緑黄色社会からニューシングル「LITMUS」が届けられた。
表題曲「LITMUS」(テレビ朝日系 木曜ドラマ『緊急取調室』主題歌)は、憂いを帯びたメロディ、エモーショナルなバンドサウンド、誰もが抱えている“秘密”をテーマにした歌詞がひとつに濃縮された楽曲。さらに解放的なアッパーチューン「アーユーレディー」(映画『都会のトム&ソーヤ』主題歌)、爽快感溢れるサウンドと現状を突破しようとする心情を刻んだ歌が共鳴する「これからのこと、それからのこと」(『SEA BREEZE』CMソング)が収録され、“リョクシャカ”の多彩なポップネスが体感できる一枚に仕上がっている。
代表曲「Mela!」を含むアルバム『SINGALONG』のヒットにより、一気に知名度を上げた4人。バンドの活動状況の変化、デビュー当初から掲げている“J-POP”に対する想い、新作「LITMUS」の制作などについて語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 関信行
■「Mela!」が先を走り、『SINGALONG』に繋がった
──まずは昨年9月にCDリリースされたアルバム『SINGALONG』の手応えについて聞かせてもらえますか?
長屋晴子(以下、長屋):アルバムを出したとはいえ、なかなかライブができない状況だったので、アルバムの反応を直接感じられなかったんですよ。数字やコメントでしか判断できなかったというか…。
小林壱誓(以下、小林):ワンマンライブができなかったからね。イベントやフェスにはいくつか呼んでもらったんですが、そこではどこからどこまでが自分たちのお客さんかわからないので。
長屋:イベントでアルバム曲を中心にやるのもちょっと違うじゃないですか。今年の5月から8月にかけて、やっと自分たちのツアー(ホールツアー「リョクシャ化計画2021」)をやれて、そこでようやく『SINGALONG』の曲を演奏できたんですよ。一緒に歌うことはできないけど、イントロから反応があったり、手拍子をしてくれたり、“ちゃんと届けられた”という実感がありました。
小林:去年の12月にやった有観客の配信ライブ(「SINGALONG tour 2020 -last piece-」)も大きかったと思います。お客さんの前で『SINGALONG』を完成させられたというか。それを2020年のうちにやれたのは良かったなって。
穴見真吾(以下、穴見) :(アルバムに先駆けて配信した)「Mela!」もかなりデカくて。あの曲が先を走って、「緑黄色社会ってどんなバンドなんだろう?」と思ってくれた人の行き着く先が、『SINGALONG』だったのかなと。
peppe:うん。「Mela!」を運動会のダンスや組体操の曲に使ってくれたり、プロ野球のチアリーダーが踊ってくれたり。そういうことをSNSで知ることが多いんですけど、多くの人に届いてるんだなって感動しています。
長屋:「Mela!」は自分たちの想像以上に広がったというか、ちょっとビックリしているところもありますね。「Mela!」に引っ張ってもらいながらも、“他の曲たちも育てないと”と思っています。
小林:自分たちの楽曲がバズったことがなかったからね。とはいえ、 “誰もが知っている曲”ではまだないと思うんですよ。だから、“「Mela!」が広がったから、次はどうしよう”というプレッシャーもそんなになくて。今までどおり、いい曲を出し続けることが必要なのかなと思います。
穴見:そうだね。
小林:メンバー間ではいろいろ話はしてますけどね。「Mela!」をいろんな人に聴いてもらえたから、次は別の側面を出したほうがいいよね、とか。
■“J”をはずして、“POP”であることが大事
──バンドの方向性についてはどうですか? 以前から“リョクシャカはJ-POPでありたい”という趣旨のコメントをしていますが、そこは変わらず?
