■「僕らは1MC&1DJで、ターンテーブルとラッパーのみという、“素手”に近い形でライブをやっているグループだから、こういった新しいテクノロジーとコラボすることは、すごく刺激になる」(Creepy Nuts・DJ松永)
ソニーグループによる先端映像技術「バーチャルプロダクション」を活用した“実験的”音楽ライブ配信イベント『Ginza Sony Park presents「Creepy Nuts」Special Live』が9月22日に開催された。
当日は、ソニーPCL株式会社のクリエイティブ拠点「清澄白河BASE」にあるバーチャルプロダクションスタジオにて、Creepy Nutsのふたりが、現実の物理世界とバーチャルの世界を行き来する実験的なエンタテインメントライブショーが展開。
ライブ本番の模様は、Sony Park公式YouTubeチャンネルで観ることができる。
【ライブレポート】
カフェやギャラリーなど新しい息吹と、下町の昔ながらの風情が混交する清澄白河。その街にソニーPCLがあらたに立ち上げたクリエイティブ拠点が「清澄白河BASE」だ。
その中にあるVIRTUAL PRODUCTION STUDIOは、大型LEDディスプレイ、カメラトラッキングシステムを組み合わせた「バーチャルプロダクション」を基軸に運用がなされている。そしてスタジオの中で大きな存在感を放つLEDディスプレイに映し出される3DCG背景と、現実空間にいる被写体をリアルタイムで合成できる「In-Camera VFX」という手法によって、「バーチャルとリアル」「デジタルとアナログ」を瞬時に結合させた、新しいアートフォームを提示する。
その「清澄白河BASE」でソニーグループ初となる生配信音楽ライブという、実験的なステージに立ったのは、ラッパーのR-指定と、DJのDJ松永のふたりで構成されるヒップホップユニット、Creepy Nuts。
数々のフェスに登場し、単独ツアーも控える音楽シーンの中でも屈指のライブ巧者として知られるふたりが、Ginza Sony Parkとタッグを組み、「現実の物理世界なのか、バーチャルなのか!?」をキーワードに、パフォーマンスをYouTube配信。「最先端の映像制作に挑戦するスタジオ」と「音楽シーンのエッジを走るアーティスト」とのコラボには、大きな注目が集まった。
配信時刻の19時半になると、モニターには「Creepy Nutsのオールナイトニッポン」を放送しているニッポン放送の駐車場が映し出され、その場にゆっくりと登場するCreepy Nuts。そのままライブは9月7日発売の新作『アンサンブル・プレイ』収録の「2way nice guy」からスタート。「人間の持つ二面性」を歌ったこの曲は、「バーチャルとリアル」を結合させ、ひとつのライブとして表現する、この日の配信の幕開けとしてふさわしい曲だろう。またライブではなかなか見えづらい、DJ松永のDJプレイの手元も鮮明に映し出され、何方向からも撮影が可能なこのスタジオの特性が活かされた配信であることが、映像からもうかがい知ることができた。
「Creepy Nutsです、よろしくお願いします」というR-指定のアナウンスから、ライブはMVも制作された「堕天」へ。アグレッシブな楽曲でライブの温度を高め、そのまま「画面の前で手ぇあげるなり、飛び跳ねるなりしてください!」という言葉から、2019年リリースの「よふかしのうた」に展開。汗がカメラにも映るほど熱気を纏って歌うR-指定とシンクロするように、駐車場のライトも明滅し、ここで3曲目とは思えないほどのテンションでライブは進行していった。
ステージにはラジオブースが置かれ、ライブはトークパートへ。いつものラジオのような会話をテンポよく交わすふたりだが、言われなければわからないほどフォトリアルな3DCGで描かれた駐車場が、まるでロケ撮影をしているかのようにカメラの動きと連動してリアルタイムで変化すると、「すご! いつも買ってる自販機まで3DCGで映るの!?」とR-指定。改めてその映像技術に驚くふたり。
また、現在建て替え工事中のGinza Sony Parkの地下をモデリングした背景や、サバンナや夜の街などに自ら切り替えながらトークを展開。月面の背景ではDJ松永が「コスモスクラッチだ!」と楽しげにターンテーブルプレイを見せ、最先端技術とのコラボを彼ら流に楽しんだ。
再びライブパートに移り、ラストは「のびしろ」を披露。歌詞に書かれた「勝鬨橋」を背景に、“隅田川にかかる勝鬨橋をわたる左手にスカイツリー、右手に東京タワー俺はその真ん中”というパートでは、CGで描かれたスカイツリーと東京タワーがそびえ立つ。そしてラストは「ソニーパーク、お前らまだのびしろしかないわ!」と歌詞をこの日用にアレンジし、ライブは幕を閉じた。
初の試みに対してもタイトにライブを展開するCreepy Nutsのライブアクトとしての強度、映像制作の先端技術を生配信として形にした「清澄白河BASE」、そして実験的な活動を続けているGinza Sony Park。三者のコラボレーションは、表現のあらたな可能性を十二分に感じさせる配信ライブだった。
TEXT BY 高木”JET”晋一郎
