日本におけるヒップホップの歴史を変えたグループ:キングギドラ。フロウやライミングといったスキルはもちろん、社会を切り取ったコンシャスなリリックや、ハードコアなアティチュードなど、現在のヒップホップに繋がる潮流を生み出したレジェンドについて解説。
■キングギドラが世に残した爪痕
◎“日本語ラップの教科書”的な存在
Zeebra、K Dub Shine、DJ Oasisで構成されるヒップホップグループ キングギドラの結成は1993年。1995年にリリースされた1st アルバム『空からの力』は、卓越したフロウやざらついたビートといった聴感はもちろん、状況や世相を切り取った社会性の強い内容やリリックを通して、多くのリスナーに衝撃を与えた。
とりわけ、母音だけではなく子音も用いた巧みなライミングや、多くの文字で踏まれるロングライム、脚韻だけではなくラップ中で何箇所にも散りばめられた韻など、この作品で提示された「日本語でのライミング」「韻の踏み方」は、リリースから30年近くを経た現在でも“日本語ラップの教科書”的な存在として、多くのリスナーに薫陶を与えている。
グループとしては97年には活動停止し、それぞれのソロ活動を展開するが、2002年に再始動し、2nd アルバム『最終兵器』をリリース。その後、再びそれぞれのソロ活動に専念する。グループとしての実動期間としては決して長くはないが、キングギドラは現われる度に多大な影響をシーンに与えた。
◎今をときめくアーティストから声優、芸人まで若者へも広く影響を与えた
『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』でのR-指定による作品分析(『リアルにやる (MURO Remix)』等)や、声優/俳優の木村昴がヤングジャンプで連載していた『木村昴のHIPHOP HOORAY』での作品ガイド(『UNSTOPPABLE』等)など、現在でもその影響を随所に感じることができる。
それ以外にも、Zeebraが審査委員長を務めた『BAZOOKA!!!高校生RAP選手権』からBAD HOPのT-PablowとYZERRを輩出。T-PablowとYZERRが現在審査員として関わっているABEMA『ラップスタア誕生!』の番組タイトルは、日本語HIPHOP好きは真っ先にキングギドラ「スタア誕生」がイメージされる。同様にテレビ朝日系『フリースタイルダンジョン』も、ギドラの同名曲がタイトルのモチーフとなっている。
またギドラ「リアルにやる」を引用し、“キングギドラはリアルにやる/楽しみながら気楽にやる”と「気楽にやる」の中で歌ったKOHHは、ギドラのアルバム『最終兵器』を子供の頃から聴いていたと言及し、Zeebraの楽曲にも「Hate That Booty Feat. Y’S & KOHH」で参加している。
お笑い界でもオードリー若林やカミナリ、あばれる君などがその影響をバラエティ番組などで語っていることからも、その影響力の大きさが伺えるだろう。
そして2022年10月28日、『THE FIRST TAKE』に突如として登場。瞬く間に200万回再生を超え、現在においてもその存在感を数値としても示すことになった。
■メンバープロフィール
◎Zeebra(ジブラ)
・パート:MC
・生年月日:1971年4月2日
・出身地:東京都
日本のヒップホップシーンを最前線で牽引する立役者。97年にシングル「真っ昼間」、98年にアルバム『THE RHYME ANIMAL』をリリース。00年のアルバム『BASED ON A TRUE STORY』ではヒップホップのストリート的側面も楽曲に折り込み、新しいヒップホップ層を開拓し、プレイヤー、リスナーともに裾野を大きく広げた。
客演やソロなどのリリースに加え、06年から始まったヒップホップ番組『シュガーヒルストリート』の司会や、15年より開始の『フリースタイルダンジョン』のオーガナイズ、ヒップホップ専門ラジオ局『WREP』の開設といったメディアでの活動に加え、『渋谷区観光大使ナイトアンバサダー』や『一般社団法人 JDDA』の理事としての活動など、ヒップホップ・アクティビストとして活躍。
◎K Dub Shine(ケーダブシャイン)
・パート:MC
・生年月日:1968年5月8日
・出身地:東京都
キングギドラのリーダー。「渋谷のドン」「ビッグコッタ」などの異名を持つラッパー。10代でアメリカに留学し、現地でヒップホップやR&Bの勃興と進化を目の当たりにする。
97年にはアルバム『現在時刻』をリリース。キングギドラでも聞かせた巧みに紡がれるライミングと、社会批評性の高いリリックで注目を集め、数々の客演作にも参加。01年にはミニアルバム『SAVE THE CHILDREN』をリリース。“もし殴られてそうな子供がいたら/すぐにオレに言え”というリリックから始まるこの曲は“もし殴られてそうな子供がいたら/すぐお前が行け”と結末し、児童虐待などにリスナーが当事者として向き合うことを啓発した。
ライムスター宇多丸との時評放談『第三会議室』や、情熱報道ライブ『ニューズ・オプエド®』への出演など、コメンテーターとしても活動。サブカルチャーにも造詣が深い。自伝単行本に『Kダブシャインと渋谷のリアルな30年史』がある。
◎DJ Oasis(ディージェイ・オアシス)
・パート:DJ,MC
・生年月日:1972年2月6日
・出身地:東京都
幼なじみだったZeebraとともにユニット『Positive Vibes』を結成。その後、キングギドラとして活動を展開し、K Dub Shineとともにレーベル『アトミックボムレコーズ』を設立。
99年にはソロ作「マジ興味ねぇ feat. K DUB SHINE」「地下から… feat. ZEEBRA」「ILLリーガルドラッグ feat. RAPPAGARIYA」などを発表し、「マイク持つDJ」としてラップ表現も本格的に始動させる。
