■「ここに集まっている皆さんと僕とで一生に残る思い出作りましょうよ!」(高橋優)
高橋優が主催する地元密着型フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』が3年ぶりに開催された。
秋田の夏の締めくくりにして秋を告げるイベントが帰ってきた。この時を待ちわびた人々の心にすっかり定着した『秋田CARAVAN MUSIC FES』も今年で5回目となる。
このフェスの最大の特徴は、毎回会場が異なるということ。秋田県内にある13の市を巡って開催されることから『秋田CARAVAN MUSIC FES』と名づけられた。
今回会場となったのは、北秋田市・大館能代空港周辺ふれあい緑地。自然豊かなロケーションが心地よい。
■9月17日(土)
北秋田市の津谷永光市長の開会宣言に続いて『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』で最初に音を出すのは、高橋優。会場に来てくれた人たちに弾き語りで1曲届けるのが恒例となっている。高橋が選んだのは、「ありがとう」。ステージと観客エリアの心の距離がグッと近づいたのが感じられた。
「それでは3年ぶりに『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』はじまるよー!」
このフェスには秋田県の南北それぞれに位置する山脈の名称を冠した2つのステージがあり、白神STAGEのトップアクトとして登場したのは川崎鷹也。高橋優の「少年であれ」が、東京に出て音楽をやるべきかどうか迷っていた自分を奮い立たせてくれたとMCで語った川崎鷹也。「音楽業界に引きずり込んでくれた高橋優くんに最大の愛とリスペクトを込めて」と言って始めたのが大ヒットナンバー「魔法の絨毯」だった。
「またね、ヒーロー」「愛の灯」など、彼の歌はどれだけ多くの人がいる会場でも“1対1”で確実に届く。それを証明したステージだった。
鳥海STAGEは音楽を武器に笑わせる芸人さんをはじめ、バラエティ豊かな出演者が特色のステージだ。YouTuberとしても活躍するミュージシャン、ずま(虹色侍)は、その場でもらったお題から即興でオリジナル曲を作って披露するというスタイルが特徴だ。シティポップ風「東北新幹線」、ボサノヴァ風「羽を休めるトンボ」など。最後は「ババヘラアイス」をバラードで披露し、会場を盛り上げた。
「ちっぽけな勇気」から始まったFUNKY MONKEY BΛBY’Sのライブはエネルギッシュに会場をひとつにしていった。歌とラップと語りと叫びで、心のうちに湧き上がったエモーションを一塊にして放っていく彼らの音楽は、フェスという場がよく似合う。「東北の空の下で歌えることをうれしく思っています。心の中の歌もしっかりと聴こえてるよ」とファンキー加藤が言って披露したのは、「あとひとつ」。ラストの「悲しみなんて笑いとばせ」ではタオルの花が咲き乱れ、高橋優と川崎鷹也がステージに乱入。フェスらしく、ファンモンらしく、ベストなセットリストで駆け抜けた。
真っ赤なドレスで鳥海STAGEに登場したのは青森県出身のりんごちゃん。「ff」(HOUND DOG)など昭和のフェス感満載の様相を呈していくなか、新ネタの「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」(桑田佳祐)に続いて「RYUSEI」(三代目J SOUL BROTHERS)に乗せてものまねメドレーを披露して果汁(汗)いっぱいのステージを締めた。
地元・京都で『京都音楽博覧会』という音楽フェスティバルを主催しているくるりは『秋田CARAVAN MUSIC FES』初出演。アーティスト同士はもちろん、ローカルフェス同士の交流というものにも日本のフェス文化の成熟が窺える。現在のくるりを語る上で外せない曲「琥珀色の街、上海蟹の朝」から、初期のくるりを代表する曲「ばらの花」へのシームレスな繋がりにバンドの歩みの確かさとフェスなどで幾多のバンドと渡り合ってきた圧倒的な実力を感じた。「奥羽本線がずっと止まっているので(鷹ノ巣〜大館間18.0kmで、この会場の近くを通っている)、早く復旧すればいいなと車から見ながら思っていました」という岸田のMCからの「ハイウェイ」はしびれた。西日の照る中での「太陽のブルース」、北秋田市に響く「東京」、そうした奇跡としか思えないような瞬間を通過しての「ロックンロール」。素晴らしい音楽を目の前で当たり前に楽しめる日々が少しずつ戻りつつあることを実感できた。
どぶろっくの挨拶代わりの1曲は「魅惑のパンティライン」だ。「1回目に出演させていただいて、その後にキングオブコントで優勝しました。このフェスのおかげです」ということで代表曲の「もしかしてだけど」で恩返し。ムッツリ&ガッツリでスケベを丸出しにしたステージは、なぜか清々しさすらあった。
