今やひとつの音楽ジャンルとして地位を確立した“ボカロ”。
しかし、「ボカロといえば?」という質問に対して、初音ミク以外思いつかない人も多いのではないだろうか。
今回はいまさら聞けない初心者のためのボカロ解説として、ボカロの名曲やボカロPについて紹介していく。
■そもそも“ボカロ”って何?
【ボカロ=歌声を合成できる技術】
ボカロとは、ボーカロイド(VOCALOID)の略称で、わかりやすくいえば歌声のシンセサイザーである。
ヤマハが開発した音声合成技術であり、メロディと歌詞を入力すれば、“歌声”を合成できるのだ(歌声は、事前にサンプリングされた人間の声をもとに合成)。
ボーカロイドを使用した楽曲を“ボカロ曲”、ボカロ曲の作曲家は“ボカロP”と呼ばれ、先述したように現在では音楽ジャンルのひとつとして“ボカロ”を指す場合もある。
【水色ツインテールの少女・初音ミク】
電子の歌姫・初音ミク。「ボカロとは?」で、最初にイメージする方は多いだろう。
クリプトン・フューチャー・メディアから発売されたDTM用の音声合成ソフトであり、そのキャラクターなのだが、バーチャルシンガーとして日本のみならず、国際的な知名度の高さを誇っている。
なお、初音ミクの左腕のスイッチ部分には、80年代に一世を風靡し、坂本龍一や小室哲哉が愛用した名機・ヤマハのシンセサイザーDX-7の計器部分が描かれている。
【ボカロ=初音ミク、だけではない】
その知名度の高さから「初音ミク=ボカロ」や初音ミクがボカロのいちばん最初のキャラクターだと思われることもあるが、実は初音ミクの前にMEIKOとKAITOが存在する。
他にも、鏡音リン・レン、巡音ルカ、さらにはGACKTの“がくっぽいど”や中島 愛の“Megpoid”(GUMIというキャラクターを出すとわかりやすいかもしれない)、SEKAI NO OWARIのボーカル・Fukaseの“Fukase”といった、有名アーティストの声をもとにしたボカロも誕生している。
【なんでも歌えるシンガーの誕生】
注目ポイントは、ボカロPが、歌声を生み出すボーカロイドを活用して、ジャンルにとらわれないボカロ曲を生み出すことで、音声合成ソフトをバーチャルに擬人化した、世界的にも新鮮なユースカルチャーが始まったこと。
そのサウンドは、ポップス、ロック、ダンスミュージック、EDM、ジャズなど、ジャンルは様々。人気は加速し、動画投稿サイトではボカロ曲を人間が歌う“歌ってみた”や“踊ってみた”という企画も盛り上がりを見せている。
調教(※自身の発声どおり、編集加工する作業)次第ではどんなジャンルでも、生身の人間では表現しきれないスピードや跳躍であっても歌いこなせるシンガー=ボーカロイドは、理想の作品づくりを叶える、クリエイターにとってまたとない存在となっていった。
■著名なボカロP:超大物アーティストも!
