音楽ファンにとっての年末と言えば“年間ランキング”の季節。というわけで、先日LINE MUSICの2022年の年間チャートが発表されました。
若年層に強いこのストリーミングサービスの1年間を振り返って、今年のトレンドをチェックしましょう!
■楽曲ランキング:百花繚乱のJ-POP新時代
【楽曲ランキング TOP10】
01.「Bye-Good-Bye」BE:FIRST
02.「W/X/Y」Tani Yuuki
03.「新時代」Ado
04.「ミックスナッツ」Official髭男dism
05.「Habit」SEKAI NO OWARI
06.「ペテルギウス」優里
07.「シンデレラボーイ」Saucy Dog
08.「なんでもないよ、」マカロニえんぴつ
09.「レオ」優里
10.「ラナ」めいちゃん
見事1位に輝いたのは、7人組ボーイズグループのBE:FIRST「Bye-Good-Bye」。
▼BE:FIRST「Bye-Good-Bye」
2021年にラッパーのSKY-HIが主催したオーディション『THE FIRST』から生まれた彼らが、デビュー2年目にしての快挙を成し遂げました。「クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファースト」というかけ声のもとで、最先端のサウンドと自らのパフォーマンスの質を磨き上げてきた成果です。
2022年は例年にも増してボーイズグループの勢いが強かった一年でしたが、今回のチャートの結果および年末に行われる『第73回NHK紅白歌合戦』への出場決定を持って、BE:FIRSTはそのムーブメントから頭ひとつ抜け出した感があります。元々、海外での活動も見据えて結成されたグループなので、来年以降の展開が非常に楽しみです。
BE:FIRSTに続いて2位を獲得したのが、Tani Yuuki「W/X/Y」。
▼Tani Yuuki「W/X/Y」
シンプルなサウンドと優しいメロディで歌われるミディアムバラードは、今年のチャートで無類の強さを発揮しました。その後リリースした楽曲も月間チャートでは上位にランクインしており、ストリーミング時代の新しいスターとしてその名が定着した感があります。
「W/X/Y」を筆頭に、一度チャートに入るとロングヒット傾向になるのがストリーミングサービスの特徴。7位のSaucy Dog「シンデレラボーイ」と8位のマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」も、2021年から長期にわたって聴き続けられている楽曲です。
▼Saucy Dog「シンデレラボーイ」
▼マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」
TikTokを介して音楽がある種のコミュニケーションツールとして使われる側面が強まりつつある状況において、ここに挙げた3曲のような感情をじっくりと描き出す(つまりは聴き手が感情移入しやすい)楽曲はより支持を集めやすくなっているように思います。
先ほどTikTokの名前を出しましたが、ここで忘れてはいけないのが歌とダンスの融合。その流れを2022年で最も体現していたのが5位にランクインしたSEKAI NO OWARI「Habit」。
▼SEKAI NO OWARI「Habit」
MVで仕かけたダンスがTikTok上で見事に爆発し、社会現象に近い盛り上がりを生み出しました。TikTokで流行らせるにはわかりやすい振付が有効、と誰もがわかっていてもそれを実際に具現化するのは難しいこと。まさに“狙って当てた”チームセカオワのこの取り組みは、称賛に値すべきことなのではないでしょうか。
社会現象という点では映画『ONE PIECE FILM RED』も忘れてはいけません。映画に登場するウタの楽曲が今年のチャートを席巻しましたが、その中の一曲でもある「新時代」が3位にランクイン。持ち前の歌唱力と中田ヤスタカの楽曲、そして映画の話題性がかけ合わさることの相乗効果がこの結果に繋がりました。
▼Ado「新時代」 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)
ボーイズグループにシンガー、バンドからアニメキャラクターまで、多様な楽曲がヒットした2022年でした。
■10代トレンドランキング:ヒゲダン強し!あらたな潮流の兆しも
【10代トレンドランキング TOP10】
01.「W/X/Y」Tani Yuuki
02.「新時代」Ado
03.「なんでもないよ、」マカロニえんぴつ
04.「シンデレラボーイ」Saucy Dog
05.「愛言葉」Tani Yuuki
06.「愛とか恋とか」Novelbright
07.「Overdose」なとり
08.「Subtitle」Official髭男dism
