TEXT BY 除川哲朗
■まさに両A面と言えるゴールデン・カップリング
『ナイアガラ・トライアングルVol.2』40周年記念企画~夏の陣~とでも言うべき、カラダにハートにジンとくる8月3日のスペシャル・トライアングル・リリース。まずは、新たにオリジナル・マスターからリマスターされた22年版最新音源による本アルバムのSACD。シリアル・ナンバー入り銀縁ジャケットとヴィンテージ感漂うハイエンド仕様で、オーディオ・マニア含めた納涼垂涎アイテムとなるだろう。が、それにも増して広くポップス・ファンを唸らせること必至なのが限定7インチ・シングルの2タイトル、「A面で恋をして/イエロー・サブマリン音頭(特別変)」と「夢で逢えたら/FUN×4」。まさに両A面と言えるゴールデン・カップリング2題である。
ところで、昨今のアナログ・レコード復興現象は止まらないどころか、もはや定着してしまったような感がある。それこそ一過性のブームではない確立された文化として再認識されている証しだろう。お目当てのレコードを掘り当てて、ターンテーブルに乗せ針を落とすという行為。60年代ラジオの時代から90年代クラブ・カルチャーに至るまでの間に、裏返したり擦ったりする所作から分岐した流派も様々。どこかしら茶の湯に通じるようなところさえ無きにしにもあらずで奥が深い。そして、その総本山のひとつと言えるのが大滝詠一のナイアガラ・レーベルである。70年代作品のほとんどを送り出した自身のスタジオ“FUSSA 45”の壁一面を45回転ドーナッツ盤=7インチ・シングル群で飾っていたのは、アルバム『ナイアガラ・ムーン』裏ジャケットで披露されている通り。ラジオ番組「ゴー・ゴー・ナイアガラ」もそのスタジオでの完パケを放送局に届けるかたちで制作され、DJ=ディスク・ジョッキーとしてのスタイルは映画『アメリカン・グラフィティ』のウルフマン・ジャック辺りを多分にイメージさせていた。
■40年前も今も同じトキメキを世代を超えて呼び起こす
といったことも念頭に今一度、大滝自身も妄想したというカップリングの「A面で恋をして/イエロー・サブマリン音頭」。当時大ヒットした「A面で恋をして」はタイトルからしてジューク・ボックス・ドリームを掻き立てる甘美な呪文であり、40年前も今も同じトキメキを世代を超えて呼び起こす永遠のアンセムであり続けている。もはやオールディーズ・バット・グッディーズ・チューンにしてバック・トゥ・ザ・フューチャー・ポップスとも呼べるかもしれない。
裏を返すと、ビートルズの「イエロー・サブマリン」を音頭でカヴァーした実に奇想天外、大胆不敵なアイデア。しかしこれが単なる“おふざけ”でないのは、賞味した原作者ポール・マッカートニーがお墨付きを与えていることからも明らか。ふんだんに趣向を凝らしたキャスティングへの拘りが半端ない。クレイジー・キャッツの正調オッペケ魂が隅々まで注入された編曲は、大滝が師と仰ぐ萩原哲晶。コブシ全開で民謡歌手の本領を発揮している金沢明子は、「ナイアガラ音頭」でも三味線を弾いていた本條秀太郎の弟子筋である。訳詞はリンゴ・スターと同じラディックのドラムを叩いている松本隆。杉真理・佐野元春・伊藤銀次のナイアガラ・トライアングル組カメオ出演も見逃せない。
もう1枚は透明ヴィニール仕様の「夢で逢えたら/FUN×4」。『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」(1976~2018)』(18年)に90曲以上のヴァージョンが収められているほど幾多のカヴァーが存在する「夢で逢えたら」は、ナイアガラのみならず日本ポップス史を代表するスタンダード・ナンバーだ。その本人歌唱ヴァージョンが待望の7インチ・カットを果たし、新鋭・松本優作監督の映画『ぜんぶ、ボクのせい』のエンディング・テーマとして結末を飾るという。さらに同監督は、主演の若手2人を再共演させて新たにミュージック・ビデオを撮り下ろすほどの熱の入れよう。確実に受け継がれ、聴き継がれているエピソードで微笑ましい。
「FUN×4」は現在、「麒麟・発酵レモンサワー」のCMソングとしてオンエアされている『ロング・バケイション』からのジョイフル・チューン。こちらは『ロンバケ』40周年記念コラボ企画として江口寿史が描き下ろしたイラストが裏ジャケットに使用されている。そう言えば3月に公開された「A面で恋をして」のミュージック・ビデオでも、江口のイラストや漫画「ストップ!!ひばりくん!」のキャラクターがフィーチャーされていたから、大滝×江口の組み合わせもだいぶ定着してきたのでは。
■45回転で廻る大滝詠一の楽曲が呼び込んだ、幸せの無限ループ
45回転で廻る大滝詠一の楽曲が呼び込んだ映画、イラスト、漫画、等々。そこから広がるインスピレーションがまた素敵な光景に繋げていってくれる幸せの無限ループ。そんな珠玉のドーナッツ盤2枚に誘われる真夏の昼の夢をずっと見ていたい。
とかなんとか言っているうちにシングル2枚共、発売直後から即完売のショップが続出中とのこと。しかも「夢で逢えたら」は、オリコンシングル・デイリーランキング(8月2日付)でなんと10位を記録!旧譜・ドーナッツ盤という形態では類を見ない(他には唯一、山下達郎「クリスマス・イブ」ぐらいか)、異例のTOP10入りを果たしている。「A面で恋をして」の方も12位に着ける快挙で、これすなわち前述した通り、大滝詠一作品こそアナログ・レコード・ルネッサンスの総本山たる所以であり、時を超えて不滅の人気を誇っていることの証しだろう。ここはしたり顔で、エルヴィスならぬNIAGARA,forever…と呟かざるを得ない。
リリース情報
2022.08.03 ON SALE
SINGLE「A面で恋をして」【7インチ・アナログレコード】
2022.08.03 ON SALE
SINGLE「夢で逢えたら」【7インチ・アナログレコード】
2022.08.03 ON SALE
ALBUM『NIAGARA TRIANGLE Vol.2 40th Anniversary Edition』【Super Audio CD】
大滝詠一 OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/