浜崎あゆみと宇多田ヒカルの両者が時代を席巻し、年間チャートの上位に君臨していた2002年。そのいっぽうで、バンドシーンでは青春パンクが人気を博すムーブメントも起こっていた。また、音楽業界全体としてはコピーコントロールCD(CCCD)の導入が大いに波紋を呼んだりも…。そんな約20年前のヒット曲を振り返ってみよう。
■2002年に流行ったヒット曲20選
01.「traveling」宇多田ヒカル
02.「ワダツミの木」元ちとせ
03.「Life goes on」Dragon Ash
04.「楽園ベイベー」RIP SLYME
05.「Voyage」浜崎あゆみ
06.「VALENTI」BoA
07.「大切なもの」ロードオブメジャー
08.「キラキラ」小田和正
09.「a Day in Our Life」嵐
10.「白い恋人達」桑田佳祐
11.「おさかな天国」柴矢裕美
12.「二人のアカボシ」キンモクセイ
13.「花唄」TOKIO
14.「くちばしにチェリー」EGO-WRAPPIN’
15.「陽のあたる坂道」Do As Infinity
16.「光」宇多田ヒカル
17.「カレーライスの女」ソニン
18.「眠れぬ夜は君のせい」MISIA
19.「youthful days」Mr.Children
20.「ナイスな心意気」アラシ(嵐)
「traveling」宇多田ヒカル
2001年11月のリリースながら、2002年のオリコン年間シングル2位を記録。“自分が元気になりたかった”ことが楽曲のコンセプトにあるため、タクシー運転手とのやり取り、さらに『平家物語』の一節を歌詞に引用していたりと、自由奔放さと高揚感が際立つポップな仕上がりとなっている。紀里谷和明監督によるCGやアニメーションを駆使した独創的でカラフルなMVも目を惹いた。リリース当時は19歳というのだから恐れ入る。
「ワダツミの木」元ちとせ
デビュー曲にして、異例のオリコン年間3位に輝いた名バラード。大ヒットとなった要因は、やはり“100年にひとりの歌声”と称されたその圧倒的なボーカルだろう。奄美民謡特有の裏声を活かした歌唱法“グイン”は、人を愛するあまり花になってしまう女性を描いた詞の世界観との相性が良く、聴き手にスピリチュアルな感動をもって響いた。レゲエ調のリズムやホーンの映えたアレンジも素晴らしい。作詞・作曲は元LÄ-PPISCH(レピッシュ)の上田 現。
「Life goes on」Dragon Ash
J-PHONE“写メール”のCMソングに抜擢され、颯爽とお茶の間に浸透。英語詞のサビながらみんなで一緒に歌えるようなとても人懐っこいメロディで、ヒップホップをとっつきやすい&スタイリッシュな音楽として身近に感じさせてくれた。アコギによるフォーキーなアプローチを軸にしつつ、中盤以降にヘヴィなアレンジが顔を出してくるのが絶妙なアクセント。耳を心地よく刺激するスクラッチ音もクールでカッコ良い。
「楽園ベイベー」RIP SLYME
RIP SLYMEの名を幅広い世代に知らしめたゴキゲンなサマーチューン。アコギやシェイカーでチルなムードを演出するおしゃれなイントロを経て、軽快なラップが始まれば、一気に夏の高揚感と無敵のテンションが生まれる。ボサノバ風の爽やかなトラックも心地良い。もちろん、ライブにおいても爆発力を誇り、サビでオーディエンスが手をワイパーさせて盛り上がるのが定番だ。chelmico(チェルミコ)ら後進のアーティストに大きな影響を与えた。
「Voyage」浜崎あゆみ
ドラマ『マイリトルシェフ』の主題歌に起用されたのち、「Voyage」を基にした短編映画『月に沈む』(主演:浜崎あゆみ、監督・脚本:行定勲)まで製作・公開となるなど、多角的に注目を集めたミディアムバラード。豪華オーケストラをバックに歌われる、思わず空を見上げてしまうようなサビの大らかなメロディが感動を呼び、明るさと切なさが繊細に交わる歌詞も美しい。MVでは、映画のファンタジックなストーリーの片鱗が楽しめる。
「VALENTI」BoA
