八木海莉からデジタルEP『健やかDE居たい』が届けられた。
ポップな音像と個性的なリリック、軽やかな歌が響き合う表題曲「健やかDE居たい」をはじめとするオリジナル曲(4曲)に加え、彼女のルーツでもあるRADWIMPSの「セプテンバーさん」のカバーを収録。「作詞、ボーカルが向上しているのを感じています」という彼女に、本作の制作プロセス、2023年の展望などについて聞いた。
■「健やかDE居たい」は、やる気が起きないときの感じを曲にしてみました
──デジタルEP『健やかDE居たい』がリリースされました。2023年最初の作品ですが、EP全体のテーマはありました?
曲作りを進めていたらこうなった、という感じですね(笑)。結構成り行きというか、いいなと思う曲を1曲1曲作っていったので。
──メロディやアレンジについては?
自分で打ち込んでデモを作ることが多いです。Logic Pro(DAWソフト)を使っているんですが、それをアレンジャーの方に渡して。「アコギ一本でも作ってみたら」と言われたりもするんですけど、今はいろんな音を入れながら作ったほうが楽しくて(笑)。いずれはひとりで全部やれるようになれたらいいなと思ってます。
──では、収録曲について。タイトルチューン「健やかDE居たい」。“健やかで居られる訳が無い/終わりない矛盾ばかり”というリリックとポップなメロディ、サウンドの対比が個性的だなと。
“体はぜんぜん元気なんだけど、何をしても気が晴れない”ということがときどきあるんです。本を読んでも映画をみてもゲームをしてもダメで、そのうちに“こんな世の中、健やかで居られるわけないよ!”って思ったり(笑)。「健やかDE居たい」は、やる気が起きないときの感じを曲にしてみました。
■曲を書いたときは、健やかでもなければ、“ここに居る”という感じもなくて、虚無だったんです
──曲名に“DE”を入れたのはどうしてですか?
“健やか”と“居たい”を分けたかったんですよね。曲を書いたときは、健やかでもなければ、“ここに居る”という感じもなくて、虚無だったんです。ただ、いろいろ抗ってるうちに、いつの間にか気が晴れてることが多いんですけどね。
──この曲、昨年9月の初ワンマンライブ(『八木海莉 First One-Man Live 19-20』/東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE)でも披露してましたね。
はい。ライブで歌うときに、もともと制作していたデモのキーから少し下げたんですけど、そのときの感じがすごく良くて。ライブのリハーサルやライブの本場で歌ったことによって歌い慣れていたのでレコーディングも楽しかったです。そういえばライブのときに、手拍子をしたら、お客さんも一緒にやってくれてうれしかったです。もっと手拍子ができる曲を増やしたいなと思いました。
──弾むようなリズム、楽しいですよね。アレンジは八木さんのデモがもとになってるんですか?
そうですね。koyabinさん(THIS IS JAPAN)にお願いしました。今回、初めて私もエレキギターをレコーディングで弾いたんです。ライブで弾きたいなと思って買ったんですけど、koyabinさんに教えてもらいながらレコーディングにも挑戦して。めちゃくちゃ緊張して手汗がすごかったんですけど(笑)、頑張りました。
──ちなみにエレキギターの種類は?
