4月に発売されたカミラ・カベロのアルバム『ファミリア』は、3作連続となる全米アルバム・チャートTOP10入りを果たし、世界で10億回以上再生されるなど大ヒットになっている。そのアルバムに先駆け3月にリリースされた「バン・バン feat. エド・シーラン」も、すでに全世界で3億回再生を突破し、日本でも、上半期全国ラジオ洋楽チャート1位、全国ラジオ洋楽チャート6週連続1位、USEN洋楽チャート1位、を獲得するなど大きな注目を集め、ロングヒット中だ。
特に各ラジオステーションが積極的に長期間に渡ってオンエアし、ロングヒットの要因のひとつになっている。中でもZIP-FMでは4月だけで約60回もオンエアし、特に人気番組『SWEET VOX』(月~木14時~)では毎日オンエアするなど、同局ではこれまでになかった規模の、まさにスーパーヘビーローテーション状態だった。同番組の制作スタッフである伊藤友介氏と、さらにblock.fmの人気番組『TCY Radio』でパーソナリティを務め、世界中の最新チューンをいち早くオンエアし、クラブDJとしても大人気で、トップキュレーターとしてヒットの発信源的存在のTJO氏にインタビューし、同曲の魅力を改めて深堀りしたい。
INTERVIEW & TEXT BY 田中久勝
■洋楽で57回というのは最近では稀にみる数字
──まずZIP-FMでは「バン・バン feat. エド・シーラン」を4月だけで57回もオンエアし、まさに“鬼のように”流しまくったとお聞きしました。まずこの数字というのは同局の中でも異常な回数なのでしょうか?
伊藤友介(以下、伊藤):僕が担当している『SWEET VOX』という番組は、月曜日から木曜日の14時から3時間の枠で、4月に関しては4曜日で各1回ずつはオンエアしたので、他の枠でも流れていて、57回という数字になりました。最近はヒット曲のサイクルが早いということもあって、なかなかそこまでの数字にはならない。でも我々は洋楽を積極的に流すステーションなので、最近の洋楽ヒットの中ではかなりかかったほうだと認識しています。
──データによるとこの曲に関して4月のオンエア回数は、ZIP-FMさんが全国でも突出していたようです。
伊藤:邦楽のヒット曲だと50回を越える曲もあると思います。もちろん各局いろいろな施策があって回るという部分はあります。ただ洋楽で57回というのは最近では稀にみる数字だと思います。『SWEET VOX』が、ZIPの中でもいちばん最初にかけたと思っていますが、リスナーさんからのリクエストもすごく来ました。リクエストはどうしても邦楽が多くなりますが、その中でこの曲は例外でした。
──この曲のどこがいちばんの魅力なのでしょうか。
伊藤:番組が3時間という長丁場なので、この曲のラテンのリズムに軽快なギターの感じの構成が、番組の中で流れを作っていくうえで、ちょっと音で雰囲気変えたいなと思ったときにこの曲のインパクトが、大きなアクセントになりました。ガラッと空気を変えてくれるというか、それでヘビープレイに繋がった部分でもあるし、この曲の魅力でもあると思っています。
■フルで聴いてもらって、最後の高揚感までを感じてもらいたい
──TJOさんはblock.fm『TCY Radio』でパーソナリティを務め、またDJとして大活躍していますが、クラブやイベントでもこの曲を度々流したと思います。この曲のサウンドプロダクションを含めての魅力を、どう分析しているのでしょうか。
TJO:僕はふだんDJをやっていますが、クラブで盛り上がる、ローなキックが鳴るようなトラップやビートが強い曲ではなく、どちらかというとピュアなラテンミュージックに仕上がっていて。イントロからギターがメインで、ちょっとピアノが入ってシンプルなスタートでカミラの歌が始まって、そしてエドの歌が続いて、デュオになって、コーラスとホーンセクションもどんどん加わって、一気に音に厚みが増して、ラストの高揚感たるや…って感じです。DJって曲をわりとワンコーラスで切り変えたりするので、DJがあまり言うことではないかもしれないですが(笑)、この曲は本当にフルで聴いてもらって、最後の高揚感までを感じてもらいたいです。
──確かにまさにクライマックスという感じですごい盛り上がり方になっています。
TJO:最後はもうミュージカル映画みたいです。僕は個人的に、最近、リン=マニュエル・ミランダが作る楽曲がすごく好きで、『イン・ザ・ハイツ』とかディズニーの『ミラベルと魔法だらけの家』もそうなんですが、ミュージカル映画もラテンで盛り上がっている作品が多くて。やっぱりあの歌い回しとかコード感からくる、後半に向けての高揚感というのは、聴いていて聴き応えがあります。
──後半の高揚感がすごいということですが、逆にラジオ的にはかけづらいということはないのでしょうか。
伊藤:他のラジオ番組はわからないのですが、基本的にうちはフル尺でOAしているのでまさにTJOさんがおっしゃった通り、後半にかけての高揚感、ミュージカルライクな盛り上がりの部分も、流れとしては取り入れやすかったです。
TJO:block.fmも、週末はクラブに行く人も平日は仕事が忙しくて、音楽に触れる時間もないという人のために、いつもダンスミュージックを流す場所で、で、また週末クラブに足を運んでほしい、そんなポリシーが存在します。サブスクで音楽を聴く人も増えているし、TikTokの流行で、短い曲が流行って、よりポップなダンスミュージックが増えてきましたが、そういう曲ももちろんかけつつも、1曲7分あるような長い曲もフル尺流します。インストナンバーでもかっこいいものがあればどんどん流しています。
伊藤:実はTJOさんの『TCY Radio』の大ファンで(笑)、特にデイジー・ラスカルを使ったオープニングジングルが大好きで、自分でもジングルを作っているので、こういうのを作りたいなっていつも思っていました。なので、block.fmのプログラムはよく聴かせてもらって、こっそりリサーチさせてもらっています(笑)。今日は実はとても緊張しています。
TJO:ありがとうございます。とてもうれしいです!
