■「やってきたことは間違ってなかったと思ったし、これからもいい曲を作っていこうと思いました」(indigo la End・川谷絵音)
11月1日、indigo la Endがキャリア初となる日本武道館単独公演『藍』を開催した。楽曲の世界観ともリンクするような男女の物語が描かれた映像とともにステージが進行するコンセプチュアルな内容によって、10年以上に及ぶバンドの歴史と、オーディエンスそれぞれの記憶がライブを通じてプレイバックしてくるような、実に感動的な一夜となった。本稿ではそのオフィシャルレポートを掲載する。
開演時刻を過ぎると、男女の記憶と会話がコラージュされた映像が流れ、「あれから10年以上経ったけど、なぜか頭の中で懐かしい音楽が流れ始めた」という一言をきっかけに、ライブは「sweet spider」からスタート。インディーズ時代に発表されたファーストアルバム『夜に魔法をかけられて』の1曲目を飾る楽曲であり、バンド名の由来となっているスピッツの名曲を連想させるタイトルのこの曲を1曲目に持ってくるという時点で、初の日本武道館公演に対するメンバーの想いが伝わってくる。
序盤はアップテンポな楽曲が並び、佐藤栄太郎の加入で現在の4人編成になって最初に発表された「悲しくなる前に」、場内が手拍子に包まれた「瞳に映らない」を続けると、川谷絵音が「ベースの後鳥亮介がめちゃくちゃかっこいいイントロを弾きます」と煽って、スラップを駆使したベースイントロで始まる「花をひとつかみ」でさらに会場を盛り上げる。メンバー4人はスーツスタイルで決め、川谷は髪を鮮やかな藍色に染めていたりと、やはり特別な雰囲気だ。
ライブは曲間に男女の物語を女性を軸に描いた映像を挟みながら進み、その中にはふたりがインディゴについて話す場面も。長田カーティスがファンキーにカッティングを刻む「夜風とハヤブサ」や、バラードナンバーの「蒼糸」などが披露されていく一方で、映像では「このバンドが武道館でライブをやったらどうする?」といった会話が交わされたり、シャボン玉で遊びながら、2月24日がバンドの結成日であることや、初期にはメンバーチェンジが続いたことなどが話される。曲の内容に合わせて歌詞の字幕が赤から白に変わることが話題となったMVを、映像の中の女性がスマホで見ていて、楽曲のストーリーと映像のストーリーがシンクロするような演出の「チューリップ」は非常に秀逸だった。
ここで川谷が「結成12年でようやく武道館でワンマンができて感無量です」と感謝を伝えると、「次にやる曲は最初セットリストに入れてなかった曲です。というのも、自分の個人的な気持ちを殴り書きしたような歌詞なので、武道館でやるのはどうなんだろうなって。でも、僕の殴り書きの歌詞がその人にとってはまた違った意味になったりするのかなと思って、急遽やることにしました。僕は音楽を数ヶ月に一回は嫌いになる瞬間があって、『音楽なんて好きにならなきゃよかった』と思うんですけど、それでも曲を作ってしまうし、特にindigo la Endは苦しいときほどいい曲ができたりして。本当に自分の人生の中心にあるバンドだなって」と話をして、「夜の恋は」を演奏。最後に繰り返される「好きにならずにいたかった あなたを知らずにいたかった」のコーラスがいつにもまして胸に響く名演だった。
8月に発表された最新曲「そのままの冷たさで」からライブは後半戦に突入し、高速のイントロで始まる「ハートの大きさ」、インディーズデビュー作『さようなら、素晴らしい世界』の収録曲で、川谷のモノローグが印象的な「秘密の金魚」といったアグレッシブな曲が続く。映像では思い詰めたような表情でどこかに走り出した女性が映し出される中、「夜明けの街でサヨナラを」や「名もなきハッピーエンド」といったメジャーデビュー時期のアップテンポなナンバーが続き、長田と後鳥もステージ前方に出てオーディエンスを煽ったりと、さらなる盛り上がりを生み出していく。
ライブのタイトルである「藍」が曲名に入った「藍色好きさ」の演奏を終えると、映像の中の女性がたどり着いた場所は日本武道館。すると、映像の中の女性が実際に客席に姿を現して、彼女がステージを見つめる中、ここで演奏されたのがサブスクによるリバイバルヒットでインディゴのステージを一段階引き上げた名曲「夏夜のマジック」。まさかの展開に驚きつつも、ステージ上に大量のシャボン玉が舞う幻想的な雰囲気の中、オーディエンスは川谷とともに一斉に手を上げて、自由に体を揺らし、この日のクライマックスを作り出していた。
川谷が「武道館はお客さんの顔がよく見えるので、『こういう人たちがインディゴの陰湿な音楽を聴いてるんだ』ってわかりました」と笑いつつ、「みんなどういう風に僕たちの音楽を聴いてるんだろうと思ってたんですけど、今日みんなすごくいい表情で聴いてくれて、やってきたことは間違ってなかったと思ったし、これからもいい曲を作っていこうと思いました」と話して、本編ラストに披露されたのは「Play Back End Roll」。スクリーンにはエンドロールが流れ、アウトロではメンバーそれぞれがエモーショナルに轟音をかき鳴らして、まさに映画のように濃密な本編が終了した。
アンコールでは「通り恋」と「冬夜のマジック」を演奏すると、川谷が「最後に何をやるかすごく迷って、僕らにとっての武道館ってなんだろう?と考えながら、セットリストを考えて……最後に新曲をやろうと思って。これからのindigo la Endを最後にやって、終わりたいと思います」と話して、初披露となる新曲を演奏。この曲がインディゴとしては珍しいメジャー感のあるコードと軽快なリズムの楽曲で、まだまだバンドが変化・進化を続けていることを明確に感じさせた。メンバーがステージを降りた後には、結成日の翌日である2023年2月25日に自主イベント『蒼き花束』を開催することが告知されたように、彼らはこのメモリアルな一日をあくまで通過点として、これからも素晴らしい音楽を作り続けてくれることだろう。
TEXT BY 金子厚武
PHOTO BY 鳥居洋介、横山マサト
【セットリスト】
01. sweet spider
02. 悲しくなる前に
03. 瞳に映らない
04. 花をひとつかみ
05. 想いきり
06. 雫に恋して
07. 夜行
08. 夜風とハヤブサ
09. 蒼糸
10. 花傘
11. チューリップ
12. 邦画
13. 夜の恋は
14. そのままの冷たさで
15. 夜汽車は走る
16. ハートの大きさ
17. 秘密の金魚
18. 夜明けの街でサヨナラを
19. 名もなきハッピーエンド
20. 藍色好きさ
21. 夏夜のマジック
22. Play Back End Roll
<アンコール>
En1. 通り恋
En2. 冬夜のマジック
En3. 新曲
indigo la End OFFICIAL SITE
https://indigolaend.com