山﨑賢人主演ドラマ、⽇曜劇場『アトムの童(こ)』第4話での初オンエア以降、注⽬を集めているのが、透き通った歌声で芯のあるメッセージを放つ、劇中使用曲「ラストノート」だ。
▼Natumi. / 「ラストノート」Lyric Video (TBS系 日曜劇場「アトムの童」劇中使用曲)
そして、同曲を歌う謎多きアーティスト・Natumi.にも同様の熱視線が注がれている。多くの人々の心に響き始めている、その歌声の魅力を紐解く。
■山﨑賢人主演の日曜劇場『アトムの童(こ)』
回を追うごとに反響が増している、日曜劇場『アトムの童』。主人公は山﨑賢人演じる天才ゲーム開発者・安積那由他だ。彼はオンライゲーム業界で大成功を遂げた謎のインディーゲーム開発集団ジョン・ドゥのひとり。
そこに予期せぬ悲劇が。仲間が新しい企画を大手IT企業・サガスに持ちかけた結果、ゲームは乗っ取られ、責任を感じた仲間は自殺。開発の相棒・隼人(松下洸平)とも袂を分かつことになる。
実は、隼人はリベンジを胸にあえてサガスに入るのだが、那由他はその真意を知らずにバイトで日々を凌いでいた。そんなある日コンタクトしてきたのが、経営危機に瀕する老舗玩具メーカー・アトム玩具の社長の海(岸井ゆきの)だった。
事情を知った那由他は、幼い頃からファンだったアトム玩具をサガスの手から救うべく、隼人とも和解し、新しいゲーム開発に乗り出す。次々と罠を仕かけてくるサガスに、老舗のプライドをかけて必死に抵抗するアトム玩具。熾烈な争いに一度は敗れた那由他たちだったが、散り散りになったその場所で、それぞれが葛藤しつつ進むべき道を見出していく。
やがて、那由他と隼人は社会に役立つゲームで大成功し、メンバーも戻って新会社・アトムの童がスタート。策略と金でビジネスを操るIT軍団と物作りに情熱を注ぐ人々という構図が実に胸アツなドラマだ。
なかでも、アトムに関わる人々が諦めず、気持ちを静かに燃やすシーンは毎回グッとくる。
■初オンエア後から大反響の「ラストノート」
劇中使用曲「ラストノート」が最初に流れたのは、11月6日放送の第4話。裏切り行為を後悔する社員に海が前向きな言葉をかけるシーンだった。
楽曲が流れると、Twitterでは「素敵な曲が流れてきた」「誰が歌ってるの?」と、楽曲に対するコメントが多数登場。繊細な感情描写の場面に寄り添う曲で、しかも、ピアノだけで歌われているということで、多くの人が心を動かされたようだ。
同曲を歌うNatumi.は、起用について下記のようなオフィシャルコメントを発表している。
【Natumi.オフィシャルコメント】
『アトムの童』の劇中使用曲を担当させていただけるとを聞いたとき、嬉しさ以上に驚きが勝り、言葉が出ませんでした。両親が日曜劇場のファンで毎シーズン見ているので、親孝行ができたのかなと思います。
まだ頻繁にメディアに登場しているわけではなく、謎も多いNatumi.。それだけに、この素直すぎるコメントには親近感をおぼえた人も多いはず。いち早く公開されたリリックビデオにも、「安らぐ」「涙が止まらない」「美しい」など、続々とコメントが寄せられた。
▼Natumi./「ラストノート」Rec Video (TBS系 日曜劇場「アトムの童」劇中使用曲)
歌のストーリーでまず感じるのは、眩しい輝きを放って生き急ぐ“君”と、置いてきぼりにされた“僕”。“ラストノート”とは、香水の特徴を表す言葉で、時間経過とともにその香りをトップノート、ミドルノート、ラストノートと呼ぶ。
つまり、“僕”にとっての“ラストノート”とは、“君が残した最後の香り=忘れ得ぬ姿”だ。
想いを引きずる僕だが、曲が進むにつれ徐々に、自分は自分の道を行けばいつかまた君と会えるはずと覚醒していく。思い出の“ラストノート”が未来の目印に変わる。そんな歌だ。
オフィシャルコメントで、Natumi.はこうも語っている。
【Natumi.オフィシャルコメント】
特にDメロ、ラストサビはメロディと歌詞が素敵で私のお気に入りです。「ラストノート」がドラマでさらに引き込める要因の一つになれたらすごく嬉しいですし、みなさんの心に響かせたいです。
その言葉通り、Dメロからラストにかけての力強い歌唱には、未来への覚悟さえ感じられる。だからこそ、慈しむような最後のフレーズが一層感動的だ。また、「ラストノート」は“最後の音符”とも言い換えられる。歌い終わりの一音まで、本当に丁寧に紡がれている。
■ミステリアスな雰囲気をまとうシンガー
Natumi.(読み:なつみ)
