■「この『RAINBOW ROAD』は、いろんなことをしては冷めてきた自分が何年もかけて、1年に1度、ビッケブランカ面白い、と思ってもらえる場所を作ろうと主催しました」(ビッケブランカ)
ビッケブランカが「全員が1年に1度集まれる場所を作る」というコンセプトを元にスタートさせた『RAINBOW ROAD』。その第1回となる『Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD-軌-』が10月30日、東京ガーデンシアターで開催された。
ステージは、『RAINBOW ROAD』と描かれた台を行き来する階段が設置された段差のあるセットになっており、床のへりには「Vicke Blanka」の文字のプリント。中央にはメインステージから花道を繋いだセンターステージが設置されており、可動域の広い立体感のある空間に仕上がっていた。
黒い衣装のサポートメンバーたちが登場後、白キャップにシルクスカーフをあしらった白シャツ姿のビッケブランカが現れ、会場を揺さぶる低音ゴリゴリの「Shekebon!」で威勢よくライブがスタート。「Are You Ready Tokyo?」というかけ声で、会場の盛り上がりに点火する。その勢いのままキーボードの前に移動し「ココラムウ」、次にはエレキギターを抱え、ステージ中央に立って陽気な「Moon Ride」へ。キーボードもギターも弾きこなすビッケの多彩さもさることながら、観客のノり方も上手い。曲に合わせた音の乗り方、腕の振り方がばっちりで、曲を聴き込んでいる観客が揃っていることが見て取れた。
「『RAINBOW ROAD』第1回に来てくださってありがとうございます。普段から考えるのが好きですが、『RAINBOW ROAD』に関してはそれ以上に考えてきました。ずっと楽しみにしていたので、こうやって開催できてすごく恵まれてるなと思います」
そして、グッズのバングルライトを振ってもらうよう会場に頼み、フロアから上の階層までまんべんなく揺れる光を見て「ホタルみたい」とつぶやく。
「エレキギターでかっこつけたいと思います」と再びギターを構え、赤い照明の下、ピアノの切ない旋律から始まり、ギアをどんどんあげていく「Black Catcher」。そして、ピアノの前奏が加速して手拍子を誘う、「Natural Woman」。「ビッケブランカと言えば」のファルセットが炸裂するパワフルな2曲だ。
ステージのセットのいちばん高い場所に登って歌い上げるのは「ミラージュ」。心臓の拍動を思わせるドラム、寂しげに鳴るギターのアルペジオ、胸の内側を引っ掻くようなシンセ。切なさ際立つ音の真ん中で、“本気で走れば/いつも逃げきれてしまうよ” “だからダメなんだって思う”と、人の弱さを突くような歌詞を切実な表情で歌い上げた。
ステージ中央に戻ってきたビッケ、改めてこのライブへの想いを語った。「この『RAINBOW ROAD』は、いろんなことをしては冷めてきた自分が何年もかけて、1年に1度、ビッケブランカ面白い、と思ってもらえる場所を作ろうと主催しました。見て。アリーナだからできるんですよ」と、今回、初導入となったセンターステージを指し、次の「オオカミなら」でさっそく初めてのセンターステージに立つ。観客に囲まれ、うれしそうに会場を見わたす表情が印象的で、間奏ではセンターステージ周りの観客に手を振り、この新しいステージをいかに楽しんでいるかが伝わってきた。
メインステージに戻り、さらにセットのいちばん高いところに登る。立体的な会場を使い尽くしながら歌うのは、「ポニーテイル」。春の訪れを感じさせる爽やかなこの曲では、ピンク、オレンジ、紫、黄色華やかな照明に照らされ、ビッケと、観客たちの手が左右に揺れる光景がなんともいえないなごやかさがあった。季節は秋から冬への移り変わりの時期だが、アコギの丸みのある音もあいまって、一瞬春の風が吹いたように感じられた。
「こないだ大阪でフェスをやらせてもらったんですが、そのフェスは声を出してよかったんです。すごかったよ。その賑やかさが懐かしくて楽しかった。徐々に戻ってきている感じがある」と感慨深げに語るビッケ。
ビッケブランカに限ったことではなく、2020年にコロナが本格化し、ライブの声出しが制限されるようになった頃、アーティスト側も観客側にも強い戸惑いと緊張感があった。コールアンドレスポンスも歓声も上がらない会場をどう盛り上げ、盛り上がりをどう伝えればいいのか。そんなぎこちない手探りの期間を経て、「声を出さないライブの楽しみ方」を双方が掴み始めた感がある。この日のライブは声出しなしだったが、会場全体を見わたしていて、ステージ上で煽るビッケも、それに応える観客にも高揚感とともにリラックスした様子があり、ライブにおけるニューノーマルが定着した自然な盛り上がりが生まれていたと思う。
そこから全体の照明を落とし、ライブはバラードパートへ。センターステージにキーボードと小さな灯りのついた椅子が設置され、「せっかくセンターステージがあるのでしっかり尺をとってバラードをやろうと思います」と、「Divided」と「まっしろ」を歌い上げる。
「この期間もいろんな曲を作ってきましたけど、この曲でいちばんボトムまでいったんだよな。気分が落ちたわけじゃなくて、自分の心のいちばん下まで落ちたというか。そういう機会をもらって作った曲です」と歌うのは「魔法のアト」。ピアノと歌だけの、この日いちばんシンプルな構成での演奏となった。“君が嫌いなのに/君で傷つきたい”という、複雑な思いの絡み合う、美しいだけではない愛情の表現を端正なピアノに繊細な歌声を乗せた。
続けて、ステージ全体にポツポツと散らされた照明が、タイトルに合わせて星空のように広がる「北斗七星」。
