いよいよ間近に迫った第65回グラミー賞。2023年2月6日(日本時間)に開催される授賞式を前に、今さら聞けない“グラミー賞って何?”という基礎知識から、今年の見どころまでをまとめてご紹介。世界の音楽事情を一気にオサライできる絶好の機会でもあるグラミー賞。ミュージックビデオと併せて是非ともチェックを!
■ファンやリスナーではなく、音楽の演奏者や制作者、業界関係者によって選ばれる
グラミー賞とは、アメリカのザ・レコーディング・アカデミーが授ける音楽賞。世界で最も権威ある音楽賞とされており、受賞はもちろんノミネートを受けた暁には、そのアーティストの肩書きや紹介文には、必ずや“グラミー賞○○~”と枕詞のように付けられる名誉ある音楽賞。他の賞との大きな違いは、ファンやリスナーではなく、音楽の演奏者や制作者、業界関係者によって選ばれるという点。なので売上げや人気に左右されることはあまりなく、地味でも評価すべき素晴らしい作品を作っていたり、新たなサウンドに挑戦していたり、時代を象徴する歌詞だったり、音楽シーンに大きなインパクトを与えたアーティストや作品が選ばれる。プロの厳しい目で選ばれた音楽賞と言えるだろうか。
そして今年の最大の注目の的は、何と言っても最多ノミネートを受けているビヨンセ。9部門で候補に挙がっており、既に女性アーティストとして28冠の最多受賞記録をもつ彼女が、どこまで記録を躍進させるのか。さらに史上最多の31冠というクラシック・アーティストのゲオルク・ショルティの受賞記録を遂に塗り替えるのでは?という点にも熱い視線が注がれている。
ビヨンセの9部門に続くのは、ケンドリック・ラマーの8部門のノミネート。以下、アデルの7部門、ハリー・スタイルズの6部門などが続いており、主要部門でも各ビッグスターがガチンコ勝負を繰り広げる。
■最も注目される主要4部門は、「最優秀アルバム賞」「最優秀レコード賞」「最優秀楽曲賞」、「最優秀新人賞」
全90以上ものカテゴリーが設けられているグラミー賞。そのうち最も注目される主要4部門が、アルバム演奏者と制作者に贈られる「最優秀アルバム賞」、シングル演奏者と制作者に贈られる「最優秀レコード賞」、シングルの作詞・作曲者に贈られる「最優秀楽曲賞」、「最優秀新人賞」という計4つのカテゴリー。
■「最優秀アルバム賞」は、全10作。ケンドリック・ラマーとビヨンセが有力視
今年の「最優秀アルバム賞」候補には、ビヨンセの『Renaissance』、アデルの『30』、ケンドリック・ラマーの『MR. Morale & The Big Steppers』、ハリー・スタイルズの『Harry’s House』ほか、全10作が選ばれている。中でも最も有力視されているのが、ケンドリック・ラマーとビヨンセ。シリアスなトーンで様々な苦悩や疑問を投げかけるケンドリックと、クラブ・サウンドをベースに踊らせまくるビヨンセ。対照的な2者とはいえ、野心的な作品という点で共通している。またアデルが取れば、3作連続受賞の快挙。同部門で初めてスペイン語アルバムとしてノミネートを受けたバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』が受賞すれば、これまた史上初の偉業となる。
■「最優秀レコード賞」は、ハリー・スタイルズの「As It Was」かスティーヴ・レイシーの「Bad Habit」か?
「最優秀レコード賞」にも、ビヨンセ「Break My Soul」、アデル「Easy On Me」などが候補に挙がっているが、ドージャ・キャットの「Woman」やリゾの「About Damn Time」などポップ系も大健闘。ただフラットに考えると、アイドルを脱皮して立派に成長したハリー・スタイルズの「As It Was」か、もしくは時代の寵児とも呼べそうなスティーヴ・レイシーの「Bad Habit」あたりが有力と言えそう。グラミー賞から愛されてきたH.E.R.が関与するメアリー・J.ブライジの「Good Morning Gorgeous」は、まさかの大穴といったところだろうか。
「最優秀楽曲賞」に関しては、ひと際目を引くのがゲイルの「abcdefu」だ。元カレを盛大にディスった17歳(現在18歳)の新人女性シンガーのメジャーデビュー曲が食い込んだのにはビックリ。またテイラー・スウィフトは自身の楽曲を再録音した「All Too Well (10 Minute Version)」でノミネートを受けており、同部門と「最優秀ミュージック・ビデオ」の2部門で元カレのハリー・スタイルズと争うことに。
■世界中で旋風を巻き起こしているイタリア発のマネスキンがやはり「最優秀新人賞」最有力候補と言えるかも?
そして「最優秀新人賞」に関しては、誰が受賞してもおかしくないメンツがズラリ。若手ジャズ・デュオのドミ&JDベックから、女子人気抜群のクィア・シンガーのオマー・アポロ、ブラジル発のスーパースターのアニッタ、UKロック界の新星ウェット・レッグ、マライア・キャリーの「Fantasy」を大胆に引用したラッパーのラトーまで。とはいえ、世界中で旋風を巻き起こしているイタリア発のマネスキンがやはり最有力候補と言えるかも?
その他、ロック部門でオリジナル・メンバー復活のレッド・ホット・チリ・ペッパーズが候補に入っていたり、「最優秀ロック・アルバム」部門でマシン・ガン・ケリーとオジー・オズボーンの新旧ロッカーが仲良く肩を並べていたり。ポップ部門では、アカペラのペンタトニックス、再結成アバといったコーラス系の躍進も見逃せない。コールドプレイとのコラボ他、3部門でノミネートされているBTSは、今年こそ取れるのか?さらに日本人アーティストの受賞の行方も気になるところ。「最優秀グローバル・ミュージック・アルバム」部門で宅見将典、「最優秀クラシック・インストゥルメンタル・ソロ」部門で内田光子がノミネートを受けている。
■音楽スターの華やかなファッションも楽しみのひとつ
2020年にはビリー・アイリッシュが史上最年少の18歳で主要4部門を独占し、2003年のノラ・ジョーンズのデビュー作以来の快挙というのでも大きな話題を呼んだグラミー賞。ブルーノ・マーズは、もういっぱい貰ったので他の人に譲りたい、と今年は自ら辞退を宣言。一方、まったく貰えないザ・ウィークエンドは昨年ボイコットを表明。またお騒がせ発言の多いカニエ・ウェストが出演禁止を言い渡されていたなんて噂も。音楽スターの華やかなファッションも楽しみのひとつで、2000年のジェニファー・ロペスのヴェルサーチのドレスが皆の目を見張らせたのは、今でも語り草。そのグリーンのドレスのおかげで、グーグル画像検索が開発されたと言われている。
授賞式が終わると同時に、大物アーティストの大規模なツアー予定が発表されることも多いグラミー賞。今年はどんなサプライズが待ち受けているのか。誰かが突然ニューアルバムを発表するのか。ワールドツアーの予定を発表したビヨンセが、チケット販売をスタートするのでは?という見方も濃厚だ。
TEXT BY 村上ひさし
PHOTO:(c) Lillie Eiger *メイン写真(ハリー・スタイルズ)