BLUE ENCOUNTのニュー・シングル「Z.E.R.O.」(ゼロ)には、現在のバンドの立ち位置が明確に刻まれているようだ。メンバーの辻村勇太(Ba)が2023年の春からアメリカに拠点を移すことになり、“遠距離バンド”として活動することになったものの、楽曲やレコーディングに関わり、従来通りの4人体制を貫くことを発表した彼ら。表題曲はTVアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュR2』エンディングテーマに起用され、かつてなく壮大でヘヴィな音像を獲得している。対して、カップリングの「青」はまさにブルエン・カラーとも言うべき曲名を付けたド直球のナンバーだ。新たなスタート地点に立ったメンバー4人に話を聞いた。
■自分たち的には悩みに悩んだ1年でしたけど、今は迷いなくやれてます
──取材自体は前シングル「囮囚」(ばけもの)以来になりますが、この1年はどんな風に過ごしてました?
田邊駿一(以下、田辺):昨年、横浜アリーナからツアーが始まり、世の中的には今年6月に今後の活動方針を伝えさせていただいたんですけど。ブルエンとしては次の未来に向けたツアーになったし、つじ(辻村)とも膝と膝を付き合わせて、分かり合えたうえでBLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)として活動していけることになりましたからね。そのあとはどんな風に曲を作るのかとか、未来に向けた会話ができた1年になりました。とはいえ、極秘事項だったから、周りにも相談できなかったし、そこだけはモヤモヤしてましたね。自分たち的には悩みに悩んだ1年でしたけど、今は迷いなくやれてます。
──バンド的にいちばん混沌としていた時期は?
田邊:2019年ですかね。「バッドパラドックス」(2019年9月リリース)の頃ですね。ギクシャクというか…。
辻村勇太(以下、辻村):それまで話し合いをしていなかったから、お互いに干渉しない時期が続いていたんです。
田邊:で、つじがアメリカで挑戦したいと言うから、現状取れる選択肢としては、ブルエンを辞めることになるという。当時は前向きな未来が見えず、でもリリースは決まっていたので、どうすればいいのかなと。僕もボーカルとして何を伝えればいいんだろうと。だから、2019年は現実逃避のためにステージに立ってました。
──えっ、現実逃避ですか?
田邊:ステージを降りた途端、いろんなことを考えなきゃいけないから。今は目の前のセットリストをみんなと共有している時間がいい!という感じでしたね。
高村佳秀(以下、高村):2019年7月につじと一緒に飲みに行ったよね?
田邊:なんか取り調べみたいじゃん(笑)。
辻村:覚えてないけど、それぐらいの時期だったと思う。
高村:アメリカに行きたいという話は聞いていて、正式に2019年に「アメリカに行くよ」と言われたんです。僕はずっと聞いていたから、手放しで応援する状態だったんです。“よし行ってこい、辻村!”という気持ちだったけど、人それぞれ受け止め方が違ったから。田邊が最初に反対した理由、えぐっちゃん(江口)の思いが爆発したりとか、自分にない気持ちを聞いたときに、ただ応援すればいい!という思いはひとりよがりだったんだなと。そのなかでいい答えはなんだろうと考えているときに、田邊が新たな道を提示してくれたんです。それで光がやっと見えて、その道も面白いね!という感じになったから。
■どうなろうとも、この4人で音楽を鳴らしたいなと、横アリで思った
──それが2023年春から辻村さんはアメリカに拠点に移し、音楽活動するものの、これまで通りブルエンのメンバーとして楽曲制作やレコーディングを行うという形ですよね。江口さんはいかがですか?
