Anlyから4thアルバム「QUARTER」が届けられた。
先行配信曲「Homesick」「KOMOREBI」「Alive」「KAKKOII」のほか、「VOLTAGE」(TVアニメ『BORUTO-ボルト– NARUTO NEXT GENERATIONS』EDテーマ)、「星瞬〜Star Wink〜」(劇場版『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』主題歌)、「カラノココロ – Matt Cab & MATZ Remix」 (アニメ『NARUTO-ナルト–疾風伝』オープニングテーマ/「カラノココロ」のリミックス音源)など13曲を収録。
ロック、カントリー、R&B、エレクトロなど多様なテイストを取り入れた音楽性、普遍性と同時代性を共存させた真摯なメッセージを込めた歌詞、エモーショナルで率直なボーカルなど、今の彼女の魅力がたっぷりと注ぎ込まれた作品に仕上がっている。
■振り返ってみると、それなりにいい時間
──ニューアルバム『QUARTER』、素晴らしいです。シリアスかつ前向きなメッセージと、音楽的な楽しさ、奥深さがしっかり共存している作品だなと。
ありがとうございます!うれしいです。2年ぶりのアルバムですからね。
──前作『Sweet Cruisin’』以降の2年間、いろいろなことがあったと思います。Anlyさんにとってはどんな期間でした?
もちろんライブがなかなかできなかったのは、大きな影響だったと思いますね。ただ、そのぶん音楽を聴く時間が濃くなったり、ピアノ、ベースなど、今までそんなに触ったことがなかった楽器を弾いてみたり。振り返ってみると、それなりにいい時間もあったなと思いますね。
──そのなかで曲のアイデアを得ることも?
そうですね。いろんな楽器を触ることもそうだし、J-WAVEの『ALL GOOD FRIDAY』という番組で、毎月カバーを披露させてもらったこともよかったですね。トラックも自分で作ってたんですけど、それが制作にも役に立ったので。あとはやっぱり、沖縄で制作したことかな。実家にマイク、キーボード、ギター、インターフェース、パソコンを持ち込んで。「KOMOREBI」「ALIVE」の原型も、実家で作ったんですよ。
──そうなんですね。シングル、配信曲も収録されていますが、アルバム全体のイメージはどんなものだったんですか?
前作は『Sweet Cruisin’』という題名通り、スイートな曲が中心だったので、今回はエネルギッシュな作品にしたいと思ってましたね。コロナ禍を経ての作品だし、沖縄で制作したこともあって、自分のルーツであるロックの要素もかなり入っていて。ループペダルで作った「Do Do Do」もあるし、ヒップホップ的な曲もあったり、今までやってきたことが上手く混ざってる感じもありますね。
■私らしいタイトルがいい
──『QUARTER』というアルバムタイトルについては?
制作の半ばくらいで決めたんですけど、「私らしいタイトルがいいな」と思って。私は日本とアメリカのクォーターだし、今25歳なんですよ。あと、最近はアーティスト写真やジャケットに風船を使うことが多いですけど、“Q”って風船みたいに見えるじゃないですか(笑)。いろいろひっくるめて、『QUARTER』がいいなと。
──ジャケットには“LOVE YOURSELF”という言葉も記されていて。
どの曲も、根本にあるのはそのメッセージだと思うんですよ。私自身も大切にしたい言葉だし、ジャケットに刻ませてもらいました。私もそうですけど、どうしても自分のことより人のことを考えてしまう。でも、自分のことを愛せないと、本当の意味で人を大切にできないんじゃないかなって。今すぐ実行するのは難しいけど、メッセージを歌に込めたり、ジャケットに刻むことで、“そういえばAnlyがそんなこと言ってたな”と意識するだけでも違うと思うんですよね。
──Anlyさん自身も“LOVE YOURSELF”は難しいと感じている?
