■“わたしはずっとわたし”という言葉を具現化し、証明
バンド編成と弾き語りの二本立ての全国ツアーメジャーデビュー5周年記念『XL Tour』を開催中の坂口有望が、10月8日(土)に東京・渋谷クアトロにて、バンド編成による東名阪ワンマンライブのファイナル公演を行った。
坂口有望は、大阪出身の21歳のシンガーソングライター。13歳のときにアコギの弾き語りでライブハウスのステージに立ち、16歳でメジャーデビューを果たした。高校卒業後に上京し、今年7月27日(水)には、ボカロPのすりぃをはじめとする新たな音楽クリエイターとの交流に挑戦したEP『XL』をリリース。9月30日(金)からは、彼女にとっては実に3年ぶりとなる全国ツアーが開始。東名阪はバンド編成、札幌、仙台、広島、福岡、神戸では弾き語り公演となっており、バンド編成でのワンマンライブは昨年9月に恵比寿リキッドルームで開催されたバンドライブ『リズミックシスター』以来、1年ぶりとなっていた。
この日の坂口有望は、表現者としての多彩な魅力を各ブロックごとに分かりやすく見せてくれた。まず、最初のブロックは、“ロックバンドのフロントマン”としての坂口有望だ。エレキギターをかきならしながら、“今日のライブがあなたを救いますように”と歌詞を変えて歌った「musician」、彼女が「最強バンドです」と呼ぶ5ピースのバンドによるパワフルでタフなグルーヴをバックに、彼女自身が音楽を心から楽しんでいるという躍動感が伝わってきた「radio」「ワンピース」という冒頭の3曲でいきなりフロアの熱気は上がり、観客は両手を上げてクラップを打ち鳴らして盛り上がっていた。
「バンドワンマンは今日で最後になります。今の時点ですっごい楽しいし、すっごい寂しいんですけど、もう感情が爆発してわけわからんくなるくらい、いい夜にしたいと思います」と語ったあとのブロックは、“出発点と現在地”。「私のはじまりのうたです」と紹介したインディーズ時代の名曲「おはなし」は、彼女が生まれて初めて作った曲だが、当たり前の日常が脅かされた現代とも通じる歌詞で、“ほら気付けば過ぎていった/その一瞬に/たくさんの何かが失くなったんだ”というフレーズには、今、この一瞬を生きているという命の輝きや情熱、ときめきを感じ、胸に迫るものがあった。そして、続く「ティーンエイジダイバー」はすりぃと歌詞を共作した最新曲。音源は近未来的で洗練されたエレクトロポップとなっているが、この日はオルタナティヴロックのようなバンドアレンジが施されていた。雑踏の中でひとり佇む主人公が一気に暗い深海の中へと潜っていくようなダイナミクスがあり、観客は思わず息を飲むような気迫のこもったダイブとなっていた。
次のブロックのテーマは“坂口有望の歌声と楽器の組み合わせ”だ。「空っぽの空が僕は嫌いだ」はギターのひぐちけい、キーボードの鈴木栄奈に坂口は座ってハンドマイクのみで参加する“レディース”セットでしっとりと歌い上げ、「綿毛」はアコギの弾き語りで、ひとりでも力強く歌唱し、身体をのけぞるほどのロングトーンも響かせた。そして、「紺色の主張」は“メンズ”セット。ベースの岡部晴彦、ドラムの神田リョウを従え、彼女がアコギを弾きながら歌う3ピース編成で、キメが多く、静から動へ、明から暗へという展開も激しいロックナンバーでバンドの音に負けないパワーを発揮した。
ここで雰囲気が一転し、ファンキーなダンスポップ「あっけない」ではミラーボールが回る中でお立ち台に飛び乗って観客を踊らせ、エレキギターをもった「夜明けのビート」では盛大なクラップが起こったフロアに青春の煌めきを放ちつつ、「わたしはずっとわたしだーーー!」と絶叫。昨年のコロナ禍の夏の心境を綴った「#ボクナツ」での3声によるコーラスの切なさも印象に残っているが、バンド編成であれ、弾き語りであれ、フォークやロック、ポップやエレクトロであれ、彼女の強烈な個性は揺るぐことがない。この日は、まさに“わたしはずっとわたし”という言葉を具現化し、証明するかのようなライブとなっていたと思う。
MCでは、メジャーデビュー5周年を迎えることへの感謝の気持ちを伝えると、場内は温かく大きな拍手で包まれた。坂口は「私が音楽活動を始めようと思ったのは、自分がひとりぼっちな気がしてたことがきっかけです。曲を作って、誰かと繋がりたいというのが始まりで。正直、そんな弱い自分を見せたくなかったから、最初の頃は音楽で人を救いたいって言ってて。今もその気持ちは変わらないんですけど、ちゃんとみんなと繋がれることができて、本当に救われていたのは自分だったんだなって思いました」とこれまでを振り返り、「聴き捨てられる音楽じゃなくて、ちゃんとみんなの心の深いところに、これからも繋がって行けたらなと思います」と意気込みを伝えた。
そして、「今の私が詰まった一曲」と語った「XL」でタンバリンを叩きながら観客全員を抱きしめるかのように歌い、パンチやジャンプ、スピンも飛び出した「LION」では、「みんなのことを笑い飛ばすやつがいたら、私が笑い飛ばします!」と宣言。最後はメジャーデビュー曲「好-じょし-」で歌を通して一人ひとりと手を繋ぎ、「今日は最高の一日になりました。みんな最高です!」と笑顔で手を振ってステージを後にした。
アンコールでは、子供でも大人でもない中途半端な時期の葛藤と憧れを描いたフォークロック「16さいのうた」と、ミラーボールがフロアを照らし、観客が手を右に左に振って一体感が生まれた「地球-まる-」というインディーズ時代の代表曲を2曲続けて演奏。改めて、“坂口有望with最強バンド”のフロントマンとしての魅力と存在感の強さや頼もしさを感じさせると同時に、彼女以上にバンドメンバーが何度も目を合わせながら、常に楽しそうに満面の笑顔で演奏していたことも印象に残るライブだった。
TEXT BY 永堀アツオ
PHOTO BY 川崎龍弥
ライブ情報
坂口有望 メジャーデビュー5周年記念 「XL Tour」
10/15(土)宮城県 仙台カフェモーツァルトアトリエ
10/16(日)北海道 札幌PLANT
10/22(土)広島県 広島Yise
10/23(日)福岡県 福岡ROOMS
10/29(土)兵庫県 神戸VARIT.
坂口有望 OFFICIAL SITE
https://www.sakaguchiami.com