■「こんなにずっと笑ってたライブは初めて」(かしゆか)
「男子〜! 握りこぶし」「女子〜! 手のひら」というあ〜ちゃんの元気な呼びかけ、かしゆかとのっちのご機嫌な「Yeah! 」が会場に響きわたった。「声が出せない代わりに」と3人が編み出したポーズを真似て、静かに、でも、力一杯応える観客。そんなコール&レスポンスでも絆が確かめ合えることを祝うように、熱く、長い拍手がさんざめいた。その音をしばらく浴びるに任せていた3人。「やっぱり本物は違うね」と頬を紅潮させ、ハグのポーズをしながら、半べそくしゃくしゃの笑顔だ。未曾有の困難な時代に、Perfumeも観客もそれぞれの思いでこの日を待ち焦がれていたはず。お互いを思い、讃え、慈しむ、本当にあたたかい場面だった。
Perfumeの約1年半ぶりとなったリアルライブPerfume LIVE 2021 [polygon wave]が、8月14日・15日、ぴあアリーナMMで行われた。新曲「ポリゴンウェイヴ」(Amazon Original番組『ザ・マスクド・シンガー』のテーマソング)が7月に配信開始となり、メジャーデビュー17年目のスタートとなる9月22日には、7曲入りの『ポリゴンウェイヴEP』もリリースされる。にわかに活気づいてきたPerfumeにとって、「次」への意思表明となる大事な2daysでもあった。
徹底した感染予防対策のもと、着席で1万人のところを5千人にしての開催。それを逆手にとるように、アリーナ全体をステージにしていている。観客はU字型に設計された2階、3階、4階席から、ちょうど競技場のフィールドを見下ろすようなカタチだ。通常仕様のエンドステージもなく、ラップトップPCを90度に開いたように、観客から見ていちばん奥に大きなスクリーンパネルが立ち、そこから水平部分が縦長のアリーナに長く伸びている。マットな黒い板というイメージの非常に大きなステージ。縁を囲むようにジグザグの花道やライトタワーはあるものの、ステージから突出するセットやオブジェは見当たらない。つまり、パッと見何もない世界だ。
客電が落ち「システムリブート」と名づけられたオープニング、文字どおり「再起動」されるようにPerfumeのアイコンが現れた。同時にアリーナの様々な向きの光が目覚め、乱反射する不思議な空間に。気づけばアイコンから生命体へと変容を遂げた3人が、ステージの3方に立っていた。「……君と僕 そっちとこっち こっちとそっち……」。禅問答のようなナレーションに気を取られていると、パンとその思考を遮断するように「不自然なガール」が始まり、一気にPerfumeワールドへ。
ここで特筆すべきは、カラフルなパネルを持った何人もの黒子ダンサーが現れたこと。Perfumeのデビュー時からずっと演出・振付を手がけているMIKIKOは、ドーム級のステージでさえ3人だけで見せることにこだわってきた。本人たちもそこを誇りにしてきたはず。3人以外の存在の登場は、だから、実に大きな変化なのだ。黒子という匿名的な存在のまま今回の世界観に寄り添う振付を完璧に踊るのは、MIKIKO氏率いるダンスカンパニー、ELEVEN PLAYの面々。これまでも見えないところでPerfumeのステージを支えていた人たちだ。ふと、人力、共有、共生といった言葉が浮かんだ。
もちろん、何もない世界はいつものように、ライゾマティクスをはじめとしたチームPerfumeが緻密に仕込んだLEDやマッピング、そしてムービングライトやレーザーで鮮やかに彩られている。「Future Pop」ではアルバムのジャケットが無数の光の糸で再現されたり、「TOKYO GIRL」では未来都市の超高層ビルの屋上で歌ったり。が、そのステージにはつねに3人がいる。大がかりな可動性リフターも、ポップアップのような機構も、バーチャルとリアルの見分けがつかないギミックもなく、自分の意思と体で動くPerfumeがずっとステージにいる。貫かれていたのは、生身の3人のパフォーマンスに観客の視線を集めるという見せ方だ。デジタルと親和性の高いPerfumeだが、実はこれまでもその手法と対極にある人間くささにフォーカスしてきた。今回はさらに、よりヒューマンな部分に表現手法からも目を向けてみたのではないだろうか。
