今年4月からほぼ月イチで楽曲を発表してリリースラッシュの加藤ミリヤが、新曲「オトナ白書」をリリースした。今回の楽曲は、18年来の盟友でもある作家・LiLyが上梓した新刊エッセイ『オトナ白書 平成ギャルから20年、令和の東京、40代へ』とのコラボから生まれたもの。共に10代の頃はギャルだったふたりが、平成から令和に時代が変わった今、自分自身に何を思うのか。今回の対談では、新曲の制作背景を振り返りつつ、ミリヤイズムの正体やギャルイズムの継承、大人になっても失いたくないものなど、本音で語り合ってもらった。
■デビューした女子高生と、大学生だけどライター
──おふたりの出会いは、LiLyさんが駆け出しのライター時代に遡るそうですね。
LiLy:大学生の音楽ライターで、『流派-R』という番組で、たまにレポーターの仕事をしていたんです。18年前、『流派-R』で「デビューするJKです」みたいな感じでミリヤが記者会見する企画があって、それが初対面。そのときのことをすごく覚えてます。“この子は本物だな”ってすぐに思いました。
加藤ミリヤ(以下、加藤):私も覚えてる。そのあとにすぐ会ったのかな。気がついたらLiLyは早い段階から仲良くなって。お姉さんなのにすごく同じ目線で“友達”みたいな。
LiLy:考えてみれば、どうやって友達になったんだろうね(笑)。番組で知り合ったとしても、デビューした女子高生と、私は大学生だけどライターみたいな感じだから、意外と垣根があって。マネジャーさんとかもいるなかで、どのようにプライベートな連絡先を交換したのか…、今聞かれて初めて考えてみたら、かなり不思議(笑)。
──今回の楽曲は、ミリヤさんからコラボの提案があったそうですね。
加藤:LiLyが発信しているメッセージは私と近いと思っていて。めちゃくちゃ共感するし、女性をエンパワーしている人だし、トークもめちゃくちゃ面白いから、何かしたいなって。
LiLy:ミリヤからコラボを提案されて、すごくうれしかった。光栄です。
加藤:LiLyに「コラボどう?」って話したときに、『オトナ白書』という新刊が出るんだよねっていう話になり。平成のJKが40代でどうなってるか、みたいなエッセイを書いたのって教えてくれて。その流れでLiLyが「曲とかどう?」って言ってくれたの。
LiLy:いつもミリヤの曲は、恋愛しているときに深く深く聴いてきたの。ただ、気づいたらお互いお母さんになって、恋愛のその先のリアルも知ることになって。「LIE LIE LIE」はセックスレスをテーマにしているとか。出会って恋してどうやって付き合おうか?みたいな若いときの恋愛シーンから始まって、今ではミリヤも長く続いた男女の葛藤をテーマした曲も歌い出していて。この流れもまさに「オトナ白書」だなって。
加藤:スケジュールを訊いたら、LiLyが本を出すのが9月で、私は9月8日がデビュー記念日。だったら、9月に出そうと。話しているうちにどんどん盛り上がって「いいかも、やりたい!それ、絶対面白い!」みたいな。だったらタイトルは同じ方がいいよねって。
LiLy:ミリヤは恋愛というものを歌ってきて、私は恋愛というものを書いてきて。私は20代のとき、平仮名で「おとこ」と書いて男というものをシリーズで書いていた。結婚して出産してお母さんになって、自分のテーマはもはや男や恋愛の話だけじゃないなって体感したのが30代。そのなかでエッセイのキーワードを探していたときに、片仮名の「オトナ」だなと思って。今回はそのオトナシリーズの集大成だから「白書」だなって考えてた段階で話したときに、ミリヤがすごく刺さったって言ってくれて。
加藤:その「オトナ白書」という言葉を聞いたときに、もうコラボの展開まで見えちゃって。
──片仮名のオトナにはどんなニュアンスが含まれているんですか?