・出身地:広島県
・上京年:2020年
・影響を受けたアーティスト:LiSA / Aimer
・OFFICIAL SITE https://natumi.jp/
・Twitter @natumi_official
・TikTok natumi._official
・Instagram natumi._official
・YouTube https://www.youtube.com/channel/UCnAjR1Z5tCR_wCEtwmcmt5Q
Natumi.が生まれ育ったのは、広島だ。幼い頃はカラオケ喫茶を営む祖父母の元にいることが多く、歌が好きなふたりを喜ばせようと、演歌からポップスまで流行りの曲をよく歌っていた。
愛情深いファミリーの応援を受けて、Natumi.は10代前半でスクールに通って基礎を学んだ。特に本人の記憶に残っているのは、年に一度開催される“発表会”。出られるのはソロやグループでオーディションに受かった人だけ。Natumi.は小学校6年生で初出場し、Kylee「CRAZY FOR YOU」を夢中で歌った。
▼Kylee「CRAZY FOR YOU」
「そのときの達成感は味わったことのないもので、そこで初めて“アーティストとして歌っていきたい”と強く思ったんです」と、Natumi.は当時を振り返っている。
人前で歌う快感を知り、アーティストを目指したいと自覚したと同時にNatumi.が強く惹かれるようになったのがアニソンだった。
なかでも好きで自分でもよく歌っていたのが、EGOISTの「Departures〜あなたにおくるアイのうた」。それまでアップテンポの曲を多く歌ってきたNatumi.にとって、この繊細なバラードは難曲ではあったものの、チャレンジすることであらたな喜びを知ることに。
▼EGOIST『Departures 〜あなたにおくるアイの歌〜』Music Video(テレビアニメ『ギルティクラウン』前期エンディングテーマ)
「溢れてくる感情をメロディに乗せて表現しているという実感が持てたんです。今でも歌うたびに新しい発見があります。現在進行形でも大事な曲。自分の歌を見つめ直そうと思うときに歌ってみる原点の曲なんです」とNatumi.は熱い思いを吐露する。
アニメの世界観を鮮やかに増幅させるアニソンの世界を辿っていくうちに、しっかりとした歌唱スキルを身につけているだけでなく、独自の表現力で人々を魅了するLiSAやAimerといったアーティストに強い憧れを抱くようになり、Natumi.が目標とする大きな存在となっていった。
▼LiSA 『炎』 -MUSiC CLiP-
▼Aimer「残響散歌」MUSIC VIDEO(テレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編オープニングテーマ)
高校卒業と同時にシンガーを目指すと決心したNatumi.は、いつでもスタンバイOKでいられるようにとしばらく地元で活動。そこにチャンスが訪れ、2020年に上京。
期待を胸に新生活スタートさせたわけだが、コロナ禍という予期せぬ困難が待ち受けていた。しかし、Natumi.は怯むことなく、その時間を自分を進化させるために使い、「落ち着いて自分と向き合って、歌うことの意味を見つめ直すことができました。そこで一皮剥けたと思います」とスッキリと笑顔さえ見せる。
デビューへの準備期間中は、たくさんの楽曲とも出会った。なかでも衝撃的だったのが澤野弘之の「βios」だったという。深いメロディと壮大なサウンドに一目惚れして、Natumi.はドイツ語と英語の歌詞を全部耳コピして歌った。アニソンを歌うシンガーというひとつの目標がしっかりと定まったのは、この出会いによってだった。
▼SawanoHiroyuki[nZk] [-30k]re:tuneS『βios』
2022年6月1日、アニメ『境界戦機』第二部エンディングテーマを歌うアーティストに抜擢。そして、その楽曲となるデビュー曲「pARTs」は、かねてより“アニソンを歌うシンガーになりたい”と強く思うきっかけとなった「βios」の作者・澤野弘之の楽曲プロデュース。
あまりの幸運に「そんなことってある?」と驚きを隠せないNatumi.だったが、この壮大な曲を豊かな表情で歌う姿は、新人らしからぬ実に堂々とした佇まいだ。デモを聴いた瞬間「あ、澤野節だ」と感じたNatumi.は、曲のなかに『境界戦機』とリンクすると景色を見て、溢れ出るパワーを感じながら歌に取り組んだ。
