台湾のシンガソングライター・WeiBirdが、『THE FIRST TAKE』に登場した。中華圏で大ヒットした映画『月老〜また会う日まで〜』のテーマソング「如果可以(Red Scarf)」と、英詞で歌われる「R.I.P.」の2曲を披露。彼は、『THE FIRST TAKE』のためにアレンジしたサウンドをバックに、感情のこもった伸びやかな歌を届けてくれた。
WeiBirdは、2009年のデビュー以来、数多くのヒット曲を生んできた中華圏を代表するアーティストのひとり。台湾だけでなくアジア圏でも高い人気を誇る彼の活躍ぶりと注目度から、今回の『THE FIRST TAKE』出演が実現した。
弾き語り、バンドサウンド、R&Bなど様々なサウンドを作っていく優れた音楽クリエイターのWeiBird。インタビューでは、彼のこれまでのキャリアや9月にリリースしたニューアルバム『明天再見』について、そして『THE FIRST TAKE』出演のエピソードなど様々な話題を語ってくれた。
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■ギターを弾いていくと、どんどん歌うことも好きに
──WeiBirdさんが音楽に興味を持ったきっかけを聞かせてください。
きっかけは、両親が音楽好きだったのでその影響ですね。両親が合唱団に入っていたり、家に音楽のカセットテープがたくさんあったりしたんです。ディズニーのサントラとか古い洋楽だったりいろいろありました。僕は子どもの頃からそういう音楽を家で聴いていたんです。
──影響を受けた音楽やアーティストを挙げてもらえますか。
影響受けた音楽はたくさんあります。今お話ししたディズニーのサントラや古い洋楽もそうですし、僕が小学校2年のときに有名な歌手のテレサ・テンさんが亡くなってそのときに街中で曲が流れていてその影響も受けました。高校になるとC-POPが流行り出して、ジェイ・チョウさんとかすごい有名な方も出てきたんです。そうしたC-POPのアーティストをたくさん聴きました。そのあとは、ジョン・メイヤー、ダミアン・ライスなどの洋楽のアーティストを聴くようになってたくさん影響を受けました。
──WeiBirdさんはいつ頃から曲を作り始めたんですか。
曲作りを始めたきっかけは、高校受験をしたときにお父さんからギターをプレゼントされたんです。ギターと一緒に教則本をもらって、そこから独学で覚えていったんです。ギターを弾いていくと、どんどん歌うことも好きになっていったんですよ。弾き語りをするようになって、そのうち曲も作るようになったんです。高校のときに軽音部に入ってバンドでパフォーマンスをすることになったんですけど、たいていカバーソングをやることが多いじゃないですか。でもそのときに入ってたバンドのリーダーが、自分の書いた曲をやりたいって希望があってオリジナル曲を披露したんです。そういうこともあって、曲作りは自分に身近に思えたので、自分も曲をどんどん作ろうって思うようになりました。
──WeiBirdさんは、台湾では誰もが知っているシンガーソングライターだとお聞きしました。WeiBirdさんが歌手になった経緯をお聞きしたいです。
歌手になったきっかけは、大学の頃に参加した歌のコンテストがきっかけで、歌手になる機会に巡り会えたんです。それで、2009年にファーストEP『慢慢等』でデビューしました。
──台湾最大の音楽賞「金曲獎」の新人賞を取られたんですよね。
そうなんです。2010年にファーストアルバム『韋禮安』を発表して、その作品がヒットして多くの皆さんに受け入れてもらえて、2011年の22nd Golden Melody Awardsという音楽賞で最優秀新人賞をいただきました。同時にいろんな賞にもノミネートされてすごく光栄でした。そのときに、僕もほんとに音楽界に認められたんだなって感覚になりましたね。家族もこの仕事をしていくことに安心してくれたかなと思います。
■いいメロディといい歌詞を作ることが大事
──それはよかったです。WeiBirdさんはご自身で楽曲を手掛けられていますが、曲作りでどんなことを大切にしていますか。
大切にしていることはふたつあります。まずは曲のメロディ。その次はメロディに合う歌詞。このふたつを重要視しています。そのふたつがしっくり合えばいい曲になると思っています。曲のスタイルや音楽ジャンルもいろいろあるんですが、まずはいいメロディといい歌詞を作ることが大事だと考えています。
──ちなみに、曲作りではどんなものからインスパイアーされますか。