LiLy:大人って、みんなのイメージの上に成り立つ生き物、というか(笑)。成人年齢とかはあるけれど、オトナって、ちょっとした架空のファンタジーのようでもあって。
加藤:そうそう(笑)。
LiLy:大人って不思議。定義が曖昧。「普通」とかと似ていて、普通はナニ?大人ってダレ?そういう意味で片仮名な感じがするんです。あと、「大人」って常に結構、嫌われてるじゃないですか。
加藤:私はまだ嫌われてないよ(笑)。
LiLy:あはは。ううん、単語として、悪い意味で使われることが多いなって。大人というものが悪者として捉えられることがあるというか。「ファック大人」とか、「Don’t trust under 30」とか、大人はマジでつまんねえ!みたいな。だけど、私は子どもの頃から大人というものに憧れていたんです。早くなりたかった。素敵と思ってた。クソみたいな大人はいるけど、私が目指すのは、すごく素敵な片仮名のオトナ!って。今ではもう立派な大人なんだけど、それでもまだ少し憧れがあるの。オトナというものに対しては、常に私は憧れ要素があるかもしれない。
■本のエンディングソングを作るみたいなイメージ
──楽曲は、どのように作っていったんですか?
加藤:最初に、LiLyから書き終えたばかりのあとがきをもらったんです。そのあとがきがすごく良くて。筆が乗るって、こういうことを言うよねって。私もたまに言葉を書くときがあるので、読んだときにノリノリで書いてるのが伝わってきて。
LiLy:うれしい。うん、まさにそう。ゾーンに入ってる感じ。あれは自分でも思う。覚醒しながら書いた熱のこもった文章になった。
加藤:そう。自分のことが好きになるあとがきで、胸がぶわーっと熱くなって、めちゃくちゃ頑張りたくなったの。そのあとがきを読んだときに、自分の書くべきものが見えたというか。あとがきが良かったぶん、すごくプレッシャーになっちゃったけど、本のエンディングソングを作るみたいなイメージで書いたんです。
──サウンドコンセプトはどのように考えていたんですか?
加藤:LiLyはヒップホップに精通している人だし、自分が今やりたいのはヒップホップ/R&Bなので、曲調の方向性は歌詞より前に決めていて。まずは今までやってない、がっつりオートチューンをやるというのがテーマ。これだけ流行ってるのに今までは絶対やりたくなかったんです。
LiLy:たしかにやってない。
加藤:歌えるのになんで必要あるの?と思ってたから。
LiLy:おぉー。
加藤:それはべつに、歌えない人が使ってるという意味ではなくて。変な自負があって、私は歌だけでメロディーを奏でられるから声を加工させる必要はないと思ってた。だけど、今はそういう変なこだわりはどうでもよくて。自分の耳の中で、オートチューンでケロってる自分の声が想像できたし、やってみたら面白かったという感じ。
■“大人はクールであたしはブルー”って、すごく加藤ミリヤ
──トラック選びは?
加藤:今回のWABISABIさんは初めてご一緒させてもらったので、最初にいっぱいトラックをもらって、そこから選ばせてもらいました。それでビートを聴いていたら、最初に“大人はCOOL あたしはいつもブルー”というラインが浮かんできて。
LiLy:そこ、大好き。超好き。
加藤:その時点で“勝った”と思いました。それだけで私の気持ちが説明できるし、大人にしかこのニュアンスはわからない。高校生の私にはわからなかったこと。当時から大人はクールだなと思ってたし、そういう大人になりたいと思ってたんだけど。
LiLy:私も思ってた。
加藤:今回のLiLyの本にもそういう気持ちが書いてあるから、“わかるぅ”と思いながら読んでいて。ブルーにはいろんな意味が含まれていて、私たちはそんなに簡単じゃないっていうことなんです。
LiLy:“大人はCOOL あたしはいつもブルー”はすごいパンチライン。コラボするときに、たとえばミリヤの曲が先にあって、そこにインスパイアされた私がショートストーリーを書き下ろすとか、後攻のほうがむずいんですよ、ラップバトルと違って(笑)。
加藤:あはは。
LiLy:だから、プレッシャーだったと言われてすごく光栄だけど、完成作を見せられてから作るっていうのは絶対難しいはずで。私は本の中で、大人としての葛藤や、ここからどんどん老いていくというエイジングに対する葛藤も書いてるんです。それをミリヤだったらどう表現するんだろう?とすごく楽しみで。結果は、もう、今回の曲を聴いて鳥肌が止まらなくなりました。“大人はクールであたしはブルー”って、すごく加藤ミリヤなの。ミリヤイズム。