難しいですね(笑)。なかなか自分に自信を持てないこともあるし…。アルバムに入ってる「INDENTITY」は、自己肯定感が最低のときに作り始めたんですよ(笑)。自分のことを否定してしまうこともあるけど、結局、生まれた環境や今の状況から出てくるものがすべてだし、それを受け入れて、信じてやっていくしかないという歌で。「KAKKOII」もそう。常に自分を肯定し続けるのは難しいけど、“時代が私に追い付いてないだけじゃない?”と考えることで、自分を信じる力に繋がるっていう。ちょっと情緒不安定なところもあるけど(笑)、最後は“LOVE YOURSELF”なんです。
──感情の変化そのものを描いているんですね。
そうかも。私、ステージを降りると肯定感が低くなるんです(笑)。ライブのときはいつも100%だし、余計なことを考えることもないんですよ。でも、ふだんは他のアーティストの曲を聴いて“私はぜんぜんダメだな”と思うことも当然のようにあって。それも歌詞にすることで、「Anlyさんにも、そんなことがあるんだ?」ってちょっと気が楽になってもらえたらなと。私自身もそうなんですよ。レディー・ガガやテイラー・スウィフトのドキュメンタリーを観て、“こんな苦悩があったんだな”って思うと、ちょっと仲間になれたような気分になるので。
■“ここが私のTwitter”
──たしかにリアルな思いが感じられると、親近感がわきますよね。
そうそう。『QUARTER』の曲は、かなり正直に書けたんじゃないかなって。制作がギュッと詰まっていたのもよかったんですよ。アルバムの新曲に関しては、47都道府県ツアーの合間だったり、終わった後に一気に書いたので、自然とそのときに感じたことが出たんじゃないかなって。“ここが私のTwitter”じゃないけど(笑)、何も気にすることなく、何でも言える場所なんだと思いますね。もちろん“人としてここは越えちゃいけない”というラインはしっかり守ってますけど、今まで以上に言いたいことが言えたんじゃないかな。
──「Welcome to my island」の“愛の歌を口ずさもう/世界が手を繋ぐように/武器を置いて心を交わそう”もそうですが、強いメッセージを含んだ曲もあって。
それも自然と浮かんできたフレーズなんですよね。「Welcome to my island」はもともとパーティーソングにしようと思って作り始めたんですよ。最初のデモがあまり気に入ってなくて、“この曲はいいかな”と思ってたんだけど、プロデューサーのNashが「絶対に仕上げたほうがいい」と言ってくれて。アレンジャー(のLouisさん)にお願いしたら、ちょっと憂いを帯びた感じになって、すごくいい感じになって、歌詞もすぐに浮かんできたんです。なんて言うか、最近のニュースって、ポジティブなことが少ないじゃないですか。
──いいニュース、全然ないですね。
そうですよね。ほのぼのしたニュースをやってると、“ほかに伝えるべきことがあるんじゃない?”って思ってしまうし。でも、私たちは戦争のニュースを朝ごはん食べながら見てるんですよ。そこには矛盾感や引っ掛かりがあるんだけど、それも大事だと思うんです。麻痺するのがいちばんよくないと思うので。
■まずは綺麗事を言って、それを目指さないといけないと思う
──なるほど。“宇宙から見れば みんなが島人”という歌詞も印象的でした。たしかに!って。
どの大陸も海に面しているし、上から見たら大きい島だなって。この曲で歌ってる“island”は沖縄のことでもあるんだけど、世界のことを言ってるんですよ。故郷に帰って、地元の子どもたちを見るたびに、“みんなが仲よくしている世界を見せてあげたい”“この子たちが大人になったとき、苦労しない良い世界にしたい”と思う。この曲のサビでは“綺麗事って/笑うよなって”と歌ってるんですけど、まずは綺麗事を言って、それを目指さないといけないと思うんですよ。
──そういうメッセージをポップミュージックとして提示しているところも素晴らしいですね。
そのバランスも意識してました。スッと聴けるんだけど、ときどき“あ、こんなこと歌ってるんだ?”みたいな感じになればいいなって。
──1曲目の「Alive」も、アルバムを象徴する楽曲だと思います。