僕の中で、何かに頼りすぎて曲を作るというのはソングライターとしてあまり良くないなって考えがあるんです。僕としては、毎日朝9時にスタジオに行って、固定の時間を設けて曲作りをしていくっていうほうが大事だなと思っているんです。もちろん、曲を生み出すためにインスピレーションを探すこともいつもしていますね。新しい音楽を聴く、映画を観る、本を読むとかいろんなことからインスピレーションを受けています。散歩してるときも考え事ができるので、外を歩きながら曲に関して考えることも多いです。あと、台北にいるときはよくスケートボードに乗っているので、そのときにインスパイアーされることも多いです。
■音楽は洋服のようなものだなと思う
──なるほど。WeiBirdさんのこれまでのアルバムを聴かせてもらったんですが、アコースティックの弾き語り、バンドサウンド、R&Bなど、音楽性がどんどん変化していってますよね。昨年発表された『I’m More Sober When I’m Drunk』は全編英詞の作品でした。キャリアを重ねるごとに、どんどん表現したい音楽が変わってきてるのかなと思いました。
曲作りに関して、自分は常に新しい挑戦をし続けたいって気持ちがあるんです。よく自分が考えているのは、音楽は洋服のようなものだなと思うんです。音楽も服もいろんなスタイルやジャンルがあるじゃないですか。違ったサウンドにトライするのは、違う服にチャレンジするみたいなことかなと思ってます。例えば、昔はこういう服が好きだったけど、今は違うスタイルの服を着てるってことに近いと思うんです。昔と比べると、今の僕の音楽は斬新な感じになっているのかなと思いますね。新しい挑戦をして、自分の音楽のクローゼットをより豊かにしていきたいと考えています。
──音楽の追求欲が強いわけですね。では、台湾の音楽事情についてもお聞きしたいです。日本だとなかなか伝わってこない部分も多いのですが、今の台湾はどんな音楽シーンになっていますか。その中でWeiBirdさんはどのようなスタンスで音楽を表現していますか。
C-POPの音楽シーンは、過去と現在では結構変わってきてますね。昔はメジャーのポップソング、バラードがメインだったんですが、今はジャンルが多岐に渡るようになっています。王道のバラードもあれば、インディーズのバンド、R&B、ヒップホップの曲もヒットチャートに増えてきました。たぶん、日本の音楽シーンと似ていると思います。僕が2009年にデビューした頃は王道の曲、バラードなどが多い時代だったんですが、今は自分が好きな曲をやりたいように作れるようになってきているなと思います。
──WeiBirdさんにとっても、音楽をやりやすい環境になっていってると。
ハイ、今の音楽シーンは創作しやすいなと感じてますね。9月に発表したニューアルバム『明天再見』は、まさにそういう感じになってます。アルバムには違うジャンルの曲がたくさん入っています。例えば、リード曲の「明天再見(サヨナラまたね)」は、王道のポップソングではなくて、懐かしさを感じさせるミュージカルのような曲になっています。
■アルバムは、いろんなさよならの形を詰め込んだ作品に
──では、ニューアルバム『明天再見』のコンセプトについて聞かせてください。
コンセプトとしては、哲学で“メメントモリ”という考え方があるんです。それは簡単にいうと“自分が必ず死ぬということを忘れるな”という哲学者の言葉なんです。それを僕として“今日を大切に”って解釈したんです。僕は、今日を大切に生きていれば明日がすごくありがたいものに感じるという考えを持っているんです。なので、このアルバムは、いろんなさよならの形を詰め込んだ作品になっているんです。あと、さよならという言葉は、夕方の黄昏時間、マジックアワーに似てる感じがあるのでそれも念頭に置いてアルバムを制作しました。
──まさにリード曲の「明天再見(サヨナラまたね)」は、別れと切なさをストリングス入ったサウンドで歌うナンバーです。この曲のMVを日本で撮影されたそうですね。
そうなんです。なぜ日本で撮影したかというと、先ほどマジックアワーを大切にしたアルバムと言いましたが、そもそもマジックアワーという言葉を知ったのが、日本の映画『ザ・マジックアワー』を通して知った単語だったんです。なので、僕の中でマジックアワーと言えば日本ってイメージがあるので、今回レーベルとお話をして日本で撮影できることになったんです。
──MV撮影のエピソードを聞かせてもらえますか。
東京都内のいろんな場所で撮影したんです。今回、初めて日本のチームとMV撮影したんですが、いろいろ新しい日本語を覚えました。いちばんよく使ったのが「よろしくお願いします」と「自転車通ります」です(笑)。今回、外での撮影が多かったのでどこも人通りが多かったんです。自転車に乗ってる方の通行の邪魔にならないように、撮影してるとスタッフの方が「自転車通りまーす!」ってよく言ってたんです。すごくたくさん聞いたので覚えました(笑)。
──(笑)。そしてWeiBirdさんは『THE FIRST TAKE』に出演されました。収録を終えた直後の率直な感想を聞かせてください。