曲名だけではピンと来なかったとしても、“タイトなジーンズにねじ込む”と歌われるサビは聴き覚えのあるリスナーも多いはず。そんな耳に残るキャッチーなメロディに加え、得意のクールなクラブミュージック感とエキゾチックなアコギなどの情熱的なラテンアレンジを融合させることによって、ダンサブルかつパワフルなナンバーに仕上げている。この曲で日本での認知度がグッと増し、2002年末のNHK『紅白歌合戦』初出場を果たした。
「大切なもの」ロードオブメジャー
2002年4月にテレビ番組の企画で結成されたロックバンドのデビュー曲。青春パンクブームのなか、90年代メロコアの系譜を正しく受け継いだ瑞々しくキャッチーなパンクロック、爽やかなハイトーンボイス、彼らの生きざまを映し出した前向きな歌詞が多くのリスナーに響き、インディーズとしては異例のセールスを記録、一躍スターダムへとのし上がった。世代じゃない人も聴けばきっと好きになる、元気が湧いてくる曲だと思う。
「キラキラ」小田和正
ドラマ『恋ノチカラ』の主題歌として脚光を浴び、同年に発表された小田和正のベスト盤『自己ベスト』のトリプルミリオンをアシストしたラブソング。イントロの壮麗なストリングスから文字通りキラキラ感に溢れていて、続く“ゆらゆらゆら”“キラキラキラ”と擬音多めでアクセントを付けた歌唱も印象深い。ボーカルが力強さを増してカラフルに開けるサビは、一瞬一瞬を全力で生きることを肯定し、聴き手に希望を抱かせてくれる。
「a Day in Our Life」嵐
メンバーの櫻井 翔が出演したドラマ『木更津キャッツアイ』の主題歌として火がつき、同シリーズ映画版の主題歌にも起用。全編ラップ主体というチャレンジングな作風で、基本的にラップパートは櫻井と二宮和也と相葉雅紀、ボーカルパートは大野 智と松本 潤が担当し、スタイリッシュに仕上げた。ジャニーズの先輩である少年隊の「ABC」をサンプリングしたトラックも胸熱だ。作詞・作曲・編曲は、スケボーキング(SBK)のSHUNとSHUYA。
「白い恋人達」桑田佳祐
夏のビーチソング「波乗りジョニー」と対になる、過ぎた恋を歌う冬の切ないラブソング。本人出演のコカ・コーラCMソングとして話題を呼んだ他、平井 堅やAIがのちにカバー、2022年にはユニクロのCMにも使われるなど、長く愛される名曲に。情景描写の上手さ、温かみのある歌声、さすがのメロディメイカーぶりが際立ついっぽう、シャンシャンと聴こえるスレイベルの音色に心安らいだりも。MVにはユースケ・サンタマリアと内村光良が登場。
「おさかな天国」柴矢裕美
元々は魚食普及事業の一環として90年代に制作され、まったく商用目当てではなかった。しかし、テレビ番組で取り上げられ、“サカナ サカナ サカナ”という耳なじみの良いフレーズが徐々に親しまれ、2002年には一般流通が決定。思わぬ大ヒットを記録し、今となっては世代を問わず誰もが一度は耳にしたことのある曲になったと言える。魚の名前を覚えられる知育的な歌詞、つい口ずさみたくなるようなポップな曲調が特徴だ。
「二人のアカボシ」キンモクセイ
歌謡曲やニューミュージックの旨みを活かしたサウンドで人気を博したキンモクセイが、ブレイクするきっかけとなった自身最大のヒットシングル曲。美しく切ないメロディライン、哀愁に満ちたボーカルなどクオリティが高く、恋人と駆け落ちしそうな危ういムードを感じさせたりと、匂い立つような歌詞も文学的で素敵だ。シティポップリバイバルの今こそ聴かれてほしい。ジャケットでは、明星“チャルメラ”の即席麺袋をパロっていた。
「花唄」TOKIO
跳ねたリズムを持ったカラッと明るい曲調と聴き手を優しく励ましてくれるような歌詞が、メンバーの松岡昌宏が主演を務めたドラマ『ナースマン』の主題歌として見事に噛み合って好評を博した。華やかなホーンアレンジやベースラインも冴えわたり、何よりTOKIOの唯一無二と言えるバンド感、頼れるアニキ感がナチュラルに伝わってくる点がたまらない。元センチメンタル・バスの鈴木秋則が作曲を手がけている。
「くちばしにチェリー」EGO-WRAPPIN’