「Alive」は、沖縄の“おばあちゃん”の話がもとになっていて。プロデューサーのNashの自宅兼スタジオで作業することも多いんですけど、そこにNashのお母さんが住んでいて。私は血が繋がってないけど、高校生の頃からお世話になってる“おばあちゃん”なんです。制作期間は一緒に3食ごはんを食べて、テレビを見て笑ったりしてるんだけど、ときどき沖縄戦(太平洋戦争の末期、1945年に沖縄本島で行われた連合軍と日本軍の戦闘。ここ戦いで、沖縄県人の4人に1人、12万人が亡くなった)のことを話してくれて。おばあちゃんは、ひめゆり学徒隊の生き残りなんです。ひめゆり学徒隊は、兵士の看護やお世話をする学生だったんですけど、おばあちゃんは仲間とはぐれて、親戚のおばさんと一緒に逃げて。
──すごく貴重だし、下の世代にも受け継がれるべきお話ですね、それは。
すごく生々しい話を淡々としてくれるんですよ。必死で逃げたんだけど、アメリカ軍が目の前に迫ってきて。おばあちゃんは手りゅう弾を持っていたんですけど──当時は“捕まるなら自決しろ”と教えらえていたので──親戚のおばちゃんが「それを持っていたら撃たれる。地面に置きなさい」と言ったそうなんですね。その後、白いハンカチを振りながら投降して。
■「諦めたら終わりよ」って言って、その言葉がすごく刺さった
──沖縄戦の状況を考えると、投降できたのはすごいことですね。おふたりの勇気も素晴らしいと思います。
そうなんですよね。もし、そのときにおばあちゃんが亡くなってたら、Nashも生まれてなかったし、私が音楽を届ける環境もなかった。おばあちゃんの行動が私にも繋がっていると思ったら、命の繋がりを感じたし、“このことをいつか歌にしたい”と思っていたんですよね。実際に曲を書いたきっかけは、みんなでバーベキューをやってたとき。まだまだコロナの状況が見えない時期で、「いつになったらライブできるのかな」みたいな話をしてたら、おばあちゃんが「諦めたら終わりよ」って言って、その言葉がすごく刺さったんです。その後、このトラックができて、“よし、歌詞を書こう”と。
──英語と日本語で書いたのはどうしてなんですか?
私にはアメリカの血も日本の血も流れているし、いろいろな縁が繋がって、今の私がここにいるんだなと思って。もうひとつは、摩文仁の丘(沖縄県営 平和祈念公園)にある“平和の礎(いしじ)”。国籍に関係なく、沖縄戦などで亡くなったすべての方の名前を刻んであるんですよ。“命は宝”という考え方はすごく誇らしいし、私も「ALIVE」では、英語と日本語を両方使おうと。英語の作詞には、mpiさん、Benjaminさんにも参加していただきました。澤野弘之さん(SawanoHiroyuki[nZk])の「Tranquility」でご一緒したんですけど、英語の歌詞をさらに良くしたくて。
──さらに三線の音色も入ってますね。
三線は、仲宗根創さんに弾いていただきました。(沖縄民謡界の重鎮)登川誠仁さんのお弟子さんで、お盆とかに放送される民謡の番組にも必ず出演していて。私も小さいときから“すごくうまい人だな”と思っていたし、この曲に参加してもらえたのも本当にうれしいです。古典もやるし、ヒップホップとのコラボなども積極的にやっている方なので、私とも波長が合うんですよ。
──「Angel voice」(NHK「見たことのない文化財」テーマ曲)の美しい歌声も印象的でした。
ありがとうございます。確かに、こういう声楽っぽい歌声を活かせる曲は初めてかもしれないですね。もともとはコロナ禍になったばかりの頃に作り始めた曲なんですよ。レコーディングスタジオにも行けない時期だったから自宅で作っていたんですけど、その後、NHK「見たことのない文化財」のテーマ曲のお話をいただいて。まず、東京国立博物館に行ったんですよ。(「見たことのない文化財」はNHKと東京国立博物館と共同による、文化財を最新テクノロジーで3DCGにする「8K文化財プロジェクト」とリンクした番組)土偶からはじまって、いろいろな文化財を見ているうちに、“文化財の歴史って、お墓とすごく関わっているんだな”と思ったんです。亡くなった方を弔う行為には、祈りも伴うし、歌にも繋がっているんじゃないかなって。その頃はコロナがはじまったばかりで、私も元気がなかったし、なかなか歌詞が書けなかったんです。プロデューサーのNashにも手伝ってもらいながら、“自分の中にある天使の声に耳をすませて、心を静めてほしい”という歌になりましたね。
■このタイミングだからこそ「CRAZY WORLD」が形になった
──「CRAZY WORLD」もカッコいいですね。特に“狂ってるこの世界に僕は飲み込まれない”にはグッときました。