撮ったあとはほんとにほっとしました(笑)。撮る前はすごい緊張だったんです。というのも、『THE FIRST TAKE』はすごくいいパフォーマンスをできる場所だと考えていたので、かなりの緊張があったんです。パフォーマンスする直前まで、ボーカルトレーナーの先生にFaceTimeをつないで指導してもらいながら、歌う2曲の練習をたくさんしていました。結果、パフォーマンス自体は自分の中ではベストが出せたので結構満足しています。
──努力の甲斐があったと。今回「如果可以(Red Scarf)」と「R.I.P.」の2曲を歌唱されましたが、選曲の理由と楽曲の紹介をお願いします。
まず「如果可以(Red Scarf)」は、去年公開されて台湾で大ヒットした映画『月老〜また会う日まで〜』のテーマソングで、ありがたいことにこの曲も去年から今年にかけて大ヒットとなったんです。この曲は、もともと中国語、韓国語、日本語の3バージョンを制作していたんですが、今回『THE FIRST TAKE』のために新しくアレンジをして、チル系のR&Bっぽいサウンドにしたんです。『THE FIRST TAKE』を通じて、グローバルにたくさんの音楽ファンのみなさんにお届けしたいと思っています。そして「R.I.P.」は、去年リリースした『I’m More Sober When I’m Drunk』という全編英語で歌ったアルバムに収録された曲になります。この曲を選んだのは、『THE FIRST TAKE』はグローバルなリスナー、ビューワーたちが聴けるYouTubeチャンネルなので、英語の曲も歌いたいなと思って選びました。この曲も、『THE FIRST TAKE』のために僕が新しいアレンジを考えました。
■感情の入れ方、歌い方は120点
──『THE FIRST TAKE』のパフォーマンスに自分で点数をつけるとしたら何点ですか?
パフォーマンスやテクニカルの話になると、いつも僕はもっとよくできるって心構えなので100点中80点かなと思います。ただ、感情の入れ方、歌い方は120点の出来だと思います。もしまた機会があったら、他の曲を『THE FIRST TAKE』で披露したいなと思ってます。
──かなり手応えがあったんですね。では話題を変えて、WeiBirdさんが好きな日本のカルチャーを聞かせてください。
僕もそうなんですが、おそらく台湾で自分と同い年くらいの人たちはみんな日本のカルチャーにすごく影響を受けてます。特に日本のアニメ、ドラマはみんな見てます。中でも僕は『SLAM DUNK』が大好きでした。渋谷の街を歩いていたら、これから上映される『SLAM DUNK』の映画のポスターがあって、あ!って思いました。あと、僕は日本の料理、食べ物がすごく好きなんです。
──日本の一番好きな食べ物はなんですか。
う〜ん、すっごくいっぱいあるんですよ(笑)。今回日本で食べたものもすごくおいしいものばかりでした。一番は選べないですけど、うな丼、ローストビーフ丼とかがおいしかったです。
■日本の“職人”って言葉がすごく好き
──日本の食事を満喫できたと。では最後に、WeiBirdさんはアーティストとしてこれから目指すものを聞かせてください。
やっぱりご飯が好きなので料理の勉強を…というのは冗談です(笑)。やっぱり、音楽に対してこれからもたくさんのチャレンジをしていきたいです。歌うこと、作曲すること、ライブパフォーマンス、すべてにおいてもっとレベルアップしたいですね。僕は日本の“職人”って言葉がすごく好きなんです。僕は自分のことを、曲作りの職人と考えています。なので大きな目標は、曲作りの職人、パフォーマンスの職人とか、世界で競える音楽の職人の中のトップを目指したいなと思ってます。
INTERVIEW & TEXT BY 土屋恵介
PHOTO BY 増田慶
楽曲リンク
プロフィール
WeiBird
ウェイバード/繊細な心情をスムースなサウンドに乗せ、ささやくように歌う台湾、台中出身のシンガー・ソングライター、WeiBird, 韋禮安(ウェイ・リーアン/William Wei)。2010年、デビュー・アルバム『韋禮安』をリリースし翌年の金曲奨(台湾のグラミー賞と言われる音楽賞)で、最優秀新人賞を受賞。2012年にリリースしたセカンド・アルバム『有人在等』に収録されている「還是會」がドラマ『我可能不會愛你(邦題:イタズラな恋愛白書)』の主題歌となり台湾で社会現象になる。2021年には映画『月老』のために書いた「如果可以 Red Scarf」も大ヒット。2022年9月9日にはアルバム『明天再見Good Afternoon, Good Evening and Goodnight』を発売。
WeiBird OFFICIAL SITE
Instagram:https://www.instagram.com/weibirdmusic/