長屋:そうですね。ただ“J-POPとはなんだ?”って考えてみると、最近はだいぶ変わってきている気がして。
小林:人によってJ-POPの概念が違うからね。
長屋:いろんなものを吸収して今のJ-POPが成り立っているし、すごく広いものなので。“J”をはずして、“POP(ポップ)”であることが大事なのかなと。
穴見:姿勢の問題だよね。(音楽を)届ける気持ちがあるかどうか。
peppe:そうだね。曲を作るときも、1コーラス分ができた時点で“これは広く届く曲になるか、そうじゃないのか”というジャッジをしてみるので。
長屋:そのうえでジャンルを付けるとしたら、J-POPがいちばんふさわしいのかなって。普段から、“よしJ-POPを作るぞ”と思っているわけではないので(笑)。
小林:たしかに(笑)。この前、ディレクターから「こういう曲を作ってほしいんだよね」ってレファレンス(※参考・参照の意)の楽曲を聴かされたんですよ。それは「マネしてほしい」ということではなくて、「緑黄色社会だったら、必ず“ヒネリ”を入れてくるから、絶対に同じようにはならない。だからあえて(参考楽曲を)提案している」と言われて。そのときに“たしかにそうだな”と思ったんですよね。ヒネリを加えたり、“一滴の毒”を入れたり…これはsumikaの片岡(健太)さんの言葉ですけど、それが自分たちにとってのJ-POPなのかなと。
──緑黄色社会はバンドなので、メンバー個々のセンスも存分に生かされていて。それも独特の“ヒネリ”に繋がっているのかもしれません。
長屋:アレンジによっても変わりますからね。私の場合、“この曲は地味だな”とか“地味だからいいな”と思っていた曲が、アレンジを加えることですごくポップになったりすることが多くて。
peppe:メンバー同士の共作もありますからね。私は作詞をしないので、そこは完全にお任せしていて。“こういうイメージで作った曲”というのはちゃんと伝えるけど、任せることも大事だと思っているんですよ。そこはすごく信頼しています。
──なるほど。改めて、皆さんのJ-POPの原点というと?
長屋:最初は大塚愛さん、いきものがかりさんですね。
小林:僕は小さい頃ダンスをやっていて、ヒップホップ、ジャズ、クラシックまでいろんな曲で踊っていたんです。だから、アーティスト単位というより、レッスンのときに聴いていた曲が蓄積されているんですよね。
穴見:小学生のときに偶然、亀田誠治さんがプロデュースした曲を好きになって。7歳のときに聴いた平井堅さんの「POP STAR」、小4のときにCMで知った東京事変の「閃光少女」が原点ですね。あとは、嵐。シングルのリード曲は全部いいんですけど、特に好きなのは「truth」かな。
peppe:私は、母がSMAP好きで、子供の頃に一緒にライブに行ったことがあって。あと、西野カナさんも大好きで、ほぼ全曲歌えますね(笑)。
──70年代、80年代あたりのものは?
穴見:めっちゃ聴きますよ。
長屋:家族がカラオケ好きで、子供の頃、母親が歌っている曲を聴いて“いいな”と思ったり。テレサ・テンさん、工藤静香さん、酒井法子さんとか。個人的には斉藤由貴さんが好きですね。
小林:70年代、80年代の名曲はどこかで聴いているから、いつの間にか知っているんですよね。いちばん好きなのは「木綿のハンカチーフ」です。松本隆さんの歌詞が本当に素晴らしくて。
長屋:わかるー。
peppe:私、母親の影響で80年代の洋楽をめっちゃ聴いていたんですよ。リック・アストリーとかTOTOとかa-haとか、車の中でずっと流れていたんですよね。
穴見:a-haいいよね。僕も親が洋楽しか聴かなかったので、その影響はかなりありますね。日本の曲は、Spotifyの“70年代昭和歌謡”のプレイリストを聴いています。尾崎紀世彦さん、青い三角定規とか、ユーミン(松任谷由実)さんとか。80年代だとオメガトライブとか、シティポップですね。山下達郎さん、竹内まりやさん、稲垣潤一さんなどもよく聴いています。
■生々しい歌詞と引き算したサウンド
──では、ニューシングル「LITMUS」についても聞かせてください。タイトル曲「LITMUS」は作詞が小林さん、作曲は小林さんと穴見さんの共作です。
小林:まず歌詞とメロディが同時にできて、それを真吾と一緒に精査して。「ここは繰り返したほうがいい」みたいな提案をもらって、さらに歌詞を書き直して……という感じですね。ドラマ(『緊急取調室』)の主題歌のお話をいただいてから制作に入ったんですけど、実は完パケまでに2週間しかなくて。
──おお! メジャーっぽいですね!
一同:あはは(笑)。
小林:スケジュールの中で“ここしかない”という日に曲を書いて、アレンジをして、それを身体に入れてレコーディングをして。かなり急ピッチな作業でした。
──長屋さんは「LITMUS」のデモを聴いて、どう思いました?