09.「Crayon」ZOT on the WAVE & Fuji Taito
10.「ミックスナッツ」Official髭男dism
若年層からの支持が高いLINE MUSICにおいて、その特徴をさらに際立たせたチャートが「10代トレンドランキング」。こちらの年間ランキングも合わせて発表されています。
1位は全体のチャートで2位だったTani Yuuki「W/X/Y」。10代トレンドランキングではこの曲以外にも5位に「愛言葉」をランクインさせており、特に若い層から強く後押しされる存在としてTani Yuukiが存在感を発揮していることがよくわかります。
▼Tani Yuuki「愛言葉」
上位陣の顔ぶれは全体のチャートの並びと比較的近いいっぽうで、このランキング特有の動きもいくつかあります。例えば、8位にランクインしたOfficial髭男dism「Subtitle」。
▼Official髭男dism「Subtitle」
ヒゲダンは全体のチャートでも「ミックスナッツ」が4位ですが、こちらのランキングには「ミックスナッツ」「Subtitle」の2曲を送り込んでおり、国民的バンドへの道を歩みつつある彼らが10代の若者とも親和性が高い存在であることを示しています。
▼Official髭男dism「ミックスナッツ」
「Subtitle」はフジテレビで現在放送されているドラマ『silent』の主題歌。このドラマがTVerなどネット上のプラットフォームも絡めて話題になっていること、そしてそこで使われている楽曲が10代でも大きな人気を博していることを考えると、「若者はテレビを見ない」というよく言われる話についてももう少し丁寧に理解する必要があるように思います。
6位にランクインしているのはNovelbright「愛とか恋とか」。
▼Novelbright「愛とか恋とか」
2020年ごろからハイトーンボイスと爽快なバンドサウンドで話題を集めてきた彼らも、今回の曲でさらに大きく飛躍しました。どんなシーンとも相性の良さそうなアコースティックな雰囲気を持つこの楽曲は、あらたなファン層の獲得に貢献したのではないかと思います。
ロックバンドと言えばいかにフェスで名を成すかが成功の早道だったのが2010年代でしたが、コロナ禍を経てその方程式は完全に書き換えられました。Saucy Dogやマカロニえんぴつも同様ですが、ストリーミングサービスで多く聴かれることが次のステップに繋がるのが2020年代のバンドシーンのあり方です。この変化は今後サウンドのトレンドにも影響を及ぼしそうですが、この辺はもう少し長い目でチェックしていく必要がありそうです。
バンドとして活動するにあたってはビジュアルも含めたメンバーのキャラクターやパーソナリティが今も変わらず重要な要素のひとつではありますが、ネットで楽曲を発信することが一般的になった今の音楽シーンにおいてはそのような人格に付随する要素を完全に切り離した状態で人気を得ることもできます。その代表格が、7位のなとり「Overdose」。
▼なとり「Overdose」
19歳のシンガーソングライターであること以外目立った情報がない中、クールなダンスナンバー一発で大きな話題を生み出しました。こういった匿名的な存在の活躍はこの先も増えていくのではないかと思います。
■アーティストランキング:サブスク時代にこそ生まれるスター
【アーティストランキング TOP10】
01.Official髭男dism
02.優里
03.Ado
04.YOASOBI
05.back number
06.あいみょん
07.Mrs. GREEN APPLE
08.Aimer
09.SEKAI NO OWARI
10.King Gnu
昨今の人気者が並ぶアーティストランキングを制したのはOfficial髭男dism。先ほど触れた「ミックスナッツ」「Subtitle」を中心に、多くの曲がLINE MUSIC上で聴かれました。クリエイティブ面での勢いがいまだ衰えていないので、この先どこまで進化していくのかまったく想像がつきません。彼らが一般的な知名度を獲得するに至ったのは2019年の「Pretender」あたりからですが、折しもその時期はLINE MUSICのような音楽ストリーミングサービス(サブスク)が世の中に浸透していくタイミング。そういう意味で、ヒゲダンは“サブスクが生んだスター”とも言えるのではないでしょうか。
▼Official髭男dism「Pretender」
そして、このような傾向、つまり“サブスクがスターを生む”という流れは今も強まりつつあります。例えば、ヒゲダンに次いで2位となった優里は楽曲ランキングにも2曲を送り込んでおり、「ドライフラワー」以降の曲がつねにチャートで好成績を残しています。カタログが充実することでよりレコメンドされるようになり、結果として再生回数が雪だるま式に増えていく、そんなストリーミングサービスの構造があるからこそ彼の人気は盤石なものとなりました。