こうして誕生したボカロ文化は、この10年で躍進し、米津玄師、Eve、ヨルシカ、YOASOBI、Adoなど、第一線で活躍する、自ら歌唱するボカロ文化圏出身アーティストに注目が集まる時代となった。今や、ボカロ文化圏は、次世代表現者の登竜門となっている。
その勢いは止まらず、近年、すりぃ、Chinozo、Syudou、ツミキ、Kanariaなど、新時代を切り開く次世代ボカロPの活躍もあり、もはやボカロ文化はサブカルチャーでもカウンターカルチャーでもなく、メインストリームとなりつつある。
そんななか、その礎を築いた5人の伝説的ボカロPを紹介したい。
ハチ
ボカロP出身アーティストの筆頭である米津玄師は、2009年よりハチ名義でボカロPとして活動開始。作詞作曲のほか、アートワークや動画を手がけることも多く、奥深く繊細な表情を持つ世界観が支持され、圧倒的人気を誇る。
代表曲「マトリョシカ」初音ミク・GUMI
2010年発表、当時ハチは19歳。高速BPMに情報量多め、言葉遊び全開な快楽性の高いボーカリゼーションから生み出される疾走感が魅力。中毒性高い、歴史的ボカロアンセムである。
DECO*27(デコ・ニーナ)
2008年から活動。現在もなお、ボカロPとして精力的な活動を続けているレジェンド的存在。考察を巻き起こす、文学性高い歌詞の世界観の深みも魅力。初音ミク愛を語り、一貫して初音ミクを起用し続けていることでも知られている。
代表曲「ヴァンパイア」初音ミク
2021年にリリース。目を惹く、キュートなイラストと共に、アッパーなダンスポップによって耳に残る良い意味でクセの強いキラーチューンを発表。常に、自身のキャリアをアップデートし続けている。
n-buna(ナブナ)
2012年からボカロPとして活動。ギターサウンドを主軸に、文学的な歌詞、叙情的な世界観によってボカロソングを次のフェーズへと進化&深化。夏をモチーフとした作品が多い。2017年より、ボーカルのsuisと共にヨルシカを結成。
代表曲「夜明けと蛍」初音ミク
2015年リリース、“夏の終わりの1日”をテーマに生み出された2ndアルバム『花と水飴、最終電車』に収録。ボカロ文学とでもいうべき、情景描写と心理描写を重ねた表現に定評を持つ。
バルーン
2013年、初作品「造形街」をニコニコ動画に初投稿。作曲を始めて一ヵ月だったという。元々はバンドマンであり、ドラマーだったが限界を感じての転向だった。2017年より、本名の須田景凪名義で、シンガーソングライターとして活動中。
代表曲「シャルル」flower
2016年発表。カラオケ JOYSOUNDにて、3年連続で各種総合ランキングにて1位を獲得した大ヒットナンバー。ボカロ曲がティーンのユースカルチャー定番となった歴史的楽曲である。
Ayase(アヤセ)
高校在学中にロックバンド・Davinciを結成。ボーカル兼バンドのリーダーをつとめ、曲作りをスタート。2019年11月、ボーカルのikuraと共にユニットYOASOBIを結成。Ayaseは、入院をきっかけに2018年からボカロPとして活動していた。
代表曲「夜撫でるメノウ」初音ミク
2019年2月に、初音ミクによるボーカルでニコニコ動画へ投稿。2021年9月、1st配信シングルとして、自身がボーカルを担当したセルフカバーによってヒット。TikTokでバズったことでも話題に。
■初心者におすすめ!ボカロ名曲10選
「グッバイ宣言」Chinozo
「神っぽいな」ピノキオピー
「ベノム」かいりきベア
「ビターチョコデコレーション」syudou
「フォニィ」ツミキ
「テレキャスタービーボーイ」すりぃ
「KING」Kanaria
「劣等上等」Giga
「金木犀」くじら
「トンデモワンダーズ」Sasakure.UK
「グッバイ宣言」 Chinozo(チノゾー)
歌唱:flower
2カウントから威勢良くスタートする2020年、令和が誇るボカロアンセムとなった人気曲。2021年に入り、TikTok上で楽曲を使用したフィンガーダンス動画をきっかけに再生数が伸びたことは、隠キャ、陽キャという異なる文化が解け合う事件となった。カラオケ人気も高く、ボカロ歌唱曲で初のYouTube1億回再生を突破した。
「神っぽいな」 ピノキオピー
歌唱:初音ミク
2009年から活動するボカロPレジェンドである、ピノキオピーによる102作目となった投稿作品。現代のネット中心に生きるリスナーへの皮肉が描かれた歌詞を考察することで、より作品が持つ言葉のグルーヴが活き活きと躍動するダンサブルなナンバー。人気絶頂のAdoが、“歌ってみた”としてカバーしたことも話題に。
▼【Ado】 神っぽいな 歌いました
「ベノム」 かいりきベア
歌唱:flower