■DJ松永(Creepy Nuts)コメント
自分が初めて見る技術だったんで、画面に写しだされた時、うわ、なんかリアルっぽいなすごいなと思って、モニター見てみたら、おお、本当に自分がニッポン放送の裏口にいると思ってマジでびっくりしましたね、あの時は。だから、ニッポン放送以外なかったのかなと強く思いましたね(笑)。めっちゃおもしろかったすね。他のいろんな、月行ったりとか、ニューヨークっぽいとこ行ったりとか。■R-指定(Creepy Nuts)コメント
(カメラで撮影した3DCG背景の)リアルさと、CGでもちゃんと映像で見たらほんまそこにおるように見えるってのもおもろかったし。そういう映像の中、よりもっとちゃっちくしてもかっこいいパターンもあるやろし、表現したい人が想像膨らむような仕掛けやなあと思いましたね。ただ「のびしろ」歌ってるときに後ろを見ると、ちょっと危なかったすね。笑って歌詞飛ばしそうになった。だって勝鬨橋が勝鬨橋のまんま動いてたんですからね。街を。■Creepy Nuts インタビュー
Q:今回の配信ライブの手応えを教えてください。
DJ松永:新しい勝負ができる時代に入ったと思いました。今回の技術を使えば、 映像でどんな場所にも行けるし、どんなグラフィックを背負ってもライブができると思う。だから、配信ライブやスタジオライブの新しいフォーマットを作ったんじゃないかなって。かつ、それが活かせるのは音楽だけじゃないと思いますね。
R-指定:とにかく映像が綺麗でしたね。背景の3DCGのニッポン放送と、実際に持ってきた現物の車止めが映像の中で一体化していて、モニターにはホンマに自分たちがそこにいるかのように映っていて驚きました。だからこそ、その世界に没入して歌うこともできて。ただ、そこで映し出されるのがニッポン放送の裏口というのは、僕ららしいのかなと(笑)。逆にいえば、あれぐらい地味な場所でも、すごくリアルに、精密に映せるということは、派手な場所だったらよりゴージャスに、寂しい場所ならより寂しくみたいな、ビジュアルとして刺激的なことができるんやろうな、と。Q:新しい技術は刺激になりますか。
DJ松永:そうですね。僕らは1MC&1DJで、ターンテーブルとラッパーのみという、「素手」に近い形でライブをやっているグループだから、こういった新しいテクノロジーとコラボすることは、すごく刺激になる。ヒップホップは時代を吸収するジャンルだし、最新のテクノロジーと親和性がすごく高いんですね。だから今回の技術の認知がもっと広がれば、想像もできないようなライブをするアーティストも出てくると思います。それから、映像と音楽をDJ機材で同時に操作する「VDJ」という技術があるんですが、それと連動させたらどんなことができるのかと、興味が湧きました。普通のVDJとは桁外れのことができるんじゃないかなって。
R-指定:個人的には、この技術を自分の制作部屋に置きたい。僕はけっこう散歩しながら歌詞を書く時が多いんですが、地元をイメージした曲なら地元の映像を、夜の都会のど真ん中だったらそういう映像を、みたいに、いろんな映像をリアルに映し出したなかで歌詞を書いたら、すごくイマジネーションが湧くやろうなと思いますね。Q:Creepy Nutsとしてはどんな可能性を感じましたか?
R-指定:俺たちの楽曲はすごく情報量が多いので、こういった映像技術との相性がいいと思いました。曲の世界観やテンション、ニュアンスを映像でも表すことができるだろうし、映像技術と音楽の相乗効果によって、さらに世界に没入することができるんじゃないかなと。映像クリエイターさんとなにかを作る際に、一緒にものづくりをする「あそびしろ」がより広がったり、新しい可能性も感じる部分も多かったですね。
DJ松永:「配信ライブ」という音楽を楽しむ形態はこれからも残っていくと思うし、僕らもその手法を取り入れることが今後もあると思うんですね。そのときにはこういった最新技術を貪欲に取り込んでいきたいし、僕らはすごくいろんなアプローチをしているグループだからこそ、いろんな楽しみ方にチャレンジしていきたいと思いますね。Q:おふたりが「みどころ」だと思う部分は。
DJ松永:月面を背景にスクラッチした部分ですね。宇宙DJ松永として、コスモスクラッチを披露してます……ふざけすぎてたかな(笑)。
R-指定:3DCGで作った勝鬨橋を背景にして歌った「のびしろ」のサビで、東京タワーとスカイツリーがそびえ立つシーンですね。勝鬨橋を封鎖して歌うというのは、現実的には相当難しいと思うんで、それは3DCGならではやなと思います。だけど、さらに勝鬨橋が動いて、その両サイドに一気に塔が伸びる映像を観た瞬間は、リハーサルで腹ちぎれるぐらい笑いました。さすがにファンタジーすぎるやろ、と(笑)。
リリース情報
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SINGLE「堕天」
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ALBUM『アンサンブル・プレイ』
Creepy Nuts OFFICIAL SITE
http://creepynuts.com/