江口雄也(以下、江口):僕は個人的にドライな人間で、他のメンバー3人に人間味を持たせているところがあって。
全員:ははははは。
江口:よっちゃん(高村)が言ったように心から応援したいというのは、一個人の気持ちで…やっぱりブルエンはいろんな人に支えてもらっているから、それを軸に僕は考えてしまうんですよ。今はこういう形になって良かったし、そういう風に考えてくれた田邊には感謝してますね。
田邊:去年の横浜アリーナのときは、つじが卒業するという動きだったんです。で、コロナ禍になっていなければ、『Q.E.D』が最後の作品になる予定だったんですよ。だから、横浜アリーナのツアーが現体制で最後という話になっていたけど、横アリをやってみて、この4人でいることを誇らしく感じて。どうなろうとも、この4人で音楽を鳴らしたいなと、横アリで思ったんですよね。それから自分の中で熟考して、この状態を続けるにはどうすればいいかなと。
──それで新しい道を模索するようになったと。
田邊:ツアー中の広島のオフ日につじが僕のことを誘ってくれて、ふたりでドライブしたんですけど、その日は何も言えなかったんです。これは俺からちゃんと答えを作って、未来を提示して、もう一度プロポーズしなきゃいけないなと(笑)。バンドを持続させるためにどうしようと思い、それで現状の答えが出たんです。で、つじに今の時代はネットワークも張り巡らされているから、遠方にいてもこれでいけると思うから、一緒にやろうよと伝えました。
■つじがアメリカに行っていることを想定して、つじだけはデータでやり取り
──海外でもメンバー全員が違う国に住んでいて、バンド活動している人たちもいますからね。
田邊:そうですよね。バンドが前に進むためには、脱退だけなのかな?と思っていたから。これからも4人で鳴らすために考えたことですからね。だから、今年リリースした楽曲はつじがアメリカに行っていることを想定して、つじだけはデータでやり取りしてレコーディングしているんですよ。
──今年は「青」、「終火」、「Z.E.R.O.」の順番で配信限定シングルをリリースしました。制作スタイルの変化は楽曲にも影響はありましたか?
高村:これまでデータのやり取りはちょこちょこやっていたし、田邊以外の3人はパソコンで作れる環境は整えていたんです。ただ、それでもプリプロまでのやり取りをデータ上でやっていただけなんですよ。プリプロの段階で本チャンまで仕上げる意識が芽生えたのは、今年からですね。「Z.E.R.O.」もそうですけど、プリプロで使った音をそのまま使ったものもあるんです。作る過程での突き詰め方はこだわるようになりました。
──聴き手はデータ上で完結した曲かどうかまで、なかなか判別できないですからね。
田邊:相当いろんなものを聴き込んだ人ならわかるかもしれないけど。
江口:自分自身でもわかるかわからないか、微妙ですからね(笑)。
辻村:僕もまだ素人で、誰かに教えてもらったわけじゃないので。トライアンドエラーで、リモート用のいい機材が揃えたりして、ブルエンの楽曲はこれからもっと良くなっていくと思います。今はトライアンドエラーの最中ですけど、今作でも成長を感じますからね。
■音楽をまだまだ探求しなきゃいけない
──このタイミングでバンド内にまたフレッシュな風が吹いていると?
田邊:そうですね。僕の頭で鳴っているものを表現できるのは、このメンバー3人だと思ってますから。最終的につじに言ったのは、「これを作ったら死ねるという曲を俺らはまだ作れていない」と。全曲を聴いた後、メンバー全員で咽び泣くくらいの作品を俺たちはまだ作ってないから、バンドとしてまだ終われないなと。僕の頭の中を完全に鳴らし切るという意味では、今年リリースした楽曲にその手応えを感じているし、「Z.E.R.O.」もそうですね。この曲もプロデューサーを入れずに、我々だけで完結させることができましたからね。この一音が与える影響までメンバーも考えるようになりました。今はより緻密に、でも真ん中にあるのは衝動ですからね。蓋を開けてみたら、シンプルがいちばん強かったりするから。音楽をまだまだ探求しなきゃいけないなと。僕がアイデアを出して、oから1にする作業は衝動のままにやっていきたいです。
──なるほど。そして、今作の表題曲「Z.E.R.O.」はTVアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュR2』エンディング曲になりますが、取っ掛かりはタイアップの話を受けて?
