■「言葉にできないいろいろな感情が溢れている映画です。自分が共感できる感情を汲み上げ、映画からの思いを受け取ってください」(稲垣吾郎)
映画『窓辺にて』完成報告イベントが10月11日、アンダーズ東京 51 階 TOKYO スタジオで行われ、稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、そして今泉力哉監督が登壇した。
今年の『東京国際映画祭(以下、TIFF)』コンペティション部門への出品が決定している本作。実は、稲垣と今泉監督の出会いは 2018年のTIFFだったそう。稲垣主演の『半世界』と今泉監督作品の『愛がなんだ』がともにコンペティション部門に出品されたときに、挨拶を交わしたという。
「俳優として初めてレッドカーペットに立ちました。それまでは、メンバーが出演する映画を観たり、取材をする立場での参加だったので、すごく印象に残っています」と当時を振り返った稲垣。
稲垣との思い出を訊かれた今泉監督は、雑誌での対談に触れ「リモートでの対談でしたが、きちんとお話しするのはそのときが初めて。途中で電波が悪くなってしまい、僕が(電波がよく届く場所を探しながら)公園まで移動したりして(笑)。10分以上お待たせしてしまったのですが、ずっと笑顔で待っていてくださいました」と明かすと、稲垣が「監督の後ろに公園の噴水や遊ぶ子どもたちの姿が映っていましたよね」とうれしそうに話した。
対談では稲垣から「僕を主演にするならどんな映画にしますか?」と質問が飛んだが、実はそのときすでに今泉監督は準備を進めていた段階だったという。そのときの状況について今泉監督は「準備中です! とは言えないので、なんかちょっとズレが対談をした気がします」とはにかんだ。
稲垣演じる主人公・市川は喜怒哀楽が明確に出るタイプではなく、理解できない人にはまったく理解されない。さらに恋愛感情が乏しいというキャラクター。今泉監督は説明も演じるのも難しいと思ったが、衣装合わせで稲垣から「『知ってる感情です。わかりますよ』と言っていただき、すごく安心したことを覚えています」と安堵したことを明かした。
役と稲垣のイメージとのギャップがあまりないという声が多い本作。この反響に稲垣は「今泉監督がある程度僕をイメージして(脚本を)書かれたと思います。『なぜ、こんなにも僕のことをわかっているんだろう』って思うくらいスピリチュアルな体験でした(笑)。僕のパブリックイメージとは違う、(本当の僕の)心の内側までわかっている気がしました」と解説。
今泉監督は「(本当の稲垣さんのことは)わかっていないと思います」と恐縮しながら、「たぶん、わかっていないけれど、写真集やこれまでのインタビューなどを拝見して、稲垣さんはこういう人と想像してみました」とキャラクターの誕生秘話を明かした。
この話を聞いた稲垣は「自分はこういうイメージでしょ? と自分で勝手に決めつけているところがあって。でも役には素の自分って溢れてしまうんだなと思いました。溢れてくる部分を上手に今泉監督が汲み取ってくれた気がします。真に迫ったというのかな。多分、今泉監督は僕のことが好きなんだと思います」と今泉監督を分析した。
市川の妻、紗衣を演じた中村は稲垣の印象について「ほとんど話す機会はないままクランクインしたのですが、対峙したときに『こんなにも心でお芝居してくださるんだ』と感じました。妻としても私自身としても同じような感覚になり、いろいろな感情を湧き上がらせていただいた印象があります。本来、自分が台本で気づかなければいけないのですが(笑)、稲垣さんと(芝居を)やってから気づく感情が多かったです。とても新鮮な体験でした」とうれしそうに語った。
中村のこのコメントに「一緒の撮影は3日間。だけど演じるのは長年連れ添っている夫婦。そういうことをするのが僕たちの仕事の面白いところです」のニッコリ。中村が「稲垣さんは(今のように)マイクがあったらしゃべってくれるけれど、マイクがないと…」と話したところで、稲垣が「話さないからね、シャイなんで」とニヤリ。
続けて「でも(あまり話さなかったからこその)緊張感があって、シリアスなシーンも多かったけれど、中村さんによって引き出されたものも多かったです」と感謝を伝えた。
この日のイベントでは、今泉監督の「長回し」が何度も話題に。中村はクライマックスのシーンの撮影を振り返り「現場では『長くないですか? できません!!』とブーブーでしたが(笑)、出来上がったものを観たら『これが今泉監督の狙いだったのか』と納得しました」とコメント。