▼優里「ドライフラワー」
ここに名前が挙がっている面々は、すでに紹介したSEKAI NO OWARI「Habit」、Aimer「残響散歌」、Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」など、今年を代表するヒットナンバーを持っている人たちが多いです。特定の楽曲によってリスナーとの絆を作り、リスナーはそれをきっかけに過去の楽曲を聴いてよりファンになる、そんな好循環が起こっていたからこそここにランクインしたのではないかと思います。
▼Aimer「残響散歌」
▼Mrs. GREEN APPLE「ダンスホール」
■トレンドアワード:今のキーワードは“参加型”
【トレンドアワード】
「PAKU」asmi
「Cinema feat. Memento Mori & 武蔵」O.A.KLAY
「バニラ」きゃない
「WA DA DA」Kep1er
「エジソン」水曜日のカンパネラ
「Crayon」ZOT on the WAVE & Fuji Taito
「W/X/Y」Tani Yuuki
「Overdose」なとり
「未来図」マルシィ
「ねえ」YOAKE
今年のLINE MUSICを賑わせた楽曲として独自のロジックで選定された「トレンドアワード」の10曲。10代トレンドランキングを制したTani Yuuki「W/X/Y」も入っていますが、ここで注目したいのはasmi「PAKU」、Kep1er「WA DA DA」、水曜日のカンパネラ「エジソン」の3曲。
▼asmi「PAKU」
▼Kep1er「WA DA DA」
▼水曜日のカンパネラ「エジソン」
どちらかというとインディー寄りの存在だったところから一気にメインストリームに躍り出たasmi、K-POP第4世代として大きな話題を呼んだKep1er、新ボーカルの詩羽を迎えての新体制がいきなりヒットに結実した水曜日のカンパネラ。それぞれ出自はまったく異なりますが、キャッチーな言葉遊びや振付などを通してリスナーを巻き込む強さを持っていた点では共通しています。
TikTokというリスナーが参加して楽しめるプラットフォームが音楽シーンと密接に結びついたからこそ、単に鑑賞を促すのではなく“楽曲が中心となってみんなで遊べる状況”をどれだけ作れるかというのがヒットを生み出すうえでより重要になりました。2022年におけるこの最大の成功例がSEKAI NO OWARI「Habit」だったわけですが、ここで挙げた3曲も同じようなムーブメントを起こした楽曲と言うことができると思います。こういった流れはこの先も加速すると思われます(とはいえ“狙って外す”ケースもあるのが難しいところなのですが…)。
ちなみにこのあたりの話題で今年印象的だったのが、こういった“若年層中心にTikTokから流行する楽曲”がスマホの枠を飛び出してテレビの音楽番組などで取り上げられるケースが増えたことでした。ヒットがどこで生まれているかの理解が業界全体で進んだのが2022年だったのかもしれません。
■2022年の音楽シーン総評
2022年、日本の音楽シーンはまた新しい時代に突入しました。ライブやフェス、アイドルの握手会といった興行主体で進んできた2010年代、それらがストップせざるを得ない状況に追い込まれたコロナ禍の2020年と2021年を経て、ストリーミングサービスとTikTokを介してヒット曲や人気者が登場する流れが完全に確立されたのが2022年です。
音楽を届けるプラットフォームやメディアのあり方が改めて固まったことで、今年は様々なアーティストが存分に力を発揮したように思います。その結果は、冒頭に紹介した年間ランキングの多様性に如実に表れています。いっぽうで、そういった急速な環境変化は、シーンの新陳代謝も促しました。トレンドアワードに登場したような新星の登場は、これまで人気のあったアーティストだとしてもこの先が決して安泰とは限らないことを示しているとも言えます。
盛り上がりを見せるボーイズグループのシーン、絶対的な存在への階段を上り続けるOfficial髭男dism、ヒットの条件のひとつとなったTikTokへの最適化など、今年もいろいろな動きがありました。これらの流れがどうなっていくのか、この先も注目していきたいと思います。
■LINE MUSIC 2022 年間ランキング プレイリスト
以上、2022年の年間ランキングを起点に2022年の音楽シーンを振り返ってきました。どんな曲がランクインしたかはこちらのプレイリストでお楽しみください!
TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)