リッケンバッカーです。「フリクリ」というアニメにリッケンバッカーのベースを持ったキャラクターが出てくるんですけど、カッコいいなと思って。
──(笑)「健やかDE居たい」のMVは、いろんなシチュエーションで撮影されていて。
自分が好きな空間を監督(EMIRI TORIHATA)にお伝えしたんです。モノがいっぱいあるところとか、植物に囲まれた場所とか、細い路地とか。「ワンコーラスはリップシンクなしで撮りたいです」とか、いろいろと提案させてもらって、すごく好きなMVになりました。
■心と体がバラバラというか、そういう感じを遊びながら書いた歌詞ですね。顔文字とかも使って(笑)
──2曲目の「のうのうた」も、初ワンマンで披露していた曲ですね。
「のうのうた」も「健やかDE居たい」と同じ時期というか、何もやる気が出ないときに作ったんです。気分転換に楽しい曲を作りたくて、まずはワンコーラスだけ作って。気分が沈んでるときって、妙に気が焦るのか、信号機がチカチカしてると走っちゃったりするんですよ。あと、洗濯物がたまっちゃったり、食べ過ぎちゃったり。(冒頭の)“チカる信号機 黙る洗濯機”にそのときの感じを入れてます。心と体がバラバラというか、そういう感じを遊びながら書いた歌詞ですね。顔文字とかも使って(笑)。
──アレンジは「お茶でも飲んで」でもタッグを組んだボカロPの皆川溺さんが担当。音像がどんどん変化していくのが斬新だなと。
カッコいいですよね。まずはワンコーラス分だけお渡ししたんですけど、その後の展開を作ってくれて。2番のメロディは、サウンドができたあとに作ったんです。それも初めての方法だったし、楽しかったです。
──3曲目の「ゾートロープ」は、シューゲイザー的なサウンドの楽曲。浮遊感のあるメロディも印象的でした。作曲は、おかもとえみさんとの共作。
えみさんと「Ripe Aster」を作らせてもらったときに、この曲も一緒に作ってたんです。「ゾートロープ」は“回り灯篭”“回転のぞき絵”のことで、走馬灯の語源みたいになってて。“死ぬ間際にあなたのことを思い出す”という歌です。
──すごい着想ですね…。二十歳なのに。
(笑)最初は夏っぽい曲を作ろうと思っていたんです。暑い日にアスファルトがもやもやして見えることがあるじゃないですか。あのイメージから作っていった曲なんですよね、「ゾートロープ」は。走馬灯って、夏の季語なんですよ。
──そうなんですね!ギターサウンドも素晴らしくて。
いいですよね!コーラスもこだわっていて、koyabinさん、カワノアキさんにも楽器演奏と共にコーラスでも参加してもらったんです。“走馬灯”なので、いろんな声が入っていたほうがいいなと思って。ギターの録音のときはkoyabinさんに教えてもらったんですけど、コーラス録りのときは私が、「語尾をこういう感じにしてください」ってお願いしたり(笑)。一緒に作り上げていくのが楽しかったです。
■『星をかった日』というジブリの短編映画を観たことがきっかけ
──そして「さらば、私の星」はレゲエ、ダブの要素を取り入れたナンバー。
レゲエも好きだし、こういうテイストの曲もやってみたくて。歌うのは難しかったですね。デモの段階よりもテンポを落としたんですけど、歌のリズムが走ってしまって。歌詞については、『星をかった日』というジブリの短編映画を観たことがきっかけになっています。原作は井上直久さんの絵本なんですが、時間を厳しく管理されている世界が舞台になっていて。そこから逃れようとした主人公が、自分が育てたカブと小さな星の種を交換するというストーリーで。すごくいいなと思って、自分に当てはまる部分を取り出して曲にしました。地元を離れて、肌に合う場所を見つけるっていう。
──まさに八木さんが経験してきたことですね、それは。上京して5年くらいになると思いますが、今は東京が自分の居場所という感覚ですか?
そうなってきましたね。まだ方言は出ちゃいますけど、ここが自分の居場所だなと思えるところが見つかってよかったです。
──「さらば、私の星」のMVはアニメーションですね。
私がいつもツイッターで見ているクリエイターの方にお願いしました。毎日、短い動画を日記みたいにアップしてるんですけど、その雰囲気がすごく好きで。自分がいいなと思ってる方と一緒に作れるのは楽しいですね。ほかにも好きなイラストレーターさん、カメラマンの方もいるので、いつか一緒にやれたらいいなと思ってます。
──今回のEPには、RADWIMPSの「セプテンバーさん」のカバーも収録。RADWIMPSは中学生の頃から好きで聴いていたとか。
学校からの帰り道もずっと聴いてました。歌詞が好きで、“こんなに自由に書いていいんだ”と思って。特に「セプテンバーさん」は、自分が9月生まれなので、“自分の曲だ!”って(笑)。私の曲も、聴いてくれた人が“自分の曲だ”と思ってくれたらうれしいですね。そういえばこの前、成人式に出席したんですけど、“5年後の自分へ”という手紙を受け取ったんですよ。
──15歳のときに、未来の自分に書いた手紙?