「続いていくものに魅力を感じるようになって『RAINBOW ROAD』をやろうと思ったけど、イベントを考え始めたときは今のこの景色を知らなかった。この景色を見て改めて、歴史というものをみんなで作っていこうという考えが合ってたなと思います。同じ人生ってないわけでしょ。それってすごいことだと思います。だから、それぞれ過ごしてきて、ここでそれを共有するような場所にしたいと思っています。これからも『RAINBOW ROAD』をよろしくお願いします」
MCによってしんみりした空気が醸し出されてきた会場に向けて、「もう盛り上がっていきたいんだよな」と笑わせて空気を切り替える。「一瞬みんなマスク下げてくれないか? 顔を見たいんだ。…みんな笑ってるんですね」感慨深げにステージを端まで歩いて観客を見てまわったあと、「幸せ者です」とひと言。
ライブ終盤に向けた寂しさを拭い去るように始まる「Winter Beat」。バイオリンが牽引する、明るく陽気な冬ソングだ。
前奏からひとつずつ楽器を増やしていく演出で賑やかに奏でられる「Slave of Love」は、コーラスの多用でQueenを思わせるブライトなメロディ。ステージを何度も歩き回り、大サビの“no no no”を繰り返し、観客と一体となって力強く拳を突き上げる。極め付けに拍手を煽り、「最高です」と笑う。「今日みんな来てくれて本当にうれしいです。みんな、僕はラブ!」と、シームレスに真夏のポップなラブソング「This Kiss」へとつなげていく。
ステージには狐の仮面をつけた白い衣装のダンサー4人が登場。ビッケはダンサーと一緒に軽やかなステップを披露し、「Slave of Love」で焚きつけられた会場のテンションを、さらに天井知らずに盛り上げていく。そして、この日のライブでボルテージマックスに達したのはまちがいなく「Ca Va?」だったろう。会場中に「Ca Va?」と呼びかけまくり、火に薪をくべるように会場の温度をどんどん上げていく。一度燃え盛った炎の勢いがもう簡単には勢いを消せないように、どれだけ音量を上げても足りないくらいの高揚感につつまれた。
本編ラストを飾ったのは「ウララ」。ビッケは会場の1ブロックごとに目線を合わせて手を振っていき、会場すべてに振り終わった後には「思わず」といった風に拍手が沸き上がった。この空気がずっと続いてほしいと願わずにはいられない名残惜しい盛り上がりのまま、さっぱりと本編を締め括った。
本編終了後、アンコールに応えて歌うのは「Changes」。
「『ビッケブランカがいるからちょっといい』と言ってもらえることがあるんですけど、皆さんが思うよりうれしんですよ。それが活力になってるから、それを続けることはたやすい。そうやって一生懸命作るものには何かが帯びるんだよね。なんとたやすい奇跡!」「ここからビッケブランカは6年目に入っていこうと思います。そしてこの『RAINBOW ROAD-軌-』に来てくれて心から感謝しています、ありがとう」
そして、最後の1曲として「ここから1年の活力として届けたいと思います」と歌うのは、「THUNDERBOLT」。「僕たち」を主語に、“強いわけじゃない/強くありたいだけ”と歌うこの曲は、次の『RAINBOW ROAD』までの活力を注入する曲としてふさわしい。センターステージに立つビッケに観客の突き上げる拳が集まる光景も力強いものだった。
全体を通して、ビッケブランカの『RAINBOW ROAD』というイベントへの思い入れの強さ、そして、ライブ力の高さを見せつけられたイベントだったように思う。センターステージにキーボードひとつをぽつんと配置する演出へのこだわりなどはもちろん、バラードパートのあとには背後に位置するセンターステージを振り返って見ていた前列の観客に向けて、「首疲れた? ちょっと考えが至らなかった。次の『RAINBOW ROAD』ではもう少し考えます」という気遣いを見せるひと幕もあり、ビッケ自身のアイデアやこだわり、そして、このイベントを今後も続け、さらにブラッシュアップしたいという意気込みが感じられた。
また、ライブの空気感を作る上手さにも目を見張るものがあった。今回ライブ中のMCの回数が多く、それは『RAINBOW ROAD』への思い入れの強さゆえでもあっただろうが、結果としてそれが客席とのコミュニケーションの回数を増やすことに繋がっていた。それも、単に話していた時間が長いだけでなく、たびたび笑い声が上がっていたことからも、観客の心を捉え、一体感を生み出すMCになっていたと思う。
そして今回、ビッケブランカのポテンシャルを大きく引き出したのがセンターステージだ。自身初となるアリーナ公演であり、初めてセンターステージ導入が可能となったのだが、初めてとは思えないパフォーマンスを見せつけられたと思う。これまではメインステージのみで発揮されてきたビッケのライブでのコミュ力が、センターステージという、より客席に近い場を得たことで増幅され、それがライブ終盤にかけての爆発的な盛り上がりに繋がったのではないかと思う。センターステージとはこう使うのだ、声が出せなくてもここまで盛り上がるのだ、という可能性を見せてもらった気がする。
今回の『-軌-』を起点に『RAINBOW ROAD』は今後何年もかけて紡がれ、ビッケブランカの歴史を作っていくのだろう。その軌跡が今から楽しみであるし、その過程で会場がより大きくなり、より長くなったセンターステージの通路を駆け抜けながら客席を沸かす日もくるのかもしれない。そんな未来への期待を抱かずにはいられないライブとなった。
TEXT BY 満島エリオ
PHOTO BY 藤井拓
番組情報
CSテレ朝チャンネル1『Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD-軌-』
12/31(土)16:00~予定
番組サイト
https://www.tv-asahi.co.jp/ch/contents/variety/0613/
ビッケブランカ OFFICIAL SITE
https://vickeblanka.com/