メジャーデビュー以降、「SAKURA」「ありがとう」「風が吹いている」など、ドラマ・映画・アニメの主題歌やCMソングを手がけ、数々のヒット曲を世に送り出す、いきものがかり。
なぜ、いきものがかりの音楽は時代や世代を超えて長く愛され続けるのか? 彼らの軌跡とともに考えていきたい。
■結成~意外なブレイクのきっかけ
いきものがかり
・結成日:1999年11月3日
・メンバー:吉岡聖恵(Vo) / 水野良樹(Gu、Piano)
・公式キャラクター:イッキーモンキー
・OFFICIAL SITE https://ikimonogakari.com/
・X(Twitter) @IKIMONOofficial
・Instagram(イッキーモンキー)ikkymonky_2020
・TikTok @ikimonogakari_official
・YouTube https://www.youtube.com/@ikimonogakariSMEJ
1999年2月、小学校時代からの同級生である水野良樹と山下穂尊(2021年夏に脱退)が2人組の男性グループとして、いきものがかりを結成。同年11月3日に水野と山下の同級生の妹である吉岡聖恵が加入し、3人組となった。
“いきものがかり”というグループ名は、水野と山下の共通点として小学1年生の時に担当したクラスでの係が金魚にエサをあげる “生き物係”だったことに由来する。
インディーズ時代は地元である、神奈川県厚木市・海老名市周辺での路上ライブを積極的に行い、徐々に動員数を増やしていくが、水野と山下が大学受験のため2000年より活動を一時休止。2003年に活動再開し、2006年3月15日に1stシングル「SAKURA」でメジャーデビューを果たす。
▼いきものがかり「SAKURA」Music Video
当時、NTT「DENPO115」NTT東日本エリアのCMソング起用された「SAKURA」が、2006年開催のWBCで日本代表チームが勝ち進んだ準決勝・決勝試合の生中継中にCMが何度も流れたことで、「これは誰の曲?」「いきものがかりって一体何者!?」とSNSなどで話題に。元々の楽曲の良さもあり、「SAKURA」は春を代表する一曲となった。
メジャーデビュー以降は数多くのヒット曲を世に送り出し、『NHK紅白歌合戦』に連続出場を果たすなど、世代を超えて愛される国民的グループになったが、メジャーデビュー10周年の節目を経て、2017年1月に“放牧宣言”。放牧期間中はメンバー各自がソロでの活動を充実させる期間に。
そして、2018年11月2日、公式サイトに“集牧宣言”を発表。グループ結成日の11月3日に新曲「太陽」をファンクラブ限定で配布。
▼いきものがかり「太陽」Sing Video
2021年夏に山下が脱退し、現在は吉岡聖恵と水野良樹の2人体制へ。2021年10月に開催された『いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!』が3人体制での最後のライブとなった。
■吉岡&水野の2人体制となった現在
2021年2月にテレビアニメ『BORUTO-ボルト‐NARUTO NEXT GENERATIONS』のオープニングテーマ「BAKU」のリリースなどがあったものの、コロナ禍での活動自粛や全国ツアーの中止、山下のグループ卒業など、大きな出来事を経験した。
▼いきものがかり「BAKU」Music Video
▼からくり -Live ver- (いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!)
山下卒業後、吉岡聖恵と水野良樹の2人組体制となったいきものがかりのスタートを大きく印象づけたのは、2021年9月に初登場した『THE FIRST TAKE』だろう。
パフォーマンスしたのは「気まぐれロマンティック」と同年5月に配信した新曲「今日から、ここから」の2曲だ。
水野良樹は「2人体制になったいきものがかりが、ポジティブに映ってほしいと思っていたので、ふたりが明るくパフォーマンスしている感じを出したい」という思いで、「気まぐれロマンティック」を選曲。
ライブで大いに盛り上がる曲だが、あえてテンポを少し落とし、弦を加えた軽やかなアレンジを施した「気まぐれロマンティック」は、これまでにない“大人っぽい雰囲気”を生み出した。
▼いきものがかり – 気まぐれロマンティック / THE FIRST TAKE
「今日から、ここから」は、山下在籍時にレコーディング制作をした楽曲だが、『THE FIRST TAKE』では、水野が弾くピアノの近くで吉岡が歌っているパフォーマンスを披露。これまでライブでは水野が鍵盤を弾く曲があったが、ふたりだけのパフォーマンスはまったくやったことがなかったため、視聴者にも新鮮な光景だったに違いない。
▼いきものがかり – 今日から、ここから / THE FIRST TAKE