長屋:ふたり(小林、穴見)の感じもあるんですけど、“今まで聴いたことがないな。でも、かけ離れすぎてないな”と思いました。緑黄色社会の楽曲としてすぐに想像できたし、新鮮さと“らしさ”が両方あって。それはすごく大事なことだと思うんですよね、次に出す楽曲として。
小林:ドラマのテーマに沿って書いた曲ではあるんですけど、結果的にいい方向に進めたのかなと。アルバム『SINGALONG』のあとに「ずっとずっとずっと」「アーユーレディー」を配信で出したんですけど、「LITMUS」は全然違うタイプの曲なので。それと、“緑黄色社会として、人間の深い部分まで表現したい”という気持ちもあって。かなり生々しい歌詞が書けたと思います。
長屋:初めて聴いた人もスッと入っていけると思うし、伝えすぎていないところもいいなと。(リスナーが)考える余地があるからこそ、広く届くんじゃないかなって。
──peppeさんの鍵盤もポイントだと思います。長屋さんの歌に寄り添いつつ、楽曲が持つ憂いを際立たせていて。
peppe:タッチの繊細さには、これまで以上に気をつけました。制作のスパンが短かったので、曲を聴いて心を揺さぶられた部分、抉られた部分をどうやって音にするかだけを考えて。
長屋:もっと時間があったら、ヘンに手を加えていたかも。制作期間が短かったからこそ、“ここで最善を尽くそう”と思えたのが良かったんでしょうね。
穴見:それはあるね。「LITMUS」は、今まででいちばん、“引き算”を頑張ったんですよ。音数を抑えて、情報量を減らして。これは僕なりの言い方なんですけど、“曲が届く飛距離を伸ばすためには、情報量が少ないほうがいい”と思うんです。詰め込めば詰め込むほど重くなって飛ばないんじゃないかなって。実際、ベースもあまり動いていないし、ギターもシンプルなオクターブのフレーズが多いんですよ。それは作曲の時点から意識していましたね。
──音数を抑える傾向は、他の曲にも言えるんでしょうか?
穴見:そうかもしれないです。もともと僕らは“盛り盛り”バンドというか、音を足したいほうだったんですよ。
小林:最初の頃はそうでしたね。
長屋:“もったいない精神”というか(笑)、一曲に対して“あれもやりたい、これもやりたい”という感じになりがちで。そうすることで“他とは違うことをやっていると思われるかも”という気もしていて…。でも、だんだん“そうじゃないな”と思い始めたんですよね。一曲の中に詰め込むんじゃなくて、“このアイデアは別の曲でやればよくない?”って考えられるようになった。
小林:うん。今の時代って、音数を少なくして、一音一音をドンと出すミックスが多いじゃないですか。自分たちもある程度、それに準じているというか。リスナーの周波数と合わなくなるのは良くないし、僕自身も最新の曲を聴くことが多いから、そういう耳になっているところもあるんですよね。
──シンプルなサウンドメイクでも、しっかり個性が出せるはずという自信もできてきた?
穴見:自信というより覚悟ですね。楽曲もライブもそうですけど、覚悟を持ってストレートに表現したいという状態なんだと思います、今は。
■互いを尊重することで生まれる、メンバーの個性
──2曲目の「アーユーレディー」も詞は小林さんで、曲が小林さんと穴見さんの共作。緑黄色社会のポップな側面が強く出たアッパーチューンです。
小林:映画(『都会のトム&ソーヤ』)の主題歌なんですが、映画の題材の中でいちばん大事な言葉が“アーユーレディー”だったので、“ここから始めよう”という単純な思考です。明るい曲って、言葉(歌詞)が大事だと思っているんですよ。
穴見:説得力に繋がるからね。
小林:うん。“なぜ明るいのか”という理由がないと、曲として奥行きが出ないので。
──小林さん、穴見さんのいろんな想いや意図が込められた楽曲だと思いますが、歌うときはそのことを意識しているんですか?
長屋:彼らの気持ちに応えたいというより、まずは、自分の中にどう落とし込めるかですね。曲の中にはふたりのクセや特徴が出ているんだけど、歌ってみないとわからないし、自分のものにできるかどうかが大事なので。いったん自分が好きなように歌って…そうじゃないと、私が出せないと思うので。
小林:長屋自身も歌を作る人だし、こちらから細かくディレクションするのは違うのかなと思っていて。ある程度「メロディはこうなっていて」という説明はするけど、歌い方まで指示するのはお門違いというか。
──演奏やアレンジも同じスタンスですか?
長屋:そうです。私が作った曲についても、「こうして、ああして」とは言わない。そこに関してはお互い様かなと。
peppe:「こうして」って言われたことないよね?
穴見:ないね。みんな好き勝手にやってます(笑)。
長屋:意見を言いすぎると、個を失うことになると思うんですよ。言わないようにしようと心がけているわけではないけど、自然にそうなっていますね。
peppe:みんな、しっかり自分の色に染めてくるしね。
小林:ただ、僕はギタリストとしての素養がないので、真吾に「こういうフレーズがいいな」って言われますけどね。
穴見:え!? 言うっけ? テイクのジャッジとかではなくて?
