろし”のトリビュートライブとして行われた。
出演は、「ムッシュかまやつとAZABU SOCIAL CLUB」。このバンドはムッシュと縁の深いアーティストで構成され、ザ・スパイダース時代の盟友である堺正章と井上順、公私共に親交のあった森山良子・森山直太朗、共に第一線で音楽シーンを牽引してきた松任谷由実、数々の楽曲提供やコラボ作品でタッグを組んだ今井美樹、さらにムッシュが在籍したバンド「LIFE IS GROOVE」のKenKen(Ba)と山岸竜之介(Gu)が出演。また、ムッシュの長男であるTAROかまやつも特別出演した。
若かりし頃のムッシュかまやつの写真がスクリーンに映し出された後、まずは武部聡志がライブの趣旨を説明。「あれから6年。遠い昔のようにも思うし、つい最近のことのようにも思います」「実はこのシリーズが始まった当初から、かまやつさんを取り上げたいと思っていました。今夜はムッシュかまやつさんにシャバに降りてきてもらって、7回目の誕生日を一緒にお迎えしたいと思います」という言葉でイベントの開幕を告げた。
最初に登場したのは、TAROかまやつ。ピアノの弾き語りで披露されたのは、TAROが作詞・作曲を手がけ、2009年発表のムッシュ70歳記念アルバム「サンキュームッシュ」に収録された「ゆっくりとゆっくりと」。ムッシュのライブ映像も映され、親子デュエットの“共演”が実現した。
「ムッシュが最後に在籍したエグいバンドです」(TAROかまやつ)と紹介されたのは、LIFE IS GROOVE。「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」(シングル「我が良き友よ」収録)、そして、ムッシュが70年代に結成したバンド“ウォッカ・コリンズ”の楽曲「Automatic Pilot」を演奏。ファンク、ロックを交えた生々しいグルーヴによって、会場の熱気を引き上げてみせた。
美しいオルガンの響きに導かれてステージに登場したのは、今井美樹。まずはザ・スパイダースの「ノー・ノー・ボーイ」をシックなアレンジでカバー。ムッシュ本人のボーカル音源とのデュエットに会場から大きな拍手が送られた。
さらに「初めてムッシュのライブに出演させていただいた時に歌わせてもらった曲。私の作品にも収録したくらい、大好きな曲です」という「20才(はたち)の頃」も。ボサノバ調のアレンジと洗練された歌声が会場全体に広がり、大きな感動へとつながった。
続いてはアコギを持った森山直太朗がオンステージ。吉田拓郎、ムッシュが“よしだたくろう&かまやつひろし”名義で1974年にリリースした「シンシア」を抒情豊かに響かせた。
「ここで、かまやつさんの従妹にあたる、すなわち、私の実の母にあたる森山良子を紹介します」と森山良子を呼び込み、1970年のシングル「どうにかなるさ」をふたりで披露。かまやつのルーツであるカントリーミュージックの雰囲気を色濃く感じさせる名曲だ。
「(ムッシュの)古希を記念したアルバムのとき、3人で歌うために作った曲です」(森山良子)という「懲りない二人」では、ムッシュ、森山良子、森山直太朗の歌声が重なる演出も。ミュージカル調のサウンドとともに、華やかな雰囲気が広がった。
ここで直太朗がバックステージに下がり、「ムッシュには生まれながらのジャズ、大好きなカントリー、激しいロックが混ざり合っていました」(森山良子)という言葉から70年代のヒット曲「Hello Mr.Sunshine」(原曲/タニヤ・タッカー)をカバー。そして「まさかこの歌を歌うことになるとは思いませんでした」と「我が良き友よ」を力強く歌い上げると観客も手拍子で応え、心地いい一体感が生まれた。
そして武部がMCでムッシュへ話しかける。「こんなショーをやってるんですけど、聴こえてますか?」(武部)「すごいね、ポジティブだね」(ムッシュ)といった会話が繰り広げられた後、イベントは終盤へ。ひと際大きな拍手で迎えられたのは、松任谷由実。爽やかさと切なさを内包したサウンドから始まったのは、「返事はいらない」。ムッシュがプロデューサーをつとめた1972年、荒井由実のデビュー曲だ。
「今お送りした曲は、50年前の私のデビューシングルです。あのときは“プロデューサーって何にもしない人なんだな”と思ったんだけど(笑)、ムードメーカーというか、あとで考えるとすごく感覚がフィットしていたなと思います。あと、この曲でドラムを叩いてくれたのは、先日亡くなった高橋幸宏さんでした」
そんなMCの後は、伝説の音楽番組「セブンスターショー」(1976年)に出演した際にセッションした「楽しいバス旅行」(かまやつひろし)と「中央フリーウェイ」(荒井由実)をマッシュアップ。さらに「『セブンスターショー』でかまやつさんとデュエットした曲です」とサーフィンホットロッドの雰囲気をたたえた「サマーガール」を奏でた。
本編ラストは、60年代GSブームの中心的存在だったザ・スパイダースのコーナー。堺正章、井上順が登場し、「夕陽が泣いている」のイントロが始まる。歌い出そうとした瞬間、堺が「言うの忘れてたんだけど」と話し始め、井上が派手にずっこける演出に会場は爆笑と拍手で包まれた。
「じつは『夕陽が泣いている』は、かまやつさんの作曲じゃないんです。それがビッグヒットになってしまって(笑)。かまやつさんはどう思ってるかわかりませんが、心を込めて歌いたいと思います」(堺)と改めて「夕陽が泣いている」をじっくりと歌い上げた。
ロックンロールナンバー「ヘイ・ボーイ」からは、ムッシュが手がけた楽曲を次々に届ける。井上がメインボーカルの「なんとなくなんとなく」は、TAROかまやつを交えて3人で歌唱。さらに「ノー・ノー・ボーイ」を挟み、「ザ・スパイダースは私たちが何十年もこうして続けられる土台を作ってくれました」(堺)「一瞬にして昔に戻った感覚になりますね」(井上)というトークから本編ラストの「フリフリ」へ。手拍子と堺、井上の歌声が重なり合い、観客は総立ち。ライブの熱気は最高潮へ達した。
アンコールは、出演者全員でのセッション。「あの時君は若かった」「バン・バン・バン」とザ・スパイダースの代表曲で盛り上がる。お揃いの振り付けで踊る出演者たちも、ムッシュの音楽を心から楽しんでいるようだった。
最後は武部が演奏する「あの時君は若かった」の旋律とともに、出演者ひとりひとりがムッシュに向けてメッセージ。武部が涙ながらに「こうやって、今まで音楽を続けてこれたのはムッシュのおかげです。今日出演してくれた方々と出会えたのも、ムッシュと出会えたから。心から感謝しています」と語り、大きな拍手とともにイベントは幕を閉じた。
カントリー&ウエスタン、ロカビリー、ジャズ、フォーク、ロックンロールなどを自在に行き来しながら、刺激的で豊かな音楽を生み出してきたムッシュかまやつ。親交があったミュージシャン、アーティストとともに、ムッシュの60年以上に及ぶ軌跡を体感できる意義深いイベントだったと思う。
なお、このライブの模様は、5月にWOWOWで放送が予定されている。
TEXT BY 森朋之
PHOTO BY キセキミチコ