田邊:バンドの指針を世の中に発表できたことで、アイデアがより浮かびやすくなり、そのなかでお話をいただいたんですよ。もともとこういう曲調はあったけど、サビは違ったんです。今のサビになったときに一気に創作意欲が沸いて、すぐに仮レコーディングしたら、みんながめっちゃいいじゃん!って。だから、衝動が溢れ出た楽曲ですね。
──ブルエンの皆さんが大好きなELLEGARDENに例えるなら、「Salamander」に通じるヒリヒリするロック衝動を感じました。
田邊:うれしいですね。いいサビって、どシンプルだし、僕らがELLEGARDENが好きな理由もそこなんですよ。「Salamander」の話に繋げるなら、ELLEGARDENもジャンルではなく、いい曲を作るバンドなんですよね。僕もそれをずっとやりたいんです。この曲もいいサビができたことでガラッと変わりましたからね。
江口:単純にいい!と思ったものをみんなで作り上げられた感じはありますね。
田邊:どんな音像にするのかは話し合いましたけどね。
高村:参考のものを挙げつつね。結局いくつか挙げたけど、そういう風にはならなくて。
■これからはどんどん心で描いている音に近づけばいい
──結果、ブルエンらしいサウンドに着地したと。
高村:自分たちの知識、テクニック不足もあるんですけど、それはそでいいのかなと。これからはどんどん心で描いている音に近づけばいいなと。
──例えばどのへんの音像を参考にしたんですか?
田邊:最近で言うと、つじと話しているのはBRING ME THE HORIZONですね。
辻村:ああいうサウンドは僕らも好きですし、BRING ME THE HORIZONはそこまでコアではなく、老若男女が聴いている印象もあるし、単純に音もイケてますからね。あの壮大な感じはマネできないところも含めて、好きなんですよ。ただ、その匂いを感じさせないようにどう取り入れようかなと。今回はこういう壮大な楽曲をやりたいと思ったし、それはまた日本の音楽シーンの壮大さとは違いますからね。
──壮大さもありつつ、ヘヴィさも織り込まれてますよね?
田邊:ドラムの金物はLINKIN PARKっぽくしてください?と言ってたよね。
高村:ああ、そうだね。
──LINKIN PARKの音楽は、BRING ME THE HORIZONにも影響を与えてますからね。
田邊:そういうことですよね。僕らも学生の頃にLINKIN PARKをめっちゃ聴いてたんで。音像というより、細かい部分ですね。そこはエンジニアさんと話し合いましたね。
──ギターのアプローチに関しては?
江口:田邊から参考楽曲がいっぱい来ましたね。HOOBASTANK、FACTのリフ感とか、それに近づけつつ、ヘンに寄りすぎないようにしました。アレンジには時間がかかりましたね。
──ラウド・ロックの質感も出ているのは、そのへんのバンドのテイストなんですね。
田邊:そうですね。HOOBASTANK、FACTとかは江口が持っていないエッセンスだから。あえてローポジの部分でかっこいいフレーズを作って、江口らしくないフレーズを弾いてほしくて。いつものハイポジのクセの強いフレーズよりも、ローポジでズンズン刻んだほうがいいんじゃないかと。ウワモノからフィックスしていたから、ドラムの金物やベースの音も明確にありましたからね。
辻村:ベースは重低音で鳴らしたくて。田邊にも明確なビジョンがありましたからね。
──「Z.E.R.O.」はアリーナ、スタジアムでなっている景色が見えるスケールの大きな楽曲です。
辻村:俺らが思っている壮大さは音に込められたと思うし、音を聴いて、そう思ってもらえるのはうれしいですね。HOOBASTANK、BRING ME THE HORIZONの音楽からもそれを感じますからね。
田邊:歪ませたからとかじゃなく、アコギのストロークひとつで壮大さを感じる瞬間があるし。今年になって、つじと会話が増えたので、コードひとつにしても明るいのか?暗いのか?みたいな。お互い前のめりに会話できるようになったから。江口は江口で変わらないクセを持っているから、それはこのバンドでしか鳴らせない音だけど、あえてそれを封印するときもあるし。よっちゃんの音もそうだし、この体制になって話し合う機会はグッと増えましたね。この曲がちゃんとできたからこそ、他の新曲もみんなでやりとりして、いい感じに作れてますからね。
■観たことがない人にとっての最高の予告編になれば
──今作はこれから広がっていくであろう、ブルエン・サウンドの第一歩になったと。歌詞はアニメの内容を踏まえて作っていったんですか?