──カミラ・カベロとエド・シーランのコラボは2回目ですが、やはりビッグネーム同士のコラボということでも大きな注目を集めました。
TJO:エドも最近ラテンアーティストとのコラボがすごく多くて、もちろんカミラはエド・シーランとコラボすることで、ポップチャートにアプローチするという狙いもあったのかもしれませんが、エドのラテン層への信頼度が増している感じがします。
■(曲を流すときは)歌詞・言葉をすごく重要視
──この曲もそうですが、アルバム『ファミリア』は等身大というか、自分が大切にしている人やもののことをリアルに歌っています。
TJO:調べてみると、もともとこのアルバムを作るとき彼女はメンタルが最悪な状態で、そこから抜け出すためにアルバム作ったそうです。彼女のアルバムは3枚出ていて、一枚目の『カミラ』は自分自身のこと、2nd『ロマンス』は恋愛について歌って、3rdの『ファミリア』は、タイトル通り家族愛をテーマにしています。家族や友人、恋人、ファンに捧げた作品であり、この曲は人生のアップダウンも受け入れて、“人生そんなもんよ、でも前向いて頑張っていかなきゃ”ってポジティブさが前面に出ています。「バン・バン feat. エド・シーラン」は、このアルバムの中でいちばんわかりやすい楽曲だと思います。
伊藤:人それぞれだとは思いますが、個人的には曲を流すときはその歌詞、メッセージは結構気にしています。リスナーにはどこまで届いているのかはわかりませんが、例えば3時間のプログラムの中で、この時間はちょっとポジティブな歌詞のものをかける時間にしようと、そういう時間帯を作ったりもするので、歌詞・言葉に関してはすごく重要視しています。
TJO:あと、個人的に面白いなと思ったのが、この曲はイントロからそうですけど、すごくラテンなアルバムだなと思って聴いていたら、カミラは「ラテンを意識して作っていなかった」って言っていて。ポップアルバムを作ろうとしていたけど、今回のプロデューサーのエドガー・バレラに、「感じるままに作ってみたら」という言葉をもらって、多分精神的に最悪の状況から抜け出すことができなのかなという気がしています。
伊藤:そうだったんですね。感じるままに作った作品をあのインパクトがある声で歌うと、それはやっぱり“伝わり”ますよね。カミラの曲は自分をさらけ出している印象がありますね。曲から彼女の心情がダイレクトに垣間見えるというか。この3枚目のアルバムはそういう切り口で見ていくと、また違う発見があったりして面白いと思います。
■やっぱりカミラの高くてよく通る声がなにより強い
──さらけ出していますよね。
TJO:同感です。アルバムごとにわかりやすくテーマが決まっているところも含めて、自分の私生活ともの作りとがダイレクトにリンクしている人だと思うし、さらにリッキー・リードとかエドガー・バレラといったプロデューサーや作家陣とかが参加すると、その強度が増して作品としてのクオリティが上がっていると思います。でも確実にそのルーツにしっかり根ざしているというところも含めて、好感が持てるというか。「バン・バン~」はさっき出てきましたが、カミラとエド・シーランという組み合わせで、しかもヒットしているので、クラブでもすごく盛り上がりました。クラブって、耳の早い女の子の客層がすごく大事で、彼女たちが、曲がかかって“きゃあ!”って反応すると、それに合わせてフロア全体ががぜん盛り上がってきます。そういう子たちにちゃんと刺さっていたというのも強かったし、やっぱりカミラの高くてよく通る声がなにより強い。DJをやっていて、曲をチェンジするとき、曲はもちろん、歌っている人の声の印象によって“なんかちょっと違う曲が来た”ということを、さらに印象づけられるというのはあります。
■サビがとにかくキャッチーだからTikTok的にもバッチリ
──「耳の早い女の子」たちの情報源であり、発信源にもなっているTikTokで流れている音楽はやはり気になりますか?
