元号が変わった矢先に未曾有のコロナ禍となり、とにもかくにも新しい時代へと突入した感じが強い2020年代。YOASOBI、Ado、NiziU、藤井風といったニューフェイスが続々と登場し、社会現象を巻き起こした『鬼滅の刃』や『ONE PIECE FILM RED』など、昨今のヒット曲を振り返る。
■コロナに翻弄されるいっぽう、あらたな風も吹く2020年代
周知のとおり、波乱の幕開けだった2020年代。新型コロナウイルス感染症の流行によって、エンターテインメント産業のみならず、私たちの日常は大きく変化した。数多くのライブやフェスが中止・延期、ライブハウスの閉店も相次ぐなど、厳しい状況も続く。
そんななか、多くのアーティストが無観客の配信ライブから活路を見出し、ステイホームが強く叫ばれた期間には星野源が「うちで踊ろう」をSNSに投稿。同曲に対して様々なコラボが生まれるなど、どうにか一歩前へ進もうとそれぞれが今できることを考え、深刻な苦境をなんとか切り開いていったのがコロナ禍序盤だったように思う。
▼星野源 – うちで踊ろう
でも、この荒れ狂った時代だからこそ、センセーショナルなアーティストや作品が多く生まれたのかもしれない。YOASOBIを皮切りに、Ado、藤井風といったあらたな顔触れが続々と頭角を現した。
なかでも、Adoの「うっせぇわ」はとりわけ閉塞的な時代を打ち破るパワーに満ちていて、その彼女が映画『ONE PIECE FILM RED』内のキャラクター・ウタとして、中田ヤスタカとタッグを組み「新時代」を高らかに叫んだのは、象徴的な出来事だったと言えよう。
そして、コロナ禍と共鳴した楽曲が輝きを放ったのも2020年代ならではの特徴だ。例えば『ONE PIECE FILM RED』と同じく社会現象的なヒット作となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の主題歌であるLiSAの「炎」では、映画のストーリーに寄り添いつつ悲しみを乗り越えて生きていく想いが綴られており、その歌が無常な日々が続く私たちの心を優しく癒してくれた。
“縄跳びダンス”がインパクト抜群だったNiziUの「Make you happy」や“ドルチェ&ガッバーナ”のフレーズが耳を惹く瑛人の「香水」など、TikTokの影響でバズった楽曲も多い。また、一発撮りのパフォーマンスを鮮明に切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』から火がつくケースも、昨今ではすっかり馴染み深い現象に。
さらに、先述のNiziUに加え、JO1、ENHYPEN、BE:FIRST、INIといったオーディション発のアーティストも数多く生まれ、ジャニーズからはSixTONES、Snow Man、なにわ男子、Travis Japanがデビューを果たすなど、あらたな風が激しく吹き続けている。
■2020年代ヒットソング20曲
「夜に駆ける」YOASOBI
「炎」LiSA
「うっせぇわ」Ado
「Make you happy」NiziU
「猫」DISH//
「Dynamite」BTS
「虹」菅田将暉
「きらり」藤井風
「ドライフラワー」優里
「シンデレラボーイ」Saucy Dog
「CITRUS」Da-iCE
「Habit」SEKAI NO OWARI
「Mela!」緑黄色社会
「残響散歌」Aimer
「新時代」ウタ from ONE PIECE FILM RED
「勿忘」Awesome City Club
「あなたがいることで」Uru
「カメレオン」King Gnu
「Subtitle」Official髭男dism
「W/X/Y」Tani Yuuki
「夜に駆ける」YOASOBI
2019年12月にリリースされたこのデビュー曲(原作は星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』)で“小説を音楽にするユニット”として彗星の如く現れ、ikuraのリズミカルで安定感抜群の歌唱とAyaseの紡ぐポップでクセになるメロディがTikTokでもバズを引き起こし、ストリーミングをはじめ各チャートを席巻。2020年・2021年には『NHK紅白歌合戦』に連続出場を果たすなど、一躍シーンのトップランナーに。歌うのが難しいゆえ、カラオケで歌えるようになりたくなる曲でもある。
