■「CAN(缶)は、俺たちの目標なの。自分たちが目指しているCANを、一緒に蹴っ飛ばし続けましょう」(KREVA)
アルバム『THE CAN』を携え東名阪のワンマンライブを開催してきたKICK THE CAN CREW。『KICK THE CAN CREW LIVE 2022「THE CAN」』と銘打たれた3公演の最終日となる東京公演が、9月24日、日本武道館にて開催された。
最新アルバム『THE CAN』にも参加しているRYO the SKYWALKERとNG HEADを迎えた本公演は、アルバムからの新曲だけでなく、往年の代表曲も存分に披露。前日(23日)に開催されたKREVA主催の『908 FESTIVAL 2022』と2日続けての公演に訪れた観客は、KICK THE CAN CREWの熱いパフォーマンスと共に2022年の夏を締めくくった。
【ライブレポート】
KICK THE CAN CREWが、9月24日に日本武道館でワンマン公演を開催した。最新アルバム『THE CAN』を携え、7月30日のZepp Nagoya、8月28日のなんばHatchと繰り広げてきた『KICK THE CAN CREW LIVE 2022「THE CAN」』のファイナル公演。彼らが武道館ワンマンを行うのは2018年の『現地集合』以来となる。
もうもうとスモークが立ち込めるステージに、LITTLE、KREVA、MCUの3人が姿を見せると、ウォーミングアップと呼ぶには余りにもタイトなマイク捌きのリレー「準備」からライブがスタート。続いて熊井吾郎(DJ+MPC。前日の『908 FESTIVAL 2022』においても全編で大活躍した)が放つファストファンクのビートは「YEAH! アガってこうぜ」だ。自ずと3人のラップのテンポも跳ね上がってゆく。早々の「スーパーオリジナル」ではKREVAが敢えてフロウを崩しながらメッセージを強調し、序盤3曲で場内の体感温度がグッと上昇してしまった。
あらためて来場者を歓迎する一方、残念ながら会場に赴くことができなかったファン(荒天のため各地の交通機関が乱れていた経緯もあった)を気遣いながら、KREVAは「ここに人がいる限り、誰に見離されてもこの勢いを止めません。皆さんがそこにいる限り、俺たちは今日のこのステージを降りません!」と熱を込めて告げる。日本武道館の大舞台に立つKICK THE CAN CREWは、国民的ラップグループの座にのうのうと収まることなく、時代の変化や苦難と真っ向から取っ組み合う表現者としてそこにいた。
「We don’t Get Down」でのLITTLEは、ひときわパンチの効いた発声とキレキレのライミングを繰り出し、一方のMCUはユーモラスなフロウを放つ。懐ラップどころか今の必然を帯びたメッセージと化す「sayonara sayonara」では、<Yeah!>と賛同するように、大勢のオーディエンスの掌がかざされていた。そして本格的再始動の狼煙となった「千%」では、3人が細やかに絡み合うヴァースでコンビネーションの巧みさを見せつけ、<経て からの ここ ブドウカーン!!>と胸を熱くさせるフィニッシュである。
さて、ここでステージに招き入れられるのは、関西レゲエシーンの代表格ディージェイであり同世代アーティストのRYO the SKYWALKERとNG HEAD。「今こそ寄ってこい feat. RYO the SKYWALKER & NG HEAD」は、KICK THE CAN CREWのメジャーデビューを遥か遡る幻のコラボ曲「よってこい」(後にDJ TATSUTAのミックスアルバム『ULTIMATE MIX ADJUSTMENT』に収録されたが、フル音源は未発表)以来となるタッグだ。ヒップホップとレゲエが密接に関わり、ユースカルチャーの一角を担っていた1990年代のムードを思い出させる。RYO the SKYWALKERとNG HEADはまさに一曲入魂、凄まじい熱量のトースティングを迸らせ、それに焚き付けられるようにKICK THE CAN CREWの3人もどこか若々しいエネルギーを振り撒いていた。
トラックがリミックスされた「GOOD TIME!」、そしてMCUの<来年で50>にオーディエンスがどよめく「地球ブルース 〜337〜」といった享楽性のダンスタイムを経ると、想像以上に人気を集めてしまったというユニークなライブグッズ「空気の缶詰」を、武道館のステージ上でも実演制作するひと幕へ。オーディエンスのハンドクラップも交えて採取された空気は、「未来へのタイムカプセルにしたい」とのこと。缶に蓋をした瞬間に響き渡る「カンヅメ」が夢見心地なエモーションを帯び、身近な公園の風景映像とともに披露される「Playground」がさらに記憶と情緒をくすぐる。人生の語り部と化した「ユートピア」は、熊井吾郎による雄弁なスクラッチングが余韻を膨らませた。アップリフティングなパーティ性だけでは語りきれない、KICK THE CAN CREWの奥深い魅力だ。
バレエとブレイキングを融合させたような優美なダンスを披露するダンサーたち(山井絵里奈、渡辺理恵、宮本祐宣)に導かれ、それぞれに全身白の衣装に早変わりした3人が届けるのは「LIFELINE」。背景には自然界の美しい映像がフィーチャーされ、楽曲の厳かな響きと幻想的な視界に満たされる。「大人になったKICK THE CAN CREWならできる」と取り組んだ、新しいトライアルの表現だ。そして、磨き直されたトラックとともに披露されるのは、実に2004年以来となる「HANDS」。オーディエンスの小気味よいクラップを誘い、LITTLEも楽曲とリリックを楽しみ尽くすような表情を見せていた。温もりに満ちたサウンドが続く「Boots」、そして一面のハンドウェーブを巻き起こす「アンバランス」と、新旧の名曲連打に頭がクラクラする。
触れる者の背中を押すメッセージが飛び交う「トライは無料」を経て、ライブはいよいよ佳境へ。KREVAはどうもロックスター風の煽り文句がマイブームになっているらしく笑いを誘うのだが、ここで満を辞してMCUが、某テーマパークの場内アナウンス風に艶のあるテナーボイスで名調子を発揮し「玄関」へと向かう。80年代ニューウェーブのような煌びやかな曲調がKICK THE CAN CREWの表現領域を押し広げ、さらにチルウェイブ風の「住所(Extended Ver.)」でそれぞれの愛を注ぎ込む展開だ。岡村靖幸のサンプリングボイスを用いながら、コーラス部分はKREVAがオートチューンを用いて歌い上げる。逃れ難い高揚感のダメ押しに放たれる賑々しい「マルシェ」は、唸りを上げるような重低音ベースの響きが強烈。フィニッシュの瞬間には色とりどりのテープが放たれ、最高潮を迎えるのだった。
3人がステージから捌けることなくそのままアンコールに突入すると、「CAN(缶)は、俺たちの目標なの」と語り出すKREVA。いつしか形を変えてしまう目標もあるし、失われてしまう目標もある。それでも自分が好きなものを追い続けていられるかどうか。「自分たちが目指しているCANを、一緒に蹴っ飛ばし続けましょう」。そんな思いを乗せて届けられるのは、最新のファイティングテーマ「THE CAN(KICK THE CAN)」だ。思えばKICK THE CAN CREWが活動休止した2004年、こんなにも情熱的な2022年の武道館ライブを目の当たりにするなんて、誰が予想していただろうか。<蹴る缶の向こう側にマルチエンディング>。グループ名に託した思いそのままに、未来を切り拓いてゆくKICK THE CAN CREWがそこにはいた。
PHOTO BY AZUSA TAKADA
リリース情報
2022.03.30 ON SALE
ALBUM『THE CAN』
KICK THE CAN CREW OFFICIAL SITE
https://www.kickthecancrew.com/