小林:フレーズのことも言ってくれるよ。その意見には従順に従います(笑)。
長屋:(笑)。壱誓の色を出してほしいと思うときは言うかもね。いい意味でギタリストっぽくないフレーズを弾くので…。
──小林さんのギターのフレーズって、決まったスケール(音階)に頼らず、ちゃんとメロディになっていますよね。
長屋:そうそう。歌えるフレーズというか。それが素敵だなって思います。
穴見:俺もそっちのフレーズが好きですね。
──「アーユーレディー」に関しては、シンセの音がめちゃくちゃ効果的で。あれはアナログシンセですか?
peppe:そうです。DEEPMIND12というシンセをお勧めされて、すごく気に入ったので、買って。初めてレコーディングで使ったのが「アーユーレディー」だったんですよ。イメージどおりの音になって良かったです。
■表現する面白さと難しさ
──そして3曲目の「これからのこと、それからのこと」は、長屋さんの作詞・作曲による楽曲。爽快感たっぷりのポップチューンですが、迷いまくり、悩みまくったあと、未来に向かって一気に飛び立つみたいな歌詞が長屋さんらしいなと。
長屋:そうですよね。明るい曲を書くのは苦手なんですけど、“よし、書こう”と決めて作り始めて。結果、歌詞がヒネくれてしまったという感じです(笑)。
peppe:「これからのこと、それからのこと」は、私にとってもすごく好きな曲になっています。ライブで演奏するたびに“そうだよね!”って思うし、元気がもらえて。弾くたびにその気持ちが更新されていくんですよ。
小林:わかる。僕も大好きですね。
長屋:うれしいです(笑)。最近、“基本的に人間は一緒だな”と思うようになって。自分と深く向き合って表現すれば、きっと誰かに突き刺さると思うし、だからこそ歌詞には自分を投影したほうがいいなと。「これからのこと、それからのこと」は、ひと言で言えば“やけくそ感”かな(笑)。ピンチはチャンスじゃないけど、そういうときにこそ人間の魅力が発揮されるんじゃないかなって。
穴見:この曲を初めて聴いたときのことをすごく覚えてるんですよ。まったく違うタイアップ曲の制作をやっていた時期なんだけど、長屋がなかなか曲が書けなくて、「全然関係ない曲ができちゃった」という感じで送ってきたのがこの曲で。そのときの長屋の悔しさが伝わってきたし、“いいやん!”って思いましたね。
──今後もいろいろなオファーが続きそうですね。メンバーがやりたいことと、外から求められることのバランスが大事になってくるのかも。
小林:そうですね。やりたいことをやるためには、曲を作るしかなくて。スケジュールを見て、空いている日があると、どうしても遊びたくなるじゃないですか(笑)。でも、そこにはフタをして、真吾と曲を作ると約束するんです。そうしないと、やりたいことがやれないので。
穴見:結局、曲を作るのがいちばん楽しいんですよね。ゲームをやったり、どうでもいい話をしながらお酒を飲んだりもするけど、“いちばん楽しいのは曲を作ってる時間じゃない?”って思う。
peppe:私も作曲時間は作るようにしています。スケジュールにも“曲作り”って書いてますね(笑)。毎日何か予定があったほうがいいし、制作も続けたいので。
小林:もっと忙しくなっても大丈夫です(笑)。そのほうがいいかも?
長屋:私もそう思うんだけど、毎日がバンドだけの生活になると、それはそれで曲が書けなくなるんですよ…難しいですね、そこは(笑)。
プロフィール
緑黄色社会
リョクオウショクシャカイ/長屋晴子(Vo、Gu)、小林壱誓(Gu、Cho)、peppe(Key、Cho)、穴見真吾(ba、Cho)から成る愛知県出身の4人組バンド。愛称は“リョクシャカ”。
2012年に結成。2013年に『閃光ライオット』にて準優勝となり本格始動。2020年発表のアルバム『SINGALONG』がiTunes総合・J-POP、Apple Music J-POPの各ランキングで1位を獲得、リード曲「Mela!」はストリーミング・MV等の総再生回数が1億回を突破。多くの人気を獲得する。2021年2月にはテレビアニメ『半妖の夜叉姫』1月クールエンディングテーマ「結証」や報道番組『サタデーステーション』『サンデーステーション』(テレビ朝日系)共通オープニングテーマ「LADYBUG」などを収録した3rdシングル「結証」、3月には『第93回センバツ MBS公式ソング』に起用された「たとえたとえ」、6月には長屋がTV-CM初出演を果たした『アサヒスーパードライ ザ・クール』CMソング「ずっとずっとずっと」を配信リリース。5月より緑黄色社会初の全国9都市でのホールツアー「リョクシャ化計画2021」を開催した。
リリース情報
2021.08.25 ON SALE
SINGLE「LITMUS」
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