「炎」LiSA
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の書き下ろし主題歌で、読みは“ほむら”。『鬼滅の刃』のメガヒットと併せて大いに話題となり、自身初のオリコンシングルチャート1位を獲得、2020年の日本レコード大賞にも輝いた。映画の登場人物・煉獄(れんごく)に優しく寄り添いつつ、ストリングスに乗せて歌われる重厚なバラードは、悲しみを乗り越えて生きていく強い想いを綴っているだけに、無情なコロナ禍に生きる私たちの心情ともこのうえなくフィット。『THE FIRST TAKE』での歌唱、涙ながらに語ったコメントも必見だ。
「うっせぇわ」Ado
メジャーデビュー一発目となる本楽曲がいきなり社会現象的大ヒットを呼んだ、歌い手・Ado。ティーンを筆頭にTikTokやSNSで爆発的な拡散を生んだ理由としては、なんと言ってもがなり声を含むエモーショナルな絶唱を活かした中毒的な歌声と耳に残るメロディ。さらに、“あなたが思うより健康です”“クソだりぃな”といった社会に蔓延る不満を代弁してくれた刺激的な歌詞が、物言えぬ時代の空気の中で痛快に響いたのだと思う。2021年のユーキャン新語・流行語大賞トップテンにも選出。
「Make you happy」NiziU
日韓合同のグローバルオーディションプロジェクト・Nizi Projectを通して2020年に結成。聴けば思わず気持ちがウキウキしてしまうようなダンサブルでポップなノリの良い曲調に加え、手首を回しながら軽快にジャンプする振付が超キャッチーな“縄跳びダンス”のインパクト、メンバーのカラフルでかわいらしいビジュアルも手伝って、プレデビューの段階からTikTokを中心にあれよあれよという間に大反響。CD発売前にして異例の『NHK紅白歌合戦』への出場を決めるなど、破竹の快進撃を見せている。
「猫」DISH//
最初は2017年発表のシングル「僕たちがやりました」のカップリング曲という位置づけだったが、作詞・作曲を手がけたあいみょんがのちにセルフカバーを披露したり、『THE FIRST TAKE』での北村匠海のパフォーマンスが同コンテンツ初の1億回再生突破という快挙を成し遂げたりしたことによって、バンドの代表曲として認知されるようになった。“君がいなくなった”事実を“猫になったんだよな”と表現する切ない心模様、それを絶妙な蒼さで歌い上げるビタースウィートなボーカルがたまらない。
「Dynamite」BTS
2020年代で最も世界的な支持を受けたアーティストと言えるBTS。その大きな足がかりとなったのが、自身初の試みとして歌詞をすべて英語で歌ったことが功を奏した「Dynamite」だろう。どこかマイケル・ジャクソンを彷彿とさせる明るく元気でほんのりレトロなディスコソングは、閉塞感でいっぱいのコロナ禍において忘れかけていた希望の光を思い出させてくれた。サビのスタイリッシュな振付が目を惹く。様々なリミックス展開などとともに好評を博す。
「虹」菅田将暉
のび太としずかちゃんの結婚式を描いた映画『STAND BY ME ドラえもん 2』の主題歌として注目を集め、ウェディングソングとしても熱く支持されるようになったナンバー。しずかちゃんを幸せにする自信のないのび太の情けなくも素直な心情を丁寧に綴ったのは、親交の深い石崎ひゅーいで、菅田が“一生そばにいるから 一生そばにいて”と男性目線の誓いをまっすぐな声で歌い上げ、ピアノやストリングスの音色も美しい、温かくピュアな名曲が誕生した。菅田と古川琴音が出演したドラマ仕立てのMVも涙なしには観られない。
「きらり」藤井風