田邊:アニメのエンディングは初めてやらせてもらうんですよ。一応、全話観させてもらい、最終話の主人公の気持ちだったり、その周りにいる人の気持ちを書きたいなと。観たことがない人にとっての最高の予告編になればいいなと。
──“零になって壊す”の最後の歌詞も現在のブルエンと重ねて聴いてしまいます。破壊と構築ではないですが。
田邊:ですよね(笑)。俺の脳味噌から出てくることは、そのときに抱えていることが描写されるから。“終わらせぬために/穢されぬために”の歌詞も自分たちのために言っていることでもあるから。
■このタイミングで「青」とつけてくれたことがうれしくて
──なるほど。カップリングの「青」のほうなんですが、これはド直球のブルエン節炸裂の楽曲ですね。もはや得意技と言いたくなる曲調です。
田邊:おっしゃる通りですね。ただ、歌詞はこっちのほうが難産でした。得意技っていちばん大変なんだなと(笑)。「青」という曲名から浮かんできて、今の4人に合う青は何かなと。で、頭の4行(「そうだ/青に染まれ/青を宿せ/青に挑め」)がバッと出てきて、つじとバンドのことを発表したうえで、何をリリースするのかとなったときに満場一致でこの曲に決まりました。みんなの背中と、自分たちの背中を押せたらいいなと。普段は1、2日で歌詞をバッと書き上げるんですけど、この曲は1ヵ月くらいかかりましたね。結果、歌録りの前日に歌詞は完成しましたからね。語尾まで吟味して作りました。
江口:曲出しの段階で10曲ぐらいデモがあり、「青」はみんながやりたいと言いましたからね。絶対これでしょ!って。ブルエンっぽい曲だし、つじの発表の件もあって、これしかないかなと。説明の仕方がわからないけど、これがブルエンっぽいなって。最初からビビッと来ましたね。
高村:この曲名を付けた時点でズキュン!でしたね。「青」って付けることは勇気がいると思うんですよ。その覚悟にも惹かれましたね。
辻村:このタイミングで「青」とつけてくれたことがうれしくて。自分の人生ともリンクしているし、楽曲としてみんなが求めているものだろうし、これからの人生にこの言葉は必要だなと。
──ちなみに辻村さんがいちばん刺さった歌詞というと?
辻村:いやあ恥ずかしいから、言いたくないんですけど(笑)。“青に染まれ”って、いろんな解釈があると思うんですけど、大人になればなるほど、「青くなるな」と言われるほうが多いと思うんですよ。若者はいつも自由さを求めているし、みんなそれぞれ青い気持ちで闘っているんじゃないかと。歌詞は全部好きなんですけど、特に“青に染まれ”って、サビで言い切るところが好きですね。
INTERVIEW & TEXT BY 荒金良介
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2022.11.09 ON SALE
SINGLE「Z.E.R.O.」
ライブ情報
BLUE ENCOUNT TOUR 2022 〜knockin’ on the new door〜
10/8(土) 福岡市民会館
10/9(日) 広島JMSアステールプラザ 大ホール
10/15(土) 道新ホール
10/29(日) 仙台電力ホール
11/3(木・祝) 愛知県芸術劇場大ホール
11/10(木) LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
12/15(木) オリックス芸術劇場
10/16(金) 香川県県民ホール レクザムホール小ホール
[2023年]
2/11(土) 日本武道館
プロフィール
BLUE ENCOUNT
ブルーエンカウント/田邊駿一(Vo,Gu)、江口雄也(Gu)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)による、熊本発、都内在住4人組のエモーショナルロックバンド。2014年9月にEP「TIMELESS ROOKIE」でメジャーデビュー。2015年1月にリリースした1stシングル「もっと光を」は、新人ながら全国35局でのパワープレイを獲得。同年5月には人気のテレビ東京系アニメ『銀魂(第3期)』のオープニングテーマとなるシングル「DAY×DAY」をリリース。7月に1stフルアルバム『≒』をリリース。2016年10月には日本武道館ワンマン公演を大成功に収め、メジャーデビュー5周年、バンド結成15周年となる2019年6月に渾身のミニ・アルバム『SICK(S)』リリースし、バンド史上初のホールツアーを成功させた。2021年4月17日&18日には初の横浜アリーナ単独公演を開催。2022年6月、辻村勇太が2023年春より活動拠点をアメリカに移すことを発表。
BLUE ENCOUNT OFFICIAL SITE
https://blueencount.jp