レコーディング経験の浅さをフォローしてくれたのは、澤野は的確なディレクションだったという。特に難しかったのは、低めに展開するメロディライン。「息を多めに使って歌ってみて」と言われて、ウィスパー的な歌唱を試みたものの、仕上がりが見えていないNatumi.にとっては「これで大丈夫なのかな?」という不安もあったそうだ。
だからこそ、完成した音の世界観に驚くと同時に、曲が完成するまでどれだけ細かい作業が積み重ねられているのかというその事実に、Natumi.自身もそれこそ「pARTs」の一部として熱いものを感じたのだった。楽曲の世界観にフィットしてく本能的な力を備えた歌声であることを、澤野は見抜いていたのかもしれない。
最大の強みであるどこまでも突き抜けていく高音には、透明感とともに温かみが宿る。Natumi.が生来持っているおおらかさのようなものが、たゆたうように見える。そこも魅力だ。
■表現⼒に注⽬!Natumi.の名曲カバー5選
「君の知らない物語」
原曲:Supercell
2009年にリリースされた、アニメ『化物語』EDテーマでもあるSupercellの1stシングル。“泣けるアニソン”としても名高く、数多くのアーティストにカバーされている名曲だ。Natumi.のカバーは、どれもピアノ1本で歌われているのだが、元々がかなりハイパーなアップ曲も多いので新鮮。この曲では地声の力強さと時折挟み込むファルセットでNatumi.らしい歌に。ピアノ伴奏の熱演を聴きながら思わず笑顔になる姿がキュートだ。
「あなたがいることで」
原曲:Uru
2020年の日曜劇場『テセウスの船』の主題歌となったUruの名バラード。チャレンジにはかなりの勇気が必要だったかもしれないが、Natumi.の歌声を聴くと、楽曲へのリスペクト、そして心の底から同曲を愛して歌っているのがわかる。大サビの震えるような儚い歌声から、ラストは一転生命力ある歌声へと変わっていく。すごく自然に歌のストーリーを作っていくのだなと引き込まれる。思いよ、届け! と真っ直ぐに前を見る瞳の強さにドキッとする。
「残響散歌」
原曲:Aimer
2022年、Aimerが歌って話題となった『鬼滅の刃』遊郭編オープニングテーマ。鋭角的なリズム感を必要とするマイナーのアップ曲だが、アニソンが好きでよく歌ってきただけあって実に巧みに歌いこなしている。「ラストノート」のカップリングの「Activation」でも同様のことを感じたが、クセになる厚みのある歌声の響きもカッコ良い。心に寄り添う癒すような歌声を良いが、クールさのあるこういった歌声も今後さらに聴いてみたい。
「This game」
原曲:鈴木このみ
テレビアニメ『ノーゲーム・ノーライフ』オープニングテーマとなった鈴木このみの人気曲。これもアニソンならではのマイナーなドラマ性を持つアップ曲。やはり、このタイプだとNatumi.自身が俄然、ふつふつと内面にたぎるものを出してくるようだ。声のトーンが大人っぽいせいか、より鬼気迫るムードに。ライブで歌っているかのようなボディアクションも自然と出て、気持ちが負けることなく転調後の高音まで歌いきっている。
「Avid」
原曲:SawanoHiroyuki[nZk] feat. mizuki
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「Avid」はテレビアニメ『86-エイティシックス』のWエンディングテーマ曲のひとつ。Sawano Hiroyuki[nZK]:mizukiの2021年の作品。Natumi.はこの曲をオフィシャルのTikTokで取り上げ、街中でのアカペラ歌唱を披露している。本文で触れた通り、Natumi.は「βios」で澤野曲が大好きになった。その敬意とパッションを祈るように込めて歌うアカペラの「Avid」は、厳かな賛美歌のように響く。
■2023年、さらなる活躍が期待されるNatumi.
『アトムの童』に起用された「ラストノート」をきっかけに、少しずつイベントライブなどにも登場するようになったNatumi.。ピアノ1本で聴かせるというYouTubeでの試みが、今後アーティストとしての大きな財産になっていくことは間違いない。
2023年にはきっとNatumi.の本格的な飛翔が見られることだろう。
TEXT BY 藤井美保
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