この曲は3、4年前に作りはじめて、ずっと足踏みしてたんです。このタイミングだからこそ「CRAZY WORLD」が形になったんじゃないかなって。当時から私の中では“クレイジーな世界だな”というイメージがあったんだけど、それがさらに膨らんでしまったというか。
──間違いないです。クレイジーとしか言いようがない出来事が続いているので…。
そうですよね。パンデミックもそうだし、この国に対しても、いろんな人がいろんな意見を言ってて。もちろん私にも意見がありますけど、違う意見がぶつかり合うことも増えたじゃないですか。それ自体は悪いことじゃないと思うんですけど、“そんなことしてる場合?”とも思うんです。最近、Climate Live Japanの気候変動に関するセミナーに参加したんですけど、今の状況を知ると“すぐ動き出さないとヤバい”とすごく思うし、それが“今が大事 宇宙の片隅/みんなの故郷だ Crazy World”という歌詞に繋がってるんですよ。あと、コロナになってから読んだ『寄生獣』の世界観にも影響を受けてるかも。「人間の数が半分になったら いくつの森が焼かれずにすむだろうか」という衝撃的な言葉ではじまるんですよ。
■ちゃんと音源化したいと思った「Saturday Kiss」
──もう1曲、「Saturday Kiss」についても聞かせてください。J-POPらしいポップチューンだなと。
メッセージのある曲も結構入ってるから、あっけらんかと“生きてるって素晴らしい!”みたいな曲があったほうがいいかなって(笑)。この曲はFM802の『SATURDAY AMUSIC ISLANDS』で1年以上、カバーコーナーを持たせてもらったのがきっかけなんです。1ヵ月に1回、FM802に行って、いろんな曲をカバーして。「ボヘミアン・ラプソディ」(クイーン)やジプシー・キングスの曲なんかを歌ったんですが、番組を卒業するときに、公開収録をさせてもらったんです。そのとき、最後にサプライズとして用意してたのが「Saturday Kiss」なんですよ。DJの仁井聡子さんをはじめ、みんなすごく喜んでくれて。私も気に入っていたので、インスタライブなどでちょこちょこ披露してたんですが、ちゃんと音源化したいと思って。アレンジを加えてさらにポップになったんですけど、間奏にスライドギターのソロがあったり、ルーツ感もしっかりあるんですよ。太陽の光みたいな曲だなって思います。
──全国ツアー『“Loop Around the World”〜Track4 / QUARTER〜』でアルバムの楽曲を聴けるのも楽しみです。
アコギとループペダルで回るんですけど、「どうやってやればいいの?」という曲がいくつかあって、頭を悩ませてます。作ってるときは“カッコよくなればいい”と思って自由にやってるので、ライブが大変なんですよ(笑)。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
楽曲リンク
リリース情報
2022.10.12 ON SALE
ALBUM『QUARTER』
ライブ情報
Anly“Loop Around the World”〜Track4 / QUARTER TOUR〜
10/22(土)石川 金沢 vanvan V4
10/23(日)新潟 新潟 RIVERST
11/3(木)兵庫 神戸 VARIT.
11/4(金)広島 広島 SIX One Live STAR
11/6(日)香川 高松 DIME
11/12(土)北海道 札幌 SPiCE
11/19(土)岩手 盛岡 the five morioka
11/20(日)宮城 仙台 darwin
11/26(土)福岡 福岡 CB
11/27(日)熊本 熊本 Django
12/1(木)東京 EX THEATER ROPPONGI
12/2(金)大阪 心斎橋 BIGCAT
12/9(金)愛知 名古屋 THE BOTTOM LINE
12/11(日)沖縄 桜坂 セントラル
プロフィール
Anly
アンリィ/1997年1月、沖縄・伊江島生まれ。沖縄本島からフェリーで約30分、北西に浮かぶ人口約4,000人、風光明媚な伊江島出身。英語詞、日本語詞、様々なジャンルの音を楽曲の随所に感じさせるミックス感覚、ループ・ペダルを駆使したソロ・ライブ、バンド編成ライブ、アコースティック・ギター弾き語りなど、イベントや会場にあわせパフォーマンス・スタイルを変え、日本国内、香港、台湾、ドイツなど海外でもライブを行う、唯一無二の空気を感じさせる沖縄出身シンガーソングライター。
Anly OFFICIAL SITE
https://www.anly-singer.com