2018年8月5日開催、v flower初のイベント『v flower DJ NIGHT』テーマソングとして誕生。ギターが疾走感を牽引するダンサブルなロックチューンであり、本作を使用した、真似したくなる二次創作ダンス動画がTikTokでバズり、人気に連鎖が起きた結果、著名な歌い手が“歌ってみた”動画でカバーしたことで大きなヒットへ。
「ビターチョコデコレーション」 syudou(シュドウ)
歌唱:初音ミク
Adoに提供した「うっせえわ」の作詞作曲で知られるsyudouによる、不信感をテーマとしたシニカルかつダークな雰囲気を持ちながらもメロディがすっと入ってくるポップな一曲。機械仕がけ風味なサウンドと、落ち着いた初音ミクによる歌声のハーモニーが、独自な世界観を創出。オリジナル曲としては、44作目となる。
「フォニィ」 ツミキ
歌唱:可不(kafu)
公開直後から、まふまふ、めいちゃん、和楽器バンドなどによる“歌ってみた”人気が高かったナンバー。絶望を感じる歌詞ながら、キャッチーなメロディの中毒性が高い。ツミキは、NOLEMON NOMELON(ノーメロン ノーレモン)としても活動。音声合成は、名古屋工業大学学内ベンチャー企業が生み出したCeVIO(チェビオ)による可不を使用。
「テレキャスタービーボーイ」 すりぃ
歌唱:鏡音レン
イントロの、気になる“ま”のフレーズ。何度も聴きたくなる、快楽ポイント、マックスなビートの心地良さ。サビからのエモーショナルな展開で解放される高揚感がクセになる。本人歌唱バージョンも人気。Coalowl(コールアウル)の手によるアニメ動画とのシンクロの良さもあり、後進に大きな影響を与えることになった令和を代表するボカロソング。
「KING」 Kanaria(カナリア)
歌唱:GUMI
当時17歳、2020年に初音ミクを使用した楽曲「百鬼祭」から活動を開始。たった2曲で一気に人気ボカロPの座へとのぼりつめた新鋭。「百鬼祭」人気の影響もあり、アッパーかつ意味不明な歌詞がキャッチーな耳に残る2作目「KING」は、公開直後から多くの歌い手やVTuberがカバー。幅広い人気を獲得することになった。
「劣等上等」Giga(ギガ)
歌唱:鏡音リン・レン
『マジカルミライ 鏡音リン・レンAnniversary』テーマソング。作曲ギガP、作詞れをる(Reol)によるEDMテイストを持つ、ダンサブルなアッパーチューン。2018年7月13日に公開されたボカロ曲であり、ギガPのボカロ曲投稿は「ヒビカセ」以来、約3年10ヵ月だったこともあり、話題となった。Reolのアルバム特典には自身の歌唱バージョンも収録。
「金木犀」くじら
歌唱:flower
2020年、yamaに提供した「春を告げる」がヒットしたボカロP。シティポップな「金木犀」は、その前年にくじらが発表した2019年リリースのオリジナル曲。歌い手として活動していたAdoをいち早くフィーチャー。ボーカロイドであるv flower版と同時公開した。くじらは現在、自身で歌唱するシンガーソングライターとして活躍中。
「トンデモワンダーズ」 Sasakure.UK(ササクレ・ユーケイ)
歌唱:初音ミク(+KAITO)
ボカロPレジェンドsasakure.UKによる、ボカロ曲をフィーチャーしたリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ feat.初音ミク』へ提供した書き下ろし曲。 キラキラした、アイドル&ゲームサウンドからの影響を感じるポップチューン。TikTok上で言葉・画像・動画などの情報が真似されて広がっていくこと、いわゆる“ネットミーム化(ミーム化)”したこともあり、本作を聴いた後にゲームへ流入する例も後を絶たない。
■進化するボカロシーンの最新状況もチェック
ニコニコ動画やYouTube、そしてTikTokにおける動画共有とともに拡がった、ボーカロイドが歌唱するボカロ曲。イラストやアニメーションなどの視覚的工夫や、感想や考察が飛び交うコメントを楽しめるのも動画ならではの音楽体験となった。
近年では、スマホ向けアプリでのリズムゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』で配信されたボカロPによる過去曲、書き下ろしでの新曲の盛り上がりも見逃せない。
2022年、ボカロ文化の人気は最高潮な状況を迎えているといっても過言ではないはずだ。
TEXT BY ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
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