加藤:ありがとう。
LiLy:私自身、今回は自分を奮い立たせながら書いていて。特にあとがきは、「こっから10年分のアドレナリン、やっとついに掴めました」みたいな。「年齢を重ねることに対して不安ももちろんあるけれど、人生のピークは実はここからかも!」って心から思えたんですね。書きながらゾーンに入れて、読んでる人もつられて元気になる感じのあとがきが書けたけど、とはいえ毎日ハイパーじゃないわけ(笑)。そこに至るまでの日常、つまり日々の中にはもちろんブルーもある。きっとそれは私だけじゃなくて、ブルーがあった分だけ、ハイにもなれる瞬間があるのが人生だと思うから。それをあのメロディーで、かっこいいラップ調で歌にして、聴いていてクソ切ないのに生きるエネルギーが腹から湧いてくるあの感じって、ミリヤにしかできない。リアルな切なさ含めてミリヤイズム。ファンの女の子たちが、ミリヤのブルーに共感して“私も超ブルー”って思いながら、でもミリヤでもブルーなんだ、って救われる感じというか。
■イヤフォンを通してひとりで「わかる、わかる」って聴いてきた
──切なさの共有がポイントだと。
LiLy:元気づけるって、実は非常に恩着せがましいこと(笑)特に自分が落ち込んでいるときに、ひたすら元気な人に会うと、励まされるどころかうざったく感じることだってあるわけで…(笑)。特に大人は疲れてるし、「こっからみんなで上がってこうぜー!」みたいなノリは流石にもう超疲れるわけ(笑)。
加藤:わかる(笑)。
LiLy:もちろん、今回のミリヤとのコラボも、仕事面でもそうだし、人生に対しても一緒に上がっていこうね!というのが発端だから同じと言えば同じなんですけどね。ただ、「一緒に」といっても根底には常に「お互いそれぞれに」というのがある。ミリヤとの共通点は、誰ともツルまないタイプだし、ひとりで好きなようにしているのが好きってところかもしれない。私はミリヤがひとりで書いた恋のつらさとかを、イヤフォンを通してひとりで「わかる、わかる」って聴いてきた。メロディーって、ただの自分のブルーを切なくて素敵なモノにしてくれるんです。文章だけだとメロディーには勝てない。だから、今回ミリヤの音楽とコラボできたことは本当に光栄だし、本が私のフィロソフィーだとしたら、この曲は本当にミリヤイズム。出会いから18年が経って、お互いにキャリアを築いてきた今、こうして一緒に音楽と文章で最高の仕事ができたことが幸せです。
──その“大人はCOOL”なんですが、オートチューンが深くかかっているために時折、“大人は来る”と聴こえたんですね。“大人はやって来る。だから、私はブルーなんだ”とダブルミーニングにするような意図はあったんですか?
LiLy:それ、めっちゃいい解釈ですね。
加藤:ありがとうございます。その意図はなかったんですけど。
LiLy:そういうことにしちゃったら?(笑)
加藤:うん、あったことにします(笑)。
■子どもたちは本当にTRUEの塊
──“大人はRUDE”の“RUDE”は、どんなニュアンスですか?
加藤:“ずるい”って感じかな。
LiLy:めっちゃわかる。そこも大好き。
加藤:良い意味でも悪い意味でもずるいなぁーっていうのがある。特に子どもを見てると思う。子どもたちは本当にTRUEの塊というか、なんて美しいんだ、君たちは、みたいな。
LiLy:もしかしたら片仮名のオトナは、子どもの頃からサンタさんみたいにファンタサイズしていた素敵なオトナなのかもしれない。大人が来るからブルーで言うと、私は38歳くらいで止まりたかったんです。
──今回のエッセイにも「あと10年くらい38歳でいたい」「時よ止まれ!」と書いていました。
LiLy:38歳がすごくピークで幸せだった感じがして、ここで大人でいいよって。大人に憧れてるけど、ならなくていいやと初めて思った。
──大人はやって来ないでと。
LiLy:片仮名のオトナは、オバサンの対極だったりするんです。ステレオタイプな片仮名で書くオバサン。ある年齢になったらオンナであることからは降りることって、よく言えば健康的で自然なジャッジかもしれない。いつまでも女でいたいって、年々しんどくなる心理でもあるというか。でも、オンナを降りてオバサンになったと同時に、大切なモノも一緒に捨ててしまうのは絶対に嫌だなって。厚かましさとか失礼さとか、年齢を重ねて図太くなる=RUDEになるのは、方向性を気をつけなきゃなって。