Honda『新・VEZEL e:HEV』のCMソングとして多くの人の耳に触れたことがヒットのきっかけで、藤井風を日本の音楽シーンの最前線へと押し上げた曲と言っていい。軽快な4つ打ちをベースにした洗練されたビート、そこに色気たっぷりの声で歌われる爽やかなメロディ、R&Bやソウル、ヒップホップ、歌謡曲を感じさせるモダンなサウンド、“さらり”“きらり”と心地よい韻を踏んだリリックなどが絶妙なバランスで乗っており、聴き手のツボを的確に突いてくる点が聴きどころ。MVでは、本人が解放感のあるダンスを披露している。
「ドライフラワー」優里
初のオリジナル曲「かくれんぼ」と対になる楽曲。「かくれんぼ」では男性目線で失恋を歌っていたのに対し、「ドライフラワー」は女性目線で描いているのが特徴で、MVもアフターストーリー的な内容に。いちばんの魅力はやっぱり優里のボーカル。シンプルなサウンドの中で存在感を放つ、このハスキーな歌声が抜群に感情移入しやすい。未練が伝わる“ドライフラワー”というワードチョイスも◎。『THE FIRST TAKE』への出演や自身の積極的なSNS投稿などによって、カラオケでも支持される大ヒットへと繋がった。
「シンデレラボーイ」Saucy Dog
2022年末の『第73回NHK紅白歌合戦』に初出場が決まったSaucy Dogの代表曲のひとつ。ますだみくが手がけた漫画的なMVも大きな共感を生み、カバー動画やTikTokで火がついたことで、彼らの音楽が幅広い層へと浸透していった。ボーカルの石原慎也が初めて女性目線で歌詞を書いていて、“またカラダ許してしまったな”など、彼氏の浮気に気づいているにもかかわらず関係をやめられないという生々しくも複雑な心境の描写、涙を誘うエモーショナルな歌唱、物語に寄り添うやさしいバンドサウンドが、リスナーの心を掴んで離さない。
「CITRUS」Da-iCE
メンバーの大野雄大と岩岡徹が本人役でゲスト出演したことも話題となったドラマ『極主夫道』の書き下ろし主題歌。爆音ギターが轟くイントロから新鮮なロッカバラードで、“強さ”や“カッコ良さ”を全面に出したこれまでにない曲調が、主演・玉木宏が最凶の極道を演じる任侠コメディと見事にハマった。特にサビのハイトーンボイスは素晴らしく、真似したい衝動からカバー動画の投稿が相次ぎ、2021年の日本レコード大賞も受賞。『THE FIRST TAKE』では、大野と花村想太が特別なピアノアレンジを披露している。
「Habit」SEKAI NO OWARI
映画『ホリック xxxHOLiC』の書き下ろし主題歌。聴き手を試すような揺さぶるようなところもありながらその背中を強く押す攻め攻めの歌詞、ダークで疾走感のあるメロディが中毒性たっぷりなのはもちろん、学校を舞台に“自分で自分を分類してしまう悪い習性を壊せ”という楽曲テーマを表現した風刺の効いたMVのインパクトがすごい。Fukaseをはじめ、メンバーが繰り広げる超個性的なダンスはパワーパフボーイズによるもの。一度観たら忘れられない中毒性から、SNSでは様々なダンス動画・踊ってみた動画が続々と登場した。
「Mela!」緑黄色社会
玉城ティナが出演するダリヤ『パルティ カラーリングミルク』CMソングの他、情報番組『スッキリ』におけるダンスプロジェクトの課題曲にも使われるなど、思い立ったら迷わず動くことを促してくれるようなサビの“今なんじゃない?”というフレーズや、開放感に満ちたバンドサウンド、初めて取り入れた華やかなブラスアレンジが、多くの場面で受け入れられる結果となった。8人のクリエイターが参加し、悪役にされがちなオオカミを主人公に据えた独創的なアニメーションMVもおしゃれでカッコ良い。
「残響散歌」Aimer
アニメ『鬼滅の刃 遊郭編』オープニングテーマとして書き下ろした楽曲。このタイアップで彼女はより幅広いリスナーから注目されたが、持ち前の特徴的なハスキーボイス、そしてブラスやピアノを果敢に取り入れた疾走感溢れるあらたなアプローチによって、見事に絶大な支持を獲得した。イントロがカッコ良い曲としても知られ、『Yahoo!検索大賞2022』の楽曲部門では1位に。なお、Aimerは2022年の『第73回NHK紅白歌合戦』初出場も決まっている。
「新時代」ウタ from ONE PIECE FILM RED(Ado)