『THE FIRST TAKE』でふたりが見せたパフォーマンスは、これからも変わらず前へ進んでいくのだという強い意志を十分に感じることができた。
■ソロ活動も充実!メンバープロフィール
吉岡聖恵(よしおか きよえ)
・生年月日:1984年2月29日
・担当:ボーカル
・影響を受けたアーティスト:JUDY AND MARY、YUKI、ゆず、aikoなど
・OFFICIAL SITE https://www.yoshiokakiyoe.com/
・Instagram kiyoe_yoshioka_official
・YouTube https://www.youtube.com/@YoshiokaKiyoe
・YouTube https://www.youtube.com/@user-hq8ew2oo3u
幼い頃からとにかく歌うことが大好きで、子供時代から実家のカラオケルームで演歌や昭和歌謡曲などを歌いこなし、小・中学校は合唱部に所属。高校時代はJUDY AND MARYのコピーバンドでボーカルを担当し、高校卒業は音楽短大に進学するなど、つねに吉岡聖恵の生活の中には“歌”があった。
これまでいきものがかりの楽曲のほとんどは水野と山下が作詞作曲を手がけているが、吉岡も「キミがいる」「GOLDEN GIRL」などを手がけている。
▼いきものがかり「キミがいる」Music Video
▼いきものがかり「GOLDEN GIRL」Music Video
以前、インタビューで水野と山下は吉岡の楽曲に対して「自分たちが作らない、作れないような曲を作ってくるから面白い」「思いつかないような展開がある」と言っていたが、かたや吉岡は「メンバーが書いた曲は“はじめまして”という感じで、何度も歌いながら距離感を掴む感じ。自分が書いた詞は目の前すれすれに自分の顔があるような感じなので、自分で作っておきながら距離感がつかめなかったりする部分もあるけれど、そこが面白かったりもします」と語っている。
デビュー当初から彼らは「いきものがかりの歌の主人公は“聴いてくれる人”」と公言しているが、聴き手がいきものがかりの歌の中に入りやすく、“この曲は自分の歌だ”と思えるのは、吉岡がそれぞれの楽曲との距離感を的確に掴み、曲を聴き手の至近距離に置いてくれるからだろう。
放牧期間中、吉岡はソロ初のカバーアルバム『うたいろ』を2018年10月24日にリリース。
グループ結成以来、カバー曲以外は水野と山下が手がけたオリジナル楽曲を“いきものがかりのボーカル”として歌ってきた吉岡だったが、2021年11月にはデビュー同期で交流のある秦 基博と共作したオリジナル曲「まっさら」を初ソロシングルとしてリリース。
▼吉岡聖恵「まっさら」Music Video
2022年には、いきものがかりの大ファンだと公言する緑黄色社会・長屋晴子が作詞作曲を手がけた「凸凹」をソロシングル第2弾としてリリース。
▼吉岡聖恵「凸凹」Music Video
同曲をきっかけに、電話インタビューコンテンツ『RING³』では長屋へのインタビューを吉岡が担当。音楽シーンを盛り上げる同志として、お互いのボーカル観や音楽への向き合い方など熱い想いを語っている。
▼楽曲制作をきっかけに吉岡が長屋のインタビュアーをつとめた『RING³』
また、子供の頃から慣れ親しんできた童謡や唱歌の素晴らしさを紹介するプロジェクト『毎日がどうよう日~家族で歌おう!~』を立ち上げ、吉岡自身がセレクトした楽曲を吉岡の歌声で届けている。
▼こいのぼり KOI NOBORI|吉岡聖恵
さらに、松本隆作詞活動50周年を記念したトリビュートアルバム『風街に連れてって!』や、ここ数年はソロボーカリストとしてあらたな出会いが生まれている。
水野良樹(みずの よしき)
・生年月日:1982年12月17日
・担当:リーダー / ギター / ピアノ
・影響を受けたアーティスト:安全地帯、オフコース、小田和正、BONNIE PINK、Mr.Children、ゆず など
・OFFICIAL SITE http://mizunoyoshiki.ikimonogakari.com/
・X(Twitter) @mizunoyoshiki
・Instagram mizunoyoshiki_teke
・YouTube(HIROBA) https://www.youtube.com/@hiroba5846
・HIROBA OFFICIAL SITE https://hiroba.tokyo/
いきものがかりのリーダーであり、作詞・作曲・ギター・ピアノを担当。「キミがいる」「GOLDEN GIRL」(作詞作曲・吉岡聖恵)「いつだって僕らは」「ハルウタ」(作詞作曲・山下穂尊)を除くすべてのシングルA面曲の作詞作曲は水野によるもの。