加藤:フフフ。
LiLy:女はべつに降りてもいいの。だけど、品とか、オブラートに包む感じの優しさを一緒に剥ぎ取っちゃった大人はマジRUDEだなって思う。あ、男性も同じかも。
■時よ止まれって思ったということは、今、幸せっていうこと
──RUDE=下品みたいなことですね。
LiLy:がさつとか品を忘れるとか。たとえば、「こういう下ネタも私しちゃうの、がっはっは」みたいな。そういうのはRUDE。嫌い(笑)。
加藤:この曲の歌詞の二番で“時よ止まれ”と言ったのは、本当にそう思うときが最近あるから。まだ34歳だけど、あのときの年齢に戻りたいって思うことはあるし、エイジング的なこともそう。それが気にならない自分だったら良かったんだけど、やっぱり美しいものが好きだし、清潔なものが好きだから。“時よ止まれ”って言葉を、恋愛で「あなたと一緒にいたいからこの時よ止まれ」以外で初めて使ったと思う(笑)。単純に止まれ。己のために止まれ、みたいな。
LiLy:20代は、今苦しいからもっと楽になるかもって未来を楽しみにしてた。早く運命の人に出会いたい、結婚したい、とかいろいろとしたいことがあって、だからいつでも「まだそこにいっていないから今は仮の状態」みたいな感覚があって。そこから、ついに自分の人生の本番が来たな!と思ったのが30代。時よ止まれって思ったということは、今、幸せっていうことでもあるんだよね。
加藤:なるほど、そういうことか。今がベストだからね。ベストだからこのままで、っていう。
LiLy:私も38歳でそう思ったのが初めてだった。ミリヤもそうだと思うけど、10代の頃から自分を俯瞰して、“これは初めてかも”って、自分を材料に物作りをしてきたでしょ?ミリヤと初めて会ったときに本物だなと思ったのも、その俯瞰力。表現者として成功する人って、そこがすごい。そこにすごくシンパシーを感じたんだけど、まだミリヤに“初めて”が残ってるかな?って20代後半くらいから観察していたの。さっき言った恋愛以外で「時よ止まれ」を使ったのは“初体験チェックボックス”だよね。「初めてです!」って四角い枠にチェックを入れる感じ。
加藤:そう。初めてのことがあると本当にうれしいから。年を重ねるにつれて、大体のことを経験して、初めてのことは減っていくから。
LiLy:そうなの。初めてって超いいよね?
加藤:いいよね。今回はその“初めて”があったのがうれしかった。
■取り戻しに行くためにはギャルを自分に入れないとダメ
──今回の楽曲の冒頭には、「I’m a Gal, I’m a Queen」というセリフが入っています。
加藤:イントロに何か自分のタグっぽいものが欲しいなと思って。プロデューサータグならぬミリヤタグ。レコーディングの最後に何も考えないで「行ってきます!」ってブースに入って、ビートを聴いてパッと出てきたのがアレです。
LiLy:すごーい。
加藤:一回で出てきた。
LiLy:めっちゃエンパワーされるよ。
加藤:今、ギャルをレペゼンしなきゃなと思っていて。使命を感じてるんです。きっかけはLiLy。今回、「私たちギャルだったねー」「ルーズ履いてた」「私はハイソックスの時代だった」みたいな話をしたときに、あのときの自分がめちゃくちゃ好きだったなって。強かった、マインドが。怖いことは本当になくて、めちゃくちゃ生意気だったし。あのときの自分の強さが、今、自分に足りなくて。取り戻しに行くためにはギャルを自分に入れないとダメなんですよ(笑)。
LiLy:わかる、わかる。
加藤:ギャルを憑依させないと。だから、今回はギャルの服装をしようと思ったし、その私を見ることで、昔ギャルだった子も“私、あのときあれだけ強かったじゃん”って思い出せるかなって。みんなどんどん守るモノが増えてきているから。
LiLy:そうだね。いい話。
加藤:LiLyはもっとギャルでしたもん。ギャルがもっとブランドな時代。
LiLy:私はコギャルの時代。高校生のときのトレンドがルーズソックスのスミスで。それがミリヤ世代になると、もうピカチュウみたいなのも出てきたし、「ギャルたちはあまりにも激しくなりすぎた」っていうことで、ラフォーレ、ビビアン、漫画の『NANA』も流行ってたし、そういうのをミックスした感じのおしゃれ系ギャル。でも、マインド的には、男にこびないとか自分のステイトメントがある感じ。そういうギャルイズムは世代を超えて受け継がれていると思う。
──平成ギャルのおふたりに令和ギャルはどう映りますか?