その象徴と感じたのが、中盤「マカロニ」からの流れだ。アイドル風の白いスタンドマイクで歌う姿をセピア色のライトが照らし、その表情がレトロな雰囲気で映し出される。いつしか強い光が射し、ステージに3人のシルエットが伸び始めた。光源は複雑に交差し、影は前にも後ろにも。やがて3人が去ってもその影だけが意思を持ったように残る。まるで影に支配された世界。黒子のELEVEN PLAYも加わり、声が奪われた世界で自らの存在を問うというまさにコロナ禍の現状が、声なきミュージカル風に描かれていく。ステージの3方には黒いマントを着た3人が現れ、不穏な空気を撃破するようにソロダンス。そして、「私は私になってゆく。今それを届ける」というナレーション。続いたのは「ポリゴンウェイヴ」だ。
ステージには、光の線で編まれた碁盤の目と、自動で動くポリゴン(多角形)のオブジェ(実はELEVEN PLAYの面々が人力で操作)が出現。その動きと3人のダンスと歪み動く光の線で目が錯覚を起こし、なんとも言えない浮遊感。心地いい4つ打ちのリズムに身を任すうち、「多角形の波動」で心のささくれがスーッと治っていくような気がした。続く「無限未来」の白い光の世界にはもう「希望」という言葉しか浮かんでこない。そして、カラフルなレーザーで埋め尽くされた「GLITTER」に至ったとき、あ、この中盤からの流れは、コロナ禍から未来へ我々が目指すべきストーリーだったのか! と、感動が止まらなくなった。「また必ず光は射す。輝く世界を取り戻すんだ」というPerfumeの強い意思に勇気づけられる思いがした。
後半「ポリリズム」など人気アッパー曲を一気に駆け抜けた3人は、こう思いの丈を語った。「こんなにずっと笑ってたライブは初めて。すごくうれしかった!」(かしゆか)。「人生のなかで忘れられない大事な1日になりました!」(のっち)。「ずっと一喜一憂してたけど、これが決まったら魂がドンときて、自分がキラキラしていきました。ライブは生きがいです!」(あ〜ちゃん)。その幸せを噛み締めるように、「MY COLOR」では観客みんなと手でできる振付を楽しんだ。
ラストは未発表の新曲。大小いくつものミラーボールが一斉に輝き出す。正確ではないかもしれないが、“僕はただ廻る鏡 だいじょうぶ 君が背中を押すからステージに立つの”というような歌詞がすごく印象的だった。小さなポリゴンの鏡の集合体であるミラーボールになぞらえて、応援という光をくれる人たちに感謝を伝えている。そんなふうに思えたのだ。PerfumeのPをもじった『Perfume LIVE 2021[polygon wave]』のロゴがミラーボールみたいだったのは、だからかも! と、なんだかうれしく腑に落ちた。
登場時と反対に今度はPC画面に帰っていく3人。「私たちは夢の中 君と僕 そっちとこっち こっちとそっち 一緒に」と、あの禅問答のようなナレーションがまた響く。人と人の距離を求められる時代だからこそ、せめてライブという夢の中では、お互い分け隔てなく近くで感じ合いたい。手法も含めて今回Perfumeが示した“新時代のライブ”の根底には、人と人とを繋ぐ、シンプルで、でも、忘れてはいけない思いが息づいていた気がする。
秋からは全国5ヵ所の「Reframe」ツアーもスタート。今回のライブがプロトタイプとなるのか、あるいは全然別次元のプレゼンテーションとなるのか、楽しみにしていたい。
TEXT BY 藤井美保
PHOTO BY 上山陽介、木村泰之
<『Perfume LIVE 2021 [polygon wave]』2021年8月14・15日 ぴあアリーナMM セットリスト>
OP. システムリブート
01. 不自然なガール
02. Pick Me Up
03. 再生
04. Future Pop
05. TOKYO GIRL
06. I still love U
07. マカロニ
08. ポリゴンウェイヴ
09. 無限未来
10. GLITTER
11. FAKE IT
12. ポリリズム
13. Time Warp
14. Miracle Worker
15. MY COLOR
16. 新曲(未発表)
※ワンマンライブ『Perfume LIVE 2021 [polygon wave]』のライブ映像は、12月にAmazon Prime Videoで配信を予定。詳細は後日発表。
リリース情報
2021.09.22 ON SALE
EP『ポリゴンウェイヴ EP』
Perfume OFFICIAL SITE
https://www.perfume-web.jp/