大ヒット映画『ONE PIECE FILM RED』において物語の鍵を握る“ウタ”の歌唱キャストを担当し、7組のアーティストが書き下ろした楽曲で豪華コラボを実現させたAdo。その主題歌となった中田ヤスタカ作の「新時代」は、Apple Musicグローバルチャートで日本の楽曲として初めて世界1位に輝くなど数々の歴史的快挙を成し遂げた。Adoのパワフルかつ熱いボーカルと中田のどちらかと言えばひんやりと無機的なエレクトロサウンドのかけ合わせとあって、聴く前は水と油に思えたものの、この融合が意外にハマっていて面白い。
「勿忘」Awesome City Club
メンバーも出演した映画『花束みたいな恋をした』のインスパイアソングとして大ヒットを記録し、多くのカバー動画がSNSで投稿された。口ずさみたくなるメロディの美しさもさることながら、atagiがボーカルを執る序盤、徐々にストリングスなど楽器の音が増えていき、2番ではPORINの歌をフィーチャーし男女ツインボーカルのスタイルを輝かせ、熱く唸るモリシーのギターソロが訪れるという楽曲の展開もすこぶる美しい。温かみのあるサウンドがじんわりと広がっていき、流れるように最後まで聴ける。
「あなたがいることで」Uru
竹内涼真主演ドラマ、日曜劇場『テセウスの船』の主題歌として書き下ろされた名バラード。“あの日僕にくれたあなたの笑顔が生きる力と勇気をくれたんだ”とまっすぐに歌われるサビの歌詞などがドラマの世界観と見事にハマって、大いに支持されるとともにあらたなファンの獲得にも繋がった。また、会いたい人になかなか会えない状況が続くコロナ禍の気分ともリンクして聴ける側面も魅力だ。ピアノとストリングスが美しく映えるアレンジを手がけたのは、初タッグとなった小林武史。
「カメレオン」King Gnu
菅田将暉主演のドラマ『ミステリと言う勿れ』の書き下ろし主題歌として脚光を浴びたミドルバラード。主人公が人間という多面的な生き物を理解しようとする物語と同様、楽曲も一筋縄ではいかない点が聴きどころだ。ゴリゴリのバンドサウンドも得意なKing Gnuだが、ここでは抑制の効いたアレンジをもって井口理の繊細なハイトーンボイスを存分に活かしている。そのうえで実験的にエフェクトをかけたボーカルを挟んだり、美しい声の裏でノイズをジリジリと鳴らしたりしながら切なさを描き出す。MVは自身初の全編フルCG作。
「Subtitle」Official髭男dism
川口春奈×目黒蓮(Snow Man)によるドラマ『silent』の主題歌として書き下ろされたウィンターバラード。“言葉はまるで雪の結晶”といった物語の世界観を引き立たせる歌詞が特に話題で、「どの登場人物の目線にも感じられる!」といった声も多かったりと、キャストやプロデューサー、視聴者から大絶賛を受けている。効果的な転調や繊細なギターアプローチ、シンセベースで付けたアクセント、美しいメロディをエモーショナルに歌うボーカルなどなど、ヒゲダンらしい行き届いたアレンジで5分強があっという間に感じられるはず。
「W/X/Y」Tani Yuuki
男女という対の存在をテーマにしたラブソングで、TikTokでバズるなどZ世代を中心に絶大な人気を誇る。振付動画でバズっているTikTokerのローカルカンピオーネによるダンス動画も追い風となり、LINE MUSICの2022年上半期ランキングの「10代トレンド部門」では堂々の1位に輝いた。心の奥にスッと届く透き通った声、語感や韻の心地よさを大切にした流れるような歌唱、“お互い寄り添うように 少しずらしてみようよ”といった共感性の高いメッセージ、それらを粒立てるスムースなアレンジが聴き手のハートをガッチリと掴んだ。
■時代を彩る名曲&人気曲を楽しもう
Adoの「うっせぇわ」のように感情をガツンとブチ撒けた楽曲こそ、この閉塞的な現代には響くのかもしれない。ラブソングにしても、きれいにまとまった美しいものより、たとえ未練がましくてもあえて辛辣に歌い切った曲のほうが魅力的に映る気がした。そんなエモーショナルで濃い曲が多い2020年代のナンバー、ぜひプレイリストで堪能してみよう。
TEXT BY 田山雄士