■弱さも強い気持ちもさらけ出す等身大のメンタリティと圧倒的な歌声
幼い頃をフィリピンで過ごし、中学に入ってから言葉がまったくわからない状態で日本に移住してきたことでぶつかったコミュニケーションの壁。ようやく日本で歌手としての道を歩み出すも思うようにいかない時期。メジャーデビューの喜び。映画『科捜研の女 -劇場版-』などのタイアップを経た成長。新型コロナウィルスのパンデミックによるミュージカル『RENT』という大舞台の中止、そして2023年版での再演。遥海は自らが経験した紆余曲折に抱いた感情を表現へと昇華し、個性を磨くことや諦めないこと、希望を持つことの大切さなど、大きく言えば“自分らしく生きること”を最たるテーマとして歌い続けてきた。
弱さも強い気持ちもさらけ出す等身大のメンタリティと圧倒的な歌声。それは遥海が多くの人々を魅了して止まない理由であり、彼女自身が今極めたい道なのだろう。すでに配信済みで、2月22日にCDリリースされた最新シングル「名もない花」とカップリングの「ZONE」からも、そのことがひしひしと伝わってくる。そして同時に、2曲が従来の遥海の魅力に新しい光を当て、ネクストレベルを示している点も見逃せない。
■味わい深い低~中音域と無限性を感じる高音はさすが
「名もない花」はテレビアニメ『アルスの巨獣』のエンディングテーマとして耳にしている方も多いだろう。自分自身のことがよくわからない謎の少女、“二十二番目のクウミ”と、燻ぶった日々を送る戦士、“死にそこないのジイロ”。ふたりはある日偶然出会い互いのポテンシャルが引き出されたことで、日々を強く生きていく意志が固まってくる。そんなストーリーと遥海が貫いてきたスタンスや現在進行でアップデートされている歌声のシンクロに胸が高鳴る。
作詞作曲はMALIYA、アレンジはMALIYAも所属するIsland State Musicと米津玄師や藤井風らの作品にも参加するギタリストの小川翔が担当。R&Bとドメスティックなポップがクロスオーバーするバラードで、ストリングスも効果的に使いつつ、シンプルなアレンジで遥海の表情豊かな声をプッシュする。実に味わい深い低~中音域と無限性を感じる高音はさすが。腰の据わったしっとりしているトーンと牽引力のあるエモーショナルな声の延びのグラデーションや、儚さや生々しさを感じる繊細な息遣いなどが織りなす流れは、アニメの世界観や人生のダークネスとブライトネスを描き出しているかのよう。それは遥海のキャリアを代表するシングル「Pride」や「声」、「スナビキソウ」に連なるものでありながら、これまでとはまた異なる表現の新たな扉。そこには歌詞が寄与している部分も大きいだろう。
“君が望めば/やがて咲くだろう/明日に芽吹く/花のように”
“マイ・プライド”を守ると歌った「Pride」、“それでも信じている”というフレーズが印象的な「スナビキソウ」、名もなき声に苛まれる私やあなたがいるなかで、私の声を響かせていくと歌う「声」はどれも、主体が歌い手にありその決意がインパクトを残してきた。それに対して「名もない花」は、これまでに歌ってきた遥海自身のことでもあるのだろうが、客観的な要素も強い。パーソナルな視点から言葉のレンジを広げ人生という概念を捉えた“君”に歌を送ったことで、曲に生まれたメッセージとストーリー性に引き込まれる。遥海の伝える力に、また新たな厚みが加わった。
■誤解を恐れずに言えば別人、鬼神のような歌声で埋め尽くされている「ZONE」
そしてカップリング曲の「ZONE」もまた、新たな遥海の一面が堪能できる曲に仕上がっている。驚きという意味では彼女のキャリア史上一番かもしれない。これまでにもロック調の曲はあったが、今回は飛び抜けてハードでヘビーなエレクトロハードロック。怒号が音楽としてのメロディを帯びたような冒頭に始まり、激しいビートとともにとことんパワーで押し切る、誤解を恐れずに言えば別人、鬼神のような歌声で埋め尽くされている。ライブでも盛り上がること必至のアクセントが効いた、カップリングならではの異色のキラーチューンだ。
まだまだアップデートできる可能性を見せることで幕開けた遥海の2023年。6月10日には大手町三井ホールでのワンマンライブも控えている。その日までの動きも含めて、遥海の活動からますます目が離せなくなった。
TEXT BY 岩見泰志
楽曲リンク
リリース情報
2023.2.22 ON SALE
SINGLE「名もない花」
ライブ情報
HARUMI LIVE 2023 “UNFOLD”
6/10(土) 大手町三井ホール
遥海 OFFICIAL SITE
https://www.harumiofficial.com