TJO:すごくチェックしますね。
伊藤:僕は自分自身がインフルエンサーみたいなことをやっているので、インスタとかTikTokに発信する上で、結構気にしています。TikTokチャートっていうのはすごく独特で、普通のチャートとはまったく違う、Z世代の感性がモロに出ているチャートなのですごく面白いです。
TJO:いい意味でも悪い意味でも気にしてます。僕は今42歳ですが、やっぱりクラブに来る子たちは20代前半がメインなので、何が流行っているのか、何を聴いているのという情報収集はTikTokです。DJ的視点でクラブでかけるとなると、TikTokで流行っているというだけでは駄目で、踊れないと駄目なんです。TikTokにはいわゆるチルい曲がすごく多くて、フロアで流しても踊れる曲でTikTokヒットを探すとなると、なかなか大変です。その点「バン・バン~」はサビがとにかくキャッチーだからTikTok的にもバッチリはまっていて、しかも言葉はわからなくても、“Bam Bam”というフレーズがみんなわかるので、かけていてもフロアが圧倒的に盛り上がります。
──しかもあのサビにかけての部分は、どこか叙情的な感じでちょっと切なさもあって、ここも日本人に受けるポイントかもしれませんね。
TJO:そうなんです。特に“Bam Bam”って歌前のあのパートはそうですよね。そのへんは日本人にもすごく刺さるメロディ構成になっていと思います。
■ラジオでしかできない聴かせ方、発信ができる重要なメディア
──若いリスナーが増え、ラジオ復権と言われています。やはりラジオからのヒットを創る、という考えは皆さん強いのでしょうか?
伊藤:ZIPに関してはこれまでもラジオヒットを生み出してきた局という自負がありますので、その精神は失わずに持って番組を作っています。「これ、ラジオヒットさせられそうだな」と思った楽曲に関しては、他のステーションが全然かけてなくても、毎日毎日流し続けます。
TJO:それでいうとDJをやっていると、クラブからヒットを出したいという感覚ってあって。クラブはTikTokのユーザー層とちょっと被るかもしれませんが、ラジオに関していうと、層って必ずしも被らない。TikTok は若年層、ラジオは若い子たちから年配の方まで聴いていて、いろいろな世代に対しての反応が見られるという点で、僕はラジオがいちばん強いと思います。なのでそこから生まれてくるヒットは強いと思います。それこそザ・ウィークエンドのヒットや80’sリバイバルみたいな流れは、若い子たちだけではたぶん生まれてこなかったことを編み出している。その音が懐かしいと感じる世代の人と、聴いたことないけど、なんか新鮮って感じる若い子たちの感性が相まって、さらにヒットしていったのかなって思います。そういう意味でいうと、ラジオはラジオでしかできない聴かせ方、その層に向けての発信の仕方ができる重要なメディアだと思います。
伊藤:確かにそうですね。
TJO:個人的に僕もラジオが大好きでラジオっ子なので、そこは守っていきたいという思いは強いです。
──ラジオはいろいろな層が、知っている曲知らない曲を聴き、それぞれが刺激をし合える場ですよね。
TJO:そうですね。音楽をアルゴリズムでセレクトしないので、好きそうな曲ばかり流れてくる、好きそうな動画ばかり流れてくるこのSNS時代にとっては、すごく新鮮でいいと思っていて。だから、“これ自分では全然聴かないけど、かっこいい”みたいなことも起こり得る場所というか。
■知らなくてもノレるっていうのは、「バン・バン~」に当てはまる
──たしかに、発見は多いかもしれないですね。
TJO:発見する場所、本当にそうですね。発見することイコールワクワク感です。
伊藤:TJOさんがおっしゃっているように、知らなくても耳触りがいいとか、知らなくてもノレるっていうのは、今回の「バン・バン~」に当てはまっている部分だと思っていて、それがヘビープレイに繋がった一番の要因だと思っています。例えばドライブ中に流れてきた知らない楽曲でも、なんとなくその高揚感で気持ちよくドライブできるとか、知らなくてもすんなり受け入れられるという部分は、今回のビッグヒットにつながった要因の一つだと思います。
──それが「ラジオでかけたくなる曲」なんですね。
伊藤:ZIP-FMって洋楽メインのステーションなので、邦楽メインのステーションよりも、誰でも、ではなくて“洋楽が好きな人”が聴いてくれるので、やはり先程出てきた、耳触りが大切です。知らなくても受け入れられるそのキャッチーさ。そこは重要視しています。ダンストラックをかける時もそういう部分を意識します。