以前、インタビューで水野は「玉置浩二さんとBONNIE PINKさんを足して、2で割って縮小すると、僕の音楽になるって感じですね」と、自分の音楽ルーツを語っている。
▼玉置浩二『メロディー』Live at Tokyo International Forum 1997/11/22
玉置浩二に関しては、安全地帯・ソロ含め、全作品を買っており、当時「いきものがかりで自分が作る楽曲は、玉置さんの影響なくしては語れない」とも言っている。初めてライブを観に行ったのも玉置浩二という筋金入り。
また、BONNIE PINKの「Heaven’s Kitchen」MVは、世の中にはこういう音楽があるのだと衝撃を受けて、ミュージシャンになりたいと水野の夢を決めた一曲でもある。
▼BONNIE PINK「Heaven’s Kitchen」
子供の頃から野球好き(巨人ファン)で、野球漫画を原作にしたテレビアニメ『おおきく振りかぶって』のオープニングテーマ曲のオファーが来た際は、嬉々として「青春ライン」を書き下ろしたというエピソードがあり、当初の歌詞には野球に関するワードがいくつも入っていたそうだ。
▼いきものがかり「青春ライン」Music Video
執筆活動も積極的に行い、自分のTwitterアカウント上で始めた連載(計10万字以上)をまとめた『いきものがたり』(2016年)、Sports Graphic Numberで連載していたコラムをまとめた初のスポーツエッセイ集『誰が、夢を見るのか』(2020年)を発刊。2022年には“清志まれ”名義で小説『幸せのままで、死んでくれ』を発表し、小説家デビューを果たした。
いきものがかりの活動と並行して、水野はこれまで多くの音楽提供を行っている。アニソン、アイドル、演歌歌手…など。ジャンルを問わず作品提供しているが、2022年は舞台『衛生~リズム&バキューム』でミュージカル音楽を初めて手がけている。
さらに、“つくる、考える、つながる”を楽しむ場としてプロジェクト・HIROBAを立ち上げ、様々なフィールドで活躍する人たちとの対談や交流を行っている。一曲が完成するまでの過程を、48時間生配信する新曲制作イベント『TSUKURI×BA』やHIROBAでは初めてトライすることも多く、精力的にプロジェクトを動かしている。
2023年2月15日には、HIROBAとして初のアルバム『HIROBA』をのリリースを控えている。
▼HIROBA Album スーパーティーザー | HIROBA 2023.2.15 発売
▼ふたたび(with 大塚 愛) Music Video|HIROBA
■人気10曲:心に染みるバラードから元気ソングまで
「ブルーバード」
テレビアニメ『NARUTOナルト‐疾風伝‐』のオープニングテーマとして書き下ろされ、2008年7月9日に10thシングルとしてリリース。アニメタイトルの副題にある“疾風伝”から連想される“疾走感”“勢い”“力強さ”を楽曲に思う存分に注ぎ込んだ楽曲であり、“NARUTO新章”の始まりにふさわしい楽曲に仕上がっている。
ライブ演奏時のパフォーマンスも熱量高く、いきものがかりのロックナンバーとして挙げるファンが多いのも納得できる。
「ありがとう」
NHK 連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌。2010年5月5日に18thシングルとしてリリース。いきものがかりメジャーデビュー5年目とドラマのタイトル“ゲゲゲ”をかけて、CD価格を555円にした遊び心も話題になった。
“ありがとう”という言葉が持つ深い愛や大切な人に向けた優しい想いが、吉岡の伸びやかな歌声によって、よりまっすぐに聴き手に伝わっていく。これからも世代を超えて愛され、時代が変化しても聴き継がれていく名曲であることは間違いない。
「笑顔」
映画『劇場版ポケットモンスター ベストウィッシュ 神速のゲノセクト ミューツー覚醒』主題歌として書き下ろされ、26thシングルとして2013年7月10日にリリース。この映画で吉岡がイーブイの声優を担当したことも話題になった。
ストリングスとピアノの繊細な音色とバンドが織りなす温かなサウンドに乗せ、笑おうとしている人たちの背中をそっと押してくれるように、優しく、軽やかに歌いかける吉岡の歌声が、聴き手の心にゆっくりと浸透していく。曲全体に漂う心地良いテンポ感も絶妙で、歩きながらふと口ずさみたくなってしまう曲だ。
「気まぐれロマンティック」
ドラマ『セレブと貧乏太郎』の主題歌として書き下ろされ、2008年12月3日に12thシングルとしてリリース。歌詞にある“大切なことは目を見て言って”のフレーズにキュンとしてしまう人が多いのではないだろうか。
ライブでは、MVで披露されているフリを一緒に踊るのがおなじみで、笑顔で歌っている光景が会場いっぱいに広がる。多幸感や一体感を思いっきり感じられるライブ定番曲だ。
「YELL」