01年にはアルバム『東京砂漠』、05年にはアルバム『Water World』をリリース。コンシャスさや自身のホビーであるゲームを織り込んだ歌詞と、独特の低音ラップで存在感を提示した。06年にはK Dub Shineとのユニット:Radio Aktive Projectを結成。09年にはアルバム『neworlder』をリリース。以降もトラック提供や客演などで活躍している。
■チェックしておきたいマスト曲
「未確認飛行物体接近中(急接近MIX)」
キングギドラ1stアルバム『空からの力』のオープニングを飾る一曲。不穏なフルートループに被さるドラムフィル、そして“飛行物体”“未確認”とZeebraとK Dub Shineが掛け合う楽曲の入り口は、時代を経てもスリリングな印象をリスナーに与える。
“日出づる処 島国”という言葉からは、アメリカや英語偏重ではない、「日本から発信されるヒップホップ」という意思を感じさせ、事実、K Dub Shineの“もう2000年 天然に厳選 洗練されてる面々”のような日本語だけでタイトに韻を踏んでいくスタイルや、Zeebraの敢えて日本語発音された英語フレーズなどからも、そういった考え方を表現として作品に落とし込んでいると言えるだろう。
「大掃除」
Zeebraのリリックに“幾ら立てど進歩しないSuckerMC”、 K Dub Shineのリリックに“そこらのWACK MC達 大パニック”とあるように「未熟で下手なラッパー」を攻撃する一曲(このテーマはヒップホップの定番である)。
Zeebraが“お前のライム甘くて”というように、韻を踏むことに対して非常に意識的だったことが、この曲のリリックからは伺い知れる。K Dub Shineは“位置に三途の川 誰も死後ろくな名前とか貰わず”と、歌詞の文中に数字を折り込むなど、ライミングだけではなくリリカルな構成力の高さも提示。
客演のT.A.K The Rhymeheadのレイドバックした空気や、変幻自在な言葉の切り方も聞き所。
「行方不明」
ギドラの10代から95年までのヒストリーを描いた一曲。「“Yo!”」は1988年から1995年までMTVで放送されていた『Yo! MTV Raps』のことであったり、“ランDMC、KRS、ラキム、チャックD” “レッド・アラート、チャック・チルアウト” “ビート・ストリート”など、彼らの音楽人生に大きな影響を与えたメディアや作品、アーティストの名前が頻出する楽曲であり、ぜひその名前を検索してその魅力をチェックして頂きたい。
またそういった状況を経て、“言葉の壁 完全に突破 増え続けるリアル・ヒップホッパー” “今じゃステージの前の方 向かって立ってつかんだマイクロフォン”と、96年のギドラや音楽に辿り着く構成も興味深い。
「UNSTOPPABLE」
2002年のリユニオン時に「F.F.B.」と共にリリースされたシングル曲。ソロ活動の中で培われた方向性に加え、ラップ・フロウ・トラックなど、2000年代当時のヒップホップの先端のプロダクションを意識した「新しいキングギドラ像」を提示した一曲。Zeebra“全アルバム” “全爆弾” “善悪が”、 K Dub Shine “演技じゃねぇ” “チェンジザゲーム” “権利だけ”といった脚韻や、フロウを通したライミングなど、ギドラならではの韻の仕掛けが随所に込められている。
「ジェネレーションネクスト」
社会への視点や、コンシャスなリリックが大きな特徴であるキングギドラ。アウトロである「夜明け」を除くと、ラップ曲としてはアルバムのラストを飾る「ジェネレーションネクスト」は、“依然偽善がまかり通りくさる一方” “こんだけ終わってる時代に育てば”など、キングギドラの目から見た2002年の社会状況やシステムを批判的に取り上げながら、ラッパーやヒップホッパーだけではなく、自分たちも含めた次世代を担うであろうすべての人間に対してメッセージする。
また、英語と英語発音をリリックに折り込みフロウするZeebraと、英語を使っても日本語的発音で繋げていくK Dub Shineという対比も、リスナーの聴感を刺激する構成となっている。窪塚洋介主演映画『凶気の桜』メインテーマ。
■20年の歳月を経て突如『THE FIRST TAKE』で復活!
2022年10月28日、『THE FIRST TAKE』にキングギドラとして「UNSTOPPABLE」をパフォーマンス。突如としての復活や「K.G3.0」とアップデートされた期待を感じる歌詞に、大きな注目が集まった。
そして11月9日にはレコーディングにも参加したSUGIZOを迎えた「Raising Hell feat. SUGIZO」の映像がアップされた。「Raising Hell」は、20年ぶりの新曲リリースされるこがアナウンスされ、レジェンドの本格再始動に大きな期待が寄せられている。
■キングギドラの動向に今後も注目
20年ぶりの再始動し、新機軸を打ち出したキングギドラ。アルバム制作やライブ、そして客演など、新しい動きに注視したい。
TEXT BY 浦沢裕太
PHOTO BY 川上智之,長山一樹
リリース情報
2022.11.11 ON SALE
DIGITAL「Raising Hell」
2022.12.14 ON SALE
ANALOG(完全生産限定盤)「Raising Hell」
キングギドラOFFICIAL Twitter
https://twitter.com/REAL_KGDR
キングギドラOFFICIAL Instagram
https://www.instagram.com/kinggiddra/
キングギドラOFFICIALYouTube
https://youtu.be/xBvKgUf9tB4