TJO:クラブも来ているお客さんは全員が全員、音楽好きではないし、ただお酒を飲みたいとか、ナンパ目的とか、いろいろな人が来るので、伊藤さんが言うように、やっぱり知らなくても耳馴染みがいい音をピックアップするのってすごく大事で。その点では、ラジオとすごく似ているのかなって思いました。
■ゆるい中でもアガる感覚を若い人たちが持っているのは、新鮮
──確かにそうですね。リスナー、お客さんの耳に留まる曲を流すという点では似ていますね。
TJO:その点でいうと「バン・バン~」も、耳の早い女の子が「きゃあ!」って反応しますけど、そこにそういう子がいなくても、ポップで聴きやすいのでかけるとすごく雰囲気がよくなります。クラブ的な話というと、いわゆるEDMブームがあって、ひたすらアガっていないと物足りないっていう感じだったのが落ち着いてきて。最近はそれが3、4曲続くと飽きられる傾向があるので、逆にテンションとかBPMとかを下げて、「バン・バン~」のようなBPM100ぐらいのロービートのものや、逆にちょっとトラップとかでイメージチェンジすると盛り上がります。今はどちらかというと、洋楽ポップス、ビルボードポップスが主流になってきて、いろいろな人が聴けるようになって、ゆったりしたビートが流れてきても、盛り下がってる、という空気にはならないんです。だからちょっとテンポが遅い「バン・バン~」をかけても全然大丈夫だし、その中で、高揚感のあるメロディや展開があるとEDM的なノリとは違う、ゆるい中でもアガる感覚を若い人たちが持っているのは、新鮮だなと思います。
伊藤:ラジオでもそういうのを感じ取って、ダンスナンバーが2曲続いたら、違うアプローチで曲を変えてみたり、それこそちょっとレトロなサウンドが最近トレンドなので、そういう楽曲で“いいつなぎ”を作ることはすごく考えています。
TJO:若い人と話す機会があってそのときに言っていたのが、80’sの古い曲も、新しい曲、も「全部縦じゃなくて横並びで聴いてる」って言っていて。それってすごくSpotifyしかり、プレイリスト感覚に近いですよね。プレイリストは年代や時代は関係ないので「バン・バン~」もそういう意味でもどこに入れてもタイムレスに、新しくも懐かしくもあるという感じがしています。
■この曲が本当にハマる季節に
──それにラテンミュージックはこれから夏にかけてさらに気持ちよく響いてきそうですよね。
TJO:「バン・バン~」は春先に大ヒットしていますが、この夏のマストアイテムになると思っています。2022年の夏はみんな気持ちが外向きになると思うので、バーベキューや海のシーンにもピッタリだし、アクティブなスポーツのシーンにも合うこの曲が、またもうひと盛り上がりして、夏のアンセムになりそうです。
伊藤:これからどんどん暑くなって、この曲が本当にハマる季節になってきます。
リリース情報
2022.04.08 ON SALE
ALBUM『ファミリア』
(「バン・バン feat. エド・シーラン」等収録)
プロフィール
カミラ・カベロ
3度のグラミー賞ノミネート、1,000万枚のトータル・セールスを誇り、ソロ・デビュー作が全米1位獲得、Amazon Original Movie 『シンデレラ』にて映画初主演を果たしたキューバ出身のシンガー・ソングライター/女優/アクティビストとして活躍する“情熱の歌姫”。最新アルバム『ファミリア』は、3作連続全米アルバム・チャートTOP10入りを果たした。
カミラ・カベロ OFFICIAL SITE
https://www.sonymusic.co.jp/artist/camilacabello/
プロフィール
TJO(SUGARBITZ)
ティージェイオー/ジャンルを縦横無尽にプレイするオープンフォーマットDJであり、日本トップキュレーター。東京を中心に日本各地のクラブ・パーティーの他、世界各国の大型フェスに多数出演。ラジオ・パーソナリティーとしての人気も高く、多くのメディア・幅広いオーディエンスからの厚い支持を一身に集めている。
TJO OFFICIAL SITE
https://tjo-dj.com/about/
プロフィール
伊藤友介
イトウユウスケ/これまでにZIP-FMのワイド枠「BANG! BANG! ZIP!」や「SONIC FUN RADIO」を担当し、現在では毎週月曜〜木曜14時〜の「SWEET VOX」でキューを振るディレクター。また、ラジオ以外にもTV番組やSNSコンテンツなどの選曲・制作を行っており、多方面で活動中。
ZIP-FM OFFICIAL SITE
https://zip-fm.co.jp