ヘッドライナーを務めるのはもちろん高橋 優。ピアノソロから一転、激しいバンドサウンドで一気に沸点に到達する「STARTING OVER」から始まった。3年ぶりのこのフェスに、そしていろいろとありすぎてへばり気味の世の中に対してもぴったりな曲だ。またここから始めればいいのだと。「いろいろ言いたいことはあったけど、曲で伝えたいと思います。この景色を想像しながら書いた曲です」というMCから今年2月にリリースしたシングル「HIGH FIVE」へ。イントロの印象的なシンガロングにマスクをしたオーディエンスのクラップが合わさる光景が胸を打つ。
「風が吹くとこれはどこからきた風なんだろうと考えて、勝手にいろんな人の顔を浮かべる」と言ってパフォーマンスしたのは「勿忘草」。これが初披露となる新曲だ。例えば遠く離れたところから誰かを想う瞬間や、ふと何かのきっかけで思い出した誰かのことなど、日々生きている中で芽生える大切な人への気持ちを繋がりとして描いている。まさに1年に1回開催される『秋田CARAVAN MUSIC FES』への想いも滲む。「BE RIGHT」「太陽と花」で盛り上げたあと、続いて披露したのは「虹」。このフェスのアンセムのひとつと言ってもいい曲だ。ラストは「明日はきっといい日になる」「Piece」で未来への道筋をオーディエンスと確かめった。
「高橋優のステージとしてはここで終わりなんですけど、3年ぶりの開催ということで『秋田CARAVAN MUSIC FES』のテーマソングを書かせていただいたんです。ここにいる皆さんと一緒に踊って最高のフィナーレを迎えませんか!」
音頭、ケルト、フォルクローレなどの要素をごった煮したお祭りソング「秋田の行事」で会場は遅れてきた盆踊り状態に突入。3年ぶりの『秋田CARAVAN MUSIC FES』初日、熱狂のまま幕を閉じた。
■9月18日(日)
3年ぶりの開催となった高橋優が主催する地域密着型フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』、2日目も昨日に続き青空がのぞくフェス日和に恵まれた。開場中の会場内には秋田民謡が流れ、それが地元のお祭り感を盛り上げる。今年会場となった北秋田市の津谷栄光市長の開会宣言に続いて、高橋優による「one stroke」の弾き語りでスタートした。
メインステージとなる白神STAGEとバラエティ豊かな出演者がパフォーマンスする鳥海STAGEの交互で繰り広げられる『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』、2日目全体のトップで登場したのは男性ボーカルユニットのC&K。DJにダンサー、ピアノを加えた編成でいきなりトップギアのパフォーマンスで会場をぶち上げる。一転、MC明けにはピアノと打ち込みのリズムに乗せてバラードの「Y」「嗚呼、麗しき人生」でしっとりとした雰囲気を作る。さすがライブ巧者の彼ら、「日本全国地元化計画という僕たちの野望がある」というのもうなずける。タオルの産地として有名な愛媛県今治と繋がったレゲエビートの「I.M.A」、ニューヨークとかけたスカビートの「入浴」など、“地元”を意識した『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』仕様のセットリストで会場を大いに盛り上げた。
「オリジナリティ」「アホウドリ」のオリジナル曲で表現力豊かな歌声と運動神経の良さを感じさせる音楽性を見せつけた松浦航大。次に披露したのは、彼の存在を一躍有名にしたものまねのメドレー。「シーソーゲーム」(桜井和寿/Mr.Children)、「瞳を閉じて」(平井 堅)、「奏(かなで)」(大橋卓弥/スキマスイッチ)など、J-POP男性シンガーの特徴を的確に捉えて歌唱できるのも、彼の音楽的センスゆえだろう。最後は「七色」で彼の歌声を届けた。
「9月中旬の秋田ということで、衣装を選んできたんですけど……暑い!」と矢井田瞳。1曲目「Look Back Again」に続いて披露したのは「Ring my bell」。アーシーで心地よいグルーヴは矢井田瞳のロック/ポップスの真骨頂だ。続く「駒沢公園」は9月7日にリリースしたばかりのアルバム「オールライト」に収録されているナンバーで、未来を担う子供たちに寄せた想いを綴ったもの。確かに日差しは暑いが、会場を吹き抜ける風はどこか気持ちいい。そんな風のように心の奥にある大切なものに気づかせてくれる曲だ。「My Sweet Darlin’」ではアコギを外してハンドマイクに持ち替え、ステージの左右いっぱいに動きながらパフォ―マンス。ラストは最新アルバムから「さらりさら」。“聴かせて あなたの声”――この歌のメッセージが3年ぶりに開催された『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』へ届けられたものに感じられた。