長回しにした理由について今泉監督は「(長回しは)芝居が成り立たなければ無理なのですが、稲垣さんと中村さん、ふたりの演技を見て決めました」と説明。この言葉に稲垣は「役者としてはサイコーにうれしい言葉です」と満面の笑みを浮かべていた。ただ、ワンカットで撮ることは予告されていなかったので、「いつになったら、カメラの位置が切り替わるんだろう」と考えながら芝居をしていたという。
結果、8分のシーンが12分になったことについて今泉監督は「この4分はふたりが生み出した感情です」とキッパリ。この言葉にも稲垣は感激した様子で「うれしいですね。でも、いつカメラの位置が切り替わるのか気にしていたのに『ハイカット、撤収!』と言われて、中村さんと『え? 終わり?』って目があったのを覚えています」と思い出し笑いをしていた。
稲垣演じる市川との絡みが多かった高校生作家の留亜を演じた玉城は「撮影当時は24歳で。実年齢と離れた高校生役を演じるのは難しいかなと思っていましたが、脚本を読んでいると私自身が10代に感じたことのある、どこか知っている感情が描かれていたので、好き勝手やらせてもらった印象があります。それを稲垣さんが受け止めてくださったのが伝わってきました」とニコニコ。
長回しについて玉城が「緊張感はあるけれど、自分で緩めることもできる。自分で調整できるのが面白い」と話すと、稲垣も「舞台のような感じだよね? ぶつ切りじゃなく、ずーっとやれるというのは面白かったです」と現場での心情に触れた。
今泉監督特有の印象に残るセリフや言い回しがたくさん登場する本作。稲垣は「映画や文学で見たことのないセリフが登場します。喜怒哀楽だけでは表せないような心の機微が繊細に描かれています」と丁寧に解説。
「理解なんてされない方がいいよ」というセリフが印象に残っているそうで「こういう仕事をしていると理解されることはうれしいけれど、同時にプレッシャーにもなるから、そういうところは共感できると思いました」と好きなフレーズを明かした。
そして中村が「悩んでいるくらいなら体を動かしなよ」というセリフを挙げ、「(普段)ヨガをしているときに雑念しかないから、ものすごくわかるって思いました(笑)」と照れた表情を浮かべると、稲垣は「無心になるのってなかなか難しいよね」と頷きながら同調。
玉城は人生には手に入れ、手放すことしかないという表現を挙げ、「17歳の留亜が言っていることも良くわかります」と自身の役柄の説得力についても触れた。
イベントでは恋愛観に関しての質問が飛ぶ場面も。稲垣は「自然な成り行きに任せるというのが基本。湧き出る感情を拒まない、迷わないことが大事。意外と本能系なのかもしれません。恋愛については無邪気かも。でも、今年49歳になるから無邪気というのもちょっと…」と考える仕草を見せ、「そろそろ最後の恋を。いや、それも違うな」とぶつぶつ。
しばらく考えたあと、今泉監督のフォローもあって「毎回最後の恋だと思うけれど、また次の恋がやってくることもある、みたいなことかな」とまとめた。
また、「恋愛観って難しい!」と口にした中村が「好きって理屈じゃないと思うんです。歯ブラシもタオルも共有できるくらいの…」と語ったところで、稲垣と今泉監督は「歯ブラシはちょっと…」と苦笑い。
玉城が「わからなくもないけれど、共有しなくてもいいかな」と話すと、中村は「愛が足りない!」と跳ねのけ、自身の恋愛観を貫き通し、笑いを誘った。玉城は「地球上にはたくさんの人がいるのに、好き同士になるって本当にレア。だからそうなったら楽しめばいいかなと思います」と爽やかに回答した。
最後の挨拶で稲垣は「いろいろな登場人物がいて、言葉にできないいろいろな感情が溢れている映画です。自分が共感できる感情を汲み上げ、映画からの思いを受け取ってください」と呼びかけイベントを締めくくった。
映画『窓辺にて』は、11月4日から全国公開。
映画情報
『窓辺にて』
2022年11月4日(金)全国ロードショー
出演:稲垣吾郎 中村ゆり 玉城ティナ 若葉竜也 志田未来 倉悠貴 穂志もえか 佐々木詩音 / 斉藤陽一郎 松金よね子
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
主題歌:スカート「窓辺にて」(ポニーキャニオン/IRORI Records)
監督・脚本:今泉力哉
配給:東京テアトル
(C)2022「窓辺にて」製作委員会
『窓辺にて』公式サイト
https://www.madobenite.com/