主演の永瀬正敏がEGO-WRAPPIN’のファンであった縁から、ドラマ『私立探偵 濱マイク』の主題歌として書き下ろされ、大いに話題を呼んだEGO-WRAPPIN’の代表曲。ホーンセクション、ウッドベース、ピアノ、フルートなどによるジャズとスカを織り交ぜたようなアッパーでグルーヴィなサウンド、めくるめく展開に乗せて抑揚たっぷりに歌う中納良恵のソウルフルなボーカルがとにかく強烈だ。昭和歌謡やR&Bも感じさせたりと、聴けば聴くほどクセになる。
「陽のあたる坂道」Do As Infinity
水野美紀主演ドラマ『初体験』の主題歌としてヒットした代表曲のひとつで、ボーカルの伴都美子も「この曲を歌うと自分のコンディションがわかるぐらい、私にとって軸となる大事な一曲です」と語っている。“誰もがいつか 越える坂道”というテーマは、大人になっていろいろな経験をした人こそ、グッとくるものがあるはず。まっすぐで凛とした歌声が背中を押し、包み込むようなストリングスが優しく響く。
「光」宇多田ヒカル
ゲーム『KINGDOM HEARTS』のエンディングテーマとしてはもちろんのこと、宇多田ヒカルがキッチンで食器を洗ったりしながら歌っている様子をワンカット撮影したMVも注目を集めた。自身の本名をタイトルに据えたこの曲では、最初はひとりだった主人公が“君という光”と出会って変わっていく心情の機微を、日常の願いや不安な想いを包み隠すことなく、シンプルな日本語と伸びやかなボーカルで豊かに表現している点が素晴らしい。
「カレーライスの女」ソニン
ソニンが本格ソロ始動を告げたナンバー。当時は裸エプロン姿のきわどいジャケット写真とMVが何かと取り沙汰されたものの、そんな奇抜さに反し、恋人のために覚えた料理だけが今の自分の財産と歌う切なすぎる歌詞やしみじみと哀愁漂う曲調が、マツコ・デラックスがたびたび絶賛しているとおり秀逸なので、改めて聴いてみてほしい。2020年には同曲のアンサーソング「ずっとそばにいてね。」がリリースされている。どちらも作詞・作曲はつんく♂。
「眠れぬ夜は君のせい」MISIA
気球に乗ったMISIAの姿が印象的なキリン『RAKUDA』のCM+ドラマ『恋愛偏差値』の主題歌というダブルタイアップで多くの支持を獲得。伸びのあるボーカルと美しいメロディが光る彼女らしいスケール感たっぷりのドリーミーなラブバラードで、“今夜夢の中 どうか逢いにきて”と溢れる愛を切々と歌い上げるさまはどこまでも可憐だ。ストリングスやハープのキラキラとした音色を含め、聴いていてとても癒される。
「youthful days」Mr.Children
主題歌に起用されたドラマ『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』がミスチルの楽曲をふんだんに使っていたこともあって多くの関心が寄せられ、2001年11月リリースながら翌年にわたる好セールスに繋がった。駆け抜けるビートや爽やかな疾走感が次第に増していく恍惚の展開、若い男女関係の何気なくも美しい描写、地声と裏声がミックスボイス的に行き交うサビの独特な歌唱&メロディなど、彼らのセンスが爆発しまくっている。
「ナイスな心意気」アラシ(嵐)
アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』エンディングテーマとなった自身初のアニメタイアップ曲。“アラシ”名義でリリースされたり、MVや音楽番組出演時にメンバーが七三分けのヘアスタイル、黒縁メガネ&スーツというサラリーマン風の装いを見せたりと、普段の嵐とは異なるという設定のもとで様々な試みが行われた。ファンキーで明るいサウンドに乗せて、カッコ良くない生き方でも大丈夫と思わせてくれる粋な応援歌。
■2002年のヒット曲は歌姫の躍進とジャンルを問わない楽曲が流行
“歌姫”と呼ばれる女性アーティストの活躍が目立ったのと、ヒップホップやジャズ、シティポップなどなど、ジャンルを問わず良いメロディの楽曲が支持されていた印象のある2002年。また、個性的なアプローチによって思わぬヒットも数多く生まれた。ぜひ、当時のヒット曲をプレイリストで堪能してみては?
TEXT BY 田山雄士