そうです。中学校の授業で書いたんですけど、そこに「悲しいときは野田洋次郎の曲を聴いて」って書いてあって。二十歳のタイミングでカバーできたのも、うれしかったです。大好きな曲なので、そういう意味でも歌うのは大変でした。
■伝えたい部分と濁したい部分をだいぶうまく扱えるようになってきた
──すごくエモーショナルな歌声で、素晴らしいですよね。
ありがとうございます。歌詞と歌は、自分でも成長できてるなと感じていて。歌詞のことで言うと、伝えたい部分と濁したい部分をだいぶうまく扱えるようになってきて。伝えたいところはわかりやすい言葉で書いて、濁したいところはあえて詩的な表現を使ったり。曲ができたときも“いいじゃない!”ってテンションが上がることが増えました。
──今後の活動についても聞かせてください。まず2月11日、12日には東京・日本橋三井ホールでワンマンライブ『polydam』を開催。
初ワンマンより会場が大きいし、曲も増えたので、できることはいっぱいあると思っていて。エレキギターも弾こうと思ってるし、今までとは違うところも見てもらえるのかなって。とにかくいいライブにしたいです。“次も来たい”と思ってほしいし、フェスにも出たいです。年末にCDJ(COUNTDOWN JAPAN)に行ったんですけど、そのときも“絶対出たい”と思ったので。
──ライブに対するモチベーションも上がってるんですね。
そうですね。初ワンマンの後も、クボタカイさん、Myukさん、idomくんと対バンライブをやらせてもらって。それぞれライブのやり方が違うし、とても刺激を受けて自分も頑張ろうと思いました。今は何をやるにも頭で考えているので、何も考えずにもう少し自然体でできるようになれたらいいなって。
──楽曲の制作も続いてるんですか?
はい。アルバムも出したいし、今年も来年もさらに良い年にするために、今年1年頑張ります。
■今は何をやってても、(制作や活動に)繋げようとしちゃう
──プライベートではどうですか?何かやりたいこととかあります?
今は何をやってても、(制作や活動に)繋げようとしちゃうんですよ。映画を観ていても“何かを受け取らないと”と思ってしまうし、“面白かった”では終わらないというか。なので逆に何も考えずにできることというか、フィギュアを眺めていたりしたいです(笑)。
──どんなフィギュアを持ってるんですか?
『ドロヘドロ』『ONE PIECE』とか。この前、『サマーウォーズ』の“キングカズマ”のフィギュアをゲットしました(笑)。
──素敵です。お部屋で完結する生活ですね。
そうなんですよ。あ、でも、散歩に行くのは好きですよ(笑)。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 関信行
楽曲リンク
リリース情報
2023.2.1 ON SALE
DIGITAL EP『健やかDE居たい』
ライブ情報
八木海莉 One-Man Live 「polydam」
2/11(土) 日本橋三井ホール
2/12(日) 日本橋三井ホール
プロフィール
八木海莉
ヤギカイリ/2002年9月5日生まれ。広島県出身。15歳の時、自身の夢を追いかけ単身上京。自身のYouTubeチャンネルにて弾き語りカバー動画をアップし、注目を集める。2021年4月放送TVアニメ『Vivy -Fluorite Eyeʼs Song-』にて主人公のヴィヴィの歌唱を担当し話題を呼び、レコチョク上半期ダウンロード部門新人アーティストランキング1位獲得。歌だけでなく、作詞・作曲をはじめギターやダンスと才能を発揮。2021年12月18日初のオリジナル楽曲「Ripe Aster」リリースにてデビュー。
八木海莉 OFFICIAL SITE
https://yagikairi.com/