センターマイク1本だけがそそり立つ鳥海STAEGEに登場したのはトータルテンボス。披露したのはもちろん漫才だ。ボケて突っ込んだあとに、笑いではなく拍手が起こる今のフェスならではの空間のなかをものともせず、ゆったりした間のボケを繰り広げる。“チャイルドランチフラッガー” “オンリーワンレッドポインター” “ファイナルジャッジメント”……、この日、彼らがクリエイトした職業は、どこか響きが音楽的だった。
「ついに来たね。この言葉の意味を噛みしめたい。すべてのものに感謝したくなるね」の言葉どおり、ここまで自分を運んできてくれた飛行機や車、天候、イベント関係者、そしてここに集まったオーディエンスに「ありがとう」を述べてKREVAのステージが始まった。“やっとあえたな…”のリリックが突き刺さる。1曲目は「Finally」だ。転換中の通り雨に濡れた会場に「基準〜2019 Ver.〜」「ストロングスタイル〜2019 Ver.〜」と言葉の雨を降らしていく。「ここからの3曲は日々を生きる皆さんを元気づける歌」と言って「人生」「ひとりじゃないのよ feat. SONOMI」「アグレッシ部〜2019 Ver.〜」を立て続けに披露。
オーディエンスも声を出せないなか、“手で歌って”応える。「本当に後ろまでみんな手が揃ってる。今このフェスはひとつになってると思います」。「音色〜2019 Ver.〜」の言葉とメロディが秋田の風に溶けて、それをオーディエンスが吸い込んで吐いて、最高のライブだった。
『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』と共にCOWCOWも3年ぶりに登場。もはや鳥海STAGEの主と言っても過言ではない彼ら。「女子バレーボール部のあいさつ」ネタを一緒にやるオーディエンスも。その輪が広がって会場のほとんどの人たちが「ダサい男はブロック!」で手を挙げて飛ぶというマジックが起きる。思わず「これはやりやすい。秋田に住もうかな」と多田。予定にないネタも飛び出し、来年の出場も濃厚だ。
この日のライブは「パイオニア」から始まった。続く2曲目「虹」といい、『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』における高橋 優のセットリストには、明確な意志がある。それは――大袈裟でも何でもなく――秋田に生きる人たちの心に火を灯し、明日の糧になる歌を届けるということだ。そもそもこのフェスを開催していること自体がそうなのだが、当日も主催者として運営面にも気を配り、他の出演者のステージを最初から最後まで袖で観ている彼の姿がある。この2日間、高橋 優のすべては秋田に注がれる。
「ここに集まっている皆さんと僕とで一生に残る思い出作りましょうよ!」このフェスのテーマソングとして書き下ろした「秋田の行事」だ。1日目は最後に披露した曲を、2日目はここで投入。次に披露したのは、9月21日に配信リリースされる新曲「勿忘草」。すっかり日の落ちた会場に優しくも切ないメロディが、頬に残った熱をそっと撫でる風のように吹き抜けていく。これから時間をかけてリスナー一人ひとりの心の中で育んでいく大切な曲になりそうな予感がした。
「象」「こどものうた」「太陽と花」でアジテーションしまくり、「明日はきっといい日になる」で優しく元気づける。どちらの姿にも秋田への同じ愛を感じた。10月5日にリリースされる8thアルバム『ReLOVE & RePEACE』に収録される「Piece」に続いて、「栄光時代、青春時代はいつですか? って言われたら、自信を持って“今です”って言いたい」と始めたのは「HIGH FIVE」。『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』のあらたなアンセムだ。イントロや曲間のシンガロングを来年こそは全員で、大声で歌いたい。今は思い切りクラップで、今できる最大限で。また来年――。想いは繋がった。その前に、「12月からは僕から皆さんに会いに行きます」と新たな全国ツアーが発表された。来年の『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』に向けた道のりが見えた。
TEXT BY 谷岡正浩
PHOTO BY 新保勇樹
リリース情報
2022.09.07 ON SALE
DIGITAL SINGLE「秋田の行事(feat.柳葉敏郎, 藤あや子, 佐々木希 & 秋田県人会)」
2022.10.05 ON SALE
ALBUM『ReLOVE & RePEACE』
『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』特設サイト
http://www.acmf.jp/2022/
高橋 優 OFFICIAL SITE
https://www.takahashiyu.com/