LiLy:令和ギャルと接したことがないからわかんない(笑)。
加藤:接してみたいもん。
LiLy:私の4個上が安室奈美恵さん。その同世代が岩堀せりさんとか佐田真由美さん。その世代の娘さんたちが令和ギャルなのかもしれないですね。
加藤:それっていちばんの英才教育じゃない?一周回って。
LiLy:そうだと思う。あとトレンド自体、20年で繰り返されるっていうから。
加藤:ギャルって、人生楽しんでるかわいい子みたいな感じかな。今は良い意味で使われてるからいいなと思う。ギャルがもっと広い範囲で使われてるというか。
LiLy:たぶん定着したんだと思う。イケメンっていう言葉も、もうトレンドじゃなくて定着した。ギャルもずっと定着していくんだと思う。
■ギャルだった子たちに“私なんて…”みたいな子はいない
──自分を持つとか、自分らしさを貫くとか、そういう考え方自体がすっかり定着しましたからね。
LiLy:ギャルって、ファッションを超えてカルチャーなのね。そこがHIPHOPにも似ている。裏表がなくて、STAY REAL主義。
加藤:似てるよね。
LiLy:ヒップホップで思い出したのが、エッセイを書くときに私はリル・キムとかフォクシー・ブラウンのリリックにすごく影響を受けてて。“こんなにも過激な本音を言っていいんだ?”っていう。
加藤:私はメアリー・J・ブライジ。そのあとはデスティニーズ・チャイルド。
LiLy:日本は協調性が評価されるし、歌詞でも「こういうことは書いちゃいけない」みたいな。それをぶっ壊してくれたのがフィメールラッパーたちで、それこそアメリカのギャルだと思う。性にオープンなのもギャルから始まってるような気がする。
加藤:当時、雑誌にそういうページがいっぱいあったね。
LiLy:でも、私は怒りを覚えいる女子高生で。JKのとき、ギャル雑誌を作ってるのは誰だよ!と思ってたから。こんな下品な、避妊もしない性の体験を生々しく書いて。そういうのを作ってるのは絶対成人男性でしょ? 子どもに悪影響を与える下ネタを書いて売るなんて、大人なのにありえない、キモチワルイと思ってた。
加藤:そういう記事、あった、あった。
LiLy:まだ10代で、憧れの雑誌にそう書いてあれば、子どもはすぐに影響受けちゃう。私はそれに対して「ちょっと待って。あなたが影響受けるのは憧れのギャルだし、同世代の10代だし、刺激を受けるのもわかるけど、これを裏で操っているのは大人なんだよ?ありない!」って若い女の子のことをまったく考えていない記事を書く大人たちを軽蔑してて。だから、私の中にあるギャルイズムの原点は社会に対する怒りだと思う。あ、そこもHIPHOPと同じだ。
加藤:私は自己愛かな。この世の中で自分がいちばんかわいいと思ってた。ギャルはみんなそう思ってるんじゃないかな。ギャルだった子たちに“私なんて…”みたいな子は基本的にいないと思うから。自分のことがめちゃくちゃ好き。そんな自分の人生だから楽しみたいし、思いっきりやる、みたいな。それがギャルマインドだと思う。
LiLy:ギャルマインドは継承されるところが面白いと思って。10歳の娘が最近、TikTokのトレンドの「ギャル、超かわいい~」のポーズをマネしてやったりしているんですけど、彼女の中では「ギャルは友達想いで性格がいい人たち」だという認識がハッキリあるみたいで。意地悪な子は格好がギャルだとしてもギャルではないって言ったことがあって。びっくりしちゃった!
加藤:すごい、ギャルだね(笑)。
LiLy:娘は清楚系がタイプみたいだから見た目はギャルにはならないと思うんだけど、スピリットはそうだね(笑)。
■自分のココは面白いっていう自己評価を失いたくない
──今日は「オトナ」や「ギャル」について話して頂きましたが、おふたりが大人になっても失いたくないものは何ですか?