2009年度『NHK全国学校音楽コンクール』の中学生の部課題曲として水野が書き下ろし、同年9月23日に両A面シングル「YELL/じょいふる」としてリリース。
水野にとって合唱曲初挑戦の楽曲だが、吉岡は圧倒的な歌唱で見事に歌い上げた。いきものがかりの楽曲には「SAKURA」や「歩いていこう」のように学校の卒業式でよく歌われる楽曲が何曲もあり、「YELL」も卒業ソングとして歌われているが、学生のみならず、長い人生における様々な場面においても、聴き手の背中を押してくれる楽曲へと成長した。
「熱情のスペクトラム」
テレビアニメ『七つの大罪』オープニングテーマ曲として書き下ろされ、2014年10月15日に両A面シングル「熱情のスペクトラム/涙が消えるなら」でリリース。曲はじまりから疾走感に溢れ、最後の一音までドラマチックに突き進んでいく熱いロックナンバーでありながら、どこか懐かしさを覚えるキャッチーなメロディラインに、いきものがかりが持つポップ感が感じられるナンバーだ。
「SAKURA」
2006年3月15日にリリースされた、メジャーデビューシングル。メンバーは作り手である自分たちと楽曲の距離感を「いきものがかりの楽曲の主人公は曲を聴いてくれる人」「楽曲は聴き手のもの」と言い続けてきた。そんな彼らの思いがデビュー曲にも反映されているからこそ、「SAKURA」の歌詞にはメンバーの出身地(神奈川県厚木市・海老名市)を走る小田急線から見える風景が描かれていても、桜ソング、卒業ソングとして長年親しまれ、聴き手一人ひとりの中に自分だけの風景、忘れられない景色が広がっていくのだろう。デビュー曲にしていきものがかりの代表曲になったこの楽曲が持つ力の大きさを感じられる名曲。
「HANABI」
アニメ『BLEACH』のエンディングテーマとして書き下ろされ、2006年5月31日に2ndシングルとしてリリース。いきものがかりにとって初のアニメタイアップ曲だ。デビュー曲「SAKURA」がロングヒットを続ける中、間髪入れずに熱いバンドサウンドのロックナンバー「HANABI」を届けたいきものがかり。デビュー直後に早くもこのグループが持つ、振り幅の広さを印象づけた一曲だ。
ロックナンバーではあるが、どこか懐かしさを覚えるメロディラインやJ-POP感は、いきものがかりの持ち味として、この楽曲の中でも強いインパクトを残している。
「じょいふる」
江崎グリコ「ポッキー」のCMソングに起用され、2009年9月23日に15thシングルとしてリリース。そのCMやMVで吉岡は軽快なダンスを披露しているが、ライブで演奏される際もそのフリをし、飛び跳ねながら歌っている吉岡の笑顔はとてもキュートだ。
作詞作曲を手がけた水野が「歌詞は言葉のノリの良さ、音の響きを重要視した」と語った通り、言葉遊びが散りばめられている。聴いているだけでノリノリになって、元気になる曲だ。
「風が吹いている」
NHK ロンドン2012 放送テーマソングとして書き下ろされ、2012年7月18日に、24thシングルとしてリリース。シングルバージョンの他に、ロンドンでレコーディングされたバージョンもあり、それがいきものがかりにとって初海外レコーディング作品となった。
メッセージ性のある歌詞を乗せた今作は、当時のいきものがかり史上、最も長い曲(約8分)だが、ストリングスを取り入れた壮大なアレンジに乗せたストレートなメロディが、聴きやすさや程よい抜け感を作り出している。また、言葉をひとつひとつ大切に届ける吉岡の歌唱は、メッセージ性のある歌詞を聞きやすく届ける役目を担っているといえるだろう。
■いきものがかりを待ちわびる日々
2人体制になった直後は『THE FIRST TAKE』や音楽番組などへの出演があり、また2022年は吉岡の第2弾ソロシングル「凸凹」のリリースや水野の様々なソロ活動などがあったが、いきものがかり本体の表立った活動がなかったため、2人体制のいきものがかり新曲やライブを心待ちにしている人も多いだろう。
そんな待ちわびる日々を過ごしていた私たちに、先日朗報が。40歳の誕生日を迎えた水野がTwitterで「来年出る(はずの)いきものがかりの楽曲を作りながら~」と投稿。
40歳になりました!今日は来年出す(はずの)いきものがかりの楽曲をつくりながら、HIROBA FESの告知をし、小説の原稿を直してます!「お前何やってるの?」と聞かれたら「なんかやってます!」と答えます!だましだまし、頑張ります!いつもありがとう!
↓ライブ来てね↓https://t.co/2wSF8AJCV4
— 水野良樹(HIROBA / いきものがかり)official (@mizunoyoshiki) December 17, 2022
2人体制になり、歌い手(吉岡聖恵)と曲を作る人(水野良樹)という直通な関係から生まれる“新曲”が、私たちのもとに届く日がもうすぐやってくる。
TEXT BY 松浦靖恵