LiLy:自分を客観視することは表現者に大事だし、大人って客観視ができるってことだと思う。ただ、あまりにも冷静に客観視していると悟ったような感じになって、自分自身を興奮させなくなってしまうんです。たとえば、40歳という自分の年齢の受け入れ方ひとつをとってもそうで。「オバサンは嫌だ!」ってヒステリックに部屋を走り回ってる方が面白いかもしれない。「それは痛いって…」ってなっちゃうし、40歳を自然と受け入れてそれなりに大人の女性として器用に生きてしまっていて。いいんだけど、そんな自分がつまらないとも言える(笑)。だから、客観視は大事だけど主観。主観は失いたくない。
加藤:私も似てる。私は自分に対する興味。自分のことが好きとか、そういうフェーズは終わったの。自分として生きていくしかないから。でも、自分のココは面白いっていう自己評価を失いたくない。他人が「めちゃくちゃ魅力的だね、面白い、最高だね」って評価することと、自分で自分のことを「私、本当に面白いな」って評価することは本当に違くて。
LiLy:なるほど、面白いね。
加藤:他人からそう言ってもらえるのはすごく大事だし、ありがたい。でも、まず自分が「私、すごいわ。天才だわ」みたいな。
LiLy:(パチパチと拍手)
加藤:たぶんLiLyも、今回のあとがきを書いたときにそう思っただろうなってわかるし、そういう人の表現が好き。10代のギャルのときは、ナチュラルに「自分、天才」って思ってたんですよ。
LiLy:VIVA自分ね。
加藤:そう。VIVA自分だった。大人になっていくと、どんどんそういうのが薄れていくから。
LiLy:自分に飽きたくないよね。
加藤:うん。飽きたくない。
LiLy:気を許すと、しょっちゅう自分に飽きるから。シニカルな自分が自分のテンションを下げてくる。
加藤:そうそう。
LiLy:マンネリだよね。自分とマンネリ期。自分とセックスレスみたいな。そこを私は30代半ばでやっと抜けた。「この人生にはまだ新しいチャプターがあったんだ」って。要は、人生の新しいチャプターに飢えるんだよね。飽きたくないから。退屈が恐怖だから。
■自分に飽きることはアーティストにとって致命傷
加藤:そう。退屈は恐怖。自分に飽きることはアーティストにとって致命傷になりかねない。
LiLy:ミリヤはその時々に正直だから、自分に飽きたんだったら、それも突き詰めて「死ぬほど飽きた」みたいな曲も面白いかもと思うけど(笑)。リスナーも同じようなペースで成長していくから。
加藤:たしかに。共感していただけるかもしれない。
LiLy:ミリヤが「bored」って言ったんだったらマジでboredだろ、みたいな。
加藤:あはは。じゃあ、もしも自分に飽きたたら、I’m boredって言いますね(笑)。
INTERVIEW & TEXT BY 猪又孝
PHOTO BY 大橋祐希
【衣装協力】
トップス、スカート(共に、参考商品)、タイツ すべて、ANNA SUI(アナ スイ ジャパン)
その他/スタイリスト私物
楽曲リンク
リリース情報(加藤ミリヤ)
2022.9.21 ON SALE
DIGITAL SINGLE「オトナ白書」
ライブ情報
加藤ミリヤ “歌の会 vol.4 Premium Live 2022”
[2022年]
12月2日(金) ビルボードライブ大阪
12月9日(金) ビルボードライブ東京
12月10日(土) ビルボードライブ東京
12月18日(日) ビルボードライブ横浜
プロフィール(加藤ミリヤ)
加藤ミリヤ
カトウミリヤ/1988年生まれのシンガーソングライター。2004年のデビュー以来、リアル で等身大な歌詞とメロディセンス、生きざまが“現代女性の代弁者”として、同じ時代を生きる同世代女性からの支持・共感を集め続けている。ファッションデザイナーや小説家としても活躍しマルチな才能を開花させている。2022年は配信を中心にすでに6曲楽曲をリリースし今作で7曲目。新しい加藤ミリヤを表現すべく勢力的に活動中。
加藤ミリヤ OFFICIAL SITE
https://www.miliyah.com/
リリース情報(LiLy)
2022.09 13 ON SALE
書籍『オトナ白書 平成ギャルから20年、令和の東京、40代へ』
プロフィール(LiLy)
LiLy
リリィ/作家。1981年、横浜生まれ。蠍座。N.Y.、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。10歳から1日も欠かさず日記を書き始め、25歳のときに『おとこのつうしんぼ〜平成の東京、20代の男と女、恋愛とSEX〜』(講談社)でデビュー。リアルな描写が女性の圧倒的支持を得て、ファッション誌で多数のエッセイ・小説の連載を持つ。東京在住。2児の母。
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